2019年 07月 12日 ( 2 )

ハンセン病家族訴訟で、国の責任認める初の判決。(6)

 毎日新聞は2019年7月9日、「国は控訴を断念する方針を表明」、と次のように報じた。


(1)安倍晋三首相は9日午前、ハンセン病元患者家族への差別に対する国の責任を認めた熊本地裁判決を受け入れ、控訴を断念する方針を表明した。首相官邸で根本匠厚生労働相、山下貴司法相らと協議後、記者団に「筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族のご苦労をこれ以上長引かせるわけにはいかない」と述べた。隔離政策が家族への差別も助長したと認定して初めて家族への賠償を命じた熊本地裁判決が確定する。
(2)熊本地裁判決は、世界保健機関(WHO)が隔離を否定した1960年以降も隔離政策を廃止しなかった厚労相らの義務違反などを認定。「隔離政策以前とは異質な家族への排除意識を生んだ」として、家族への偏見差別を除去する国の責任を認め、541人に1人当たり143万~33万円を支払うよう国に命じた。【杉直樹】


 また、2019年7月10日のこのことに関する各紙の主張は、次のものである。



(1)琉球新報社説-家族訴訟控訴せず 国は謝罪し被害者救済を
(2)朝日新聞社説-ハンセン病 差別との決別を誓う時
(3)毎日新聞社説-ハンセン病控訴せず 被害救済優先を評価する
(4)大分合同新聞論説-ハンセン病訴訟控訴せず 救済の道筋早急に示せ
(5)北海道新聞社説-ハンセン病訴訟控訴せず 救済の道筋早急に示せ
(6)河北新報社説-ハンセン病家族訴訟/国は救済と偏見解消を急げ
(7)岩手日報論説-ハンセン病訴訟 「人権重視」への転機に
(8)信濃毎日新聞社説-ハンセン病裁判 控訴見送りは当然として
(9)福井新聞論説-ハンセン病「控訴せず」 救済の道筋を早急に示せ
(10)神戸新聞社説-ハンセン病救済/首相は責任認めて謝罪を
(11)南日本新聞社説-[ハンセン病] 幅広く家族救済の道を
(12)東京新聞社説-ハンセン病救済 「人間回復」へ本腰を
(13)読売新聞社説-ハンセン病訴訟 控訴断念を差別解消の契機に
(14)佐賀新聞論説-ハンセン病訴訟控訴せず 救済の道筋早急に示せ


 この一連の主張の中で感じ取るものは、「ハンセン病家族の救済の道とはどういうものが必要なのか」ということであり、このことを日本という国の一人一人がきちんと把握することにあるということである。
 このことについて、社説・論説から見てみる。

(1)琉球新報社説
1.ハンセン病元患者の家族への人権侵害に政府がようやく目を向けた。国は誠意をもって被害者を救済すべきだ。
2.首相は「筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族の苦労をこれ以上、長引かせるわけにはいかない」と述べた。その言葉が真実であれば、全ての被害者に対し、政策による幅広い救済措置を講じるのが筋であろう。まずは政府を代表し、全ての元患者とその家族に謝罪してほしい。
3.熊本地裁判決には問題もある。沖縄の米統治下の期間に家族が受けた損害については国の責任を認めていないのだ。立法措置を含めた解決策が不可欠だ。
4.偏見は今も残る。家族訴訟の原告の大半が匿名なのはそのためだ。首相が自ら先頭に立つなどして、ハンセン病は怖い病気ではないと広く啓発し、元患者らの名誉回復に全力を挙げるべきだ。旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る国家賠償請求訴訟が全国の地裁、高裁で争われている。誤った国策のせいで人権が蹂躙された構図は同じだ。国はこれらの訴訟でも自らの責任を認め、被害者の救済に乗り出すべきだ。政権の人権感覚が問われている。


(2)朝日新聞社説
1.裁判の原告側は、首相との面会と謝罪を求めている。真摯(しんし)に対応すべきだ。そして、救済の具体策作りを急がねばならない。判決が確定すれば500人余りに総額3億7千万円が賠償されるが、それ以外の家族にも広く金銭で補償するための制度が必要になる。
2.今回の裁判の原告も、16年に提訴に踏み切るまで行動を起こせず、大半が匿名だった。その意味を一人ひとりが考えたい。ハンセン病だけではない。社会にはさまざまな差別や偏見がある。それらと決別し、根絶していくことを改めて誓う。控訴見送りを、その契機としなければならない


(3)毎日新聞社説
1.法治国家である以上、すべてが政治判断で乗り越えられるものではない。しかし、国が負うべき責任や被害者が受けた人権侵害の重大さに向き合う必要がある。
2.社会正義の実現という法の趣旨に照らせば、国は主張の一貫性を犠牲にしてでもこの問題に終止符を打ち、被害者救済を最優先にすべきだ。
3.救済策に向けてはハンセン病問題基本法を改正し、元患者の家族も対象に明記する必要がある。その際、どのような基準で範囲を定めるのか。高齢化が進む中、被害家族がどのくらいいるかもはっきりしない。


(4)大分合同新聞・北海道新聞社説・佐賀新聞論説・福井新聞論説
1.ハンセン病問題の全面解決に一歩近づいたのは間違いない。国策による重大な人権侵害に国は正面から向き合い、謝罪と補償はもちろん、生活再建支援など救済の道筋を早急に示すべきだ。
2.原告団などに心からの謝罪を行う必要がある。政府は「首相の政治決断」を強調するが、いまだ国の責任や謝罪には言及していない。そこをあいまいにしたまま形式的に救済を進めても、全面解決は望むべくもないだろう。


