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「揺さぶられっ子症候群」の虐待裁判で逆転無罪。

 三宅俊司さんのFBで、「揺さぶられっ子症候群」の虐待裁判についての記事を知りました。
MSNニュースは2019年11月10日、虐待裁判で逆転無罪、無実の祖母を犯人視した専門家」、との柳原 三佳・ノンフィクション作家の記事を掲載しました。
 どういう記事だったのか。
朝日新聞は2019年10月25日、「『孫揺さぶり死なせた』」祖母に逆転無罪判決 大阪高裁」、と次のように報じている。


(1)生後2カ月の孫を揺さぶって死なせたとして傷害致死罪に問われた女性被告(69)の控訴審判決が25日、大阪高裁であった。村山浩昭裁判長は、懲役5年6カ月(求刑懲役6年)とした裁判員裁判の一審・大阪地裁判決を破棄し、女性に無罪を言い渡した。
(2)女性の起訴内容は、2016年4月に大阪市東淀川区の娘宅で、孫の女児の頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行を加え、約3カ月後に死亡させたというもの。女性は一貫して起訴内容を否認していた。
(3)17年10月の一審判決は、女児の頭部に硬膜下血腫や網膜出血など、乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)を示す三つの兆候があるなどとした検察側証人の小児科医の説明などを根拠に、「女児は5センチの振り幅で1秒間に3往復揺さぶるといった強い衝撃を受けた」と認定。その上で、当時室内には女性と女児、女児の姉(当時2歳)の3人しかいなかったことから、女性が暴行を加えたと判断した。
(4)控訴審で弁護側は、小児脳神経外科医の鑑定結果などから「静脈洞血栓症」を発症してくも膜下出血などを起こしており、揺さぶりはなかったと主張。SBSに関する海外文献などを証拠提出し、「3兆候だけでは虐待と決めつけられない」と反論した。一方、検察側は「静脈洞血栓症は非常にまれな例で、女児の症状と整合しない」などとして控訴棄却を求めていた。(遠藤隆史)
(5)児童虐待事件は、目撃者のいない室内で起きることも多く、立証は難しい。日本では2000年代以降、被害者が乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)と診断されたことを立証の柱の一つとして、近親者らが逮捕・起訴されるケースが増えた。しかし、弁護士や医師らでつくる「SBS検証プロジェクト」(事務局・大阪市)の集計では、国内のSBSをめぐる刑事事件で17年秋以降に少なくとも3件(いずれも大阪地裁)の無罪判決があり、1件が確定しているという。
(6)同プロクジェクトは17年に設立され、SBS関連の裁判に携わる弁護士への支援や海外文献の翻訳を進める。共同代表を務める秋田真志弁護士は「海外文献は翻訳版が少なく、日本ではいまだに3兆候による判断がまかり通っている。虐待は許されないが、冤罪(えんざい)を生まないために国内の『定説』を疑うべきだ」と話す。
(7)一方、検察側は弁護側の「土俵」には乗らない構えのようだ。ある幹部は「現場の状況や親の供述、養育環境などを総合的に判断している。3兆候があっただけで無条件に立件することはない」と説明。「海外文献には国際的に批判されているものもある」とも語った。
(8)大阪市中央児童相談所で所長を務めた経験もあるNPO法人「児童虐待防止協会」(大阪市)の津崎哲郎理事長は「冤罪も、虐待が野放しになるのも許されない。医師や家庭訪問する保健師らが虐待がないかを注意深く観察し、情報共有することがさらに重要になる」と話す。(遠藤隆史、多鹿ちなみ)


