高額療養費の引き上げを考える。(2)
2025年 03月 04日
厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)は2025年12月12日、公的医療保険の「セーフティーネット」の役割を果たしている「高額療養費制度」の見直しをめぐり、高額療養費の引き上げを段階的にすることを決めた。
このことで、特に、高額な治療を長く続けているがん患者は、「『治療を諦めなくてはいけないのか』と深刻な懸念」(朝日新聞)を抱かされている。
また、この高額療養費の引き上げは、「生活や命の継続の危険につながる。」(朝日新聞)ものであり、全世代に打撃を与える改悪となることが予想される。まさしく、「いま健康な人も、自分事として考えてほしい問題」(朝日新聞)なのである。
したがって、「租税・保険料支払いへの抵抗感が強まっている現在」(朝日新聞)の中で、公的医療保険による高額療養費制度の公的負担のあり方を考える必要があります。
では、どのような見直しが行われているのか。
全国保険医団体連合会のホ-ムペ-ジによると、次のことが検討されている。
1.現在、厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)では、この高額療養費制度について、患者が支払う負担限度額を引き上げる方向で議論が進められています。
2.これまで部会に示された案では、①全ての5つの所得区分をさらに細分化した上で、負担限度額水準を5%~15%引き上げることが示されています。
3.加えて、②70歳以上の高齢者(年収370万円未満)において外来医療費負担を抑える「外来特例」(月1万8,000円、又は8,000円など)について、廃止又は負担限度額引き上げが提案されています。
4.国は年末にも決定して、早ければ2025年夏以降からの負担引き上げを進める構えです。
政府の高額療養費の引き上げを考えるために、全国保険医団体連合会のホ-ムペ-ジより、「高額療養費制度の改悪は中止を シリーズで問題点を解説」(①~⑩)を引用する。
(1)全国保険医団体連合会- 【第1回】高額療養費制度の改悪は中止を シリーズで問題点を解説
1.12月12日の厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)において、患者が支払う医療費負担限度額(高額療養費制度)を引き上げる方向での「見直し」が了承され、2025年度予算編成過程において詳細な制度設計を行うとして与党で調整が進められています。本会は、重篤な疾患の治療・療養を支える高額療養費制度の改悪を止めることを強く求めています。
2.今回から、シリーズ10回を通じて高額療養費制度の見直しの問題点を解説していきます。
1.交通事故やがん治療などでの長期の入院、普段より高額な薬剤を使い続ける人など、医療費の負担が重くなる場合には、公的医療保険で高額療養費制度が設けられています。重い医療費負担によって、患者の治療・療養の継続、生活や生業などが脅かされないようにするため、月々(及び1年間)に支払う医療費負担を一定額以下にとどめるものです(※患者は上限額(一定額)以上の負担は求められない)。
2.通常、患者は治療などに要した医療費合計のうち1~3割相当分を支払いますが、別途、高額療養費制度において、患者の所得区分(5段階)に応じて負担する月限度額(及び1年間)が設定されています。
3.現在、厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)では、この高額療養費制度について、患者が支払う負担限度額を引き上げる方向で議論が進められています。
4.これまで部会に示された案では、①全ての5つの所得区分をさらに細分化した上で、負担限度額水準を5%~15%引き上げることが示されています。加えて、②70歳以上の高齢者(年収370万円未満)において外来医療費負担を抑える「外来特例」(月1万8,000円、又は8,000円など)について、廃止又は負担限度額引き上げが提案されています。
5.国は年末にも決定して、早ければ2025年夏以降からの負担引き上げを進める構えです。
6.誰もが、人生の途上で予期せぬ事故や大病に見舞われます。患者の治療・療養を支える”命綱”である高額療養費制度について負担限度額の引き上げは多大な影響をもたらします。
7.次回は、負担引き上げが抱える問題についてみていきます。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi1/ 参照)
(2)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を②】生活困窮進む 医療費高騰は国の責任も
(高額療養費は全体の6%)
1.厚労省は、高額療養費制度を見直す理由として、「高齢化の進展」や「医療の高度化」、「高額薬剤の開発・普及」などによって高額療養費の総額(負担限度額を超えた支給部分)が年々増加し、「医療保険財政に大きな影響を与えている」ことをあげています。
