2018年 06月 08日 ( 1 )

定年後の再雇用で賃金を減らされたのは労働契約法が禁じる「不合理な格差」に当たる。

 毎日新聞は2018年6月1日、表題について次のように報じた。


(1)「定年後の再雇用で賃金を減らされたのは労働契約法が禁じる『不合理な格差』に当たるとして、横浜市の運送会社『長沢運輸』で働く嘱託社員3人が正規社員との賃金差額を支払うよう求めた訴訟の上告審判決が1日、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)であった。」
(2)「最高裁は『労働条件の差が不合理か否かの判断は賃金総額の比較のみではなく、賃金項目を個別に考慮すべきだ』との初判断を示した上で、賃金項目を個別に検討。全営業日に出勤した正社員に支給される月額5000円の『精勤手当』について、嘱託社員に支給されない点を『不合理』と判断し、この部分の2審・東京高裁判決(2016年11月)を破棄。会社に対し、相当額の5万~9万円を3人に支払うよう命じた。」
(3)「その他の基本給や大半の手当については、3人が近く年金が支給される事情などを踏まえ、格差は『不合理ではない』として請求を退け、精勤手当に連動する超勤手当の再計算の審理のみを同高裁に差し戻した。裁判官4人全員一致の意見。」
(4)「訴えていたのは、63~64歳の男性3人。正社員時代と仕事内容が全く同じなのに、定年後に年収が2~3割減らされたとして14年に提訴。1審・東京地裁判決(16年5月)は『仕事内容が同じなのに賃金格差を設けることは、特段の事情がない限り不合理だ』として会社側に計約415万円の支払いを命じた。これに対して高裁判決は『企業が賃金コスト増大を避けるために定年者の賃金を引き下げること自体は不合理とは言えない』と指摘し、請求棄却を言い渡していた。」
【伊藤直孝】


 この最高裁判決をどのように捉えるか。
 この最高裁判決に対して、一方には、「働き方が変化し、「同一労働同一賃金」が重視されつつある社会の状況に対応した判断といえよう。」(毎日新聞)という評価がされ、もう一方では、「同一労働同一賃金の趣旨をゆがめかねない判決である。」(信濃毎日新聞)
という評価がされる。
 まず最初に、この二紙のそれぞれの主張をまとめてみる。


Ⅰ.毎日新聞

1.判決内容
(1)「判決があったのは、物流会社の契約社員として働くトラック運転手が提訴した裁判だ。」
(2)「1審では通勤手当、2審ではそれに加え無事故、作業、給食の3手当について『支払われないのは不合理だ』と認定されていた。」
(3)「最高裁は、四つの手当に加え、皆勤手当についても、乗務員を確保する必要性から支払われており、格差は不合理だと判断した。」
(4)「住宅手当については、正社員と契約社員の間に転勤の有無などの差があり、契約社員に支払わないのは『不合理ではない』とした。それでも格差を個別に精査することで、『不合理』の範囲を過去の裁判より広く認めたと評価できる。」
(5)「定年後に再雇用された嘱託社員のトラック運転手3人が原告の裁判では、基本給や大半の手当について、格差は『不合理ではない』とした。退職金が支給され、近く年金が支給される事情も踏まえた。ただし、全営業日に出勤した正社員に支払われる精勤手当や、超勤手当については、やはり個別に考慮して格差は不合理だと結論づけた。」

2.最高裁判決の意味
(1)「正社員と非正規社員が同じ仕事をした場合、待遇に差があるのは、労働契約法が禁じる『不合理な格差』に当たるのか。最高裁は、通勤手当などを非正規社員に支給しないのはその目的に照らし、不合理だと初めて認定した。」
(2)「現在、非正規社員が労働者の約4割を占める。同じように手当に格差を設けている企業に、判決は見直しを迫るものとなるだろう。同種の訴訟にも影響が予想される。」
(3)「この裁判で原告らは、同じ仕事なのに年収が2~3割減ったと訴えていた。企業側は『再雇用の賃下げは社会的に容認される』と訴え、2審はそれを認めていた。最高裁は一定の格差を認めつつも、そうした考え方にくぎを刺したと言える。」

