ハンセン病家族訴訟で、国の責任認める初の判決。(4)

はじめに


 毎日新聞は2019年6月28日、ハンセン病家族訴訟について、「約90年に及んだハンセン病患者への隔離政策により家族も深刻な差別を受けたとして、元患者家族561人が、国に1人当たり550万円の損害賠償と謝罪を求めた集団訴訟の判決で、熊本地裁は28日、国の責任を認め、原告541人に対し、1人当たり33万~110万円(総額3億7675万円)を支払うよう命じた。元患者の家族による集団訴訟の判決は初めて。」、と報じた。
 この判決を聞いた時の私自身の問題意識は、「裁判官は初めて聞かれる話ばかりだったかもしれないが、懸命に聞いておられた。ぜひ素直に受け止めてほしい」(朝日新聞)との原告の声に裁判所はどのように立ち向かうことができたのか、ということにあった。
  2019年6月28日の熊本地方裁判所民事第2部による判決主文の要旨は、次のものであった。


「被告に対し、原告(ハンセン病の元患者の家族。提訴後に死亡し訴訟承継が生じた者も含み,訴訟承継人『[訴訟係属中に死亡した原告の訴訟を相続により承継した者』は含まない。以下、特に断りがない限り同じ。) 1 6 7名につき1人当たり143万円(訴訟承継人についてはそれぞれ相続割合に応じた金額。以下同じ。) 、原告2名につき1人当たり100万円、原告5 9名につき1人当たり55万円、原告3名につき1人当たり33万円の支払を命じ,原告2 0名の請求を棄却した。請求を一部認容した原告(提訴後に死亡し訴訟承継が生じた者を含まない。)及び訴訟承継人は合計5 5 7名、認容額は総額3億7 6 7 5万円である。」


1.判決の意味


 この要旨を見た時、確かに、裁判官は原告の声に正面から向き合っていることがわかるのだが、次のことが気になった。


(1)熊本地方裁判所民事第2部の裁判官は、どのような理由で結論を出すことができたのか。
(2)平成14年以降、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別のハンセン病隔離政策の寄与の程度が低いとする根拠は何なのか。
(3)「消滅時効」の壁をいかに越えることができたのか。


 このことに関して、この判決は次のように説明している。
 上記の(1)に関しては、「このとおり、ハンセン病患者の家族は、ハンセン病隔離政策等によって、憲法13条が保障する社会内において平穏に生活する権利(人格権)や憲法44条1項の保障する夫婦婚姻生活の自由を侵害されており、ハンセン病隔離政策等を所管した厚生大臣をはじめとして所管の大臣は、条理上、ハンセン病患者の家族に対し、ハンセン病隔離政策等を先行行為として、相応の作為義務を負う。」、との地平に裁判官が立つことができていることによる。
 また、(2)に関しては、「平成13年末頃にはハンセン病隔離政策等の国民らに対する影響が一定程度遮断される状況があったといえ、加えて、ハンセン病患者に対するホテルによる宿泊拒否が問題となった平成15年には,ハンセン病患者に対する偏見差別を許容せずに、反対の声を挙げる者が多数存在する状況となっていたこと、ハンセン病隔離政策等の誤りを認識しても直ちに、因習による差別意識や患者の後遺症による外貌の変形に対する差別意識が抜けず、その後も差別意識を抱く者がいることは十分にあり得ること等を考えると、平成14年以降、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別のハンセン病隔離政策等の寄与の程度は大きくないといえる。」、と示されている。  
 さらに、(3)については、「平成13年の熊本地方裁判所の上記判決やその後の被告の一連の対応に関する報道によっても、ハンセン病患者の家族との関係においても被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは、一般人を基準にすると、著しく困難であったというべきである。本件と同様に、ハンセン病患者の家族との関係での被告の不作為が問われ、被告に損害賠償義務を認めた裁判例は存在しない上、原告らは、鳥取地方裁判所において平成27年9月9日に言い渡された判決をきっかけに、代理人弁護士らから被告が加害者であること及び被告の加害行為がハンセン病患者の家族との関係においても不法行為を構成する可能性を指摘されたことを受けて本訴に至ったことが窺われることからすれは、少なくとも、上記指摘を受けるまでは、原告らにおいて,被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは困難であったというべきである。その他、原告らが平成27年9月9日以後に代理人弁護士らから上記指摘を受ける以前に、ハンセン病患者の家族との関係において被告の不作為の違法性を基礎付ける事実を認識していたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、上記指摘を受けた日である平成27年9月9日以降の日が消滅時効の起算点であると解するのが相当である。そして、平成27年9月9日から本件訴訟提起があった日までは3年を経過していないから、原告らのいずれについても消滅時効は完成していないというべきである。」、と説明されている。


