「アイヌモシリを奪われたうえに先祖の遺骨まで奪われたんだ。」(1)
2026年 02月 25日
朝日新聞は、2025年12月15日、「アイヌ遺骨収集・保管のあり方に問題 人類学、考古学の両学会が謝罪」(定塚遼、大滝哲彰)、と次のように報じた。
1.アイヌ民族の遺骨を巡り、過去の研究において、収集や保管のあり方、研究成果の共有などに問題があったとして、日本人類学会と日本考古学協会は15日、謝罪声明を出した。
2.日本人類学会の声明は、過去に盗掘など適正な手続きを踏まずに遺骨を収集した事例があったことに言及し、「心を痛めてこられたアイヌの方々に心よりお詫(わ)び申し上げます」と謝罪した。同日の会見で、日本人類学会の海部陽介会長は「けじめをつけるべき部分がやっぱりある」などと語った。
3.国内では19世紀以降、東京大や北海道大など12大学の研究者が、アイヌ民族の遺骨を集めていたが、アイヌ民族からは「盗掘だった」という批判の声が強かった。2019年に札幌医科大学が、「今日の研究倫理の観点から適切とは言えないものもある」として、日本の大学で初めて謝罪。今年10月には、東大も先住民族の尊厳を傷つけたとして謝罪した。
4.研究を進めてきた3学会のうちでは、日本文化人類学会が昨年4月、過去の研究姿勢について「真摯(しんし)に反省し、心から謝罪の意を表明する」と記した声明を発表。日本人類学会と日本考古学協会にも謝罪を求める声があったが、これまで2学会は、「謝罪すべき事項や範囲、立場などさまざまな意見がある」などと否定的な態度を示していた。
5.謝罪まで時間がかかったことについて海部会長は「20年間、少数の理事が対処してきた。学会の中で広くこの話を公開して議論するということもできていなかった」と釈明した。
6.日本考古学協会も同日、「考古学研究者の多くは、この問題への関心が薄く、当事者の声に向き合ってこなかった」との謝罪声明を発表した。
7.問題も残る。昨年4月、3学会と北海道アイヌ協会が「アイヌ民族に関する研究倫理指針」の最終案を公表。盗掘や遺族の同意がない遺骨の研究利用を禁じることが明記された。だが、「研究行為は、学問の自由の下に行われるもの」などとし、1868年より前の遺骨は研究できる余地を残したともとれる文言もあるため、アイヌ団体から猛烈な批判を受けている。
8.3学会や大学に対して、一貫して謝罪を求めてきたアイヌ民族の木村二三夫さん(76)=北海道平取町=は「謝罪は当たり前で、本来もっと早くすべきことだ。謝罪してからどうするか。まずは遺骨問題をすべて解決して、研究はそれから先の話だ」と話す。
9.また、3学会は、アイヌ民族の先住性を否定するような「アイヌヘイト」に対する共同会長声明も発表。その先住性は明らかだとした上で、研究成果の正確な認識の普及に努め、「アイヌ民族に対する不当で差別的な言説の是正に取り組んでいく」とした。
(https://digital.asahi.com/articles/ASTDH3GYGTDHUCVL03FM.html?pn=4&unlock=1#continuehere 参照)
この「アイヌ遺骨に関する日本人類学会の声明」及び「アイヌヘイトに対する3学協会共同会長声明」は次のもの。
(1)「アイヌ遺骨に関する日本人類学会の声明」
一般社団法人日本人類学会は、自然人類学に関連する諸分野の研究者を中心とした学術団体として、人類学上の事項を研究し、これに関する知識の交流をはかることを目的に活動して参りました。自然人類学の主たる研究テーマの1つに、遺跡発掘人骨の分析から人類の壮大な歴史を読み解くというものがあります。しかし近年、その一環として、一部の人類学者が過去に行ったアイヌ遺骨の収集とその保管のあり方、さらに研究成果の共有等に倫理上の問題が認識されるようになりました。本会は、過去20 年ほどに渡って、その対応にあたって参りましたが、このたび、この重要な課題について本会の見解を示し、アイヌの方々にお詫びの意を示すとともに、自然人類学者によるこれまでのアイヌ遺骨の研究を振り返り、現代を担う学術団体及び研究者としての責務を問い直すべく、本声明を発表いたします。
わが国の自然人類学者による、日本列島の人の起源をめぐる研究がはじまったのは、明治時代のことです。その基礎資料となったのは遺跡発掘等を通じて得られる人骨で、日本列島各地においてその収集が行われてきました。その一環として、一部の研究者が、アイヌ遺骨の収集を行っていましたが、その中には、盗掘のような、適正な手続を踏まずに収集した事例があり、近年では、このような遺骨収集に対する倫理上の問題があると指摘されています。