 さて、MSNニュースは、次のように伝えました。


(1)「生後2カ月の孫を激しく揺さぶって死亡させた」として傷害致死罪に問われ、一審で懲役5年6カ月の実刑判決を受けた山内泰子さん(69)に、大阪高裁は10月25日、逆転無罪の判決を言い渡しました。そして、11月8日、大阪高検が上告を断念した旨を発表し、無罪が正式に確定しました。
(2)山内さんの弁護団の一人で「SBS検証プロジェクト」の共同代表である秋田真志弁護士は、逆転無罪判決が確定したことを受け、同プロジェクトのサイトに次のコメントを発表しています。「この3年間に、山内さんやそのご家族が味わった苦しみからすれば、決して手放しで喜べません。しかし、この判決が、SBS仮説の見直しにつながり、冤罪や誤った親子分離を生まないきっかけとなることを期待したいと思います」
(3)『虐待』の濡れ衣、もし着せられそうになったら(JBprss 2019.4.11)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56077のほか、『私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群』(柳原三佳著・講談社)でも詳しくレポートしていますが、今回の大阪高裁判決は、乳幼児の脳に<①急性硬膜下血腫 ②脳浮腫 ③眼底出血>という3兆候が見られれば、すぐさま「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)=虐待」を疑え、という理論の危うさにも踏み込んでおり、今、日本で進行している同様の事件の裁判に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
(4)では、なぜこの裁判で逆転無罪判決が下されたのでしょうか。法廷で目の当たりにした出来事をレポートしたいと思います。