 結局、今回の判決は、①「ハンセン病隔離政策等が遅くとも昭和35年には必要なかった」、②「厚生大臣及び厚生労働大臣に昭和35年以降平成13年末までハンセン病隔離政策等の廃止義務等とその義務違反の違法があった」、③「文部大臣及び文部科学大臣に平成8年以降平成13年末までの義務違反の違法があった」、④「国会議員に平成8年までらい予防法を廃止しなかった立法不作為の違法があった」、との各段階での責任をを明確にし、原告の国家賠償を認めたものであった。


 このことの意味を理解するために、判決要旨の「理由の要旨」を参考にする。
 これだけでも、画期的な判決であったと言える。


 今回のハンセン病家族訴訟の判決の骨子と要旨から、この判決の意味を考える。
判決の骨子から、主文の理由は次のようにまとめられる。


①内務省及び厚生省が実施したハンセン病隔離政策等が遅くとも昭和35年には必要なかったこと。②ハンセン病隔離政策等がハンセン病患者の家族に対する差別被害を発生させたこと等を理由に、厚生大臣及び厚生労働大臣に昭和35年以降平成13年末までハンセン病隔離政策等の廃止義務等とその義務違反の違法があったこと。                         ③法務大臣に平成8年以降平成13年末までハンセン病患者の家族に対する偏見差別を除去するための人権啓発活動を実施するための相当な措置を行う義務とその義務違反の違法があったこと。 ④文部大臣及び文部科学大臣に平成8年以降平成13年末まで上記偏見差別を除去するための教育等が実施されるようにする相当な措置を行う義務とその義務違反の違法があったこと。     ⑤国会議員に平成8年までらい予防法を廃止しなかった立法不作為の違法があったことを認めたこと。⑥一部の原告らを除いては、原告らが差別を受ける地位に置かれ、また,家族関係の形成を阻害されたとして、憲法13条の保障する人格権侵害及び憲法24条の保障する夫婦婚姻生活の自由の侵害により共通する損害が発生したとし、被告の消滅時効の主張は排斥して、国家賠償法に基づく損害賠償請求を一部認容したこと。


 つまり、今回の判決は、①「ハンセン病隔離政策等が遅くとも昭和35年には必要なかった」、②「厚生大臣及び厚生労働大臣に昭和35年以降平成13年末までハンセン病隔離政策等の廃止義務等とその義務違反の違法があった」、③「文部大臣及び文部科学大臣に平成8年以降平成13年末までの義務違反の違法があった」、④「国会議員に平成8年までらい予防法を廃止しなかった立法不作為の違法があった」、との各段階での責任をを明確にし、原告の国家賠償を認めたものであった。
 このことの意味を理解するために、判決要旨の「理由の要旨」を参考にする。
 これだけでも、画期的な判決であったと言える。
厚生大臣及び厚生労働大臣の過失の認定について、「作為義務の成否」の観点として次のようにまとめている。


