「裁判記録に刻まれた人々の声が闇に葬られることがあってはならない。」

 どういうことが起きているのか。
東京新聞が2019年8月5日、「憲法裁判記録 8割超を廃棄 自衛隊・長沼ナイキ、『宴のあと』訴訟 検証不能に」、と次のように報じている。

(1)自衛隊に一審札幌地裁で違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟や、沖縄の米軍用地の強制使用を巡る代理署名訴訟をはじめ、合憲違憲などが争われた戦後の重要な民事裁判の記録多数を、全国の裁判所が既に廃棄処分していたことが分かった。代表的な憲法判例集に掲載された百三十七件について共同通信が調査した結果、廃棄は百十八件(86%)、保存は十八件(13%)、不明一件だった。判決文など結論文書はおおむね残されていたが、審理過程の文書が失われ、歴史的な憲法裁判の検証が不可能になった。」 
(2)裁判所の規定は重要裁判記録の保存を義務づけ、専門家は違反の疑いを指摘する。著名裁判記録の廃棄は東京地裁で一部判明していたが、全国規模で捨てられていたことが分かったのは初めて。米国などでは重要裁判記録は原則永年保存され閲覧できる。
(3)元原告ら当事者から「重要な記録で残すべきだった。残念だ」などの声が上がっている。
(4)裁判所の規定は「史料または参考資料となるべき」裁判記録を事実上永久保存の「特別保存」とするよう義務づけるが、特別保存は今回調査した中では六件のみ。他に一件が国立公文書館に移送、それ以外の経緯で十一件が現存し、計十八件が保存されていた。判明した多数の廃棄が適切か否かについて最高裁は「(廃棄は)各裁判所の個別の判断」とし回答を避けた。
(5)裁判記録は訴状をはじめ原告や被告が出した書類、法廷やりとりの記録など全てをとじた文書で、裁判所の規定では通常の民事裁判の場合、確定や和解後に一審の裁判所が五年間保存し廃棄する。重要裁判にもそのまま適用し特別保存を判断してこなかった形。判決文は別扱いの五十年保存。
(6)調査した百三十七件は「憲法判例百選第六版I・II」(有斐閣)掲載の判決から、検察庁が保管する刑事事件を除いた。廃棄が分かった中には長沼ナイキや沖縄代理署名のほか、有田八郎元外相が三島由紀夫の小説「宴のあと」でプライバシーを侵害されたと訴えた訴訟、米国人弁護士が提訴し裁判の一般傍聴者のメモ解禁につながった法廷メモ訴訟、法律を違憲とした広島薬局距離制限訴訟や国籍法違憲訴訟、公立中での生徒の思想信条の自由が論じられた麹町中内申書訴訟などがある。
(7)政教分離が問われた津地鎮祭訴訟や、空港周辺住民が夜間飛行差し止めなどを求めた大阪空港訴訟の記録は特別保存されていた。

 この「歴史的な憲法裁判の検証が不可能になった。」ことについて、沖縄タイムス(以下、「タイムス」)は2019年8月7日、「[憲法裁判記録] 国民の共有財産 葬るな」、と社説で論評した。
「タイムス」は、次のように指摘する。


(1)裁判の記録が廃棄されていたことに、驚いた人は多かったのではないか。憲法に関わる戦後の重要な裁判記録の8割超が廃棄されていたことが、共同通信の取材で明らかになった。
(2)廃棄された中には、大田昌秀元県知事が在沖米軍基地強制使用に関する代行手続きを拒否した「代理署名訴訟」も含まれていた。公権力の不当な行使に沖縄県民が異議を申し立てた裁判。沖縄のみならず、日本の裁判史の中でも極めて重要な訴訟だ。公正に裁判が行われたか、検証する手がかりが失われたことになる。
(3)廃棄が分かったのは、代表的な憲法判例集に掲載された「裁判記録」137件のうちの118件(86%)。裁判記録とは、原告や被告が裁判所に提出した書類や法廷でのやりとりなど。判決文はおおむね残されていたが、審理過程を示すそれらの文書は廃棄されていた。
(4)憲法判断が示されたり、社会の耳目を集めるなど、後の史料や参考資料となる重要な裁判は特別保存として、原則永久保存することが裁判所の規定で義務付けられている。通常の民事裁判は5年保存し廃棄される。重要裁判にもそれをそのまま適用し、特別保存しなかった形だ。廃棄は規定違反の疑いがある。


 また、「タイムス」は、こうした裁判所による廃棄を痛烈に批判し、新たな仕組み作りを指摘する。


(1)判例の一つ一つが社会を変え、歴史をつくってきた。そのすべての記録は国民の共有財産である。その意識の薄さが、ずさんな管理を招いたのではないか。国民の「知る権利」をないがしろにするものだ。
(2)重要な記録をあえて「捨てる」という行為は、歴史の審判を回避するものではないかと勘繰りたくなるほどだ。
(3)重要裁判の記録保存は裁判所の内部規定で定められているだけだ。最高裁は「(廃棄は)各裁判所の個別の判断」としており、何を特別保存とするかも各裁判所任せだという。
(4)裁判記録を巡る基準は曖昧模糊(もこ)としており、今回の報道をきっかけに、最高裁は第三者委員会をつくり、保存の在り方について、厳格な制度づくりを進めるべきだ。
(5)米国では重要裁判記録は原則、永年保存される。多くの裁判所が記録をデータベース化し、登録すればインターネットで検索や閲覧、ダウンロードできるところもあり、利便性が高い。
(6)日本でも、裁判記録が効率的、適正に利用できる仕組みづくりが必要だ。


 「タイムス」は、最後にこう結ぶ。


「『(外国系の)子どもたちの人生を変えたと思った。あの裁判、ちっぽけなことだったのか』。フィリピン人の母を持つ三好真美さん(21)は日本国籍を求め、小学生のとき、国籍法違憲訴訟の原告として法廷に立った。国籍法改正につながった裁判記録が破棄されたことに戸惑いを隠さない。裁判記録は、原告の勇気ある訴えの軌跡だ。特に憲法裁判は基本的人権に関わることが多い。裁判記録に刻まれた人々の声が闇に葬られることがあってはならない。」


 この記事を目にした時、この国の「悪意」を想った。
どこかで、例えば、米国で真実が新たに明らかになるとわかったから、廃棄をしたのではないかと。
「タイムス」は、「裁判記録に刻まれた人々の声が闇に葬られることがあってはならない。」、と指摘するが、もう一つは、この国の「闇」が隠されたのではないかと。



by asyagi-df-2014 | 2019-08-12 09:36 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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