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安倍晋三政権は、憲法9条の形骸化に、また一歩踏み出した。(2)

 朝日新聞は2019年12月27日、「政府は27日、中東海域で航行する日本関係船舶の安全確保のための情報収集を目的として、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機を派遣することを閣議決定した。根拠法は防衛省設置法に定められた『調査・研究』で、不測の事態になれば自衛隊法に基づいて『海上警備行動』を発令する。活動期間は1年間とし、延長する場合は再度、閣議決定する。」、と報じた。


このことに関して、読売新聞(以下、「読売」)-「海自の中東派遣 緻密な計画で万全の運用を」、朝日新聞(以下、「朝日」)-「中東海域へ自衛隊 海外派遣、なし崩しの危うさ」、東京新聞(以下、「東京」)-「自衛隊の中東派遣 国会の統制欠く危うさ」、毎日新聞(以下、「毎日」)-「自衛隊の中東派遣決定 結論ありきに疑問が残る」の四紙の社説で考える。
 結果的に、「読売」と「読売」への反論の三紙という形になる。


 まず第一に、読売の主張についてである。
「読売」の主張は、次のものである。
(1)中東の海上交通路の安全確保に自衛隊が貢献する意義は大きい。緻密ちみつな計画を立て、万全の態勢で臨まねばならない。
(2)中東は、米国やサウジアラビアがイランと対立し、緊張した状況が続く。年間数千隻の日本関連の船舶が周辺海域を通航している。日本が地域の安定に主体的にかかわるのは当然である。
 なお、「読売」の問題点の把握と閣議決定によって行われることの把握は、次のもの。
1.問題点の把握
(1)問題は、日本のタンカーなどが攻撃される事態だろう。政府は派遣計画に、現地で不測の事態が発生した場合、自衛隊に海上警備行動を発令する、と明記した。情報収集に特化した「調査・研究」では、海自は日本の船舶を護衛できず、仮に攻撃されても、武器を使って守ることができない。自衛隊員の負担は大きい。
(2)海上警備行動では、武器使用が認められる。政府は発令基準を事前に決めておくべきだ。民間船からの救難要請が想定されよう。
(3)哨戒機は1月下旬、海自艦は2月中に活動を開始する。自衛隊は、具体的な活動内容や、武器使用の範囲を定めた部隊行動基準をつくり、適切に任務を遂行することが求められる。自衛隊が襲撃された場合、装備を守る自衛隊法の武器等防護の規定に基づき、応戦することになろう。様々な状況を想定し、訓練を重ねることが大切だ。
(4)現地での円滑な活動のためには、護衛艦と哨戒機の補給・整備地の選定も進める必要がある。
(5)派遣計画には、更なる外交努力の重要性も盛り込んだ。日本は、長年友好関係にあるイランと、米国の橋渡し役を引き続き果たすべきである。来月には、安倍首相がサウジアラビアなどを訪問する予定だ。中東全域の緊張緩和に寄与したい。
2.閣議決定によって行われること
(1)政府は閣議で、防衛省設置法の「調査・研究」の規定に基づき、海上自衛隊の部隊の中東への派遣を決めた。情報収集活動を強化する。
(2)護衛艦1隻を派遣するほか、ソマリア沖で海賊対処にあたる哨戒機2機を活用する。部隊は260人規模で、期間は1年間だ。
(3)派遣部隊は、オマーン湾やアラビア海北部などの公海で、日本の船舶の航行状況を確認するほか、不審な船の情報収集にあたる。既に米国や英国、豪州などは、米主導の枠組みで艦艇などを派遣している。フランスなど欧州各国も独自の取り組みを検討中だ。
(4)防衛省は、情報交換のための連絡員を米軍に派遣する。関係国と緊密に連携し、危険な兆候の把握に努めなければならない。