1.内務省及び厚生省等が実施してきたハンセン病隔離政策等により、ハンセン病患者(元患者を含む。以下同じ。)の家族が大多数の国民らによる偏見差別を受ける一種の社会構造を形成し、差別被害を発生させ、また、ハンセン病患者を療養所に隔離したこと等により、家族間の交流を阻み、家族関係の形成の阻害を生じさせた。
2.この差別被害の実情としては、 ①学校側による就学拒否や村八分によって、人格形成等に必要な最低限度の社会生活を喪失し、②就学拒否等によって、学習の機会や人格形成の機会を喪失し、③結婚差別によって幸福追求の基盤として重要な婚姻関係等を喪失し、④就労拒否によって自己実現の機会の喪失や経済的損失、⑤差別を避けるために両親が死亡した等の嘘をつくなど、家族という社会生活を送る上での基本事項について重大な秘密を抱えたために、また、様々な差別があるために、進路や交友関係等多岐にわたって人生の選択肢が制限されたことによる人格形成や自己実現の機会の喪失、⑥差別を避けるためにハンセン病患者である家族と生活できず家族関係の形成が阻害されるといったものが含まれる。
3.これら差別被害は,個人の人格形成にとって重大であり、個人の尊厳にかかわる人生被害であり、また、かかる差別被害は生涯にわたって継続し得るものであり、その不利益は重大である。
4.家族関係の形成阻害による被害は、家族との同居や自由な触れ合いによって得られたはずの安定した生活の喪失、心身の健全な発達や知性、情操、道徳性、社会性などの調和のとれた円満な人格形成の機会の喪失であり、人格形成に重要な幼少期に親が隔離された場合などには、人格形成に必要な愛情を受ける機会を喪失し、かつ、かかる喪失によって生じた不利益は回復困難な性質のものである。


 こうした理由の基に、「このとおり、ハンセン病患者の家族は、ハンセン病隔離政策等によって、憲法13条が保障する社会内において平穏に生活する権利(人格権)や憲法44条1項の保障する夫婦婚姻生活の自由を侵害されており、ハンセン病隔離政策等を所管した厚生大臣をはじめとして所管の大臣は、条理上、ハンセン病患者の家族に対し、ハンセン病隔離政策等を先行行為として、相応の作為義務を負う。」、と結論づけている。


