地方自治法の改定を考える。-国の指示権拡大-(4)
2024年 06月 29日
地方自治法改正案が2024年5月28日、の衆院総務委員会で、自民、公明両党などの賛成多数で可決された。
ここでは、自由法曹団団長「国の地方公共団体に対する指示権を拡大する地方自治法改正案に反対する声明」(2024年3月11日)及び日本弁護士連合会の「地方自治法改正案に反対する会長声明」(2024年3月13日)で、改めて、この問題の核心を捉え直す。
(1)国の地方公共団体に対する指示権を拡大する地方自治法改正案に反対する声明
1.政府は、3月1日、大規模な災害、感染症のまん延といった国民の安全に重大な影響を及ぼす事態等に、国が地方自治体の自治事務に関して必要な指示をすることができる仕組みを盛り込んだ地方自治法改正案を閣議決定した。
2.同法案について政府は、新型コロナ対応での課題等を踏まえ、国民の安全に影響を及ぼす事態において、国と地方を通じた的確な対応を可能とする観点からの改正であると説明している。
3.しかしながら、国の自治体に対する指示権を拡大する内容を含む本改正案は、以下のような極めて重大な問題を孕んでおり、自由法曹団は同法案に強く反対する。
1 団体自治を侵害し、地方自治の本旨に反する指示権の拡大
①明治憲法が地方自治を憲法に定めなかったこととは対照的に、日本国憲法は独自の章を設け、地方自治を憲法上の制度として厚く保障している。地方自治は、「民主主義の学校」であるとともに、中央集権の弊害を抑制して人権侵害を防ぐための重要なシステムである。
②1999年に成立したいわゆる「地方分権」一括法は、国と地方の「対等・協力」の関係が確認された面がある一方で、国と地方の役割分担の名の下に地方自治を縮小したり、国が地方に対して権力的に関与する仕組みを確立させたりした大きな問題があった。
③本改正案は、この関与の仕組みをさらに強化し、個別法の根拠規定なしに、一般法たる地方自治法に基づいて国の自治事務に対する指示権の行使を可能にする。また本改正案は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が実際に発生した場合のみならず、「発生するおそれがある場合」にも指示権を行使しうるとするなど、国が指示権を行使できる場面を大幅に拡大している。さらに、本改正案が想定する「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」や「発生するおそれがある場合」という文言は漠然としており、「平時」にも適用される余地を残すなど、指示権が濫用される危険が極めて大きい。
④このような指示権を認める本改正案は、自治体の方針に反して自治事務に容易に介入する権限を国に与えるものであり、国と地方の「対等・協力」の関係を崩し、自治体の自主性・自立性を奪い団体自治を侵害するものであって、地方自治の本旨に反する。
⑤政府は、コロナ禍において国と自治体間の調整・連携が不十分だったことを指示権の範囲を拡大する理由とする。しかし、実際には、休校要請など、現場から遠く限定された情報しか持っていない国の判断がかえって自治体の業務や住民の生活に混乱を招いた実例もある。災害等の非常時においてこそ、自治体による地域の具体的状況の把握とそれに応じた適切な対処・対応が切実に求められる。かかる場面で中央からの統制を強め、自治体の自主性を奪うことは、地域住民の安全や権利を守るという観点から弊害が大きい。
⑥この間、辺野古新基地建設問題においては、政府が、沖縄県の方針や県民の意思を踏みにじって、「代執行」によって設計変更の承認権限を知事から奪い、工事を強行しているが、このような事態を見れば、指示権の拡大によって政府による自治体への不当な介入がエスカレートする傾向が強まることは容易に想像がつく。
⑦憲法が保障する地方自治の観点からは自治体の権能を制約することには抑制的でなければならないのであって、対象の範囲が曖昧であり、濫用の余地が大きく、しかも具体的な必要性も明確とは言えない指示権の拡大は認められるべきではない。
2 有事法制と連動した自治体への統制強化のおそれ
①本改正案は、有事下でも国が地方自治法に基づいて自治体に指示権を行使することを可能とする規定となっている。 現行の有事法制下では、国が自治体の対処措置に是正の指示を行えるのは、国民保護法による避難・誘導・救援と特定公共施設利用法による港湾・空港の利用に限定されている。また指示や代執行に至るには、総合調整と意見申し出の手続が要求されているなど、戦時においても国の強制を最小限にし、可能な限り手続を尽くすべきとの一定の抑制が働いていると考えられる。
②ところが本改正案によれば、武力攻撃事態にあってはもちろんのこと、武力攻撃予測事態の認定すらできない段階であっても、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が「発生するおそれがある場合」と判断されれば、国が指示権を行使できる上、一般法である地方自治法を根拠として、自治体の自治事務全般に対して網羅的に指示権を行使することも可能となる。これにより国は有事において、自治体に対し、例えば侵害を排除するために出動する自衛隊のために通行路を空ける措置や、武力攻撃に備えて施設・住戸に防護措置を施す措置や、自治体職員を市役所に配置させてミサイル攻撃に備える措置を講じるよう一方的に指示することなどが可能になる。
③このように本改正案は、有事における国の自治体に対する統制を一気に強化し、侵害排除作戦へ自治体を丸ごと動員することを可能にする内容となっている。このことが地域住民の平穏な生活の破壊に繋がることは自明であり、指示権の拡大は、平和主義の観点からも重大な問題がある。
3 緊急事態条項創設の憲法改正の先取り
①2012年に自由民主党が発表した日本国憲法改正草案は、緊急事態条項の創設を謳っている。同草案で提唱されている緊急事態条項は、内閣総理大臣による緊急事態宣言によって生じる、①内閣の政令制定権、②内閣の財産処分権、③国会議員の任期延長、④地方自治体に対する指示権を内容とする。
