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高額療養費の引き上げを考える。(4)

 厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)は2025年12月12日、公的医療保険の「セーフティーネット」の役割を果たしている「高額療養費制度」の見直しをめぐり、高額療養費の引き上げを段階的にすることを決めた。
 このことで、特に、高額な治療を長く続けているがん患者は、「『治療を諦めなくてはいけないのか』と深刻な懸念」(朝日新聞)を抱かされている。
 また、この高額療養費の引き上げは、「生活や命の継続の危険につながる。」(朝日新聞)ものであり、全世代に打撃を与える改悪となることが予想される。まさしく、「いま健康な人も、自分事として考えてほしい問題」(朝日新聞)なのである。
 したがって、「租税・保険料支払いへの抵抗感が強まっている現在」(朝日新聞)の中で、公的医療保険による高額療養費制度の公的負担のあり方を考える必要があります。

 では、どのような見直しが行われているのか。
 全国保険医団体連合会のホ-ムペ-ジによると、次のことが検討されている。
1.現在、厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)では、この高額療養費制度について、患者が支払う負担限度額を引き上げる方向で議論が進められています。
2.これまで部会に示された案では、①全ての5つの所得区分をさらに細分化した上で、負担限度額水準を5%~15%引き上げることが示されています。
2.加えて、②70歳以上の高齢者(年収370万円未満)において外来医療費負担を抑える「外来特例」(月1万8,000円、又は8,000円など)について、廃止又は負担限度額引き上げが提案されています。
4.国は年末にも決定して、早ければ2025年夏以降からの負担引き上げを進める構えです。

 さて、日本の新聞社は、この問題をどの様に捉えたのか。
 以下が、2025年2月14日までに、確認できた社説・論説。

(2024年12月19日)
西日本新聞社説-高額療養費制度 負担増でも趣旨損なうな-
(2025年1月29日)
読売新聞社説-高額療養見直し 負担増への理解をどう広げる-
(2025年2月3日)
京都新聞社説-高額医療の負担増 治療控えを招かぬ工夫要る-
信濃毎日新聞社説-高額療養費制度 患者の命に関わる負担増-
(2025年2月5日)
沖縄タイムス社説-高額療養費引き上げ 負担増 患者の声を聞け-
(2025年2月6日)
朝日新聞社説-高額療養費 連帯弱体化に歯止めを-
(2025年2月12日)
東京新聞社説-高額医療の負担 患者に耳を傾けてこそ-
高知新聞社説-治療諦めない仕組みを-
(2025年2月14日)
朝日新聞社説-高額療養費 当事者の声 きかぬ過ち-