 また、続けて、厚生労働大臣等の「作為義務の内容」(当該人権侵害を除去する行為)について、次のように示す。


1.昭和3 5年までの医学の進歩や当時の国内外の知見等からすると、遅くとも昭和3 5年には、ハンセン病はもはや患者を隔離しなければならないほどの特別の疾患ではなくなっており、ハンセン病隔離政策等を遂行する必要性は消失していた上、当時厚生省がこれを十分に認識していたこと等から、,厚生大臣は,遅くとも昭和35年の時点において、ハンセン病隔離政策等の廃止義務があったといえ、全てのハンセン病隔離政策等の実施を廃止して、その廃止を表明すべきであった。
2.そしてそのためには、療養所への新規入所を廃止するとともに,すべての入所者に対し、自由に退所できることと自由に外出できることを明らかにする相当な措置を採るべきであった。より具体的には、まず、各都道府県において入所勧奨が実施されないよう指揮監督すべきであった。また、①らい予防法が内閣の法案提出により成立したものであるところ、昭和28年のらい予防法制定を審議した国会において、当時既にスルフォン剤によりハンセン病が治癒するようになっており、スルフォン剤が日本国内においても普及していたにもかかわらず、厚生大臣は、ハンセン病は根治が極めて困難で隔離以外にハンセン病予防の方法がないと説明していること、 ②らい予防法制定の審議やその後の国会審議において厚生省の担当者が隔離政策を含むらい予防法の必要性を説き続けたこと、③らい予防法廃止には、ハンセン病医療を所管し,国内外におけるハンセン病の専門的な医学的知見や詳細な治療の実態に関する情報を入手可能な厚生省の積極的な作業が必要とされ、平成8年のらい予防法廃止の経過によれば、実際にも、厚生省がらい予防法廃止について重要な役割を果たしたことからすれば、厚生大臣は、主任の国務大臣として、らい予防法を廃止する法案を作成して閣議請求をする諸手続を採るべきであった。
3.そもそも偏見差別が生じたのは,ハンセン病隔離政策等によってハンセン病を特別な病気と扱ったことに大きな原因があるのだから、ハンセン病を特別扱いするのではなく一般の感染症と同様に扱うことが必要となる。すなわち、厚生大臣としては、昭和3 5年以降、医療制度においてハンセン病を一般の感染症と変わらないようにし、それを周知させるため,少なくとも、療養所以外の一般の医療機関において入通院治療できるようにし、そのことを国民らに宣伝,広報すべき義務があった。
4.被告によるハンセン病隔離政策等の遂行によって、ハンセン病患者の家族に差別被害が生じ、人権が侵害されたことから、被告は、当該人権侵害を除去する作為義務を負う。被告によるハンセン病隔離政策等が開始される以前から,ハンセン病患者の家族に対する因習等による差別は存在していたものの、ハンセン病隔離政策等によって、遺伝病や業病であるといった従来の疾病観と異なって、恐ろしい伝染病であるという疾病観が多くの国民らに植え付けられ、また、ハンセン病隔離政策等開始前とは異質のハンセン病患者の家族に対する排除意識等が形成されてハンセン病患者の家族に対する差別被害が生じ、ハンセン病隔離政策等が戦前から戦後に亘り長年継続したため、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別が維持強化され続けた。
5.このように,ハンセン病患者の家族の偏見差別に対するハンセン病隔離政策等が及ぼした影響は重大であり,ハンセン病隔離政策等を遂行してきた被告は、偏見差別を除去する義務をハンセン病患者の家族との関係でも負わねばならない。そして、ハンセン病治療の進歩等により、昭和35年以降、年々、ハンセン病隔離政策等を廃止すべきであることがより明確となっており、年々、放置することの不当、違法が明白になったし、昭和35年以降、らい予防法を廃止しハンセン病隔離政策等を止めることを検討するのに十分な機会と時、があったにもかかわらず、厚生大臣が、平成8年のらい予防法廃止に関する法律の成立に向けた諸手続を取るまで長年に亘って放置してきたこと等から、厚生大臣及び厚生労働大臣には、平成8年以降、より高い偏見差別除去義務が課せられる。
6.厚生大臣及び厚生労働大臣が負う偏見差別除去義務の具体的内容としては、昭和35年以降については、ハンセン病隔離政策等が原因でハンセン病患者の家族に対する偏見差別を形成、維持、さらには強固したことを明らかにした上、そのことについての謝罪とその周知がされる措置を取ることが必要で、その周知方法については、マスコミの発達に応じてマスコミ媒体、インターネット等を使ってそのことを宣伝するほか、各住戸にその旨を知らせるチラシを配り、各職場、町内会、自治会、老人会等を訪れて広報活動をすることを要し、しかも、平成8年以降は、アンケート調査をしてその効果を確認し、浸透していない場合には,頻回に宣伝,広報すべきだった。また、厚生大臣及び厚生労働大臣は、昭和35年の時点においては、ハンセン病は、病気や罹りやすい体質が遺伝することはなく、感染し発病に至るおそれが極めて低い感染症であり、隔離が必要な特別の疾患ではない上に、ハンセン病が医学の進歩によって治癒するようになったことや、治療後のハンセン病患者やハンセン病患者の家族から感染することがなく、治療後のハンセン病患者及びハンセン病患者の家族が社会内や家庭内で生活し、乳幼児を含めて濃密な接触をすることに公衆衛生上何ら問題がないことを説明すべきであった。
7.厚生大臣及び厚生労働大臣は、平成8年の時点においては、ハンセン病の正しい知識の普及の内容として、ハンセン病が在宅の服薬治療のみで後遺症を生じることなく早期に治癒する疾患であり、他の感染症予防と異なる特別の予防は必要なく、当時社会一般に求められていた衛生環境を維持すれば足り、治療中のハンセン病患者であっても感染源とならず、公衆衛生上も問題なく社会で生活できることを説明し、引き続き普及活動を行うべきであった。
8.戦後米国統治下にあった沖縄との関係においては、本土において昭和35年以降負う義務につき、昭和4 7年5月15日以降、同様の義務を負う。