(5)河北新報社説
1.国は人権侵害の責任を重く受け止め、家族に謝罪し、訴訟に参加しなかった家族も含め、救済への道筋を速やかに示す必要がある。国会も、元患者の社会復帰支援などを定めたハンセン病問題基本法に家族も明記するなど改正が求められるだろう。
2.訴訟の弁護団は国に対し、患者や元患者と家族の関係回復に向けた協議を行うよう要請している。隔離政策で壊れた家族のつながりが編み直されるよう、今後の取り組みに期待したい。
3.国の隔離政策などが偏見差別を生む社会構造をつくったとはいえ、患者や家族を孤立させ、学校や地域から排除してきた社会全体の責任も問われよう。私たち一人一人が自らの問題として向き合うことが欠かせない。


(6)岩手日報論説
1.裁判で勝っても、偏見や差別が一挙に解消されるわけではない。あくまでスタートラインに立ったということだ。
2.ハンセン病を皮切りに、さまざまな病気や障害、偏見や差別の問題に目を向け、幅広く救済する政治を実現していく。控訴断念は、その転機になるか。政治判断の行く末を注視したい。


(7)信濃毎日新聞社説
1.矛盾を取り繕うのでなく、国の責任について明確な姿勢を示さなければならない。
2.控訴の見送りは出発点にすぎない。広く家族の被害への補償、救済を図る制度や施策をどう具体化していくか。政府、国会の今後の取り組みこそが問われる。元患者の生活保障などを国に義務づけたハンセン病問題基本法に家族を被害者として明記することを原告、弁護団は求めてきた。判決の確定を踏まえ、政府に協議の場を設けるよう訴える声が上がっている。何よりまず真摯(しんし)に当事者と向き合うことが欠かせない。


(8)神戸新聞社説
1.まず被害を招いた国の法的責任を明確に認め、謝罪する。それが、全面解決に向けて首相の果たすべき役割ではないか。
2.救済対象となる被害をどう認定するか。賠償額の算定基準をどうするか。早急に練り上げるべき課題は山積する。国会の責任も大きい。家族も含めた全面救済に向けて、議員立法で2009年に施行されたハンセン病問題基本法の改正なども検討を急ぐ必要がある。国を挙げて名誉回復や経済的支援の施策を急がねばならない。


(9)南日本新聞社説
1.国は、人権が著しく侵害された原告への補償と生活再建支援など救済策を早急に打ち出さなければならない。
2.ただ、差別被害を受けながら提訴していない家族も多いとみられる。こうした家族の支援も視野に入れた救済策が求められる。
3.元患者本人の訴訟では2001年に熊本地裁判決が確定し、他の地裁でも元患者との和解が順次成立した。判決内容と同じ基準で国が補償金を支払うハンセン病補償金支給法が施行され、隔離施設に入所した元患者には期間に応じて補償金が支払われた。また、非入所者や遺族は訴訟を起こして和解すれば和解一時金が支払われる仕組みがつくられた。こうした例を参考に、国は被害に遭った家族の掘り起こしに努めるとともに、幅広く救済できる基準を設けるなど道筋を付けることが欠かせまい。
4.安倍首相は原告らと直接向き会って謝罪し、決断の経緯などを丁寧に説明する必要がある。ハンセン病元患者の家族は、いわれなき差別に長年苦しめられてきた。正確な知識で問題への理解を深め、偏見と差別解消に社会全体で取り組んでいかなければ全面解決とは言えない。


(10)東京新聞社説
1.今回はさらに対策を加速させ救済と差別解消に本腰を入れねばならない。原告の家族らは首相との面会と謝罪を求めている。首相が本当に隔離政策は誤っていたと考えるのなら、まず面会して被害の訴えに耳を傾けるべきだ。今後は具体的な救済策を検討することになるが、被害者全員を救済の対象にする必要がある。
2.家族らは、救済策を話し合う協議の場の設置と一律の救済を求めている。被害者らが納得できる救済策をつくらねば意味がない。家族らも救済の対象に位置付ける法整備など実効性ある枠組みをつくることが大切である。
3.偏見や差別は社会が許してきた面もある。被害者の尊厳を取り戻す努力は社会全体に求められる。私たち自身の責任であるとの自覚を持ちたい。


(11)読売新聞社説
1.控訴の断念で、原告への総額3億7600万円の賠償義務が確定する。今後の課題は、裁判に参加しなかった家族の救済になる。原告以外の家族を救済する場合、元患者とどのような関係にあった人を対象にするのか。差別を受けたことをどう認定するか。救済の枠組みを作る必要がある。
2.2008年に成立したハンセン病問題解決促進法は、元患者の名誉回復や福祉の充実をうたった。原告らは、この法律を改正して家族も被害者だと明記し、被害回復を行うよう求めている。経済的な補償だけでなく、社会から差別をなくす施策を進めることも政府の責務となろう。
3.今回の訴訟を通じて明らかになったのは、家族への差別が、過去だけでなく、現在も続く実態だ。結婚での差別や、職場での嫌がらせに苦しむ人は少なくない。差別を社会が許してきたという現実に向き合わねばなるまい。関係省庁が正しい知識の普及や偏見の払拭ふっしょくに取り組むのはもちろん、人権を尊重する意識を一人ひとりが持つことが大切である。


