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米大統領の日米安保条約は『不公平な合意だ』発言を考える。

 朝日新聞は2019年6月29日、米国大統領トランプの会見の要旨(日米部分のみ)を次のように伝えた。


「(日米安全保障条約の破棄は)全く考えていない。不公平な条約だと言っているだけだ。私は彼(安倍晋三首相)にそれを、この6カ月間言ってきた。もし、日本が攻撃されたら、米国は全力で戦う。戦闘に入らざるを得ず、日本のために戦うことを約束している。もし、米国が攻撃されても、日本はそうする必要はない。それは不公平だ。それが、我々がやったディール(取引)の類いだ。すべての取引がそうだ。典型的だ。私は彼(安倍首相)に、我々は変える必要があると言った。誰も米国を攻撃しないだろうと、私は願っている。だが、万が一、それが起きた場合、米国が日本を助けるなら、日本も米国を助けなければならない。彼(安倍首相)はそれを分かっている。彼(安倍首相)はそのことについて異存もないだろう。」


 米国の軍事植民地主義に苛まれてきた沖縄からは、当然のごとく「異論」が出された。
沖縄タイムス(以下、「タイムス」)は2019年7月1日に「[米大統領安保発言]首相は説明責任果たせ」、琉球新報(以下、「新報」)は同日「日米安保変更発言 沖縄の不公平こそ解消を」、と社説で論評した。


まず、「タイムス」の批判は次のものである。


(1)トランプ米大統領はG20大阪サミット閉幕後の記者会見で、日米安保条約について「不公平な合意だ」と述べた。米国だけが防衛義務を負うことへの不満を安倍晋三首相に「この6カ月間言ってきた」ことも明らかにしている。発言の直前にはFOXビジネステレビの電話インタビューで「日本が攻撃されたら米国は日本を守らなければならないが、米国が攻撃されたときに日本はわれわれを助ける必要がない」と訴えている。
(2)トランプ氏の一連の指摘が、大統領就任前から抱いていた日米安保観を反映したものであることは明白だ。協議が進む日米貿易交渉や、来春始まる「思いやり予算」の協定改定を優位に進めたい思惑があるのだろう。トランプ政権が今後も同盟国に対し安全保障面での「役割増」や「負担増」を求めてくるのは確実で、同盟も「取引(ディール)」の対象とみなす予測不可能な外交は大きなリスクになりつつある。
(3)同盟関係の不安定化を招きかねない発言にもかかわらず、安倍首相は日米首脳会談で真意をただすことをしなかったという。トランプ氏が安倍首相に対して安保条約への不満を6カ月間言ってきたというのは本当なのか。それが嘘であればトランプ氏は記者会見で平気で嘘をつく大統領ということになる。もし本当だとしたらこれほど重要な指摘を安倍首相は国民に隠していたことになる。
(4)トランプ氏の安保発言が浮き彫りにしたのは、両氏の個人的関係の親密さに秘められた危うさだ。
(5)米ブルームバーグ通信の記事によると、トランプ氏は「沖縄の巨大な基地の移設」を米国からの土地収奪と見なし、賠償を求める考えも示したという。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設問題が念頭にあるとみられる。どういう文脈で語られたのかはっきりしないものの、発言が事実であれば甚だしい理解の欠如というしかない。
(6)そもそも普天間飛行場は沖縄戦の際、上陸した米軍が地主の承諾なしに土地を囲い込み建設した飛行場である。安保条約は第6条で米軍の日本駐留と基地提供義務を定めているが、基地の移設を米国からの土地収奪と見なすのは明らかな誤りだ。
(7)日米両政府に求めたいのは戦後74年も続く基地過重負担の解消に優先的に取り組むことである。


