高額療養費の引き上げを考える。(3)
2025年 03月 14日
厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)は2025年12月12日、公的医療保険の「セーフティーネット」の役割を果たしている「高額療養費制度」の見直しをめぐり、高額療養費の引き上げを段階的にすることを決めた。
このことで、特に、高額な治療を長く続けているがん患者は、「『治療を諦めなくてはいけないのか』と深刻な懸念」(朝日新聞)を抱かされている。
また、この高額療養費の引き上げは、「生活や命の継続の危険につながる。」(朝日新聞)ものであり、全世代に打撃を与える改悪となることが予想される。まさしく、「いま健康な人も、自分事として考えてほしい問題」(朝日新聞)なのである。
したがって、「租税・保険料支払いへの抵抗感が強まっている現在」(朝日新聞)の中で、公的医療保険による高額療養費制度の公的負担のあり方を考える必要があります。
では、どのような見直しが行われているのか。
全国保険医団体連合会のホ-ムペ-ジによると、次のことが検討されている。
1.現在、厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)では、この高額療養費制度について、患者が支払う負担限度額を引き上げる方向で議論が進められています。
2.これまで部会に示された案では、①全ての5つの所得区分をさらに細分化した上で、負担限度額水準を5%~15%引き上げることが示されています。
2.加えて、②70歳以上の高齢者(年収370万円未満)において外来医療費負担を抑える「外来特例」(月1万8,000円、又は8,000円など)について、廃止又は負担限度額引き上げが提案されています。
4.国は年末にも決定して、早ければ2025年夏以降からの負担引き上げを進める構えです。
ここでは、国保険医団体連合会「高額療養費制度の改悪は中止を シリーズで問題点を解説(①~⑩)」の次の要約を掲載する。
1.交通事故やがん治療などでの長期の入院、普段より高額な薬剤を使い続ける人など、医療費の負担が重くなる場合には、公的医療保険で高額療養費制度が設けられています。重い医療費負担によって、患者の治療・療養の継続、生活や生業などが脅かされないようにするため、月々(及び1年間)に支払う医療費負担を一定額以下にとどめるものです(※2.現在、厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)では、この高額療養費制度について、患者が支払う負担限度額を引き上げる方向で議論が進められています。
3.これまで部会に示された案では、①全ての5つの所得区分をさらに細分化した上で、負担限度額水準を5%~15%引き上げることが示されています。加えて、②70歳以上の高齢者(年収370万円未満)において外来医療費負担を抑える「外来特例」(月1万8,000円、又は8,000円など)について、廃止又は負担限度額引き上げが提案されています。
4.国は年末にも決定して、早ければ2025年夏以降からの負担引き上げを進める構えです。
5.誰もが、人生の途上で予期せぬ事故や大病に見舞われます。患者の治療・療養を支える”命綱”である高額療養費制度について負担限度額の引き上げは多大な影響をもたらしま
7.厚労省は、高額療養費制度を見直す理由として、「高齢化の進展」や「医療の高度化」、「高額薬剤の開発・普及」などによって高額療養費の総額(負担限度額を超えた支給部分)が年々増加し、「医療保険財政に大きな影響を与えている」ことをあげています。
8.現在、高額療養費の総額(2021年)は年2.85兆円ですが、これは総医療費(45兆円)のうち約6.3%相当にすぎません。総医療費の約8割は通常の公的保険診療給付(現役世代と高齢者)を占め、残りの約12%を患者負担で賄っています。高額療養費が医療保険財政を逼迫させているかのような言い方は不正確です。
9.近年、医療費は、毎年約3%ずつ伸びています。医療費の伸びの平均2.8%弱のうち、高齢化による影響は平均1.06%なのに対して、医療の高度化など技術進歩によるものが平均2.7%とはるかに大きくなっています。一般的なイメージとは異なり、高齢化による伸びは大きくありません。
10.医療費の伸びの多くは「高額な薬剤」によるものです。
11.国自らが「高い薬価」を政策的に助長しておいて、その負担のつけを患者にしわ寄せすることは問題です。新薬を値付けするルールを改善して、高薬価算定構造こそ改めるべきです。
12.厚労省は見直しの理由として、大幅な制度変更を行った約10年前(2017年)と比べ「賃上げの実現」で世帯収入が増えたことをあげています。しかし、実質賃金は増えるどころか、2012年の自公政権以降、年額33万6千円も減ったのが実態です。他方、異常な物価高騰で生活は厳しさを増しています。「賃上げ」は理由になりません。
13.2017(平成27)年1月以降、相次ぐ負担引き上げを通じて、現行の高額療養費制度は、治療・療養の継続や生活・生業を守る「セーフティネットとしての役割」が大幅に低下しています。
14.今の高額療養費制度では、重い病気ほど負担が重くなる形で限度額が決定されています。
15.安全・安心な「セーフティーネット」に向けて、負担限度額の引き下げはじめ高額療養費制度の抜本的な改善こそが求められます。
16.高額療養費制度では、高齢者(70歳以上)と現役世代(70歳未満)の仕組みは別建てで設計されています。70歳以上の場合、中低所得者の人は、「外来特例」はじめ負担限度額が、現役世代よりも相対的に軽減されています(※現役世代との違いは、下図の点線17.厚労省は、年齢・世代の違いに関わりなく、「負担能力に応じた負担」を求めると提案してきました。