 さて、まず最初に確認することは、「控訴の見送りは出発点にすぎない。広く家族の被害への補償、救済を図る制度や施策をどう具体化していくか。政府、国会の今後の取り組みこそが問われる。」(信濃毎日新聞)、ということである。それは、「国を挙げて名誉回復や経済的支援の施策を急がねばならない。」(神戸新聞)、との指摘に尽きる。
 今回の政府の控訴断念を生かしていくためには、大きな括りで言えば、「ハンセン病だけではない。社会にはさまざまな差別や偏見がある。それらと決別し、根絶していくことを改めて誓う。控訴見送りを、その契機としなければならない。」、という理念を持たなければならないこということである。
 そして、まずは、「社会正義の実現という法の趣旨に照らせば、国は主張の一貫性を犠牲にしてでもこの問題に終止符を打ち、被害者救済を最優先にすべきだ。」(毎日新聞)、ということに、政府及び国民は直ちに取り組まなければならない。
 具体的には、「原告団などに心からの謝罪を行う必要がある。政府は「首相の政治決断」を強調するが、いまだ国の責任や謝罪には言及していない。そこをあいまいにしたまま形式的に救済を進めても、全面解決は望むべくもないだろう。」(大分合同新聞等)との把握が重要になる。
もちろん、そのためには、「国は人権侵害の責任を重く受け止め、家族に謝罪し、訴訟に参加しなかった家族も含め、救済への道筋を速やかに示す必要がある。国会も、元患者の社会復帰支援などを定めたハンセン病問題基本法に家族も明記するなど改正が求められるだろう。」(河北新報)ということを行う必要がある。
また、「訴訟の弁護団は国に対し、患者や元患者と家族の関係回復に向けた協議を行うよう要請している。(河北新報)」との指摘のように「協議」の場が設定されなければならない。
 最後に、「ハンセン病家族の救済の道とはどういうものが必要なのか」を考え、実践していくためには、「国の隔離政策などが偏見差別を生む社会構造をつくったとはいえ、患者や家族を孤立させ、学校や地域から排除してきた社会全体の責任も問われよう。私たち一人一人が自らの問題として向き合うことが欠かせない。」(河北新報)、との日本国民の自覚が最も重要になる。




by asyagi-df-2014 | 2019-07-12 17:44 | ハンセン病 | Comments(0)

ハンセン病家族訴訟で、国の責任認める初の判決。(4)

はじめに


 毎日新聞は2019年6月28日、ハンセン病家族訴訟について、「約90年に及んだハンセン病患者への隔離政策により家族も深刻な差別を受けたとして、元患者家族561人が、国に1人当たり550万円の損害賠償と謝罪を求めた集団訴訟の判決で、熊本地裁は28日、国の責任を認め、原告541人に対し、1人当たり33万~110万円(総額3億7675万円)を支払うよう命じた。元患者の家族による集団訴訟の判決は初めて。」、と報じた。
 この判決を聞いた時の私自身の問題意識は、「裁判官は初めて聞かれる話ばかりだったかもしれないが、懸命に聞いておられた。ぜひ素直に受け止めてほしい」(朝日新聞)との原告の声に裁判所はどのように立ち向かうことができたのか、ということにあった。
  2019年6月28日の熊本地方裁判所民事第2部による判決主文の要旨は、次のものであった。


「被告に対し、原告(ハンセン病の元患者の家族。提訴後に死亡し訴訟承継が生じた者も含み,訴訟承継人『[訴訟係属中に死亡した原告の訴訟を相続により承継した者』は含まない。以下、特に断りがない限り同じ。) 1 6 7名につき1人当たり143万円(訴訟承継人についてはそれぞれ相続割合に応じた金額。以下同じ。) 、原告2名につき1人当たり100万円、原告5 9名につき1人当たり55万円、原告3名につき1人当たり33万円の支払を命じ,原告2 0名の請求を棄却した。請求を一部認容した原告(提訴後に死亡し訴訟承継が生じた者を含まない。)及び訴訟承継人は合計5 5 7名、認容額は総額3億7 6 7 5万円である。」


1.判決の意味


 この要旨を見た時、確かに、裁判官は原告の声に正面から向き合っていることがわかるのだが、次のことが気になった。


(1)熊本地方裁判所民事第2部の裁判官は、どのような理由で結論を出すことができたのか。
(2)平成14年以降、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別のハンセン病隔離政策の寄与の程度が低いとする根拠は何なのか。
(3)「消滅時効」の壁をいかに越えることができたのか。


 このことに関して、この判決は次のように説明している。
 上記の(1)に関しては、「このとおり、ハンセン病患者の家族は、ハンセン病隔離政策等によって、憲法13条が保障する社会内において平穏に生活する権利(人格権)や憲法44条1項の保障する夫婦婚姻生活の自由を侵害されており、ハンセン病隔離政策等を所管した厚生大臣をはじめとして所管の大臣は、条理上、ハンセン病患者の家族に対し、ハンセン病隔離政策等を先行行為として、相応の作為義務を負う。」、との地平に裁判官が立つことができていることによる。
 また、(2)に関しては、「平成13年末頃にはハンセン病隔離政策等の国民らに対する影響が一定程度遮断される状況があったといえ、加えて、ハンセン病患者に対するホテルによる宿泊拒否が問題となった平成15年には,ハンセン病患者に対する偏見差別を許容せずに、反対の声を挙げる者が多数存在する状況となっていたこと、ハンセン病隔離政策等の誤りを認識しても直ちに、因習による差別意識や患者の後遺症による外貌の変形に対する差別意識が抜けず、その後も差別意識を抱く者がいることは十分にあり得ること等を考えると、平成14年以降、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別のハンセン病隔離政策等の寄与の程度は大きくないといえる。」、と示されている。  
 さらに、(3)については、「平成13年の熊本地方裁判所の上記判決やその後の被告の一連の対応に関する報道によっても、ハンセン病患者の家族との関係においても被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは、一般人を基準にすると、著しく困難であったというべきである。本件と同様に、ハンセン病患者の家族との関係での被告の不作為が問われ、被告に損害賠償義務を認めた裁判例は存在しない上、原告らは、鳥取地方裁判所において平成27年9月9日に言い渡された判決をきっかけに、代理人弁護士らから被告が加害者であること及び被告の加害行為がハンセン病患者の家族との関係においても不法行為を構成する可能性を指摘されたことを受けて本訴に至ったことが窺われることからすれは、少なくとも、上記指摘を受けるまでは、原告らにおいて,被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは困難であったというべきである。その他、原告らが平成27年9月9日以後に代理人弁護士らから上記指摘を受ける以前に、ハンセン病患者の家族との関係において被告の不作為の違法性を基礎付ける事実を認識していたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、上記指摘を受けた日である平成27年9月9日以降の日が消滅時効の起算点であると解するのが相当である。そして、平成27年9月9日から本件訴訟提起があった日までは3年を経過していないから、原告らのいずれについても消滅時効は完成していないというべきである。」、と説明されている。