2.現在、高額療養費の総額(2021年)は年2.85兆円ですが、これは総医療費(45兆円)のうち約6.3%相当にすぎません。総医療費の約8割は通常の公的保険診療給付(現役世代と高齢者)を占め、残りの約12%を患者負担で賄っています。高額療養費が医療保険財政を逼迫させているかのような言い方は不正確です。
(薬剤費高騰には国の責任も)
1.医療費の伸びについては注意が必要です。近年、医療費は、毎年約3%ずつ伸びています(※2017~22年度の平均。コロナ感染拡大の影響が大きい21年度は除く)。医療費の伸びの平均2.8%弱のうち、高齢化による影響は平均1.06%なのに対して、医療の高度化など技術進歩によるものが平均2.7%とはるかに大きくなっています。一般的なイメージとは異なり、高齢化による伸びは大きくありません。
2.医療費の伸びの多くは「高額な薬剤」によるものです。遺伝子治療・再生医療はじめ医療技術の進展は目覚ましいものがあり、患者にとっては朗報ですが、新薬に「高い薬価」をつけることは別問題です。2022年度での新薬への高い評価に続き、2024年度薬価制度改革では、日米欧製薬業界からも歓迎されるほどの新薬の高薬価の算定を可能とする大盤振る舞いを実施しています。国自らが「高い薬価」を政策的に助長しておいて、その負担のつけを患者にしわ寄せすることは問題です。新薬を値付けするルールを改善して、高薬価算定構造こそ改めるべきです。
(実質賃金は低下している)
1.また、厚労省は見直しの理由として、大幅な制度変更を行った約10年前(2017年)と比べ「賃上げの実現」で世帯収入が増えたことをあげています。
2.しかし、実質賃金は増えるどころか、2012年の自公政権以降、年額33万6千円も減ったのが実態です。他方、異常な物価高騰で生活は厳しさを増しています。「賃上げ」は理由になりません。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi2/ 参照)
(3)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を③】負担額の軽減こそ必要
1.厚労省は、高額療養費制度を見直して患者負担増を求める構えですが、これは現在の制度の基本設計、利用・運用の実態を無視したものです。
(通常入院では使えない制度に変容)
2.2017(平成27)年1月以降、相次ぐ負担引き上げを通じて、現行の高額療養費制度は、治療・療養の継続や生活・生業を守る「セーフティネットとしての役割」が大幅に低下しています。
3.年収370万円以上での3階層への区分化と各々での負担限度額の大幅引き上げによって、これらの所得階層では、外来医療ではもとより、短期入院(5日以内)での手術や検査等の入院(1週間前後)では高額療養費制度を利用することはなくなっています(※現在、急性期病床では平均入院期間は2週間未満)。
4.中高所得者(年収770万円以上)にとっては、例えば、バイオ新薬など「高額な薬剤」で3か月単位での処方(箋)を受けて、窓口での支払いが12~13万円に及んでも支給の対象となりません(※月16.7万円までは患者負担)。がん手術や抗がん剤治療で2週間超の入院でもない限り、高額療養費制度は使わない(使えない)制度になりつつあります。
(年収100万円以下でも月3.5万円まで負担)
1.生活困難が深刻化する中、負担限度額の引き下げ、特に低所得者への配慮は急務です。
現在、低所得者(住民税課税で年収370万円未満の70歳未満)においては、月6万円近くまで窓口負担を強いられます。
2.とりわけ、年収100万円以下(住民税非課税の70歳未満)において、負担限度額月約3万5千円は重すぎます。住民税非課税の人(70歳未満)は国民健康保険への加入者が多くを占めています。被用者保険(健康保険組合、協会けんぽ)とは異なり企業主の保険料負担がないため、不公平に重い保険料を強いられた上、高い窓口負担が重くのしかかっています。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi3/ 参照)
(4)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を④】高額薬剤負担、月横断入院の運用は改善を
(重い病気ほど負担が重くなる)
1.今の高額療養費制度では、重い病気ほど負担が重くなる形で限度額が決定されています。
2.年収370万円以上の人の場合、負担限度額の算出に当たっては、いわゆる、8万円、16.7万円、25.3万円といった基軸となる限度額とは別に、(総医療費-基軸となる限度額)の1%相当分の負担が上乗せされます。昨今、この1%条項が、抗がん剤などでの「高額薬剤」の相次ぐ登場によって重くのしかかっています。 2.働き盛りの勤労者(70歳未満、年収370万~770万円)が4,000万円(薬価)の抗がん剤を使用した場合、1%相当の39万円強(薬剤分のみ)が追加の上乗せとなります。これに8万円が追加されることで、計50万円近い支払いとなります。?公的保険診療”で認められた薬剤を使用している以上、1%条項の適用除外や負担限度額の追加引き下げなど改めるべきです。
(月途中での入院は損!?)