 「タイムス」は、米国大統領の発言に対して、次のように断じる。


(1)安倍首相はトランプ氏と蜜月関係を築き、日米首脳会談のたびに同盟強化を強調してきた。しかし首相が国会や国民に対して丁寧な背景説明を行ったことはあまりない。
(2)北朝鮮対応で条件を付けずに日朝首脳会談の開催を目指す意向を示した際も方針転換の理由をきちんと説明していない。前回の日米首脳会談でトランプ氏が貿易交渉の8月決着に言及したことの真意もあやふやなままだ。
(3)安倍外交の最大の問題点は、本当に知りたいことの説明責任を果たしていないことである。


 次に、「新報」は、「トランプ米大統領が日米安全保障条約の見直しを公然と要求した。この際、沖縄の過重な基地負担を含めて、いびつな『同盟』の在り方そのものを見直してもらいたい。」、と米国大統領及び日本政府に突きつける。
 その素敵は、次のものである。


(1)日米安保条約は1951年に調印され、60年に全面改定された。第5条は日本の施政下への武力攻撃があった場合、米国が日本の防衛義務を負うと定めている。一方、第6条では日本と極東の安全へ寄与するため米軍は日本国内の施設・区域を使用できるとして、日本による米軍への基地提供義務を規定している。
(2)この内容についてトランプ氏は29日の記者会見で「不公平な合意だ」と述べた。その上で日本の防衛義務を負う米国の負担が一方的だとの不満を安倍晋三首相に「この6カ月間言ってきた」と明らかにし「(条約を)変えなければならないと伝えた」と語った。
(3)トランプ氏は米国による日本防衛義務は片務的で不公平だと言いたいようだ。だが日本の基地提供義務に伴う沖縄への負担の偏在はおそらく理解していないだろう。住民の4人に1人が犠牲となった苛烈な沖縄戦の結果、沖縄は米軍に軍事占領され、強制的に奪われた土地に基地が建設された。戦後の米施政権下時代には日本本土から海兵隊の部隊が移駐され、基地の集約が進んだ。
(4)今も沖縄には在日米軍専用施設面積の7割が集中している。基地から派生する事件・事故は後を絶たず、米軍人・軍属の優越的地位を保証する日米地位協定の存在が、米軍駐留に伴う諸課題の解決に大きな壁となり続けている。
(5)この沖縄の不公平の解消こそ両国が最優先で取り組むべき課題ではないのか。特定の地域が軍事負担の重荷を長年背負って成り立つ2国間関係の本質と今こそ正面から向き合ってほしい。
(6)トランプ氏は日米安保条約の必要性に関しては「破棄は全く考えていない」と説明しており、今回の発言には、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の増額を迫る狙いがあるとも指摘される。今後の貿易交渉で圧力をかけるための材料だとの見方もある。
(7)防衛省の試算によると米軍駐留経費の日本側の負担割合は2015年度で86%にも達し、韓国やドイツなどの他の米同盟国に比べて突出している。一方で沖縄などの在日米軍の活動範囲は世界各地に広がっており、第一義的に米国の国益のために駐留していることは自明である。
(8)菅義偉官房長官は30日、トランプ氏の発言について日本側に直接伝えられたものではないと説明した。そうであれば抗議してもおかしくないはずだが、米側に真意をただす考えは「全くない」という。これが「同盟」の現実だ。


 「新報」は、最後に、「沖縄の過重負担の解消と日米安保の在り方を米側と率直に議論する好機として、今回の発言を生かしたい。それは米国との主従関係を乗り越える第一歩ともなるはずだ。」、と結論づけた。


 確かに、米国大統領の発言で、浮き上がってきたものは、「安倍外交の最大の問題点は、本当に知りたいことの説明責任を果たしていないことである。」(「タイムス」)、ということになる。
それにしても、「沖縄の過重負担の解消と日米安保の在り方を米側と率直に議論する好機として、今回の発言を生かしたい。それは米国との主従関係を乗り越える第一歩ともなるはずだ。」(「新報」)ということが必要なことは十分理解できるが、安倍晋三政権では、不可能であることも目に見えている。



by asyagi-df-2014 | 2019-07-16 07:04 | 米軍再編 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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