2019年 11月 03日 ( 1 )

「身の丈」発言。(1)

 大学入学共通テストの英語で導入される民間検定試験に関連して、文部科学大臣の「身の丈」発言(以下、「発言」)がなされた。
 この発言が旧態依然の手法である「リーク」である事も含めて、この問題について考える。 
 まずは、この「発言」がどういうものであったのか、2019年10月25日のJcastニュースから引用する。


大学入学共通テストに導入される予定の英語民間試験について、萩生田光一文科相がBSテレビの番組で行った発言が、ツイッター上などで波紋を広げている。
萩生田氏は一方で、負担軽減に努めたいと説明したが、地方の受験生などへの配慮が十分ではないという声も多いようだ。
「そういう議論もね、正直あります」。2019年10月24日夜放送のBSフジ「プライムニュース」で、萩生田氏は、キャスターの反町理さんの指摘にこう反応した。
英検やTOEFLなど民間試験を使うことについて、反町さんが「お金や場所、地理的な条件などで恵まれている人が受ける回数が増えるのか、それによる不公平、公平性ってどうなんだ」との声があるとして、その部分についての見解をただしたときだ。
萩生田氏は、議論を認めながらも、お金の懸念について、こう説明した。
「それ言ったら、『あいつ予備校通っていてズルいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」
民間試験は、年2回まで受けられる見込みになっている。 また、地方の受験生については、次のように述べた。
 「人生のうち、自分の志で1回や2回は、故郷から出てね、試験を受ける、そういう緊張感も大事かなと思う」。 ただ、萩生田氏は、「できるだけ近くに会場を作れるように今、業者や団体の皆さんにはお願いしています」「できるだけ負担がないように、色々知恵出していきたい」とも述べた。


 この「発言」の問題点について、朝日新聞(以下、「朝日」)は2019年10月29日、「『身の丈』発言に批判『格差容認か』 萩生田氏撤回せず」、と整理した。
まずは、経過について。


(1)2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される英語の民間試験について、萩生田光一文部科学相が「身の丈に合わせてがんばって」と発言し、28日、謝罪に追い込まれた。教育格差を容認するような教育行政トップの発言に、受験生や教育関係者から憤りの声が上がった。野党は大臣の辞任を求め、追及を強める考えだ。
(2)「国民の皆様、特に受験生の皆さんに不安や不快な思いを与える説明不足な発言であった」。28日、萩生田氏は文科省内でそう謝罪した。同省によると、萩生田氏側から「記者に説明したい」と要望があり、急きょ「ぶら下がり取材」が設定された。
(3)問題の発言は、24日夜のBSフジの報道番組で、大学入試改革の目玉として来年4月から活用が始まる英語民間試験に言及した際に飛び出した。
(4)現在の高2が主に受ける共通テストでは、英検やGTECなど7種類の民間試験を使って、英語の「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る。国のシステムで各人の成績を集約し、出願先の大学に提供する。練習のために何度受けてもいいが、大学に提供されるのは高3で受けた2回までの試験の成績だ。


 次に、「朝日」は問題の核心に迫る。


(1)住む場所や家庭の経済状況によって不公平が生じないか――。こんな質問に、萩生田氏は「『あいつ予備校通っててずるい』というのと同じ」などと反論。高3で受けた2回までの成績が大学に提供されることを踏まえ、生徒の境遇により本番までの受験回数に差が出るのを認めた上で、「身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負してがんばってもらえば」と述べた。ただ、萩生田氏は28日の取材では不公平を容認しているとの指摘に対して、「どんなに裕福でも2回しか結果は提出できないので、条件は平等」と強調。発言は撤回せず、「民間試験なので、全ての人が(本番の)2回しか受けてはいけないというルールにはできない」などと釈明した。
(2)受験料が2万5千円を超える試験や、会場が都市部の10カ所に限られる試験もあり、地域格差や経済格差の問題は、導入が決まった当初から指摘されてきた。このため文科省は、合否判定に使える成績を、原則として「高3の4~12月に受けた2回まで」に限定。低所得世帯の受験料減免を業者に求めたり、離島の受験生に交通費や宿泊費の一部を補助する支援策を来年度予算の概算要求に盛り込んだりした。9月の大臣交代後は、大学に成績の活用方法の公表を迫るといった動きも続き、関係者には「根本的な解決にはならないが、文科省の動きが活発になった」との声もあった。
(3)一方で、萩生田氏は10月1日の会見で、新制度について「初年度は精密さを高めるための期間」などと発言。「生徒を実験台にするのか」などと批判を浴びた。11月1日から受験用の「共通ID」の申し込みが始まる前に、今回の発言で、さらに批判が強まりそうだ。文科省幹部は「『なぜあんな発言を』と考える職員はいるだろう。高校などに説明する際に悪影響が出るのが心配だが、立ち止まる余裕はない」と語った。
(宮崎亮、矢島大輔、増谷文生)