1.負担限度額が治療の総額ではなく「月ごと」に設定されているため、月をまたぐと限度額が適用されない問題もあります。先の勤労者(同上)の事例では、例えば6月中旬に入院した月の支払いが7.5万円、退院した7月中旬の支払いが7.5万円となった場合、患者は計15万円を支払います。入院開始日をずらして7月初旬にして7月末日に退院した場合、15万円の医療費負担に負担限度額が適用されて約8万円の支払いですみます。入院費用が要因となって、入院開始日が後ろ倒しとなれば、治療上、本末転倒です。その疾病の治療が終了するところまでで合算できるようにすることや、治療が長期にわたる場合(例えば、抗がん剤治療を月単位で繰り返す血液がんなど)は、一定期間で区切りをつけて合算するなど改善が求められます。以前とは異なり、病院ではレセプト(月ごとの診療報酬計算表)は電子化されており、実務処理上の困難もありません。早急に改善すべきです。
2.入院した場合、入院食事代(1日・3食)として1,500円の患者負担(住民税課税の場合)がかかりますが、高額療養費の支給対象外とされています。入院食は栄養管理や摂食上の工夫などがされ治療の一環です。さらに、入院時は賃金が不安定になる一方、雑費(病衣、タオル、日用品など)も様々かかります。家計の保障に向けて、入院食についても高額療養費の支給対象とすべきです。
3.安全・安心な「セーフティーネット」に向けて、負担限度額の引き下げはじめ高額療養費制度の抜本的な改善こそが求められます。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi4/ 参照)
(5)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を⑤】年収260万~370万円は月額4割の大幅引き上げ
1.高額療養費制度では、高齢者(70歳以上)と現役世代(70歳未満)の仕組みは別建てで設計されています。70歳以上の場合、中低所得者の人は、「外来特例」はじめ負担限度額が、現役世代よりも相対的に軽減されています(※現役世代との違いは、下図の点線囲み部分。うち青い囲みが「外来特例」)。例えば、外来医療について、負担限度額(=外来特例)が、年収370万円未満では月1万8千円(年間で14万4千円)、住民税非課税の場合では月8,000円とされています。
2.厚労省は、年齢・世代の違いに関わりなく、「負担能力に応じた負担」を求めると提案してきました。12月25日に厚労省が公表した政府決定(財務大臣との「大臣折衝事項」)では、外来特例も含めて負担限度額を引き上げるとしました。70歳以上の年収370万円未満での見直しについて見てみます。
(年収200万~370万円で月1.2万円~2.2万円引き上げ)
1.現在、年収段階は、年収370万円未満、住民税非課税、住民税非課税(一定所得以下)に3区分されています。全ての年収段階を対象に負担限度額を引き上げます。
2.月の負担限度額では、2025年8月以降、3%~5%の幅で引き上げます。次いで、26年8月以降、年収370万未満の層を200万円未満、200万円~260万円、260万~370万円に細分化した上で、年収が高い層から引き上げ幅を高くする形で見直します。年収260万~370万円の場合、最終的には月57,600円から79,200円へと40%近い引き上げです。年収200万~260万円の人も月57,600円から69,900円へと20%を超える引上げ幅です。これらは、概ね現役世代での見直しに合わせる形です。
(外来特例は負担限度額1.5倍(月1万円)引き上げ。75歳以上に追い打ち)
1.外来特例については、2026年8月より引き上げます。とりわけ、年収200万円~260万円、年収260万~年収370万円の人は月18,000円から月28,000円へと50%を超える引き上げです。同じく、年金ではおよそ年155万円以下にあたる「住民税非課税」の人は月8,000円から月13,000円へと60%を超える引き上げです。年間の負担限度額についても、年収200万円~260万円、年収260万~年収370万円の人は、144,000円から224,000円へと56%もの引き上げ幅です。