 一方、判決では、次の判断を行っている。


1.原告らの主張する、地方公共団体や地域社会の責任の普及啓発については、被告とは主体が異なる以上、被告にその責任についてまで判断してそれを啓発する義務までは認めることができない。また、原告らの主張する医療福祉制度の充実は、家族関係の再形成にとって、有効であるといえるものの、必要不可欠とまではいえず、既存の医療福祉制度の利用が可能である以上は、厚生大臣及び厚生労働大臣においてハンセン病患者のための特別の医療福祉制度を現状以上に創設する義務をハンセン病患者の家族との関係において法律上負うものということはできない。           2.原告らは、政策を形成する過程に、ハンセン病患者の家族の実情及び意見を反映するため、同家族が政策を形成する過程に参加できるシステムを構築すべき義務を負うと主張するが、ハンセン病患者の家族の参加がなくても厚生行政担当者や学者研究者によって適切な政策を考案することは不可能ではなく、しかも、ハンセン病国連ガイドラインが策定されたのが平成2 2年12月であったこと等からいって、平成13年末までに、差別被害者に対して政策形成過程の参加の機会を与えることが必要であると厚労省が認識するような契機があったと一概にいえず、また,それを認めるに足りる的確な証拠も見当たらず、かかる義務を負うと認めることはできない。


 こうした観点から、「違法性及び過失」として、「厚生大臣及び厚生労働大臣は、上記において認めた義務を尽くしておらず、国家賠償法上の違法性があり,厚生大臣及び厚生労働大臣には,少なくとも過失があった。」、と結論づけている。
 しかし、「義務解消」の観点から、「平成14年以降について、被告の国家賠償法上の違法性を認めることはできず」、と次のように示す。


1.被告は、遅くとも平成25年2月14日には、被告や都道府県のハンセン病問題解決に向けた政策の実施等によって、ハンセン病隔離政策等がハンセン病患者の家族に及ぼした影響を無視し得る程度にまで除去できており、その時期以降に作為義務違反はないと主張するところ、平成2 5年に至っても、社会的に無視できない程度の数のハンセン病患者の家族に対する差別被害が生じているといえる。 2.もっとも、昭和60年代かららい予防法廃止までの期間、マスコミが段々と、ハンセン病に関する偏見差別、患者の人権問題を取り上げ一部の国民の間ではそのことが理解される状況となり、他方で,被告及び地方公共団体が平成13年末までに不十分ながらハンセン病に関する偏見差別を除去する活動や人権啓発活動を行いそれによる効果が一定程度生じたといえること、平成13年に熊本地方裁判所が下したハンセン病療養所に入所していた者らに対する国家賠償を認めた判決、同判決に対する被告の控訴断念、政府の談話発表及び国会謝罪決議採択に関する一連の新聞等の報道によって、多数の国民らにハンセン病隔離政策等の誤りやハンセン病患者が不当な差別を受け,家族も影響を受けてきたことが印象付けられたこと等からすると、平成13年末頃にはハンセン病隔離政策等の国民らに対する影響が一定程度遮断される状況があったといえ、加えて、ハンセン病患者に対するホテルによる宿泊拒否が問題となった平成15年には,ハンセン病患者に対する偏見差別を許容せずに、反対の声を挙げる者が多数存在する状況となっていたこと、ハンセン病隔離政策等の誤りを認識しても直ちに、因習による差別意識や患者の後遺症による外貌の変形に対する差別意識が抜けず、その後も差別意識を抱く者がいることは十分にあり得ること等を考えると、平成14年以降、ハンセン病患者の家族に対する偏見差別のハンセン病隔離政策等の寄与の程度は大きくないといえる。           
3.すなわち、平成14年以降に差別等の被害があったとしてもそれをもってハンセン病隔離政策等に基づくということはできないし、ハンセン病隔離政策等を先行行為として平成14年以降の偏見差別除去義務を認めることはできない。
4.したがって、平成14年以降について、被告の国家賠償法上の違法性を認めることはできず、同年以降,ハンセン病患者の家族に対する差別等の被害があっても、それをもって被告に対し損害賠償を求めることはできない。


