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2021年1月8日、ソウル中央地裁での「慰安婦訴訟」の判決。(3)

 朝日新聞は2021年1月8日、「慰安婦訴訟、日本政府に賠償命令」、と「旧日本軍の慰安婦だった韓国人女性ら12人が日本政府に対し、1人当たり1億ウォン(約1千万円)の慰謝料を求めた訴訟の判決が8日、ソウル中央地裁で言い渡された。地裁は原告の訴え通り、日本政府に1人あたり1億ウォンの慰謝料を支払うよう命じた。地裁は判決で、『被告により計画的、組織的に行われた犯罪行為だと判断できる』とした。元慰安婦らが日本政府を相手取った損害賠償請求訴訟で、韓国の司法が判断を示すのは初めて。元徴用工への賠償を日本企業に命じた2018年の韓国大法院(最高裁)判決に続き、日本政府の賠償責任を認めた韓国の司法判断は、悪化している日韓関係の改善をさらに難しくすることになりそうだ。」、と報じた。

 では、日本の各新聞社の社説は、どのようにこの問題をを捉えたのか。
 ここでは、朝日新聞の社説を取りあげる。
朝日新聞は2021年1月9日、「慰安婦判決 合意を礎に解決模索を」、と社説で論評した。
 「日本と韓国の関係に、また大きな試練となる判決が出た。」、と始められる朝日新聞(以下、「朝日」)の指摘は、次のもの。

(1)ソウルの地方裁判所が昨日、元慰安婦らによる訴えに対し、日本政府に賠償を命じた。日本政府は、この訴訟そのものに応じてこなかった。国家には他国の裁判権がおよばない、とする国際法上の「主権免除」の原則があるからだ。だが、判決は慰安婦問題を「計画的、組織的に行われた犯罪行為」と認定し、主権免除は適用されないと判断した。
(2)日本側が上訴せず、一審判決が確定すれば、政府資産の差し押さえの応酬に発展する恐れもある。極めて危うい事態だ。
(3)韓国ではこの数年、植民地支配時代にさかのぼる慰安婦や徴用工などの問題で、司法が踏み込んだ判断をするケースが相次いでいる。いずれも従来の韓国の対外政策の流れを必ずしも反映していない部分があり、日韓の対立要因として積み重なってきた。

 どうやら、「朝日」の主張の核心は、次のことにある。
(1)確かに歴史問題は解決が難しい。一般的には第三国の仲裁や国際的な司法判断にゆだねる選択肢はあるが、できる限り、当事国間の外交で問題をときほぐすのが望ましい。その意味で日韓両政府が省みるべきは、2015年の「慰安婦合意」とその後の対応だ。
(2)粘り強い交渉の末、双方が互いに重視する点を織り込みあって結実させた合意だった。だが残念にも今は、たなざらしになっている。
(3)前政権が結んだ合意を文在寅(ムンジェイン)政権が評価せず、骨抜きにしてしまったことが最大の原因だ。元慰安婦の傷を癒やすために日本政府が出した資金で設けた財団も解散させた。
(4)歴史の加害側である日本でも、当時の安倍首相が謙虚な態度を見せないことなどが韓国側を硬化させる一因となった。
(5)今回の訴訟は合意の翌年に起こされた。合意の意義を原告らに丁寧に説明していれば訴訟が避けられたかもしれない。

 最後に、「朝日」は、次のようにまとめる。
(1)徴用工問題をめぐる18年の判決と、それに続く日本の事実上の報復措置により、互いの隣国感情は悪化している。今回の判決はさらに加速させる恐れがあり、憂慮にたえない。
(2)最悪の事態を避けるためにも韓国政府はまず、慰安婦合意を冷静に評価し直し、今回の訴訟の原告でもある元慰安婦らとの対話を進めるべきだ。日本側も韓国側を無用に刺激しない配慮をする必要がある。
(3)それでも接点が見つからねば国際司法裁判所への提訴も視野に入れざるをえないが、現状は日韓が和解のための最大の努力を尽くしたとは言いがたい。
(4)日韓両政府の外交力が問われている。