2.年金が実質削減され、物価高騰が続く中、ギリギリの生活を強いられている高齢者に大幅な負担増を求めます。とりわけ、75歳以上で年収200万円以上の人は、2022年10月からの窓口負担1割から2割への引き上げに続き、ダブル、トリプルパンチです。70歳以上で年収370万円未満の人は約1,480万人、「住民税非課税」に当たる人は約640万人に及びます。膨大な数の高齢者に大きな痛みを強いる見直しです。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi5/ 参照)
(6)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を⑥】高齢者の外来特例は当然の政策的配慮
1.厚労省は、年齢・世代の違いに関わりなく、「負担能力に応じた負担」を求めるとして、高齢者の外来受診に際して医療費負担を別途軽減している「外来特例」などを目の敵にしています。政府の決定では、外来特例などを改悪する方針を示しました(【シリーズ5】を参照)。
(早期発見・早期治療の要)
1.現役世代には設定されていない、外来特例(や住民税非課税の人での負担限度額の軽減措置)は、高齢になるほど病気にかかりやすく受診する機会が増える一方、所得(ほぼ年金。勤労所得は限定)は現役時代に比べて大幅に低下することに考慮したものです。現在、後期高齢者のうち9割弱が外来で何らかの慢性疾患を治療し、およそ3人に2人が2つ以上の慢性疾患を治療するなど、高齢な患者ほど多くの受診が必要です。とりわけ、疾病が重篤化しやすく、状態回復も遅くなる高齢者にとっては、早期発見と早期治療が重要です。
(高齢者は重い負担を強いられている)
1.原則、窓口負担1割の75歳以上の高齢者(及び70~74歳は原則2割負担)について負担が軽いかのような議論がありますが、すでに高齢者は重い窓口負担を負わされています。年収に対する窓口負担が占める割合では、現役世代(30~50代)の2~6倍近い重い負担を強いられています。また、年金が実質削減される中、2022年10月より75歳以上の高齢者に窓口負担2割が導入されており、負担割合はさらに上昇しています。外来特例はじめ負担限度額の引き上げは、こうした不公平な状況をさらに広げて、高齢者を医療からますます遠ざけることになります。
2.医療費が高くなる一方、年収は低くなる高齢者にとって、「外来特例」など負担軽減を図る別建ての仕組みは当然の政策的配慮です。年齢・世代の違いに関わりなく「負担能力に応じた負担」を求めるとする厚労省の主張は問題の多い議論と言わざるを得ません。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi6/ 参照)
(7)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を⑦】外来の負担限度額の改善こそ
1.政府は、高齢者(年収370万円未満)に適用されている「外来特例」(外来受診において、負担限度額を月1.8万円・年14.4万円など別途に軽減する措置)について、月の負担限度額を最大1万円(1.8万円→2.8万円)引き上げるとしています。同様に、年間の負担限度額についても、最大8万円(14.4万円→22.4万円)引き上げるとしています。
(改悪でがん治療中断も)
1.高齢者において外来特例が政策的に求められる点については、【シリーズ6】にて触れました。ここでは、現在の外来特例の問題点(改善すべき点)について触れます。
2.外来特例については、負担限度額の水準が高く、患者の多くが負担軽減の対象にならないことが大きな問題です。厚労省の審議会資料によれば、外来の月負担限度額1.8万円に該当する患者の割合は、70~74歳(住民税課税で年収370万円未満)で17.9%、75歳以上の2割負担者(年収200万円~383万円)で27.8%、75歳以上の1割負担者(住民税課税で年収200万円未満)に至っては8.2%に過ぎません。