 続けて、法務大臣及び文部大臣及び文部科学大臣の過失について、次のように押さえる。


 法務大臣の過失については、「法務省が竜田寮事件(ハンセン病患者の子らが小学校の登校を拒絶された事件)を認識して厚生省及び文部省と協議していたことや、らい予防法を廃止する法案についての国会審議における議員らの発言内容等からすると、法務大臣は、平成8年の時点において、ハンセン病隔離政策等によってハンセン病患者の家族に重大な差別被害が生じており、被告によるハンセン病患者の家族に対する偏見差別を除去するための人権啓発活動が必要であることを、容易に認識できたといえる。したがって,法務大臣には、少なくとも過失が認められる。」、と示す。
 文部大臣等の過失については、「文部省が竜田寮事件を認識して厚生省及び法務省と協議していたことや平成8年の国会審議における議員らの発言等からすると、文部大臣及び文部科学大臣には、少なくとも過失が認められる。」、と示している。


 さらに、国会議員に対して、「立法不作為」の過失を、次のように認めている。


1.遅くとも昭和35年には、ハンセン病のすべての患者との関係で隔離の必要性が失われており、らい予防法の隔離規定に従って合憲的に入所させることがおよそ考えられず、法令そのものが違憲となり、らい予防法の隔離規定に合理的な理由が存在しなくなっていたところ、昭和29年の国会審議において、ハンセン病患者の子がハンセン病の感染源と誤解され差別を受けていることが議題となっていたこと、昭和31年の国際会議においてはハンセン病に関する特別法の廃止が繰り返し提唱され、昭和33年に東京で開催された国際会議において、ハンセン病隔離政策の全面的破棄の勧奨が決議され、昭和38年の国際会議では、ハンセン病患者の強制隔離が時代錯誤であるとまでされていたこと、昭和38年のハンセン病患者団体によるらい予防法改正運動の際に、国会議員及び厚生省に対する陳情等がされ,陳情を受けた国会議員の中には「政府も早急に法改正に努力しなければならない。」とか、「このような予防法があることは国として恥かしい。」と述べた者もいたほどであり、国会議員としても、このころにらい予防法の隔離規定の適否を判断することは十分に可能であったこと等からすると、国会議員にとって、昭和40年にはらい予防法の隔離規定の違憲が明白であったと認められる。                      2.国会議員が平成8年までの30年以上もの長期間にわたってらい予防法の隔離規定を廃止しなかったことは,正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったと認められ、国会議員が平成8年までらい予防法の隔離規定を廃止しなかった立法不作為は、国家賠償法上違法の評価を受け、このような立法不作為には過失が認められる。