 結局、今回の判決は、①「ハンセン病隔離政策等が遅くとも昭和35年には必要なかった」、②「厚生大臣及び厚生労働大臣に昭和35年以降平成13年末までハンセン病隔離政策等の廃止義務等とその義務違反の違法があった」、③「文部大臣及び文部科学大臣に平成8年以降平成13年末までの義務違反の違法があった」、④「国会議員に平成8年までらい予防法を廃止しなかった立法不作為の違法があった」、との各段階での責任をを明確にし、原告の国家賠償を認めたものであった。


 このことの意味を理解するために、判決要旨の「理由の要旨」を参考にする。
 これだけでも、画期的な判決であったと言える。


 今回のハンセン病家族訴訟の判決の骨子と要旨から、この判決の意味を考える。
判決の骨子から、主文の理由は次のようにまとめられる。


①内務省及び厚生省が実施したハンセン病隔離政策等が遅くとも昭和35年には必要なかったこと。②ハンセン病隔離政策等がハンセン病患者の家族に対する差別被害を発生させたこと等を理由に、厚生大臣及び厚生労働大臣に昭和35年以降平成13年末までハンセン病隔離政策等の廃止義務等とその義務違反の違法があったこと。                         ③法務大臣に平成8年以降平成13年末までハンセン病患者の家族に対する偏見差別を除去するための人権啓発活動を実施するための相当な措置を行う義務とその義務違反の違法があったこと。 ④文部大臣及び文部科学大臣に平成8年以降平成13年末まで上記偏見差別を除去するための教育等が実施されるようにする相当な措置を行う義務とその義務違反の違法があったこと。     ⑤国会議員に平成8年までらい予防法を廃止しなかった立法不作為の違法があったことを認めたこと。⑥一部の原告らを除いては、原告らが差別を受ける地位に置かれ、また,家族関係の形成を阻害されたとして、憲法13条の保障する人格権侵害及び憲法24条の保障する夫婦婚姻生活の自由の侵害により共通する損害が発生したとし、被告の消滅時効の主張は排斥して、国家賠償法に基づく損害賠償請求を一部認容したこと。


 つまり、今回の判決は、①「ハンセン病隔離政策等が遅くとも昭和35年には必要なかった」、②「厚生大臣及び厚生労働大臣に昭和35年以降平成13年末までハンセン病隔離政策等の廃止義務等とその義務違反の違法があった」、③「文部大臣及び文部科学大臣に平成8年以降平成13年末までの義務違反の違法があった」、④「国会議員に平成8年までらい予防法を廃止しなかった立法不作為の違法があった」、との各段階での責任をを明確にし、原告の国家賠償を認めたものであった。
 このことの意味を理解するために、判決要旨の「理由の要旨」を参考にする。
 これだけでも、画期的な判決であったと言える。
厚生大臣及び厚生労働大臣の過失の認定について、「作為義務の成否」の観点として次のようにまとめている。


1.内務省及び厚生省等が実施してきたハンセン病隔離政策等により、ハンセン病患者(元患者を含む。以下同じ。)の家族が大多数の国民らによる偏見差別を受ける一種の社会構造を形成し、差別被害を発生させ、また、ハンセン病患者を療養所に隔離したこと等により、家族間の交流を阻み、家族関係の形成の阻害を生じさせた。
2.この差別被害の実情としては、 ①学校側による就学拒否や村八分によって、人格形成等に必要な最低限度の社会生活を喪失し、②就学拒否等によって、学習の機会や人格形成の機会を喪失し、③結婚差別によって幸福追求の基盤として重要な婚姻関係等を喪失し、④就労拒否によって自己実現の機会の喪失や経済的損失、⑤差別を避けるために両親が死亡した等の嘘をつくなど、家族という社会生活を送る上での基本事項について重大な秘密を抱えたために、また、様々な差別があるために、進路や交友関係等多岐にわたって人生の選択肢が制限されたことによる人格形成や自己実現の機会の喪失、⑥差別を避けるためにハンセン病患者である家族と生活できず家族関係の形成が阻害されるといったものが含まれる。
3.これら差別被害は,個人の人格形成にとって重大であり、個人の尊厳にかかわる人生被害であり、また、かかる差別被害は生涯にわたって継続し得るものであり、その不利益は重大である。
4.家族関係の形成阻害による被害は、家族との同居や自由な触れ合いによって得られたはずの安定した生活の喪失、心身の健全な発達や知性、情操、道徳性、社会性などの調和のとれた円満な人格形成の機会の喪失であり、人格形成に重要な幼少期に親が隔離された場合などには、人格形成に必要な愛情を受ける機会を喪失し、かつ、かかる喪失によって生じた不利益は回復困難な性質のものである。


 こうした理由の基に、「このとおり、ハンセン病患者の家族は、ハンセン病隔離政策等によって、憲法13条が保障する社会内において平穏に生活する権利(人格権)や憲法44条1項の保障する夫婦婚姻生活の自由を侵害されており、ハンセン病隔離政策等を所管した厚生大臣をはじめとして所管の大臣は、条理上、ハンセン病患者の家族に対し、ハンセン病隔離政策等を先行行為として、相応の作為義務を負う。」、と結論づけている。