 さて、これ以下は、「読売」の上記下線の主張が果たして正当性を持つかということに対しての3社の主張である。


1.朝日新聞
「朝日」は、①「対米配慮を優先した結論ありきの検討」、②「明らかな拡大解釈」、③「いったん派遣されれば、なし崩しに活動が広がる懸念」、と安倍晋三政権に対して、次のように批判する。
(1)派遣の必要性にも、法的根拠にも疑義がある。何より国会でまともに議論されていない。自衛隊の海外活動の歴史の中で、かくも軽々しい判断は、かつてなかったことだ。
(2)イランとの友好関係を損なわないよう、米主導の「有志連合」には加わらず、独自派遣の体裁こそとったが、対米配慮を優先した結論ありきの検討だったことは間違いない。
(3)派遣の根拠は、防衛省設置法4条にある「調査・研究」だ。日本関係船舶の護衛をするわけではなく、目的はあくまでも安全確保に必要な情報収集態勢の強化だという。これなら防衛相だけの判断で実施でき、国会の承認は必要ない。しかし、4条は防衛省の所掌事務を列挙した規定に過ぎない。「調査・研究」は主に、平時における日本周辺での警戒監視に適用されている。日本をはるか離れ、しかも緊張下にある中東への、長期的な部隊派遣の根拠とするのは、明らかな拡大解釈だ。
(4)一方、現地で日本関係船舶を守る必要が生じた場合は、自衛隊法に基づく海上警備行動を発令して対処する方針も決められた。限定的とはいえ、武器の使用も許される。政府は今のところ、防護が必要な状況にはないというが、いったん派遣されれば、なし崩しに活動が広がる懸念が拭えない。
(5)連立与党の公明党は当初、「調査・研究」名目に難色を示したが、閣議決定という手続きを踏むことや、派遣期間を1年と区切り、延長の際は再度閣議決定して国会に報告することなどが盛り込まれると、あっさり追認した。しかし、これらが活動の歯止めとして有効に機能するとはとても思えない。
また、「読売」は閣議決定という手法をそのまま是認するが、「朝日」は「国会論議を素通りし、既存の法律を無理やり当てはめた安倍政権の今回の手法は、乱暴と言わざるをえない。」、と次のように批判する。
(1)憲法9条の下、専守防衛を原則とする戦後日本にとって、自衛隊の海外派遣は常に重い政治テーマだった。「私は閣議決定にサインしない」。1987年、イラン・イラク戦争でペルシャ湾に敷設された機雷除去のため、海上自衛隊の掃海艇派遣をめざした中曽根康弘首相を、後藤田正晴官房長官はそう言って翻意させた。
(2)しかし、91年の湾岸戦争後のペルシャ湾への掃海艇派遣を転機に、自衛隊の海外での活動が繰り返されるように。そのつど9条との整合性が問われたが、時の政権は対米関係を優先し、自衛隊の活動領域をじわじわと拡大させてきた。
(3)米国が同時多発テロへの報復としてアフガニスタンを攻撃するとインド洋に海自を派遣し、米艦に給油した。イラク戦争の際は「非戦闘地域」と主張して復興支援活動を行った。ただ、これらは根拠となる特別措置法をつくっての対応であり、強引ではあったが、国会を舞台に国民の前で激しい議論を経ていた。既存の法律を無理やり当てはめた安倍政権の今回の手法は、それ以上に乱暴と言わざるをえない。
(4)政府は現地で米国と緊密に情報共有を進める方針で、この時期の派遣決定も、本格化する有志連合の活動と足並みをそろえる狙いがうかがえる。いくら、日本独自の取り組みであると強調しても、米国と一体の活動と受け止められる可能性は否定できない。
(5)安倍首相は先週、来日したイランのロハニ大統領に対し、自衛隊派遣の方針を直接説明し、「理解」を得たとされる。しかし、6月にホルムズ海峡近くで日本関係船舶など2隻が被害を受けた件も、いまだに誰が攻撃したのかはっきりしていない。軍事組織の派遣が現地の人々を刺激し、無用な敵を生み出す恐れもある。イラン国内にしても、革命防衛隊には強硬派もおり、一枚岩ではないと見られている。
 結局、「朝日」は、「外交努力の徹底を」-この問題に軍事的な解決はない。関係国とともに外交努力を徹底することこそ、日本が選ぶべき道である-と、次のように見解を示す。
(1)日本から遠く離れた中東海域には、国内の監視の目が届きにくいことも懸念材料だ。現地情勢の悪化を受け、陸上自衛隊の部隊を撤収させた南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の教訓を忘れてはいけない。派遣後に内戦状態に陥ったが、防衛省はその事実を認めようとせず、部隊の「日報」は隠蔽(いんぺい)された。これでは情勢の変化に対応できない。そもそも今回の緊張の発端は、トランプ米政権が昨年、イランの核開発を制限する多国間の合意から一方的に離脱したことにある。事態の打開には、米国側の歩み寄りが不可欠だ。
(2)日本は原油の大半を中東地域から輸入している。緊張緩和のため一定の役割を果たす必要はあるだろう。だが、それが自衛隊の派遣なのか。米国の同盟国であり、イランとも友好関係を保つ日本には、仲介者としてできることがあるはずだ。この問題に軍事的な解決はない。関係国とともに外交努力を徹底することこそ、日本が選ぶべき道である。」


