内閣総理大臣談話と政府声明を受けての声明。

2019年7月12日、安倍晋三政権は、「ハンセン病家族国家賠償請求訴訟の判決受入れに当たっての内閣総理大臣談話」(以下、「談話」)と「政府声明」(以下、「声明」)を公表した。
ハンセン病家族訴訟原告団とハンセン病家族訴訟弁護団(以下、「原告団弁護団)は同日、「談話」及び「声明」に対して、「原告団弁護団」としてそれぞれ声明を明らかにした。
安倍晋三政権からの「談話」と「声明」を通して、まず最初に感じさせられるのは、「何とまあ、この国の権力者達の姑息さはどうにかならないのか。」、ということである。
 何が姑息なのか。
原因は、「談話」で止めておけばいいものを、「声明」で「国家賠償法、民法の解釈の根幹に関わる法律上の問題点があることを当事者である政府の立場として明らかにする」、と言わないではおれない思想の貧しさにある。
「談話」及び「声明」と、そのことに対しての「原告団弁護団」の声明で、このことを整理する。


1.「談話」と声明


 内閣総理大臣談話を要約すると次のようになる。


(1)今回の判決では、いくつかの重大な法律上の問題点がありますが、極めて異例の判断で、敢えて控訴を行わない旨の決定、政府としては、本判決の法律上の問題点について政府の立場を明らかにする政府声明を発表し、本判決についての控訴は行わない。
(2)どのように責任を果たしていくべきか、どのような対応をとっていくべきか、真剣に検討を進めてきた。                              (3)ハンセン病対策については、かつて採られた施設入所政策の下で、患者・元患者の皆様のみならず、家族の方々に対しても、社会において極めて厳しい偏見、差別が存在したことは厳然たる事実であり、この事実を深刻に受け止める。
(4)患者・元患者とその家族の方々が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として改めて深く反省し、心からお詫びする。
(5)確定判決に基づく賠償を速やかに履行するとともに、訴訟への参加・不参加を問わず、家族を対象とした新たな補償の措置を講ずることとし、このための検討を早急に開始する。
(6)関係省庁が連携・協力し、患者・元患者やその家族がおかれていた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組む。
(7)家族の方々が地域で安心して暮らすことができる社会を実現していく。


 これを受けて、声明は、次のように評価している。



本日,内閣総理大臣は,ハンセン病問題について早期かつ全面的な解決を図 るべく,去る
(1)6月28日言い渡された熊本地方裁判所のハンセン病歴者の家族 に対する国の責任を認める判決に対し控訴せず、訴訟への参加不参加を問わず、ハンセン病患者家族を対象とする新たな補償措置を講じることとしている。
(2)このための検討を早急に開始するとの談話を公表した。            (3)この談話によって、内閣総理大臣による心から のお詫びのもと、国がハンセン病患者家族について全員一律救済を目指すこと が明らかにされ、ハンセン病患者家族が受けた被害を償うに足りる賠償が行な われるための道筋が示されたものとして高く評価する。
(4)今後は、謝罪広告等による名誉回復措置とハンセン病患者家族全員を対象とする立法措置等による全員一律救済の実現はもとより、国の責任を踏まえたハ ンセン病問題の全面解決を図るために、厚生労働省、法務省および文部科学省による横断的かつ重層的な差別・偏見解消に向けた施策の実施等が実現される必要がある。
(5)これらの施策ないし措置は、ハンセン病患者家族の「人生被害」を回復することを目的とするものでなければならないし、何より原告団・弁護団との協議に基づき、その意向を十分に踏まえたものでなければならない。そのために、内閣総理大臣による原告団との面会を速やかに実現するとともに、原告団・弁護団との継続的な協議の場を早急に設定すべきである。
(6)政府は、本判決の法律上の問題点として、消滅時効の起算点の認定が判例違反であるなどとする声明を公表しているが、こうした見解は、本判決の論旨を正しく理解しないものであり、本判決の法律的な判断は何ら揺らぐものではないし、本判決には政府の懸念するような国民の権利義務関係に影響を及ぼす内容は含まれていないものと考える。


2.「声明」と声明


 政府は、あえて、「本判決には、次のような国家賠償法、民法の解釈の根幹に関わる法律上の問題点があることを当事者である政府の立場として明らかにする」として、政府声明を公表した。
この「声明」の指摘は、次のものである。