 また、続けて、厚生労働大臣等の「作為義務の内容」(当該人権侵害を除去する行為)について、次のように示す。


1.昭和3 5年までの医学の進歩や当時の国内外の知見等からすると、遅くとも昭和3 5年には、ハンセン病はもはや患者を隔離しなければならないほどの特別の疾患ではなくなっており、ハンセン病隔離政策等を遂行する必要性は消失していた上、当時厚生省がこれを十分に認識していたこと等から、,厚生大臣は,遅くとも昭和35年の時点において、ハンセン病隔離政策等の廃止義務があったといえ、全てのハンセン病隔離政策等の実施を廃止して、その廃止を表明すべきであった。
2.そしてそのためには、療養所への新規入所を廃止するとともに,すべての入所者に対し、自由に退所できることと自由に外出できることを明らかにする相当な措置を採るべきであった。より具体的には、まず、各都道府県において入所勧奨が実施されないよう指揮監督すべきであった。また、①らい予防法が内閣の法案提出により成立したものであるところ、昭和28年のらい予防法制定を審議した国会において、当時既にスルフォン剤によりハンセン病が治癒するようになっており、スルフォン剤が日本国内においても普及していたにもかかわらず、厚生大臣は、ハンセン病は根治が極めて困難で隔離以外にハンセン病予防の方法がないと説明していること、 ②らい予防法制定の審議やその後の国会審議において厚生省の担当者が隔離政策を含むらい予防法の必要性を説き続けたこと、③らい予防法廃止には、ハンセン病医療を所管し,国内外におけるハンセン病の専門的な医学的知見や詳細な治療の実態に関する情報を入手可能な厚生省の積極的な作業が必要とされ、平成8年のらい予防法廃止の経過によれば、実際にも、厚生省がらい予防法廃止について重要な役割を果たしたことからすれば、厚生大臣は、主任の国務大臣として、らい予防法を廃止する法案を作成して閣議請求をする諸手続を採るべきであった。
3.そもそも偏見差別が生じたのは,ハンセン病隔離政策等によってハンセン病を特別な病気と扱ったことに大きな原因があるのだから、ハンセン病を特別扱いするのではなく一般の感染症と同様に扱うことが必要となる。すなわち、厚生大臣としては、昭和3 5年以降、医療制度においてハンセン病を一般の感染症と変わらないようにし、それを周知させるため,少なくとも、療養所以外の一般の医療機関において入通院治療できるようにし、そのことを国民らに宣伝,広報すべき義務があった。
4.被告によるハンセン病隔離政策等の遂行によって、ハンセン病患者の家族に差別被害が生じ、人権が侵害されたことから、被告は、当該人権侵害を除去する作為義務を負う。被告によるハンセン病隔離政策等が開始される以前から,ハンセン病患者の家族に対する因習等による差別は存在していたものの、ハンセン病隔離政策等によって、遺伝病や業病であるといった従来の疾病観と異なって、恐ろしい伝染病であるという疾病観が多くの国民らに植え付けられ、また、ハンセン病隔離政策等開始前とは異質のハンセン病患者の家族に対する排除意識等が形成されてハンセン病患者の家族に対する差別被害が生じ、ハンセン病隔離政策等が戦前から戦後に亘り長年継続したため、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別が維持強化され続けた。
5.このように,ハンセン病患者の家族の偏見差別に対するハンセン病隔離政策等が及ぼした影響は重大であり,ハンセン病隔離政策等を遂行してきた被告は、偏見差別を除去する義務をハンセン病患者の家族との関係でも負わねばならない。そして、ハンセン病治療の進歩等により、昭和35年以降、年々、ハンセン病隔離政策等を廃止すべきであることがより明確となっており、年々、放置することの不当、違法が明白になったし、昭和35年以降、らい予防法を廃止しハンセン病隔離政策等を止めることを検討するのに十分な機会と時、があったにもかかわらず、厚生大臣が、平成8年のらい予防法廃止に関する法律の成立に向けた諸手続を取るまで長年に亘って放置してきたこと等から、厚生大臣及び厚生労働大臣には、平成8年以降、より高い偏見差別除去義務が課せられる。
6.厚生大臣及び厚生労働大臣が負う偏見差別除去義務の具体的内容としては、昭和35年以降については、ハンセン病隔離政策等が原因でハンセン病患者の家族に対する偏見差別を形成、維持、さらには強固したことを明らかにした上、そのことについての謝罪とその周知がされる措置を取ることが必要で、その周知方法については、マスコミの発達に応じてマスコミ媒体、インターネット等を使ってそのことを宣伝するほか、各住戸にその旨を知らせるチラシを配り、各職場、町内会、自治会、老人会等を訪れて広報活動をすることを要し、しかも、平成8年以降は、アンケート調査をしてその効果を確認し、浸透していない場合には,頻回に宣伝,広報すべきだった。また、厚生大臣及び厚生労働大臣は、昭和35年の時点においては、ハンセン病は、病気や罹りやすい体質が遺伝することはなく、感染し発病に至るおそれが極めて低い感染症であり、隔離が必要な特別の疾患ではない上に、ハンセン病が医学の進歩によって治癒するようになったことや、治療後のハンセン病患者やハンセン病患者の家族から感染することがなく、治療後のハンセン病患者及びハンセン病患者の家族が社会内や家庭内で生活し、乳幼児を含めて濃密な接触をすることに公衆衛生上何ら問題がないことを説明すべきであった。
7.厚生大臣及び厚生労働大臣は、平成8年の時点においては、ハンセン病の正しい知識の普及の内容として、ハンセン病が在宅の服薬治療のみで後遺症を生じることなく早期に治癒する疾患であり、他の感染症予防と異なる特別の予防は必要なく、当時社会一般に求められていた衛生環境を維持すれば足り、治療中のハンセン病患者であっても感染源とならず、公衆衛生上も問題なく社会で生活できることを説明し、引き続き普及活動を行うべきであった。
8.戦後米国統治下にあった沖縄との関係においては、本土において昭和35年以降負う義務につき、昭和4 7年5月15日以降、同様の義務を負う。