2.東京新聞
 「東京」は、「政府が中東地域への自衛隊派遣を閣議決定した。調査・研究が名目だが、国会の議決を経ない運用は、文民統制の観点から危ういと言わざるを得ない。」、渡結論づける。また、「米国とイランのはざまでひねり出した苦肉の策ではあるが、トランプ米政権に追随し、派遣ありきの決定であることは否めない。」ことから、「イランと友好関係を築く日本にとって、米国主導の有志連合への参加は、イランとの関係を損ないかねない。」、と。
さらに、「そもそも、必要性や法的根拠が乏しい自衛隊の中東派遣である。」との視点から、次のように批判を加える。
(1)中東地域で緊張が高まっていることは事実だ。日本はこの地域に原油輸入量の九割近くを依存しており、船舶航行の安全確保が欠かせないことも理解する。とはいえ、日本関係船舶の防護が直ちに必要な切迫した状況でないことは政府自身も認めている。そうした中、たとえ情報収集目的だとしても、実力組織である自衛隊を海外に派遣する差し迫った必要性があるのだろうか。
(2)戦争や武力の行使はもちろん、武力による威嚇も認めていない憲法九条の下では、自衛隊の海外派遣には慎重の上にも慎重を期すべきではないのか。
(3)調査・研究に基づく派遣は拡大解釈できる危うさを秘める。米中枢同時テロが発生した二〇〇一年当時の小泉純一郎内閣は、法律に定めのない米空母の護衛を、この規定を根拠に行った。今回の中東派遣でも、現地の情勢変化に応じて活動が拡大することがないと断言できるのか。
(4)日本人の人命や財産に関わる関係船舶が攻撃されるなど不測の事態が発生し、自衛隊による措置が必要な場合には、海上警備行動を新たに発令して対応するという。この場合、自衛隊は武器を使用することができるが、本格的な戦闘状態に発展することが絶対にないと言い切れるのだろうか。
 この上で、「東京」は、「最大の問題は、国権の最高機関であり、国民の代表で構成される国会の審議を経ていないことだ。国会による文民統制(シビリアンコントロール)の欠如である。」、と今回の閣議決定の問題点を言い当てる。
 この批判根拠を次のように指摘する。
(1)自衛隊の海外派遣は国家として極めて重い決断であり、そのたびに国会で審議や議決を経てきた。国連平和維持活動(PKO)協力法や、インド洋で米軍などに給油活動するテロ対策特別措置法、イラクでの人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特措法、アデン湾で外国籍を含む船舶を警護する海賊対処法である。
(2)自衛隊の活動を国会による文民統制下に置くのは、軍部の独走を許し、泥沼の戦争に突入したかつての苦い経験に基づく。日本への武力攻撃に反撃する防衛出動も原則、事前の国会承認が必要だ。自衛隊を国会の統制下に置く意味はそれだけ重い。
(3)今回の中東派遣では、閣議決定時と活動の延長、終了時に国会に報告するとしているが、承認を必要としているわけではない。
 結局、「東京」は、「緊張緩和に外交資産を」と掲げ、「国会の関与を必要としない調査・研究での派遣には、国会での説明や審議、議決を避け、政府の判断だけで自衛隊を海外に派遣する狙いがあるのだろうが、国会で説明や審議を尽くした上で可否を判断すべきではなかったか。閣議決定にはさらなる外交努力を行うことも明記した。米イラン両国との良好な関係は日本の外交資産だ。軍事に頼ることなく緊張を緩和し、秩序が維持できる環境づくりにこそ、外交資産を投入すべきだ。それが平和国家、日本の果たすべき役割でもある。」、と見解を示す。