本会は、2005年より、北海道ウタリ協会(現在の「北海道アイヌ協会」)と協議を重ねつつ、この課題にどう向き合うべきかの検討をはじめました。2010年には本会内に「先住民遺骨委員会」を設置し、国内各大学におけるアイヌ遺骨の保管状況等を独自に調査し、同協会へ調査結果を報告しました。その後、日本政府の主導によりアイヌ遺骨問題への対応が始まる中で、その一環として、2015年から、北海道アイヌ協会、日本人類学会、日本考古学協会で構成する「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル」が置かれ、問題の核心ならびに研究者として反省すべき点等について、多くの議論を重ねた上で、2017年4月には、それらを報告書にまとめて公表しています。その報告書では、上述の遺骨収集の問題、資料の保存管理上の問題点が指摘されたのみならず、アイヌの方々への配慮が十分でないまま研究が行われ、その成果を十分に還元してこなかったこと、先住民族問題・差別の問題と関わる意識の欠如があったことを確認し、批判を真摯に受け止め、誠実に行動していくべきと記しています。
さらに2018年からは、上述の3団体に日本文化人類学会が加わり、ラウンドテーブルに付属する「研究倫理検討委員会」準備委員会において、これからのアイヌ研究のあるべきかたちについて検討を続けています。そして、2021年には、本会内に研究倫理委員会を設置し、アイヌ遺骨の課題を含む、人類学研究における倫理について議論しています。 本会を含め、アイヌ遺骨の倫理問題に対して学術団体や個々の研究者が真摯に向き合い、遺骨返還を含む問題解決に向けて取り組みが進みつつあることは歓迎すべきでしょう。しかし、ここに至るまでの道のりは長く、その間にアイヌの方々を苦しめてきたと言わざるを得ません。アイヌ研究を志した個々の研究者は、アイヌの方々に対して配慮して研究をしてきた者もおりますが、以下にも記すように、総じて、本会も個々の研究者も、長い間、この問題に自覚が乏しく、研究される側への配慮が不十分な状態であったことを否めません。
日本列島の人の起源をめぐる研究は、まず幕末から明治時代に来日した欧米研究者によって、次いでそれに触発されるかたちで、わが国の自然人類学者によってはじめられました。その頃から注目されていたのは、日本列島各地でみつかる石器時代(今でいう縄文時代)の人々と、アイヌおよび和人との関係でした。当初は、主に伝説などにもとづいて、石器時代人をアイヌとも和人とも関連がない先住者とみなす「コロボックル説」などが唱えられました。その後、人骨の形態解析が始まってより科学的な研究が行われるようになり、次第に縄文時代人とアイヌとの強い関連性が明らかになってきました。さらに九州・四国・本州では、弥生時代以降に大陸からやってきた渡来系集団と在地の縄文集団が、概ね前者が優勢なかたちで交わったのに対し、北海道においては基本的に縄文集団がアイヌの祖先となったことが示され、当地におけるアイヌの連続性が確認されました。このシナリオは、近年の遺伝学的解析からも支持されています。総じて、人類学および関連科学の研究成果は、アイヌが日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるという、今日の日本政府見解を裏付けるものとなっています。
しかし一方で、自然人類学者は、研究対象としてきたアイヌ遺骨の入手経緯に関する問題意識が薄く、これに対し当事者のアイヌの方々がどのような想いでいるかを深く考えてはきませんでした。さらにこうした研究成果を、アイヌの方々の声を聴きながらアイヌコミュニティと共有していく努力をしてきたのかと言えば、たいへん心もとない状態にあります。自然人類学の研究成果は、本来、人の多様性に対する理解を促し、他集団への誤解や偏見を軽減し、差別を是正する力をもっているはずですが、それを十分に活用し社会還元できていない現状には、悔いが残ります。
本会は、人類学の発展に寄与した学術団体として、こうした歴史と現状実態を重く受け止め、真摯に反省し、心を痛めてこられたアイヌの方々に心よりお詫び申し上げます。今後においても、上述の反省点を踏まえ、研究する側と研究される側との共通理解に基づく、本来あるべき研究のかたちを、絶えず模索して参ります。