 一方、判決では、次の判断を行っている。


1.原告らの主張する、地方公共団体や地域社会の責任の普及啓発については、被告とは主体が異なる以上、被告にその責任についてまで判断してそれを啓発する義務までは認めることができない。また、原告らの主張する医療福祉制度の充実は、家族関係の再形成にとって、有効であるといえるものの、必要不可欠とまではいえず、既存の医療福祉制度の利用が可能である以上は、厚生大臣及び厚生労働大臣においてハンセン病患者のための特別の医療福祉制度を現状以上に創設する義務をハンセン病患者の家族との関係において法律上負うものということはできない。           2.原告らは、政策を形成する過程に、ハンセン病患者の家族の実情及び意見を反映するため、同家族が政策を形成する過程に参加できるシステムを構築すべき義務を負うと主張するが、ハンセン病患者の家族の参加がなくても厚生行政担当者や学者研究者によって適切な政策を考案することは不可能ではなく、しかも、ハンセン病国連ガイドラインが策定されたのが平成2 2年12月であったこと等からいって、平成13年末までに、差別被害者に対して政策形成過程の参加の機会を与えることが必要であると厚労省が認識するような契機があったと一概にいえず、また,それを認めるに足りる的確な証拠も見当たらず、かかる義務を負うと認めることはできない。


 こうした観点から、「違法性及び過失」として、「厚生大臣及び厚生労働大臣は、上記において認めた義務を尽くしておらず、国家賠償法上の違法性があり,厚生大臣及び厚生労働大臣には,少なくとも過失があった。」、と結論づけている。
 しかし、「義務解消」の観点から、「平成14年以降について、被告の国家賠償法上の違法性を認めることはできず」、と次のように示す。


1.被告は、遅くとも平成25年2月14日には、被告や都道府県のハンセン病問題解決に向けた政策の実施等によって、ハンセン病隔離政策等がハンセン病患者の家族に及ぼした影響を無視し得る程度にまで除去できており、その時期以降に作為義務違反はないと主張するところ、平成2 5年に至っても、社会的に無視できない程度の数のハンセン病患者の家族に対する差別被害が生じているといえる。 2.もっとも、昭和60年代かららい予防法廃止までの期間、マスコミが段々と、ハンセン病に関する偏見差別、患者の人権問題を取り上げ一部の国民の間ではそのことが理解される状況となり、他方で,被告及び地方公共団体が平成13年末までに不十分ながらハンセン病に関する偏見差別を除去する活動や人権啓発活動を行いそれによる効果が一定程度生じたといえること、平成13年に熊本地方裁判所が下したハンセン病療養所に入所していた者らに対する国家賠償を認めた判決、同判決に対する被告の控訴断念、政府の談話発表及び国会謝罪決議採択に関する一連の新聞等の報道によって、多数の国民らにハンセン病隔離政策等の誤りやハンセン病患者が不当な差別を受け,家族も影響を受けてきたことが印象付けられたこと等からすると、平成13年末頃にはハンセン病隔離政策等の国民らに対する影響が一定程度遮断される状況があったといえ、加えて、ハンセン病患者に対するホテルによる宿泊拒否が問題となった平成15年には,ハンセン病患者に対する偏見差別を許容せずに、反対の声を挙げる者が多数存在する状況となっていたこと、ハンセン病隔離政策等の誤りを認識しても直ちに、因習による差別意識や患者の後遺症による外貌の変形に対する差別意識が抜けず、その後も差別意識を抱く者がいることは十分にあり得ること等を考えると、平成14年以降、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別のハンセン病隔離政策等の寄与の程度は大きくないといえる。           
3.すなわち、平成14年以降に差別等の被害があったとしてもそれをもってハンセン病隔離政策等に基づくということはできないし、ハンセン病隔離政策等を先行行為として平成14年以降の偏見差別除去義務を認めることはできない。
4.したがって、平成14年以降について、被告の国家賠償法上の違法性を認めることはできず、同年以降,ハンセン病患者の家族に対する差別等の被害があっても、それをもって被告に対し損害賠償を求めることはできない。


 続けて、法務大臣及び文部大臣及び文部科学大臣の過失について、次のように押さえる。


 法務大臣の過失については、「法務省が竜田寮事件(ハンセン病患者の子らが小学校の登校を拒絶された事件)を認識して厚生省及び文部省と協議していたことや、らい予防法を廃止する法案についての国会審議における議員らの発言内容等からすると、法務大臣は、平成8年の時点において、ハンセン病隔離政策等によってハンセン病患者の家族に重大な差別被害が生じており、被告によるハンセン病患者の家族に対する偏見差別を除去するための人権啓発活動が必要であることを、容易に認識できたといえる。したがって,法務大臣には、少なくとも過失が認められる。」、と示す。
 文部大臣等の過失については、「文部省が竜田寮事件を認識して厚生省及び法務省と協議していたことや平成8年の国会審議における議員らの発言等からすると、文部大臣及び文部科学大臣には、少なくとも過失が認められる。」、と示している。