2.権利侵害及び損害の考え方


判決内容に関して、権利侵害及び損害の考え方を次のように示す。

1.原告らは、原告らに共通した権利侵害があり、それによって原告らに共通した損害が発生したと主張して包括一律請求を行っており、一部の原告らを除くと、具体的な差別体験に基づく各原告に発生した権利侵害,損害の個別立証を尽くしていないから、可能な範囲で共通性の見いだせるものを包括して慰謝料として賠償の対象とする。                       2.共通の権利侵害、損害が認められる原告らの間では、個々の原告間の被害の程度の差異については、より被害の小さい事例を念頭に置いて控えめに損害額を算定する。そこで、偏見差別を受ける地位と家族関係の形成阻害のそれぞれについて、共通の権利侵害を見いだせる範囲を述べ、次に、共通損害の内容及びその慰謝料額を述べる。
3.原告らには、ハンセン病患者の家族であることを理由とする具体的な差別体験があったとまでは認められない者もいる。もっとも、そのような具体的な差別体験があったとまでは認められない原告らは、被告の違法行為が認められる平成13年末までには、家族や親戚等の当該原告の周りのごく一部の者にハンセン病患者の家族であると知られていたとしても、当該原告の周りのほぼ全員には、ハンセン病患者の家族であることを知られていなかった者であり、周りに知られていた原告らは、具体的な差別体験を自覚しており、ハンセン病患者の家族には深刻な差別被害が多々生じていたこと等からすると、ハンセン病患者の家族は、平成13年末までは、ハンセン病患者の家族というだけで差別を受ける地位に置かれ、周囲にハンセン病患者の家族であることを知られると差別被害を受けることにより、被害が現実化したといえる。また、差別被害が実際に生じていなかったとしても、自らがハンセン病患者の家族であることと、ハンセン病患者の家族に生じてきた深刻な差別被害を認識することで、差別を理由として就業、結婚、友人や近隣における付き合い等の社会生活が制限され得ることを認識し、結婚、婚姻関係、交友関係、就労等に支障を生じるのではないかと大きな心理的負担を感じるとともに差別を受けることに対する恐怖を感じ、その現れ方はさまざまであるものの、社会生活上の不利益や心理的負担が生じたことは明らかであるから、差別経験の有無にかかわらず、差別を受ける地位におかれ,そのことを認識したことによって、被害が現実化したと認められる。したがって、以上の状況にあった原告らについては,共通の権利侵害が認められる。
4.周囲にハンセン病患者の家族であることが知られず、かつ、本人もハンセン病忠者であることを認識していなかった場合には、周囲から差別を受けることもなく、本人が恐怖感や心理的負担を感じることや、ハンセン病患者の家族であることを隠すために生活上の不利益が生じることもなく、何ら被害が現実化していないから、社会において平穏に生活する権利が侵害されたとはいえない。そこで、平成13年末までに、差別被害が現実化していない原告らは、被告の違法行為によって差別を受ける地位に置かれたことにより社会において平穏に生活する権利を侵害されたという共通の権利侵害を認めることはできない。
5.共通損害については、共通の権利侵害が認められる原告らは、いずれも、かかる権利侵害による精神的苦痛が生じているところ,具体的な差別体験によって生じた精神的苦痛は、具体的な差別体験をせずに一般的な差別被害を認識したにすぎない者に生じた精神的苦痛と同程度のものとは到底考えられず。具体的な差別体験に基づく精神的苦痛全体を原告らに共通した損害とみることはできない。また、社会生活上の不利益については、現に生じたとまでは認められない原告らもいることから、これによる精神的苦痛自体が原告らに共通した損害とまでは認められない。しかし、ハンセン病患者の家族に対する差別を要因とする点,社会において平穏に生活をする権利を侵害された点において共通し、精神的苦痛の内容についても,差別に対する恐怖感や心理的負担感を有するという面で共通性を有しているから、その限度で共通した損害と認められる。ただし、この損害を理由とする慰謝料額の算定に当たっては。自らがハンセン病患者の家族であること及びハンセン病患者の家族に対する差別被害を認識した時期に差異があることから、控えめに算定するために、平成13年までで上記の認識時期が最も遅い原告が考慮の対象になるところ、共通損害が認められる原告らのうちもっとも認識が遅いのは、熊本地方裁判所が上記判決を下した平成13年に認識した者であり、同時期に認識したことが算定の基準になる。以上を総合考慮して算定すると,当該慰謝料額は30万円をもって相当である。なお、原告らのうちには同額をもって偏見差別被害が慰謝されるとは到底考えられない者がいることは確かであるが、これまで説示したとおり、一律請求の性質上その限度で認めざるを得ない。
6.原告らの中には,ハンセン病患者の家族に対する偏見差別の存在が原告らとその家族との間の家族関係の形成に悪影響を生じさせたとまでは認められない原告らが存在することから,ハンセン病患者の家族であっても、必ずしも家族関係の形成が阻害されたと認めることはできず、原告ら全員が共通して家族関係を形成する権利が侵害されたと認めることはできない。もっとも、被告の違法行為が認められる時点である、沖縄以外の地域に所在する療養所については昭和35年以降、沖縄に所在する療養所については昭和4 7年以以降に、ハンセン病患者である家族が療養所に入所し、一定期間、ハンセン病患者である家族が帰宅せず別居していた原告らには、ハンセン病患者である家族が入所したことによって、一定期間離れ離れとなり日常生活を共有できず同人との家族関係の形成を阻害されたことが認められ、その限度で共通の権利侵害があったと認めることができる。
7.ただし、成人後に親が入所した場合など、一般的類型的にみると家族関係の形成が阻害されたことに疑いが生じる原告らについては、共通の権利侵害があったと認めることはできない。また、原告らには、ハンセン病患者の甥若しくは姪又は孫も含まれるものの,一般に、おじ、おば又は祖父母との交流を阻害されることで人格形成に影響が生じるなどの被害が発生するとまでは認められず、おじ、おばや祖父母が入所したことによって、ハンセン病患者の甥、姪又は孫に共通の権利侵害が生じたとまでは認めることはできない。
8.共通の権利侵害が認められる原告らにおいても,その生活状況やハンセン病患者である家族との関係性等はさまざまであるものの、いずれも、入所によって一定期間ハンセン病患者との家族間の交流が阻害されたという点において、共通する精神的苦痛が生じたと認められる。もっとも、親子及び夫婦間と、兄弟姉妹とでは、同居での生活の重要性や家族関係の形成を阻害されることによる人格形成等の影響が一般的に異なる。そこで、家族関係の形成阻害による損害の程度は、親子及び夫婦間と、兄弟姉妹とで、類型化し、その範囲で、一定の共通性を認めることが相当である。そこで、これらの原告らについて加算すべき慰謝料額としては、当該入所者が親子又は配偶者である場合には、一律100万円、当該入所者に親子又は配偶者がおらず兄弟姉妹のみである場合には、一律20万円と認める。