3.毎日新聞の主張
「働き方改革の一環である『同一労働同一賃金』の流れの中で、不合理な待遇格差の是正は当然だ。ただし、格差是正には正社員の賃金体系の見直しとの兼ね合いもある。判決を踏まえ、将来的な雇用慣行を見据えた議論を労使で進める必要がある。」


Ⅱ.信濃毎日新聞

1.最高裁判決の意味
(1)「焦点になっていたのは、運送会社を定年後に再雇用された3人の賃金格差である。3人は仕事内容は定年前と同じなのに、再雇用後の賃金が引き下げられたのは違法と主張していた。最高裁は判決で、再雇用された嘱託の非正規労働者と正社員について、職務内容や転勤、異動の扱いは同じと認定している。一方で再雇用者は定年まで賃金を支給され、老齢厚生年金も予定されていることを考慮するべきだと初めて判断。基本給などの格差は年金支給額も考慮すると不合理といえないとした。」
(2)「最高裁は、年金支給と再雇用が『その他の事情』に当たると判断している。」
(3)「各種手当などの格差については、『各賃金項目の趣旨を個別に考慮するべきだ』と判断。一部手当については相当額を支払うよう会社に命じ、別の手当については審理を高裁に差し戻した。個別内容を具体的に審理し合理性を判断する姿勢は納得できる。」

2.信濃毎日新聞の主張
(1)「賃金は仕事内容と責任範囲に基づくのが原則である。」
(2)「労働契約法20条も、正社員と非正規労働者の格差は不合理であってはならないと規定。不合理かどうかは(1)職務の内容(2)転勤や昇進など「配置の変更範囲」(3)その他の事情―を考慮するとされている。(1)と(2)が同一なのに格差を認めるのは、契約法の趣旨に反するのではないか。」
(3)「最高裁は、年金支給と再雇用が『その他の事情』に当たると判断している。これには疑問がある。年金支給と賃金は別のものだ。各労働者が長年にわたって納付してきた年金を受給することを理由に賃金を抑えるのは筋が違う。」
(4)「定年後だろうと、労働内容と責任が同じならば賃金は同じであるべきだ。再雇用という制度を基に格差を容認するのは不合理だ。」
(5)「国会では働き方改革関連法案が審議されている。同一労働同一賃金の実現は柱の一つだ。最高裁が安易に格差を認めると論議に影響を与え、格差の容認と定着につながりかねない。」
(6)「最高裁がきのう判決を出した別件の非正規労働者訴訟でも、手当ごとに違法性を判断し、二審で認めなかった皆勤手当を支払わないのは不合理と判断している。企業は非正規労働者と正社員の手当の格差について改めて検討し、問題があれば早急に改善しなければならない。」


 問題は、この判決が、毎日新聞の指摘する「企業側は『再雇用の賃下げは社会的に容認される』と訴え、2審はそれを認めていた。最高裁は一定の格差を認めつつも、そうした考え方にくぎを刺したと言える。」、との評価ができるのかということにある。
例えば、信濃毎日新聞はこのことについて、「定年後だろうと、労働内容と責任が同じならば賃金は同じであるべきだ。再雇用という制度を基に格差を容認するのは不合理だ。」
、と労働を捉える根本的な問題としてこの最高裁判断を批判する。
 どうやら、「働き方が変化し、『同一労働同一賃金』が重視されつつある社会の状況に対応した判断といえよう。」と「同一労働同一賃金の趣旨をゆがめかねない判決である。」
との二社の「差」は、労働を捉える根本的な問題の把握の違いから生じている。
 だとしたら、安倍晋三政権の進める「同一労働同一賃金」が「高プロ」を背景に施策されているように、安易に現在の「同一労働同一賃金」施策を安易に認める中で、労働の問題を捉えるべきではない。
労働問題は、資本と労働の力関係で歪められてきたものであることを忘れてはいけない。
 今回も、「高プロ」を導入した利益を考えれば、「同一労働同一賃金」などは資本の側の論理でどうにでもできるという思惑が見えているではないか。





by asyagi-df-2014 | 2018-06-08 06:59 | 書くことから-労働 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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