 つまり、「朝日」の結論は、慰安婦問題は「2015年の『慰安婦合意』」で決着がついており、日韓両政府の外交力で解決するものである、ということ。それも、韓国政府に責任があるとする。
 どうやら、「確かに歴史問題は解決が難しいが、一般的には第三国の仲裁や国際的な司法判断にゆだねる選択肢ではなく、2015年の『慰安婦合意』を立脚点にする」ことが大事だと説くのである。

 つまり、「朝日」の結論は、慰安婦問題は「2015年の『慰安婦合意』」で決着がついており、日韓両政府の外交力で解決するものである、ということ。
 どうやら、「確かに歴史問題は解決が難しいが、一般的には第三国の仲裁や国際的な司法判断にゆだねる選択肢ではなく、2015年の『慰安婦合意』を立脚点にする」ことが大事だと説くのである。

 では、「朝日」の説く、①「2015年の『慰安婦合意』」、②「主権免除」、とは何だったのか。
前回取りあげた、「『日本への攻撃ではない』『ICJは恐れない』…慰安婦訴訟の代表弁護士が語る”日本政府賠償判決”の全て-徐台教 ソウル在住ジャーナリスト。「ニュースタンス」編集長-(2021年1月14日)」(以下、「ニュース」)は、この判決が出された背景について、次のように説明している。
(1)2015年12月の「日韓慰安婦合意」のためだ。当時、日韓政府は慰安婦問題は妥結したと発表した。これにより韓国政府が外交的にこの問題を解決するという期待が全く無くなった状況だった。’慰安婦’被害者が直接行動を起こす他になかった。
(2)2015年の日韓合意は、国会での批准を経た条約ではなく、政治的な合意に過ぎないというのが韓国の憲法裁判所の解釈だ。裁判請求権という国民の基本権を含めるものと見られないというものだ。また当時、韓国政府は大きな失敗を犯した。’慰安婦‘被害者たちに会って「とりあえずお金を受け取って、謝罪は別に受け取ってください」と述べていた。この事実を知って、日本の市民社会も失望した。
 「2015年の『慰安婦合意』」に関して、こうした立脚点に立つと、違う視点で捉えられなけねばならないということになる。