 さらに、国会議員に対して、「立法不作為」の過失を、次のように認めている。


1.遅くとも昭和35年には、ハンセン病のすべての患者との関係で隔離の必要性が失われており、らい予防法の隔離規定に従って合憲的に入所させることがおよそ考えられず、法令そのものが違憲となり、らい予防法の隔離規定に合理的な理由が存在しなくなっていたところ、昭和29年の国会審議において、ハンセン病患者の子がハンセン病の感染源と誤解され差別を受けていることが議題となっていたこと、昭和31年の国際会議においてはハンセン病に関する特別法の廃止が繰り返し提唱され、昭和33年に東京で開催された国際会議において、ハンセン病隔離政策の全面的破棄の勧奨が決議され、昭和38年の国際会議では、ハンセン病患者の強制隔離が時代錯誤であるとまでされていたこと、昭和38年のハンセン病患者団体によるらい予防法改正運動の際に、国会議員及び厚生省に対する陳情等がされ,陳情を受けた国会議員の中には「政府も早急に法改正に努力しなければならない。」とか、「このような予防法があることは国として恥かしい。」と述べた者もいたほどであり、国会議員としても、このころにらい予防法の隔離規定の適否を判断することは十分に可能であったこと等からすると、国会議員にとって、昭和40年にはらい予防法の隔離規定の違憲が明白であったと認められる。                      2.国会議員が平成8年までの30年以上もの長期間にわたってらい予防法の隔離規定を廃止しなかったことは,正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったと認められ、国会議員が平成8年までらい予防法の隔離規定を廃止しなかった立法不作為は、国家賠償法上違法の評価を受け、このような立法不作為には過失が認められる。


2.権利侵害及び損害の考え方


判決内容に関して、権利侵害及び損害の考え方を次のように示す。

1.原告らは、原告らに共通した権利侵害があり、それによって原告らに共通した損害が発生したと主張して包括一律請求を行っており、一部の原告らを除くと、具体的な差別体験に基づく各原告に発生した権利侵害,損害の個別立証を尽くしていないから、可能な範囲で共通性の見いだせるものを包括して慰謝料として賠償の対象とする。                       2.共通の権利侵害、損害が認められる原告らの間では、個々の原告間の被害の程度の差異については、より被害の小さい事例を念頭に置いて控えめに損害額を算定する。そこで、偏見差別を受ける地位と家族関係の形成阻害のそれぞれについて、共通の権利侵害を見いだせる範囲を述べ、次に、共通損害の内容及びその慰謝料額を述べる。
3.原告らには、ハンセン病患者の家族であることを理由とする具体的な差別体験があったとまでは認められない者もいる。もっとも、そのような具体的な差別体験があったとまでは認められない原告らは、被告の違法行為が認められる平成13年末までには、家族や親戚等の当該原告の周りのごく一部の者にハンセン病患者の家族であると知られていたとしても、当該原告の周りのほぼ全員には、ハンセン病患者の家族であることを知られていなかった者であり、周りに知られていた原告らは、具体的な差別体験を自覚しており、ハンセン病患者の家族には深刻な差別被害が多々生じていたこと等からすると、ハンセン病患者の家族は、平成13年末までは、ハンセン病患者の家族というだけで差別を受ける地位に置かれ、周囲にハンセン病患者の家族であることを知られると差別被害を受けることにより、被害が現実化したといえる。また、差別被害が実際に生じていなかったとしても、自らがハンセン病患者の家族であることと、ハンセン病患者の家族に生じてきた深刻な差別被害を認識することで、差別を理由として就業、結婚、友人や近隣における付き合い等の社会生活が制限され得ることを認識し、結婚、婚姻関係、交友関係、就労等に支障を生じるのではないかと大きな心理的負担を感じるとともに差別を受けることに対する恐怖を感じ、その現れ方はさまざまであるものの、社会生活上の不利益や心理的負担が生じたことは明らかであるから、差別経験の有無にかかわらず、差別を受ける地位におかれ,そのことを認識したことによって、被害が現実化したと認められる。したがって、以上の状況にあった原告らについては,共通の権利侵害が認められる。
4.周囲にハンセン病患者の家族であることが知られず、かつ、本人もハンセン病忠者であることを認識していなかった場合には、周囲から差別を受けることもなく、本人が恐怖感や心理的負担を感じることや、ハンセン病患者の家族であることを隠すために生活上の不利益が生じることもなく、何ら被害が現実化していないから、社会において平穏に生活する権利が侵害されたとはいえない。そこで、平成13年末までに、差別被害が現実化していない原告らは、被告の違法行為によって差別を受ける地位に置かれたことにより社会において平穏に生活する権利を侵害されたという共通の権利侵害を認めることはできない。
5.共通損害については、共通の権利侵害が認められる原告らは、いずれも、かかる権利侵害による精神的苦痛が生じているところ,具体的な差別体験によって生じた精神的苦痛は、具体的な差別体験をせずに一般的な差別被害を認識したにすぎない者に生じた精神的苦痛と同程度のものとは到底考えられず。具体的な差別体験に基づく精神的苦痛全体を原告らに共通した損害とみることはできない。また、社会生活上の不利益については、現に生じたとまでは認められない原告らもいることから、これによる精神的苦痛自体が原告らに共通した損害とまでは認められない。しかし、ハンセン病患者の家族に対する差別を要因とする点,社会において平穏に生活をする権利を侵害された点において共通し、精神的苦痛の内容についても,差別に対する恐怖感や心理的負担感を有するという面で共通性を有しているから、その限度で共通した損害と認められる。ただし、この損害を理由とする慰謝料額の算定に当たっては。自らがハンセン病患者の家族であること及びハンセン病患者の家族に対する差別被害を認識した時期に差異があることから、控えめに算定するために、平成13年までで上記の認識時期が最も遅い原告が考慮の対象になるところ、共通損害が認められる原告らのうちもっとも認識が遅いのは、熊本地方裁判所が上記判決を下した平成13年に認識した者であり、同時期に認識したことが算定の基準になる。以上を総合考慮して算定すると,当該慰謝料額は30万円をもって相当である。なお、原告らのうちには同額をもって偏見差別被害が慰謝されるとは到底考えられない者がいることは確かであるが、これまで説示したとおり、一律請求の性質上その限度で認めざるを得ない。
6.原告らの中には,ハンセン病患者の家族に対する偏見差別の存在が原告らとその家族との間の家族関係の形成に悪影響を生じさせたとまでは認められない原告らが存在することから,ハンセン病患者の家族であっても、必ずしも家族関係の形成が阻害されたと認めることはできず、原告ら全員が共通して家族関係を形成する権利が侵害されたと認めることはできない。もっとも、被告の違法行為が認められる時点である、沖縄以外の地域に所在する療養所については昭和35年以降、沖縄に所在する療養所については昭和4 7年以以降に、ハンセン病患者である家族が療養所に入所し、一定期間、ハンセン病患者である家族が帰宅せず別居していた原告らには、ハンセン病患者である家族が入所したことによって、一定期間離れ離れとなり日常生活を共有できず同人との家族関係の形成を阻害されたことが認められ、その限度で共通の権利侵害があったと認めることができる。
7.ただし、成人後に親が入所した場合など、一般的類型的にみると家族関係の形成が阻害されたことに疑いが生じる原告らについては、共通の権利侵害があったと認めることはできない。また、原告らには、ハンセン病患者の甥若しくは姪又は孫も含まれるものの,一般に、おじ、おば又は祖父母との交流を阻害されることで人格形成に影響が生じるなどの被害が発生するとまでは認められず、おじ、おばや祖父母が入所したことによって、ハンセン病患者の甥、姪又は孫に共通の権利侵害が生じたとまでは認めることはできない。
8.共通の権利侵害が認められる原告らにおいても,その生活状況やハンセン病患者である家族との関係性等はさまざまであるものの、いずれも、入所によって一定期間ハンセン病患者との家族間の交流が阻害されたという点において、共通する精神的苦痛が生じたと認められる。もっとも、親子及び夫婦間と、兄弟姉妹とでは、同居での生活の重要性や家族関係の形成を阻害されることによる人格形成等の影響が一般的に異なる。そこで、家族関係の形成阻害による損害の程度は、親子及び夫婦間と、兄弟姉妹とで、類型化し、その範囲で、一定の共通性を認めることが相当である。そこで、これらの原告らについて加算すべき慰謝料額としては、当該入所者が親子又は配偶者である場合には、一律100万円、当該入所者に親子又は配偶者がおらず兄弟姉妹のみである場合には、一律20万円と認める。