②現在国会の憲法審査会では国会議員の任期延長を内容とする憲法改正をねらう議論がなされているが、本改正案は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態等においては国が自治体に対してフリーハンドで指示権を行使することを可能にする点で、同党が主張する緊急事態条項の一部をそのまま実現する内容となっており、緊急事態条項創設の憲法改正の先取りであるといえる。本改正案は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態等においては、立法府である国会での法改正や法制定を経ずに、あるいは既存の法律の頭ごなしに、政府の専権による自治体への指示を認める点で、政府に独裁的権限を付与し、国会の役割を卑小化するものである。本改正案によって侵害されるのは地方自治だけではなく、国民主権原理と立法権までもが侵害されることになることも極めて大きな問題である。
③一時的にせよ立憲的な憲法秩序を停止し、行政権力に一種の独裁的権限を付与することとなる緊急事態条項を創設する憲法改正が許されないことは自由法曹団がこれまでも表明してきたとおりである。本改正案は、緊急事態条項の内容の一部を法律改正によって実現して既成事実化し、憲法改正への足がかりとしようとするものであり、立憲主義、基本的人権の保障、議会制民主主義の観点からも到底認められないものである。
以上のとおり、自由法曹団は、政府が同法案を国会に提出することに強く反対する。
2024 年 3 月 11 日
自 由 法 曹 団
団長 岩田研二郎
(2)地方自治法改正案に反対する会長声明
1.政府は、2024年3月1日、地方自治法の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)を閣議決定し、法案を国会に提出した。
2.当連合会は、本年1月18日付けで「arrow_blue_1.gif第33次地方制度調査会の「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」における大規模な災害等の事態への対応に関する制度の創設等に反対する意見書」(以下「意見書」という。)を公表し、答申に基づく法案の国会提出に反対した。
3.意見書では、答申の「第4」で示された「大規模な災害、感染症のまん延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対応」に関する「国の補充的な指示」の制度の創設は、2000年地方分権一括法により国と地方公共団体が「対等協力」の関係とされたことを大きく変容させるものであるとともに、自治事務に対する国の不当な介入を誘発するおそれが高いなどの問題があることを指摘した。
4.すなわち、答申の「第4」は、その根拠とする大規模災害及びコロナ禍についての実証的な分析検証が行われていない点、法定受託事務と自治事務を区別せずに国の指示権を論じている点、及び現行法では国の地方公共団体への「指示」は、個別法で「緊急性」を要件として認められているのに対し、一般法たる地方自治法を改正して、自治事務についても、個別法の根拠規定なしに、かつ「緊急性」の要件も外して、曖昧な要件のもとに国の指示権を一般的に認めようとする点で、地方分権の趣旨や憲法の地方自治の本旨に照らし極めて問題があるものである。
5.しかし、今回出された法案は、これらの問題点を解消するものとは到底言えない。
6.すなわち、その根拠とする大規模災害及びコロナ禍については、災害対策基本法や感染症法などの個別法で国の指示権が規定されているのであるから、さらに地方自治法を改正する必要性があるのかが疑問であり、その点が法案提出に際して、十分に検討された形跡はない。また、法案は、現行法の国と地方公共団体との関係等の章とは別に新たな章を設けて特例を規定するとして、この点において法定受託事務と自治事務の枠を取り払ってしまっている。さらに、法案は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」、「地域の状況その他の当該事態に関する状況を勘案して」など曖昧な要件で指示権を認め、「緊急性」の要件を外してしまっており、濫用が懸念される。そして、2000年地方分権一括法が「対等協力」の理念のもと法定受託事務と自治事務とを区別して、自治事務に関する国の地方公共団体への指示権を謙抑的に規定した趣旨を没却するものであり、憲法の規定する地方自治の本旨から見ても問題である。
以上から、当連合会は、法案について、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例」に関する章のうち、「事務処理の調整の指示」を定めた第252条の26の4における「指示」を「要求」に改めること、「生命等の保護の措置に関する指示」を定めた第252条の26の5を削除すること、「都道府県による応援の要求及び指示」に関する第252条の26の7の標題を「都道府県による応援の要求」に改めた上で、同条第2項以下を削除すること、及び第252条の26の8の標題を「国による応援の要求」に改めるとともに、各大臣の指示権を規定する同条第4項以下を削除することを求める。
2024年(令和6年)3月13日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治
(https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2024/240313.html 参照)
by asyagi-df-2014
| 2024-06-29 18:57
| 書くことから-憲法
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