18.年金が実質削減され、物価高騰が続く中、ギリギリの生活を強いられている高齢者に大幅な負担増を求めます。とりわけ、75歳以上で年収200万円以上の人は、2022年10月からの窓口負担1割から2割への引き上げに続き、ダブル、トリプルパンチです。70歳以上で年収370万円未満の人は約1,480万人、「住民税非課税」に当たる人は約640万人に及びます。膨大な数の高齢者に大きな痛みを強いる見直しです。
19.厚労省は、年齢・世代の違いに関わりなく、「負担能力に応じた負担」を求めるとして、高齢者の外来受診に際して医療費負担を別途軽減している「外来特例」などを目の敵にしています。
20.現役世代には設定されていない、外来特例(や住民税非課税の人での負担限度額の軽減措置)は、高齢になるほど病気にかかりやすく受診する機会が増える一方、所得(ほぼ年金。勤労所得は限定)は現役時代に比べて大幅に低下することに考慮したものです。21.高齢な患者ほど多くの受診が必要です。とりわけ、疾病が重篤化しやすく、状態回復も遅くなる高齢者にとっては、早期発見と早期治療が重要です。
22.原則、窓口負担1割の75歳以上の高齢者(及び70~74歳は原則2割負担)について負担が軽いかのような議論がありますが、すでに高齢者は重い窓口負担を負わされています。年収に対する窓口負担が占める割合では、現役世代(30~50代)の2~6倍近い重い負担を強いられています。また、年金が実質削減される中、2022年10月より75歳以上の高齢者に窓口負担2割が導入されており、負担割合はさらに上昇しています。外来特例はじめ負担限度額の引き上げは、こうした不公平な状況をさらに広げて、高齢者を医療からますます遠ざけることになります。
23.年齢・世代の違いに関わりなく「負担能力に応じた負担」を求めるとする厚労省の主張は問題の多い議論と言わざるを得ません。
23.高齢者の疾患・疾病特性などから見て、「外来特例」はじめ負担限度額の引き上げは到底認められません。
24.厚労省は、患者が支払う負担限度額を大幅に引き上げる方針です。
25.とりわけ問題なのは、被保険者(現役世代)の8割近くを占める中所得・低所得層に多大な負担増を強いていることです。
26.負担限度額の引き上げは、治療や先行きに不安を抱える入院患者に追い打ちをかけるものです。患者が安心して入院治療に専念できるためにも、負担限度額の引き上げは中止すべきです。
27.政府は、「現役世代をはじめとする被保険者の保険料負担の軽減を図る」として、負担限度額引き上げを正当化していますが、そもそも、保険料を軽減することと重篤な疾患の治療・療養を要する患者に負担増を求めることは何の脈絡・関係もありません。
28.保険料が上昇する額をわずかに抑制するものにすぎません。
29.国民の2人に1人はがんにかかる時代です。思いがけず大病を患ったり、事故に遭うことはどの世代にも起こりえます。その際の自己負担が上がることは国民の不安を増大させ、少子化対策にも逆行します。
30.微々たる保険料軽減と引き替えに、いざという時に大幅な負担増を強いて安全・安心な治療を妨げるのが、今回の見直しの中身にほかなりません。
31.同様に、厚労省によれば、今回の見直しによって、国などの財源負担(満年度ベース)は1,600億円(国:1,100億円、地方:500億円)が削減されると見込まれています。実態は、”保険料負担の軽減“をダシに使って、国などの財政責任を後退させるものです。
2.医療の進歩などで今後も医療費は増加します。保険料負担軽減のためには、患者負担の引き上げではなく、医療費への国の負担率を引き上げることこそ必要です。合わせて、所得が低い人ほど重い負担となっている社会保険料負担のあり方を抜本的に改善することが求められます。
32.国は現役世代と高齢者を対立させる議論をやめるべきです。
33.政府や厚労省は、「負担能力に応じた負担」(いわゆる、応能負担)を求めるとして、収入段階に応じた負担限度額の引き上げを正当化していますが、そもそも医療は必要な時に迅速に十分なだけ提供されなくては意味がありません。医療の利用に際して、窓口負担の支払いに応能負担を導入・拡大すれば受診手控えの発生・悪化は避けられません。窓口負担額の増加が受診の手控えを増やすことは、「長瀬効果」として学術的にも確証されており、国自らも公式に認めているものです。
34.「応能負担」は、税・保険料の負担においてこそ、適用・徹底されるべきです。
35.所得が高い人ほど相応に保険料を多く負担してもらう一方、医療費の利用に際しては負担(窓口負担割合、負担限度額)は所得の高低に関わりなく、平等な水準にすべきです。負担限度額引き上げは中止するとともに、先進諸国で見ても高い「原則3割」の窓口負担を段階的に引き下げていくことが必要です。
さて、日本の新聞社は、この問題をどの様に捉えたのか。
以下が、2025年2月12日までに、確認できた社説・論説。
(2024年12月19日)
西日本新聞社説-高額療養費制度 負担増でも趣旨損なうな-
(2025年1月29日)
読売新聞社説-高額療養見直し 負担増への理解をどう広げる-
(2025年2月3日)
京都新聞社説-高額医療の負担増 治療控えを招かぬ工夫要る-
信濃毎日新聞社説-高額療養費制度 患者の命に関わる負担増-
(2025年2月5日)
沖縄タイムス社説-高額療養費引き上げ 負担増 患者の声を聞け-
(2025年2月6日)
朝日新聞社説-高額療養費 連帯弱体化に歯止めを-
(2025年2月12日)
東京新聞社説-高額医療の負担 患者に耳を傾けてこそ-
高知新聞社説-治療諦めない仕組みを-
この社説・論説で、この問題を考える。
by asyagi-df-2014
| 2025-03-14 18:55
| 高齢者福祉・医療
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