3.「消滅時効」


 これまで、国家賠償裁判においては、常に「消滅時効」が『壁』となってきた。
 今回の判決では「消滅時効」について次のように示されている。


1.本訴は、差別を受ける地位に置かれたこと及びハンセン病患者が入所したことなどによる家族関係形成阻害を理由とする損害賠償請求を求めるものであるところ、外形的にみると、原告らとの関係で差別を実際に行ってきたのは被告ではないから、差別による損害については、実際に差別を実施した相手方が加害者であると考えるのが通常であること、ハンセン病患者の入所についても外観上明らかな強制収容が実施されたものでもないことからすると、専門家ではない原告らが、当然に、損害賠償請求することが事実上可能な程度に加害者が被告であると早くから認識していたとはいえない。
2.本訴は、被告の行政機関の長に作為義務違反,国会議員に立法不作為があるとして損害賠償を求めた事案であり、不作為の違法は作為の違法と異なって、その違法性や加害者が外観上明確ではないうえに、本訴の特色として、違法性を判断するに当たっては、ハンセン病に関する差別の歴史的経緯、ハンセン病隔離政策等の具体的内容及び歴史的経緯、医学的知見の変遷,国際的知見、ハンセン病患者の家族に対する差別被害についての行政機関及び国会の把握状況等が前提となり、これらの事実を認識していなければ、不法行為を構成するか否かを判断することはできない。しかしながら、これらの事実を専門家でもない原告らが認識することは容易ではなく、現に原告らが早くから認識していたと認めるに足りる証拠はない。また、らい予防法廃止の際の厚生大臣の謝罪、平成13年の熊本地方裁判所の上記判決やその後の被告の一連の対応に関する報道によっても、ハンセン病患者の家族との関係においても被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは、一般人を基準にすると、著しく困難であったというべきである。
3.本件と同様に、ハンセン病患者の家族との関係での被告の不作為が問われ、被告に損害賠償義務を認めた裁判例は存在しない上、原告らは、鳥取地方裁判所において平成27年9月9日に言い渡された判決をきっかけに、代理人弁護士らから被告が加害者であること及び被告の加害行為がハンセン病患者の家族との関係においても不法行為を構成する可能性を指摘されたことを受けて本訴に至ったことが窺われることからすれは、少なくとも、上記指摘を受けるまでは、原告らにおいて,被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは困難であったというべきである。その他、原告らが平成27年9月9日以後に代理人弁護士らから上記指摘を受ける以前に、ハンセン病患者の家族との関係において被告の不作為の違法性を基礎付ける事実を認識していたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、上記指摘を受けた日である平成27年9月9日以降の日が消滅時効の起算点であると解するのが相当である。そして、平成27年9月9日から本件訴訟提起があった日までは3年を経過していないから、原告らのいずれについても消滅時効は完成していないというべきである。


最後に


 最後に、判決の結論は、「主文のとおりの判決を言い渡し、被告に対し、原告ら合計557名(訴訟承継人を含む。)に対し、総額3億7675万円の支払を命じる。」、とされた。




by asyagi-df-2014 | 2019-07-12 06:22 | ハンセン病 | Comments(0)

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