3.「毎日」
 「毎日」の主張は、次のものである。
(1)ホルムズ海峡付近で日本企業が運航するタンカーが攻撃されたのは6月だ。その後、情勢は落ち着いている。なぜ派遣が必要なのか。米国の顔を立てるため、結論ありきで検討が進んだ印象は拭えない。
(2)疑問が残るのは、防衛省設置法の「調査・研究」を派遣の根拠規定としたことだ。日本周辺の海域・空域で自衛隊が普段行う警戒監視活動などの根拠とされている。調査・研究名目の情報収集活動であれば、イランに軍事的圧力をかける意図はないと説明しやすい。だが、海外に軍事力を派遣する重い政治決断の法的な裏付けとしては軽すぎる。あまりにアンバランスだ。
(3)それでも広大な海域だ。日本関連の船舶が攻撃される事態になれば海上警備行動を発令するというが、護衛艦1隻では限度がある。
(4)護衛艦の到着は来年2月になる見通しだ。いくら中立の体裁をとっても、実態は米国の同盟国としての活動が中心になる。収集した情報は米海軍と共有し、事実上、有志連合と連携していくとみられる。アデン湾で海賊対処に当たってきたP3C哨戒機も新たな任務を兼ねる。安倍政権としては米国への「お付き合い」程度にとどめたつもりでも、敵対勢力からは「米軍と一体」とみなされ、日本が紛争当事者となりかねないリスクがある。 この上で、「毎日」は、「だからこそ、軍事力を動かすときには厳格な法治とシビリアンコントロール(文民統制)が求められる。国会でほとんど審議せずに閣議決定した政権の姿勢は問題だ。国会での継続的な検証を求めたい。そもそもホルムズ海峡の治安が悪化したのは、米国がイラン核合意から離脱したことに端を発している。緊張を緩和するための平和的な外交努力を継続すべきだ。」、と安倍晋三政権に向けて断じる。


 では、安倍晋三政権の海上自衛隊の護衛艦と哨戒機の派遣の閣議決定をどのように受け取るのか。
 やはり、「読売」の「日本が地域の安定に主体的にかかわるのは当然だから、中東の海上交通路の安全確保に自衛隊が貢献する意義は大きい」と把握するのではなく、やはり、①派遣の必要性に疑問があること、②法的根拠に疑義があること、③国会でまともに議論されていないこと、④対米配慮を優先した結論ありきの結論である、との問題点から日本のこれからを誤るものであると捉えなければならない。
 特に、「国権の最高機関であり、国民の代表で構成される国会の審議を経ていないことだ。国会による文民統制(シビリアンコントロール)の欠如である。」、との「東京」の指摘は重たい。いや、これは、むしろ、これまでの安倍晋三政権の誤った手法の結果でしかない。
私たちは、「朝日」の「この問題に軍事的な解決はない。関係国とともに外交努力を徹底することこそ、日本が選ぶべき道である。」及び「東京」の「軍事に頼ることなく緊張を緩和し、秩序が維持できる環境づくりにこそ、外交資産を投入すべきだ。それが平和国家、日本の果たすべき役割でもある。」、との見解こそがこれからの日本のあり方を示している、と受け止めなけねばならない。




by asyagi-df-2014 | 2020-01-05 11:22 | 米軍再編 | Comments(0)

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