 ということで。そのレポートです。


(1)「私は娘の自宅で少しの間留守番をし、孫はすやすやとお昼寝していただけです。今の私にとって、孫たちは生きがいです。どうして虐待などできるでしょうか・・・」。逮捕時から、山内さんは一貫してそう主張してきました。しかし、一審の大阪地裁(飯島健太郎裁判長)は、検察側証人である小児科・M医師の証言に基づき、「1秒間に3往復の大人が全力で揺さぶる程度の暴行があった」と、犯行の状況を具体的に認定。そのうえで、「それができたのは、赤ちゃんの容態が急変する直前に一緒にいた祖母だけ」であり、「偶発的・突発的に及んだ事案である」として、2017年10月、懲役5年6か月の実刑という厳しい判決を下しました。
(2)この判決に納得できなかった山内さんは即日控訴。二審から「SBS検証プロジェクト」の弁護団に刑事弁護を依頼し、新たに複数の脳神経外科医に協力を求めたのです。
(3)高裁では、複数の医師に対する証人尋問が行われました。そして、この段階にきてこの事件の大前提を揺るがす、重大な事実が浮上します。CTの画像を見る限り、赤ちゃんの脳には急性硬膜下血腫は見られない」、という意見を述べたのです。そのうえで、「脳の中で起こった出血は、揺さぶりのような外力によるものではなく、内因性のもの。脳静脈洞血栓症という脳の病気だった可能性が高い」、という見解が示されました。つまり、一審で有罪の根拠となった「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)の3兆候」のうちのひとつである「急性硬膜下血腫」が、そもそも存在しなかった、ということになるのです。
(4)日ごろから脳の手術を行い、多くの脳外傷の症例を見ている脳神経外科医の証言は傍聴席で聞いていても具体的で、経験に裏打ちされたものでした。ところが、小児科のM医師は、こうした診断結果を突きつけられても、真摯に耳を傾け検討するどころか、こんな言葉を使って誹謗してきました。「荒唐無稽を通り越してファンタジーである」。なぜ脳神経外科医の意見が“ファンタジー”なのか? その医学的なデータは、結局、示されることはありませんでした。またM医師は、自身が裁判所に証拠として提出していた資料の誤りを反対尋問で指摘されると、弁護人の問いをたびたび遮り、質問の途中であるにもかかわらず、「いいですよ。じゃ、このスライドを撤回しても」「このスライドは排除していただいても全然かまわないですけど」と連発。開き直るような態度を見せていました。
(5)山内さんは「専門家」であるM医師の意見に基づき、「揺さぶり虐待をした」と判断され、一審で有罪になっているのです。証言台での無責任な答弁に、傍聴席からはため息が漏れていました。それだけではありません、M医師はほかにも、眼科に関する専門用語を「揺さぶられ症候群」の項目にある傷病名に置き換えたり、原典と異なって監訳された医学文献を恣意的に引用するなど、裁判所の事実認定を誤らせかねない不合理な断定をしていたことが分かっています。
(6)CT画像の読影の誤りを指摘されたときには、こんな一幕もありました。弁護人がM医師に、『今さら聞けない画像診断のキホン』という本の記載を指し示し、「それでも脳神経外科医の証言を否定するのですか?」と追及すると、M医師はこう答えたのです。「それは、僕は経験がないですし、そこは判断できません」。
(7)警察や検察は、なぜ、脳に関する事案の判断を小児科のM医師に任せたのか。本来なら起訴する前の段階で脳神経外科医や放射線専門医の意見を仰ぐべきではなかったのか・・・。高裁の証言台に立った脳神経外科医が、怒りを込めた口調で発したこの言葉が印象的でした。「我々脳神経外科専門医は、あのCT写真の水平断を見ただけで、これは本当に激しい揺さぶりによって生じた頭蓋内出血、硬膜下血腫なのかな、という強い疑念がございます。それはたくさんの症例を見てきた専門家としての知識と経験でそのように申し上げるのです。決して教科書や論文だけで取ってきた知識ではございません」。
(8)山内さんと家族のこれからの人生を大きく左右する、極めて重大、かつ基本的な事実認定についてのこうしたやり取りを傍聴しながら、私はとてつもない恐ろしさを感じました。
(9)2019年10月25日、大阪高裁(村山浩昭裁判長)は、弁護側に立った脳神経外科医らの「外力によるものではなく内因性の出血の可能性が高い」という内容の証言を全面的に採用し、「被害児の症状が外力によるものとすることもできないし、被告人と被害児の関係、経緯、体力等といった事情から、被告人が被害児に暴行を加えると推認できるような事情もない」として、一審判決を破棄。実刑判決から一転、逆転無罪の判決を言い渡しました。そして「SBSの3兆候」のひとつである急性硬膜下血腫の存在は確定できないとしたうえで、SBS理論そのものについても次のように警鐘を鳴らしました。「SBS理論を単純に適用すると、機械的、画一的な事実認定を招き、結論として事実を誤認するおそれを生じさせかねない」。極めて異例の言及だといえるでしょう。
(10)目に入れても痛くない可愛い孫やわが子が、突然の病気で亡くなってしまう。その悲しみの中、もし、自分や家族が「虐待をした犯人」と疑われ、逮捕、起訴され、有罪になったら・・・。想像するのも辛いことですが、「虐待許すまじ」の風潮が強い今の日本では、証拠がなくても、「SBS理論」を根拠にした医師の鑑定によって「乳幼児揺さぶられ症候群」と診断され、一緒にいた保護者が無実の罪に問われる可能性があります。
(11)私のもとには、「つかまり立ちから倒れて脳出血が起こってしまったが、虐待を疑われている」「お昼寝中に突然具合が悪くなり脳出血が見つかったのだが、揺さぶっただろうと言われた」といった保護者たちから切実なメールが届いています。そして、今も複数のSBS裁判が進行しており、長期間にわたって児童相談所にお子さんを保護されているという家族も多数おられます。
(12)来年2月6日、大阪高裁で判決予定のSBS事件も、山内事件と同じく検察側証人はM医師です。虐待が絶対に許されないのは当然のことです。しかし、冤罪も生んではなりません。理論や文献だけをベースに、机上で事実認定を行うことは危険だといえるでしょう。
(13)無罪を勝ち取ったとはいえ、逮捕時に実名で大々的に報じられ、1年3カ月にも及ぶ拘置所生活を強いられた山内さんの名誉と家族との時間を完全に回復することはできないのです。


 信じ込んできた、信じ込まされてきた事実に、流されるマスコミ報道に頷いてきた事実に、自戒を込めてこの記事を読みました。



by asyagi-df-2014 | 2019-11-16 08:00 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

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