1 厚生大臣(厚生労働大臣)、法務大臣及び文部大臣(文部科学大臣)の責任について(1) 熊本地方裁判所平成13年5月11日判決は、厚生大臣の偏見差別を除去する措置を講じる等の義務違反の違法は、平成8年のらい予防法廃止時をもって終了すると判示しており、本判決の各大臣に偏見差別を除去する措置を講じる義務があるとした時期は、これと齟齬しているため、受け入れることができません。
(2) 偏見差別除去のためにいかなる方策を採るかについては、患者・元患者やその家族の実情に応じて柔軟に対応すべきものであることから、行政庁に政策的裁量が認められていますが、それを極端に狭く捉えており、適切な行政の執行に支障を来すことになります。また、人権啓発及び教育については、公益上の見地に立って行われるものであり、個々人との関係で国家賠償法の法的義務を負うものではありません。

2 国会議員の責任について
 国会議員の立法不作為が国家賠償法上違法となるのは、法律の規定又は立法不作為が、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制限するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などに限られます(最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決等)。本判決は、前記判例に該当するとまではいえないにもかかわらず、らい予防法の隔離規定を廃止しなかった国会議員の立法不作為を違法としております。このような判断は、前記判例に反し、司法が法令の違憲審査権を超えて国会議員の活動を過度に制約することとなり、国家賠償法の解釈として認めることができません。

3 消滅時効について
 民法第724条前段は、損害賠償請求権の消滅時効の起算点を、被害者が損害及び加害者を知った時としていますが、本判決では、特定の判決があった後に弁護士から指摘を受けて初めて、消滅時効の進行が開始するとしております。かかる解釈は、民法の消滅時効制度の趣旨及び判例(最高裁判所昭和57年10月15日第二小法廷判決等)に反するものであり、国民の権利・義務関係への影響が余りに大きく、法律論としてはこれをゆるがせにすることができません。


 この政府声明による指摘を受けて、「原告弁護団」は、①らい予防法廃止後の国の責任を認めたこと、②国会議員の立法不作為に関する最高裁判例に違反すること、③消滅時効に関する最高裁判例に違反することの三つについて、次のように反論した。


1.らい予防法廃止後の国の責任を認めたこと

「長きにわたって違憲の隔離政策を継続してきた国が、らい予防法廃止後も、ハンセン病患者家族を隔離政策の被害者として位置付けることなくその「人生被害」を放置してきたことは争いようのない事実であり、本判決がハンセン病に対する偏見差別を除去するためには国の総力をあげての取り組みが必要であることを明らかにしたものであるにも関わらず政府がこれを否定することは、偏見差別を除去するために啓発活動に取り組んできた国のこれまでの基本姿勢に反すると言わざるを得ない。そもそも、平成13年熊本地裁判決は、厚生大臣の偏見差別を除去する措置を講じる等の義務違反の違法が平成8年のらい予防法廃止時をもって終了するとは判示しておらず、本判決は平成13年熊本地裁判決と何ら齟齬するものではない。

2.国会議員の立法不作為に関する最高裁判例に違反すること            

「本判決は、国会議員の立法不作為に関する最高裁判例の判断枠組に従い、らい予防法の隔離規定を廃止しなかったことについて国会議員の不作為の国家賠償法上の違法性を認める結論を導いているものであり、何ら最高裁判例に違反する点のない正当な判断である。声明は、最高裁判例の判断枠組を十分に理解していないものというほかない。」

3.消滅時効に関する最高裁判例に違反すること

「本判決は、消滅時効の起算点に関する最高裁判例に従い、行政 機関の長や国会議員の不法行為について損害賠償請求を行なうという本件訴訟の特殊性を踏まえ、損害および加害行為を認識することが著しく困難であったと判断したうえで、原告らが訴訟を提起しうる状態になったのは平成27年9月9日の鳥取訴訟判決以降に弁護 士から指摘があった後であったと判断したものであり、最高裁判例に違反しない正当な判断である。政府声明は、本判決の論旨を曲解するものであると言わざるを得ない。そもそも、本判決の指摘するハンセン病患者家族が差別・偏見を受けるような一種の社会構造の存在を前提とすれば、いかなる理由によっても消滅時効は成立し得ないはずであって、本判決の消滅時効に関する判断はむしろ当然の帰結である。」


 声明は、最後に次のように断じている。


「政府声明は、最高裁判例や本判決の論旨を正しく理解しない不当なものであると言わざるを得ず、本判決の法律的な判断は何ら揺らぐものではないし、本判決には政府の懸念するような国民の権利義務関係に影響を及ぼす内容は含まれていないものと考える。」



by asyagi-df-2014 | 2019-07-20 06:42 | ハンセン病 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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