2025 年12月15日 一般社団法人日本人類学会
(2)アイヌヘイトに対する3学協会共同会長声明
過去150 年ほどの間に蓄積されてきた自然人類学、文化人類学、考古学、さらに歴史学や言語学などの研究成果は、アイヌ民族が独自の文化・社会をもった先住民族であることを明らかにしてきました。しかし、近年、これらの研究成果を誤解あるいは曲解して、あたかもアイヌ民族の先住性を否定する学術的根拠があるかのように訴える、ヘイト(不当な差別的言動)とも受け取れる内容のものがみられます。日本列島の人と文化のルーツや実態の解明に貢献してきた学協会として、これらを看過することはできません。
例えば、北海道の歴史区分として「アイヌ文化期」が13世紀からはじまることを根拠に、それ以前の文化の担い手とアイヌ民族との間に連続性がなく、アイヌは北海道にいなかったので先住民族ではないという主張がなされています。しかし考古学の用語である「アイヌ文化期」とは、あくまで文化段階の区分であり、考古学の研究成果に基づいて「近現代のアイヌ文化につながる文化伝統の形が明確になってきた時期」を示すものです。文化名が異なることは、それ以前の時期との断絶を意味しませんし、集団の入れ替わりを意味するものではありません。
また、アイヌ民族は北方の縄文時代人にルーツを持つというこれまでの研究成果を認め
ながら、縄文時代人は「和人」(非アイヌのマジョリティーの日本人)の祖先でもあるのだから、アイヌ民族は先住民族ではないという主張もあります。しかし、弥生時代以降の主として朝鮮半島を経由した大陸からの渡来民の強い遺伝的・文化的影響下で歴史を歩んできた「和人」社会と、その影響が薄くサハリンなどの北方集団との交流を持ちながら独自の文化を育んできたアイヌ社会、という今日の学術的見地に立てば、アイヌ民族の先住性と独自性は明白です。
アイヌの人びとは日本が近代国家を形成する以前から独自の文化を持つ民族として日本
列島の北部周辺を中心とする地域に居住してきました。そして、日本が近代国家を形成する過程ではその意に関わらず支配を受け、差別にさらされ、独自の文化の伝承に深刻な打撃を受けてきました。しかしながら、アイヌの人びとは今日においてもアイヌ民族としてのアイデンティティや独自の文化を継承し生活している、先住民族なのです。ヘイトは、そうした歴史を経て今にあるアイヌ民族の暮らしをふたたび脅かし、共生の理念を否定する言動に他なりません。
研究成果が歪めて利用されることなく、一般社会において個々人が日本列島内外の人の
多様性を理解し、受け入れ、尊重し合う、健全で強く安心感のある社会の実現に貢献することが、私たちの願いです。そこで3学協会は共同して、研究成果に立脚した事実と実態の正確な認識の普及に努め、アイヌ民族に対する不当で差別的な言説の是正に取り組んで行くことを、ここに表明いたします。一方、上述の学術的知見の一部が、倫理的に不適切な過去の研究に立脚していることも、私たちは認識しています。私たちはそのような歴史を直視し自戒しながら、3学協会の社会的使命を果たすべく、他者に対する不当な誤解や偏見を正し、差別を是正するために努力していくことを、あわせて表明いたします。
2025 年12月15日
日本人類学会会長 海部陽介
日本考古学協会会長 石川日出志
日本文化人類学会代表理事(会長) 棚橋訓
実は、朝日新聞は2025年10月17日、「東大が謝罪、アイヌなど先住民族の遺骨収集で『尊厳を深く傷つけた』」(増谷文生、太田悠斗)、と次のように報じていた。
1.東京大は17日、アイヌ民族など国内外の先住民族の遺骨を研究目的で収集・保管し、先住民族の尊厳を傷つけたとして、謝罪する文章をホームページに掲載した。
2.東大は今年7月、担当職員がアイヌ民族の団体に口頭で謝罪していた。今回、大学として正式に謝罪した。
3.東大によると、1877(明治10)年の大学創設以降、研究者らが、北海道のアイヌ民族をはじめ、オーストラリアや米ハワイなど各地の先住民族の墓地などから遺骨を収集・保管してきた。
4.東大は今回、これらの中に「先住民族の意向に十分配慮せずに行われた」行為があったことを認め、「先住民族の尊厳を深く傷つけることになった事実を厳粛に受け止め、真摯(しんし)に反省し、心よりおわびする」とした。