3.「消滅時効」


 これまで、国家賠償裁判においては、常に「消滅時効」が『壁』となってきた。
 今回の判決では「消滅時効」について次のように示されている。


1.本訴は、差別を受ける地位に置かれたこと及びハンセン病患者が入所したことなどによる家族関係形成阻害を理由とする損害賠償請求を求めるものであるところ、外形的にみると、原告らとの関係で差別を実際に行ってきたのは被告ではないから、差別による損害については、実際に差別を実施した相手方が加害者であると考えるのが通常であること、ハンセン病患者の入所についても外観上明らかな強制収容が実施されたものでもないことからすると、専門家ではない原告らが、当然に、損害賠償請求することが事実上可能な程度に加害者が被告であると早くから認識していたとはいえない。
2.本訴は、被告の行政機関の長に作為義務違反,国会議員に立法不作為があるとして損害賠償を求めた事案であり、不作為の違法は作為の違法と異なって、その違法性や加害者が外観上明確ではないうえに、本訴の特色として、違法性を判断するに当たっては、ハンセン病に関する差別の歴史的経緯、ハンセン病隔離政策等の具体的内容及び歴史的経緯、医学的知見の変遷,国際的知見、ハンセン病患者の家族に対する差別被害についての行政機関及び国会の把握状況等が前提となり、これらの事実を認識していなければ、不法行為を構成するか否かを判断することはできない。しかしながら、これらの事実を専門家でもない原告らが認識することは容易ではなく、現に原告らが早くから認識していたと認めるに足りる証拠はない。また、らい予防法廃止の際の厚生大臣の謝罪、平成13年の熊本地方裁判所の上記判決やその後の被告の一連の対応に関する報道によっても、ハンセン病患者の家族との関係においても被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは、一般人を基準にすると、著しく困難であったというべきである。
3.本件と同様に、ハンセン病患者の家族との関係での被告の不作為が問われ、被告に損害賠償義務を認めた裁判例は存在しない上、原告らは、鳥取地方裁判所において平成27年9月9日に言い渡された判決をきっかけに、代理人弁護士らから被告が加害者であること及び被告の加害行為がハンセン病患者の家族との関係においても不法行為を構成する可能性を指摘されたことを受けて本訴に至ったことが窺われることからすれは、少なくとも、上記指摘を受けるまでは、原告らにおいて,被告が加害者であること及び被告の加害行為が不法行為を構成すると認識することは困難であったというべきである。その他、原告らが平成27年9月9日以後に代理人弁護士らから上記指摘を受ける以前に、ハンセン病患者の家族との関係において被告の不作為の違法性を基礎付ける事実を認識していたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、上記指摘を受けた日である平成27年9月9日以降の日が消滅時効の起算点であると解するのが相当である。そして、平成27年9月9日から本件訴訟提起があった日までは3年を経過していないから、原告らのいずれについても消滅時効は完成していないというべきである。


最後に


 最後に、判決の結論は、「主文のとおりの判決を言い渡し、被告に対し、原告ら合計557名(訴訟承継人を含む。)に対し、総額3億7675万円の支払を命じる。」、とされた。




by asyagi-df-2014 | 2019-07-12 06:22 | ハンセン病 | Comments(0)

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by あしゃぎの人
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