3.背景には、負担限度額を超えるケースが、がん治療で受診(1月間)するような場合などに限定されてくる事情があります。政府が示す外来特例の見直しによって、がん治療での受診ケースの場合、窓口負担は2割負担者で月1.8万円から2.8万円へと大幅な負担増を強いられることになります(※下図の赤い囲み)。がん治療の中断を招き、治療が手遅れになる人も生み出しかねません。早期発見・早期治療の保障に向けて、外来特例の負担限度額の引き下げこそが必要です。
(年収370万円以上にも外来特例を)
1.外来特例が適用される年収範囲が狭いことも問題です。現在、年収370万円以上の高齢者(概ね3割負担者)には、外来特例はありません(※この間、改悪がされ続け、2018年8月より、外来特例・月負担限度額5.8万円が完全に廃止される)。がん治療で受診(1月間)する場合、年収370万円超の人はそのまま3割負担が適用され、月5万円もの負担を強いられています。
2.抑制された負担限度額に基づく「外来特例」は、きめ細かい外来受診を保障する結果、不要な入院や入院の遅れを防ぎます。年収370万円以上の高齢者にも外来特例を復活して、月額負担限度額で1.8万円前後の水準を認めるべきです。
高齢者の疾患・疾病特性などから見て、「外来特例」はじめ負担限度額の引き上げは到底認められません。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi7/ 参照)
(8)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を⑧】全ての患者が負担増 年収650万円で7割超
(全ての患者で負担増に)
1.厚労省は、患者が支払う負担限度額を大幅に引き上げる方針です。以下、現役世代(70歳未満)を中心に説明します。
2.2025年8月以降、現行の各年収段階に応じて傾斜をつけて、負担限度額(多数回該当も含む)について、おおむね、「住民税非課税」は2.5%増、「370万円未満」は5%増、「370万~770万円」は10%増、「770万~1160万円」は12.5%増、「1160万円~」は15%増とします。
3.次いで、2026年8月以降、住民税非課税を除いた各年収段階を細分化した上で、各年収段階内で年収が高い層から、引き上げ幅を高くする形で見直します。高齢者(70歳以上)についても、おおむね同様な形で見直します(※高齢者の「外来特例」は別途見直す)。
4.低所得層に対する負担の軽減すら一切なく、全ての患者を対象に負担増を求めます。
(年収650万円で7割超、200万円で4割の引上げ率)
1.とりわけ問題なのは、被保険者(現役世代)の8割近くを占める中所得・低所得層に多大な負担増を強いていることです。
2.年収650万~770万円の層では、負担限度額は最終的(2027年8月以降)に月80,100円から138,600円に、年収510万~650万円の層では、同様に月80,100円から113,400円に引き上げられます。各々、73%(+58,500円)、42%(+33,300円)の大幅な引き上げです。年収260万~370万円の層では、負担限度額は最終的に月57,600円から79,200円に、年収200万円~260万円の層では、同様に月57,600円から69,900円に引き上げられます。各々、38%(+21,600円)、21%(+12,300円)の引き上げです。中間層の復活どころか、衰退にさらに拍車かけるものです。
3.年収1,160万円以上の層では、ただでさえ高い負担限度額の水準(月252,600円)が引き上がることで、例えば、がん治療(胃がん、肝臓がん手術で10日間入院など)でも負担限度額による軽減が受けられなくなるケースも出てきます。
(追加出費がかさむ入院代に追い打ち)