 この社説・論説で、この問題を考える。
 ここでは、西日本新聞、信濃毎日新聞及び読売新聞の社説を取りあげる。

(1)西日本新聞社説-高額療養費制度 負担増でも趣旨損なうな-2024年12月19日

 西日本新聞は、この見直しについて、「医療費の自己負担を抑える高額療養費制度について、厚生労働省は見直しを検討している。負担額の上限を引き上げる見通しだ。高額療養費制度は、誰もがためらわずに必要な医療を受けるためのセーフティーネットである。その趣旨を損なってはならない。」、と行き着ける。
 西日本新聞による見直し内容の把握。
1.1973年の制度創設から何度も見直されているが、今回は大きな改正となる。
2.現行は世帯年収に応じ、70歳未満で5通り、70歳以上で6通りの上限額が設定されている。医療機関や薬局への1カ月の支払いが上限額を超えた場合、申請すれば超過額が払い戻される。
3.70歳未満の平均的な年収区分(370万~770万円)では、月100万円の医療費に対する上限額は8万7430円となっている。厚労省案は平均的な年収区分の上限額を10%、8千円程度引き上げる方向で、与党と調整して決定する。
4.住民税非課税の低所得世帯の引き上げは2・7%にとどめ、年収が多い世帯の上げ幅を最大15%とする。
5.70歳以上で年収370万円を下回る人の外来受診は、自己負担額をさらに低くする特例がある。厚労省はこの見直しも進めている。
6.実施するのは2025年夏以降で、26年度に年収区分を細分化する方針のようだ。
 次に、見直しの問題点の経過の把握。
1.高齢化が進み、医療費の総額は膨らんでいる。患者の支払いを増やして公的医療保険からの給付を抑え、現役世代の保険料負担を軽減するのが見直しの目的だ。
2.政府が昨年12月に閣議決定した「こども未来戦略」で、少子化対策の財源の一つとして高額療養費制度の上限額見直しを挙げた経緯もある。
 その上で、「世帯収入に応じて負担を分かち合う措置はやむを得ないだろう。」とするとともに、「ただし自己負担の増額を心配する患者が受診を控え、命に関わるようなことになってはならない。特に低所得世帯には配慮が必要だ。」、と指摘する。
 さらに、高額な医薬品の普及の問題点について、指摘する。
1.医療の発達とともに、高額な医薬品の普及が制度の重しになっていることも議論を呼んでいる。
2.高額療養費1件当たりの平均額は、16年度の4万1767円から21年度は4万5923円に増え、支給総額の規模は2兆5600億円から2兆8500億円に伸びた。14年にがん免疫治療薬「オプジーボ」が、最近ではアルツハイマー病の症状の進行を遅らせる新薬「レカネマブ」や「ドナネマブ」が保険適用された。
3.こうした薬は患者に恩恵をもたらす。一方で医療保険財政を圧迫しているという意見もある。
 最後に、西日本新聞は、次のように締める。
 「患者や家族は、効果がある新しい治療法を待ち望んでいる。所得にかかわらず、適切な医療を選択できることが大前提だ。医療保険の持続性を高めるためにも、負担のバランスが取れた制度設計に工夫を凝らしたい。」、と。
(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1295035/ 参照)

(2)読売新聞社説-高額療養見直し 負担増への理解をどう広げる-2025年1月29日

 読売新聞は、見直しについて、「高齢化が進み、国全体の医療費は膨らむ一方となっている。財政が 逼迫 ひっぱく する中で、患者に一定の負担増を求めるのはやむを得ない。」、と最初に評価する。
 この見直しについての把握。
1.政府が「高額療養費制度」の政令を見直し、患者の自己負担額の上限を引き上げることを決めた。改定は10年ぶりだ。
2.この制度は、入院などで多額の医療費がかかった場合に患者の自己負担を低く抑える仕組みだ。年収に応じて毎月の自己負担額に上限を定め、上限を超えた分を医療保険財政で賄っている。
3.例えば年収370万~770万円の現役世代が、がんを患って月200万円の医療を受けた際には、3割負担の原則を当てはめれば自己負担は60万円となる。しかしこの制度のおかげで、実際に支払う額は10万円程度ですむ。
4.医療が高度化し、がんや心臓病など重い病であっても効果的な新しい治療法が開発されている。一方で、複雑な手術や最新の投薬治療に1000万円を超える医療費がかかることも珍しくはない。
5.高額療養費を含む医療費は、2013年度に40兆円を突破し、その後も増加傾向にある。現状を放置していたら医療保険財政が悪化し、医療費への税金の投入も 嵩 かさ むばかりとなる。改革は急務だ。
6.政府は具体的な改革として、全ての所得層を対象に、自己負担の上限を今年8月から27年8月にかけて段階的に引き上げていく方針だ。年収370万~770万円の場合、今年は自己負担の上限額が10%増となる。
7.ただ2年後には、年収によって自己負担の上限額が50%増や70%増となる人もいる。
 読売は、最後に、「患者に一定の負担増を求めるのはやむを得ない」、特に、「年収によって自己負担の上限額が50%増や70%増となる人もいる」、との問題点から次のことを指摘する。
1.厚生労働省の審議会は昨年、どの所得層でも引き上げ幅を5~15%とする方向で議論していたが、年末に厚労相と財務相が協議し、一定の所得のある人には負担を積み増すことを決めた。
2.経済力のある層に重い負担を求める「応能負担」は、税や社会保障の原則だ。とはいえ「70%増」もの引き上げについて、十分な議論が行われたとは言えない。
3.自己負担額の見直しは政令を改めれば可能なため、政府には、法改正に伴う国会での説明義務は生じない。だが、これだけの負担増を求めるのなら、制度の課題や負担増の必要性を丁寧に説き、国民の理解を求めていくべきだ。
4.今国会では、5年に1度の年金改革も予定されている。
5.年金、医療、介護の社会保障全体を持続可能なものとするには、消費増税の議論も避けてはならない。
(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20250129-OYT1T50009/ 参照)

