「食料・農業・農村基本法改正案」を考える。(3)
2024年 03月 25日
農林水産省は2024年2月1日、食料・農業・農村基本法改正案を、開催中の通常国会に提出するとした。
また、政府は2024年2月27日、この改正案や関連法案を閣議決定した。
この閣議決定について、朝日新聞は2024年2月28日、「食料安保、輸出増で生産UP 危機に平時から備え、改正案閣議決定」(加藤裕則)、と次のように報じた。
1.政府は27日、食料・農業・農村基本法の改正案や関連法案を閣議決定した。基本法は、食料危機に平時から備えて緊急時にも対応する「食料安全保障」を柱とし、輸出を増やすことで国内の生産力を高めることを盛り込んだ。今国会での成立をめざす。
2.改正案では、食料安保を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義し、これの実現に取り組むことを目的に掲げた。気候変動やウクライナ侵攻、アジアの経済成長などの情勢の変化をふまえ、「これまでのように自由に買い付けができなくなってきた」(坂本哲志農水相)と改正に踏み切った。
3.具体策として輸出の強化を明記。輸出向けにコメや畜産物などの生産量を増やしておくことで、戦争や疫病などで輸入が途絶えたとしても、国内に十分な食料を供給できるようにする。
4.農業を続けられるよう、農産物について「合理的な価格形成」をめざすことも盛り込んだ。ただ、国が価格に関与することに対し、農水省の協議会では、卸売りや小売業者から「1円でも安く売りたい」「価格は需給で決まるものでコスト上昇の転嫁は困難」などと疑問の声が上がっている。
5.改正案には農業の担い手として「多様な農業者」とも記した。専業農家だけでなく、兼業農家やIT技術者などを含めて農地を維持していく考えを示したものだ。さらに農協などの団体については「重要な役割を果たす」と付け加え、再編を打ち出した現行法の方針から軌道修正した。
6.このほか、有事や異常気象などによる食料危機を想定した「食料供給困難事態対策法案」も閣議決定した。食料が不足する兆候を把握した時に政府が対策本部を設置。コメや小麦などの供給量を確保するための対策を農家や商社などに要請・指示する。(加藤裕則)
(農地の集約化、構造改革にブレーキの恐れ 奥原正明元農林水産省次官)
1.今回の見直しは、日本の経済力に陰りがみられる中で、将来にわたって食料の安定供給を確保できるのか、という問題意識から行われたものだと思う。しかし、改正案には、従来の予算で対応してきた施策を条文化したような規定が多く、食料の安定供給に資するものはあまり見当たらない。逆に、いくつか気になる条文がある。
2.現在の基本法は、戦後農政の反省を踏まえて、専業農家や法人のような「担い手」とされる農業者が農地の相当部分を利用する農業構造を確立することで、農業を競争力のある成長産業にすることをめざしている。競争力があれば、輸出を拡大し、生産を拡大していくことができ、食料の安定供給につながる。現行法の下で、すでに農地の6割が「担い手」に集積されるところまで来ている。
3.高齢化による兼業農家のリタイアは、担い手への集積を加速し、生産性を向上させるチャンスだ。ところが改正案は、農家の減少を理由に兼業農家を位置付けようとしており、農地の集約化など成長産業に向けた構造改革にブレーキがかかるおそれがある。
4.改正案に盛り込まれている輸出拡大や価格転嫁は重要であるが、国がやるのは環境整備までだ。農産物の共同販売を本業とする農協などが本気で取り組まなければ成果は出ない。この改正案で、本当に農業は発展し食料の安定供給は確保できるのか、国会で丁寧な議論が必要である。
(https://digital.asahi.com/articles/DA3S15873904.html?pn=2&unlock=1#continuehere 参照)
実は、日々老いを感じる中で中山間地に住む者にとって、地域の担い手をどのように確保していくのか、自分の農地をどうやって維持していくのか、ということを常に問われている。
この意味で、食料・農業・農村基本法改正案について考える。
では、この問題をどのように捉えるのか。
朝日新聞社は2024年3月5日、「農業の基本法 弱点直視し足腰強化を」、と社説で論評した。
この社説で、このことを考える。
朝日新聞は、最初に、「食料の安定供給のために、農業の基盤を整えるのは重要だ。だが、「安全保障」のかけ声のもとで過剰な保護に逆戻りすれば、かえって現場を混乱させ、国民負担を重くしかねない。生産性と持続性を高めるため、まず足元の課題と弱点を直視し、着実に手を打っていくべきだ。」、とこの問題を押さえる。
最近の「安全保障」に絡めた日本政府からのかけ声が、あまりに脅迫的になっている現状から、まずは足元を見つめるべき、との主張は、すこぶる正しい。
朝日新聞によるこの改正案についての把握。
1.政府が「食料・農業・農村基本法」改正案と、食料危機時の対応の枠組みを定める関連法案を国会に提出した。基本法は99年の制定以来、初の本格改正となる。基本理念の「食料の安定供給」を「食料安全保障」に改め、平時から備えを強めるのが柱だ。
2.今回の法整備は、国内外の情勢変化が理由という。確かにロシアのウクライナ侵略の影響で穀物の国際価格が一時高騰し、世界的に供給不安が高まった。不作を招く異常気象も頻発している。
この上で、朝日新聞は次のことを指摘する。
1.一方で日本の食料自給率や農産物産出額は00年代以降、低水準で横ばいが続く。担い手の高齢化と減少が進み、農地もピーク時の7割に縮小した。生活を支える食料供給に万全を期すには何が必要か、考えるべき時ではある。
2.問題は、具体的な手法だ。供給体制にどんなリスクがあり、平時にどこまで備えるべきか。「非常時」にどう対処するか。起きうる事態を想定し、地に足をつけて検討することが大切だ。対策にかかるコストや副作用も十分に考慮する必要がある。
2.国内生産、輸入、備蓄という三つの手段の中で生産拡大を引き続き基本に据えるが、海外産からの転換は多くの費用と時間を要する。すべて自給をめざすのは現実的ではなく、輸入先の多様化など、他にもやるべきことは多い。
3.改正案は基本施策に輸出促進も明記した。有事への備えとしても有用とされるが、コスト低減がカギを握る。
4.いずれにしても、平時から国内農業の効率性を高め、産業としての足腰を強めることが前提になる。そのためには従来の政策の徹底的な検証こそが肝要だ。
5.例えばコメ政策では、国内需要以上の供給力がある主食を減産し、価格を下支えしてきたが、どこまで妥当だったのか。農地集約や法人化なども含め、主要な施策の現状をつぶさに点検し、より効果的なやり方を探るべきだ。
朝日新聞は、最後に、「『食料安保』が前面に出るなかで、与野党問わず農家支援のてこ入れや予算拡充を求める声が強まっているが、問題の根本を見なければ解決にはつながらない。法案審議を、国民全体の視点に立ち、あるべき農政の姿を考える機会にしなければならない。」、と締める。
(https://www.asahi.com/articles/DA3S15878761.html?iref=pc_rensai_long_16_article 参照)
改正法の「安全保障」のかけ声のもとでの「食糧安保」という位置づけが、どうも上すべり感が否めない。
確かに言えることは、今こそ、「国民全体の視点に立ち、あるべき農政の姿を考える機会にしなければならない。」(朝日新聞)、ということ。
by asyagi-df-2014
| 2024-03-25 19:12
| 持続可能な社会
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