 また、「朝日」は、「萩生田氏の発言はSNSなどを通じて広がり、『地方の貧乏人は身の程を知れという姿勢?』などと反発が相次いだ。」、と現場から「異論」の声を伝える。


(1)都内の高校2年の男子生徒(17)は母子家庭で、塾に通わずに受験勉強をしている。「与えられている条件が人によって違うのに、『身の丈に合った』と言われると、自分の可能性を抑え込まれた感じがする」と言う。「そもそも身の丈に左右されてしまうような制度。それを止めるどころか推進するような発言だと腹が立ちました」
(2)25日夜に東京都内であった、大学の学費値上げなどに反対する大学生らの抗議行動。都内在住の慶応大1年の男子学生(18)は「身の丈」発言に触れ、「これは親の経済力、生まれた土地による『身の丈』ということです」と批判した。
(3)都立高校の50代教諭は「教育を担当する大臣として、あり得ない発言。国民をばかにしている」と憤る。離島の都立高校に赴任したことがある。受験料や往復の船代、長ければ1カ月近くかかる宿泊代をこつこつためていた生徒の家族をいくつも知っている。「格差はある。ただ、それを追認するような発言を大臣がしていいのか。格差追認が仕事ならば、さっさと辞めてほしい」
(4)小林雅之・桜美林大教授(教育社会学)は「身の丈発言は、家計に応じてという意味であれば、自助努力主義そのもの。国がすべきことと全く逆の発言であり、問題だ」と言う。教育基本法には「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」とある。小林教授は「国はもっと支援策を講じるべきだ。全国高校長協会が延期を求めるなど、試験そのものへの批判も強い。再検討した方がよい」と言う。
(5)大内裕和・中京大教授(教育社会学)も「経済格差と地域格差。今回の大学入試改革が内包する問題点を大臣自ら明らかにした」と話す。大内教授は萩生田氏が「あいつ予備校通っててずるいよな、というのと同じだと思う」と語った点を問題視。「予備校費用は完全な私費負担だが、英語民間試験は公的な制度に関わる私費負担。公の制度が格差を助長させている点が問題であり、予備校と一緒に論じる時点で大臣としての見識を疑う」


 さらに、「朝日」は政治手動向も伝える。


(1)萩生田氏の「身の丈」発言に対し、野党は強く反発する。大臣の辞任を求め、萩生田氏を厳しく追及する構えだ。
(2)立憲民主党の枝野幸男代表は26日夜、「教育の機会均等という政治の役割を放棄してしまっているような姿勢。あるまじき発言で深刻な問題だ」と指摘した。
(3)英語民間試験を巡っては、立憲民主党や国民民主党など野党統一会派と共産党が24日、「経済的な状況や居住地域に左右される」などとして、導入を延期する議員立法を衆院に提出した。その後、飛び出した萩生田氏の発言に、野党国対幹部は「憲法で保障された教育の機会均等なのに大臣自らが不平等を容認している。国会でも取り上げざるを得ない」と述べた。延期法案の審議入りを求める一方、文部科学委員会などで大臣の辞任を求め、萩生田氏を追及する考えだ。
(5)一方、菅義偉官房長官は28日午前の記者会見で、萩生田氏の発言に直接のコメントは避けたうえで「受験生が安心して受験できるための取り組みを進めていく」と強調。文科相としての資質についての認識を問われると、「適材適所だと思っている」と述べた。
(6)ただ、与党内からも批判の声が上がる。自民党幹部は萩生田氏の発言について怒りを隠さない。「まったく余計なことを言う。文科相の発言じゃない。かばってはいけない発言だ」。                                    (山下知子、井上昇)


 「朝日」は、最後に、編集委員・氏岡真弓名で、「教育政策を預かる資格なし」、と次のように断じた。


(1)英語民間試験の活用について「身の丈に合わせてがんばってもらえば」と発言した萩生田光一文科相が「説明不足だった」と謝罪した。だが問題は「説明不足」だったことではない。
(2)まず、大臣が「身の丈に合わせて」と格差を容認する言葉を口にしたことだ。教育基本法をふまえ、地域・経済格差が教育格差につながるのを防ぐのが大臣の責務だ。課題を受験生に押しつけ、開き直ったとも受け取れる。こんな姿勢では、教育政策を預かる資格はない。
(3)さらに深刻なのは、制度自体が「身の丈入試」であることを拭えない点だ。大学への成績提供を高3の2回に限り、経済的に恵まれない家庭や離島の家庭の子らに援助したところで、民間試験を使う以上、都会の裕福な家の子が何回も受験の練習をするのを妨げられない。萩生田氏の発言は、この問題を改めてあぶり出した。その犠牲になるのは受験生だ。11月1日から受験用の「共通ID」の申し込みが始まる。受験生の不安はすでに限界を超えている。


 確かに、まずは、教育基本法の「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」が対置すればいいことだ。
根本的な問題は、今回の英語民間試験の活用が「制度自体が「身の丈入試」であることを拭えない点だ。」(「朝日」)、ということにある。




by asyagi-df-2014 | 2019-11-03 07:19 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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