1.2人に1人はがんにかかります。現在、民間の勤労者(男性)の平均年収は569万円です(国税庁「2023年分民間給与実態統計調査結果」)。この男性(月40万、賞与89万円と想定)が、例えば、血液がんで入院した場合(2027年8月以降)、抗がん剤治療はじめ最初の3か月間で10万の負担増(負担限度額引き上げ33,000円×3)が見込まれます。入院により収入がなくなったり、大幅に下がる上、治療費以外にも生活関連雑費(病衣、タオル、日用品、医療用ウィッグなど)や家族の見舞いなど出費はかさみます。治療の一環としつつも、入院食事代(1日約1,500円)は別途患者負担(負担限度額の対象外)です。治療の強い副作用で病院食接種が困難になり、別途、患者が食費を負担(自炊)している場合もあります。一連の治療がひと段落した後も、完全に職場・生業に復帰できる保証もありません。
2.負担限度額の引き上げは、治療や先行きに不安を抱える入院患者に追い打ちをかけるものです。患者が安心して入院治療に専念できるためにも、負担限度額の引き上げは中止すべきです。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi8/ 参照)
(9)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を⑨】微々たる保険料軽減、国の責任放棄
(保険料軽減は月46円~208円)
1.政府は、「現役世代をはじめとする被保険者の保険料負担の軽減を図る」として、負担限度額引き上げを正当化していますが、そもそも、保険料を軽減することと重篤な疾患の治療・療養を要する患者に負担増を求めることは何の脈絡・関係もありません。
2.厚労省によれば、今回の見直しによって、保険料は年3700億円が軽減されるとしています。被保険者1人あたりの保険料軽減では年1,100円~5,000円としており、月額では92円~417円と見込まれます。しかも、勤労者の場合、保険料は企業主負担と折半するため、実際の保険料軽減は月46円~208円と微々たるものです。これにしても、医療技術の進歩などで医療費は年々増えますので、実額で減るわけではなく、保険料が上昇する額をわずかに抑制するものにすぎません。
3.国民の2人に1人はがんにかかる時代です。思いがけず大病を患ったり、事故に遭うことはどの世代にも起こりえます。その際の自己負担が上がることは国民の不安を増大させ、少子化対策にも逆行します。
4.微々たる保険料軽減と引き替えに、いざという時に大幅な負担増を強いて安全・安心な治療を妨げるのが、今回の見直しの中身にほかなりません。
(国の財政責任の後退)
1.同様に、厚労省によれば、今回の見直しによって、国などの財源負担(満年度ベース)は1,600億円(国:1,100億円、地方:500億円)が削減されると見込まれています。実態は、”保険料負担の軽減“をダシに使って、国などの財政責任を後退させるものです。
2.医療の進歩などで今後も医療費は増加します。保険料負担軽減のためには、患者負担の引き上げではなく、医療費への国の負担率を引き上げることこそ必要です。合わせて、所得が低い人ほど重い負担となっている社会保険料負担のあり方を抜本的に改善することが求められます。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi9/ 参照)
(10)全国保険医団体連合会-【シリーズ・高額療養費改悪は中止を⑩】窓口負担は低率・低額に留めるべき
(現役世代にも打撃)
1.政府は、高齢者の負担増により、現役世代(70歳未満)の保険料負担軽減を図ると強調していますが、現役世代への保険料負担軽減は微々たるものです。そもそも、今回の見直しは、現役世代に対しても、大幅な患者負担増を強いるものです(※【シリーズ7、8、9】参照)。
2.高齢者への負担増は、高齢親族の生計を支える者、働きながら親の介護を担う者(約267万人)や、育児と介護を同時に担うダブルケア世帯(少なくとも25万人以上)はじめ、現役世代にも打撃を与えます。ワーキングプア、メンタルヘルス、家庭内暴力などが原因で成人した子どもを高齢世代が支える「8050問題」も増えています。負担増で家族共倒れとなりかねません。国は現役世代と高齢者を対立させる議論をやめるべきです。
(窓口負担は受診抑制が避けられない)