5.東大は、2007年に決議された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」や国内外の関係法令などを踏まえ、林香里理事・副学長を座長とするタスクフォースを設置。学内に保管している遺骨の現状などを調査・整理し、今後返還につなげるという。
6.アイヌ民族の遺骨を巡っては、2019年までに、東大や北海道大など全国12大学に1574体と、個体の特定ができない346箱分があることが確認されている。
7.また、2008年の衆参両院による「アイヌ民族を先住民とすることを求める決議」などを受け、政府が設置した有識者会議などで対応を議論。18年に関係省庁が作ったガイドラインに基づき、文部科学省が、各大学の遺骨を出土地域などに返還するための手続きを進めている。
8.2019年、札幌医大は「研究者にアイヌ民族の文化や宗教的儀礼に対する理解が十分ではなかった」などとして謝罪した。
9.東大も今年7月、アイヌ民族や研究者らでつくる北海道小樽市の団体に遺骨を返還した際、担当職員が口頭で「アイヌの方々の意向に寄り添うことなく(収集や保管が)行われ、尊厳を傷つけたことを申し訳なく思っており、深くおわび申し上げます」と謝罪した。
10.今回の東大の対応を受け、北海道浦幌町のアイヌ団体「ラポロアイヌネイション」の差間啓全さん(58)は「なぜ今のタイミングになったのか」と疑問を持つ。
11.5年前、東大は保管していた遺骨6体を浦幌町に返還した。その際、謝罪の言葉はなかった。「間違った歴史を大学側がやっと認識したと、先人たちの前で示して欲しい」と話し、大学関係者の来訪を求めた。
(https://digital.asahi.com/articles/ASTBK1CPXTBKUTIL02TM.html?pn=5&unlock=1#continuehere 参照)
この東京大学が明らかにした「遺骨返還等タスクフォースの設置について(2025年10月17日)は、次のもの。
「遺骨返還等タスクフォースの設置について」
1.この度、東京大学は、先住民族の方々の尊厳に配慮した対応を進めるため、「遺骨返還等タスクフォース」を設置いたしました。
2.東京大学は、1877年の創設以来、日本を代表する大学として、科学技術の進歩に寄与し、近代日本の発展と歩みを共にして参りました。その過程で、研究の一環として、国内外の先住民族の遺骨を収集・保管し、研究調査に用いてきた歴史があります。これらの行為の中には、先住民族の方々のご意向に十分配慮することなく行われたものが含まれ、先住民族の方々の尊厳を深く傷つけることとなりました。本学はこの事実を厳粛に受け止め、真摯に反省し、ここに心よりお詫び申し上げます。
3.このタスクフォースには、多様な専門性を有する学内の構成員が参画しています。タスクフォースの使命は、本学にある先住民族の遺骨等の情報の整理と調査を進め、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(2007年決議61/295)、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(平成31年法律第16号)等の国内外の関連法令、国内外の大学及び研究機関での対応方針、国内外の関連学協会等の見解等を踏まえて、遺骨の返還及び返還を求める地域、団体又は個人への対応に関する方針を明確にすることです。
4.タスクフォースは既に調査を開始しておりますが、保管期間が明治期から今日に至るまで長期に及んでいることから、記録が不十分な場合があります。そのため、精査には時間を要する見込みです。しかし、調査の経過については適宜発表していく予定です。
5.本学は、世界の公共性に奉仕する大学として、多様性が尊重され包摂される公正な共生社会の実現に寄与することを目指しています。このタスクフォースの活動を通じて、大学の存立基盤と社会的責任を再確認し、真理と平和に貢献する教育と研究を一層促進してまいります。
令和7年10月17日 国立大学法人 東京大学
(https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z1304_00143.html 参照)
by asyagi-df-2014
| 2026-02-25 20:29
| 人権・自由権
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