 また、「ニュース」は判決内容について、「『慰安婦訴訟』の意味は、日本で受け止められる『国際法を無視した韓国司法の暴走』とは全くかけ離れたものだった。そこには『人権』と『未来に向けた教訓』という、日韓そして人類に共通するテーマが横たわっていた。」、と意味づけるとともに、②「主権免除」に関して、次のように説明する
(1)裁判の焦点は、「国家免除(主権免除とも。以下、日本での通用度を考え主権免除とする)」、すなわち韓国の裁判所が日本政府を裁けるのか、韓国の裁判所に裁判権があるのかという部分にあった。「主権免除」とは、「全ての主権国家は平等で独立している」という原則に基づき、「ある国の裁判所が別のある国を対象とする訴訟の裁判権を持たない」という国際慣習法を指す。
・日本の立場としては(ア)被告が国家(日本政府)であるため、韓国の裁判所では裁けない、(イ)裁判をできるとしても、これらは日本で計画し、主導したものなので日本の裁判所で行うべき、と主張できるということだ。
(2)判決文では、(ア)について「主権免除」の範囲を定めた国内法を持たない韓国が、国際的な事例を根拠に「日本政府(日本帝国)による反人道的犯罪行為は『強行規範』を違反したものであり、国家の主権といえども主権免除を適用できない」としたのだった。さらに(イ)の裁判管轄権については、「国際裁判管轄権が存在する」と見なした。
(3)特に今回は、「国家免除(主権免除)」というとてつもない「壁」をどう乗り越えるか、とても苦労した。このために、日本の弁護士や国際法学者とセミナーも持ったし、2004年にイタリアであったフェリーニ事件(Luigi Ferrini v. Germany 2004、※)に関し、2012年のICJ(国際司法裁判所)でたたかったイタリアの弁護士とも会議を重ねた。また、他にも英国の著名な国際法学者などにアドバイスも受けている。「主権免除」の問題は、ここまでやってこそ乗り越えられる問題だ。
(4)「強行規範」とは人類が共同体を維持するために、必ず守られるべき法律のことだ。民法、刑法、商法など韓国の国内法でも定められている。奴隷禁止、人身売買禁止などを犯す場合には、主権という理由で国家を保護してはいけないということ。国家も共同社会の一員であるため、共同体が維持できる範囲の中で保護されると考えればよい。
(5)加害国で救済を受けられない人権侵害の被害者が、自国で加害国を訴えた時に「主権免除」の原則と被害者の人権が衝突することになる。各国は平等なので法廷で罪を問えないという「主権免除」の考えが従来あったが、それが第二次大戦を経て、被害者の人権を重視する方向に一定のコンセンサス(合意)がある状態だ。国連では「主権免除」に関する協約を作り(04年、国家及び国家財産の裁判権免除に関する条約。署名国が20に満たないため未発効)、EUも協約を作り発効されている。カナダや日本でも国内法を作り死亡や傷害事件での主権免除を認めていない(※)。そこで国際慣習法としての「主権免除」をどう捉えるのかという話になる。イタリアが揺るがした「主権免除」の原則に、今回の韓国の判決が決定的なダメ押しを加えることになる。つまり、重大な人権侵害についてはどんな国家にも免罪符を与えることができないという、国際法の原理が形成されることになる。この点で重要だった。
(6)今回の裁判の焦点は「裁判請求権を保障せよ」というものだった。いくら身体の自由があり選挙権やプライバシー権があるとしても、これらが実際に侵害された際に国家が保護してくれなかったら、人権がないのと同じだ。
(7)もう一つは「強制徴用裁判決のトラウマ」克服という負担だ。18年10月当時、最も残念だったのが、判決が持つ人権的な意味と被害者の声がかき消され、ただ日韓関係についての話しか出てこなかったことだ。特にベテラン外交官や学者が主張した「日韓関係の破綻を司法部が引き起こした」という批判から自由な判事はいないだろう。
(8)・この場合の「国際法」とは1965年の請求権協定を指すものだが、日本政府はこれまで、被害者たちの賠償請求権が消滅したとは一度も言っていない。
(9)‘慰安婦’被害者の問題は、公権力による重大な人権侵害が起きた時、加害国家がどうすべきなのかという側面から眺めてみると分かりやすい。
(10)2005年に国連総会でこれに関するガイドラインが作られたが、▲事実を認定し、▲公式に謝罪し、▲賠償し、▲教育し、▲追慕することが必要というものだった。これらが分離してはならないという点も強調された。つまり、事実を認定しない賠償も、賠償のない謝罪も、謝罪のない事実の認定も、事実を認定しない謝罪もあり得ないということだ。同時にすべきというものだ。これを65年に当てはめる場合、加害国として日本は責任を果たしただろうか。少なくとも事実を認め、真実を究明し、賠償も金銭だけでなくトラウマの治療やリハビリなどの過程への支援も含め、さらに日本社会への教育や追慕も行う必要がある。
(11)これを「主権免除」を克服する国際人権的な側面から見る場合、先に述べたような加害国が取るべき一連の手続きを採ればよいだけで、65年の協定に敢えて触れる必要はなくなる。対話をすべき議題が出てきたと日本社会が受けて止めて欲しい。

 特に、ここで押さえなくてはならないのは、次のことである。
(1)‘慰安婦’被害者の問題は、公権力による重大な人権侵害が起きた時、加害国家がどうすべきなのかという側面から眺めてみると分かりやすい。)2005年に国連総会でこれに関するガイドラインが作られたが、①事実を認定し、②公式に謝罪し、③賠償し、④教育し、⑤追慕する、ことが必要というものだった。これらが分離してはならないという点も強調された。
(2)65年に当てはめる場合、加害国として日本は責任を果たしただろうか。少なくとも事実を認め、真実を究明し、賠償も金銭だけでなくトラウマの治療やリハビリなどの過程への支援も含め、さらに日本社会への教育や追慕も行う必要がある。

 どうだろうか、こうしてみてみると、「朝日」の主張がいかに間違っているかが明確になるではないか。


by asyagi-df-2014 | 2021-01-27 22:21 | 侵略戦争・戦後処理 | Comments(0)

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