1.政府や厚労省は、「負担能力に応じた負担」(いわゆる、応能負担)を求めるとして、収入段階に応じた負担限度額の引き上げを正当化していますが、そもそも医療は必要な時に迅速に十分なだけ提供されなくては意味がありません。医療の利用に際して、窓口負担の支払いに応能負担を導入・拡大すれば受診手控えの発生・悪化は避けられません。窓口負担額の増加が受診の手控えを増やすことは、「長瀬効果」として学術的にも確証されており、国自らも公式に認めているものです。
(応能負担は税・保険料で徹底すべき)
1.「応能負担」は、税・保険料の負担においてこそ、適用・徹底されるべきです。
2.高額所得者にとっては、相当の保険料負担が求められつつ、いざ大病などを患った時に事実上、青天井で医療費を支払うとなれば、公的医療保険制度に加入するモチベーション自体が損なわれかねません。アメリカに次ぐ「貧困大国」ともいわれる中、辛うじて国民皆保険制度(医療、年金)が、国民・社会の連帯を維持する最後の掛け金となっています。これ以上の亀裂、社会不安を広げないためにも、負担限度額の引き上げ(支払格差の拡大)はやめるべきです。
3.所得が高い人ほど相応に保険料を多く負担してもらう一方、医療費の利用に際しては負担(窓口負担割合、負担限度額)は所得の高低に関わりなく、平等な水準にすべきです。負担限度額引き上げは中止するとともに、先進諸国で見ても高い「原則3割」の窓口負担を段階的に引き下げていくことが必要です。
【参考】高額療養費制度に関する保団連の要望
保団連は、高額療養費制度の見直しに断固反対するとともに、以前より制度改善の要望を行っております。要望事項は以下の通りです。
※<要望>は、声明(2024年12月18日)より。
※<緊急の要望>と<抜本的な改善要望>は、要望書(2018年9月9日)より。
<要望>
1.高額療養費制度について、負担限度額を引き上げる見直しは中止すること。
<緊急の要望>
1.高齢者(70歳以上)の負担限度額について、改変前(2017年1月)の水準に戻すこと。
2. 外来枠(個人毎)を全年齢に拡大するとともに、負担限度額を引き下げること。
※外来特例は、2002年に月額上限を廃止し定率1割負担を徹底した際の負担軽減策として導入された。
3.月をまたぐと合算できない問題について、少なくとも1カ月未満の入院について入院開始日から1カ月単位の起算とするなど改善を図ること。
<抜本的な改善要望>
1.負担限度額を制度改変前(2017(平成27)年1月)の水準の2分の1程度に引き下げること。
2.高額療養費制度は国民の負担限度額を規定しているにもかかわらず、1%条項の「応益の仕組み」によって、重度で高度の治療が必要な人ほど負担が増える仕組みとなっている。この「応益の仕組み」を完全に撤廃すること。
3.同一保険者である場合は、1カ月の負担額が21,000円未満であっても世帯合算ができるようにすること。同一世帯においては、異なる保険者であっても世帯合算できるようにすること。高額医療・高額介護合算療養費は、申請による償還ではなく、職権適用による償還とすること。
4.月をまたぐと合算できない問題については、その治療が終了するところまでで合算できるようにすること(治療が長期間にわたる場合は、一定期間で区切りをつけて合算する)。
5.「多数該当」は、1年以内に3回高額療養費給付月があった場合、4回目以降は減額される。1年以内という条件を緩和し、同じ疾患への治療で高額療養費の給付があった場合には、1年を超えても4回目以降について減額すること。
6.年間の負担限度額の設定について、適用対象を拡大すること。
7.高額療養費制度を使いやすくするため、手続きを簡素化すること。制度のことを知らない患者が多いため、広報活動を充実すること。
(https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/kougakuryouyouhi10/ 参照 2025年2月5日)
by asyagi-df-2014
| 2025-03-04 19:18
| 高齢者福祉・医療
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