(3)信濃毎日新聞社説-高額療養費制度 患者の命に関わる負担増-2025年2月3日

 信濃毎日新聞は最初に、「膨らみ続ける医療費の抑制は必要としても政府のやり方は一方的で、患者への深刻な影響が懸念される。再検討を求めたい。」、と突きつける。
 次に、見直しについての把握。
1.治療が高額になると患者の自己負担を一定額に抑える「高額療養費制度」。家計の医療費負担が重くなりすぎないよう歯止めをかける仕組みだ。この制度を巡り政府は今夏以降、負担上限額を段階的に引き上げる。
2.現行制度では上限額は原則、年収などで五つに区分されている。
3.まず今年8月、5区分全てで引き上げる。来年8月には住民税非課税を除く4区分を三つずつに細分化し所得の高い層を上げる。再来年8月にも引き上げる。
4.現行の平均的な年収区分「約370万~770万円」の上限月額は約8万円。これが細分化され、最も高い区分の「約650万~770万円」では、最終的には上限月額が約13万9千円へ。ひと月に6万円近く増える勘定になる。
5.政府は制度見直しの狙いを、保険料負担の抑制とする。
6.上限額を超えた分は公的医療保険から給付される。患者負担を増やせば給付は減るため、主に現役世代が支払う保険料負担は、年に1人当たり1100~5千円軽くなる。浮いた分は少子化対策の財源に回す―。政府の説明だ。
 その上で、信濃毎日新聞は、この見直しの問題点を指摘する。
1.しかし高額療養費制度は、がんや難病などの疾患で長期にわたり治療を続ける患者と家族にとってまさに命綱である。
2.特にがん治療は近年、高度化に伴い治療費も高額となり、負担上限額まで支払っている患者も少なくない。
3.全国がん患者団体連合会が1月にアンケートを実施したところ、3日間で3600人超の回答が寄せられた。多くは闘病中の患者で、10~30代の「AYA世代」も含まれている。
4.「国に死ねと言われている思い。医療費改善の中でなぜこの制度でないといけないかの説明も不十分」(27歳男性)、「限度額を使っても生活がとても苦しい。負担額が上がれば命をあきらめざるを得なくなる」(30代女性)。上限額の引き上げは、治療の断念へと追い込みかねない。
 最後に、信濃毎日新聞は、
1.もとはといえば、政府が少子化対策の財源に社会保障費の削減を当て込んだことに無理がある。
2.驚くのは、政府が上限額の引き上げに際し、がん患者ら当事者の意見を聞いていないことだ。
3.高額療養費制度のあり方は、患者の命に直結する。当事者と誠実に向き合うことが欠かせない。引き上げの影響を慎重に見極める必要がある。
(https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025020300096 参照)

 今回の高額療養費の見直しについて、三社の主張は次のこと。
1.西日本新聞は、「所得にかかわらず、適切な医療を選択できることが大前提」であり、医療保険の持続性を高めるために、「高額療養費制度は、誰もがためらわずに必要な医療を受けるためのセーフティーネットである。その趣旨を損なってはならない。」、とすること。
2.読売新聞は、「高齢化が進み、国全体の医療費は膨らむ一方となっている。財政が 逼迫 ひっぱく する中で、患者に一定の負担増を求めるのはやむを得ない」、とすること。特に、「70%増」もの引き上げについては、「制度の課題や負担増の必要性を丁寧に説き、国民の理解を求めていくべき」であること。結局、「年金、医療、介護の社会保障全体を持続可能なものとするには、消費増税の議論も避けてはならない」、ということ。
2.信濃毎日新聞は、「膨らみ続ける医療費の抑制は必要としても政府のやり方は一方的で、患者への深刻な影響が懸念される。再検討を求めたい。」、ということ。また、その背景として、「政府が少子化対策の財源に社会保障費の削減を当て込んだことに無理がある。」、との問題点あること。やはり、「高額療養費制度のあり方は、患者の命に直結する。当事者と誠実に向き合うことが欠かせない。引き上げの影響を慎重に見極める必要がある。」こと。

 気になるのは、読売新聞には、高額療養費制度のセーフティーネットの役割の後退への指摘がないこと。


by asyagi-df-2014 | 2025-03-16 19:04 | 高齢者福祉・医療 | Comments(0)

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