認知症基本政策策定とは。

 朝日新聞(以下、「朝日」)は2019年5月19日、「朝日新聞-認知症、基本計画策定を政府に義務づけ 自民の法案骨子」、と次のように報じた。


(1)自民党の社会保障制度調査会・介護委員会は17日、「認知症基本法案(仮称)」の骨子を公表した。認知症に関する施策を推進するための基本計画の策定を政府に義務づけ、首相がトップの推進本部を設置すると定める。公明党と協議し、今国会に共同提案する方針。
(2)骨子では、施策にあたっての基本理念として「認知症の人が地域において尊厳を保持しつつ他の人々と共生すること」を掲げる。政府の基本計画は、認知症の人や家族らの意見を聞いた上で策定することとし、都道府県や市町村の計画策定は努力義務とした。
(3)取り組むべき施策として、交通の安全確保や見守り体制の整備などを進める「地域づくりの推進」を挙げた。「認知症の予防」では、予防に関する活動の推進や情報収集、早期発見・対応に向けた医療体制の整備などが必要だとした。
(4)政府は来月、認知症対策の指針となる大綱を決定する予定。「共生」と「予防」を2本柱とし、予防促進に向けて、70代に占める認知症の人の割合を2025年までに6%減らすとの数値目標を盛り込む。基本法が成立すれば、大綱を基本計画と位置づける方向だ。
(石川春菜)


 また、「朝日」は前日、このことに関して、政府方針の内容とこのことに関する視点を次のように報じている。


(1)政府は16日、70代に占める認知症の人の割合を、2025年までの6年間で6%減らすとの数値目標を公表した。現役世代の減少や介護人材の不足、社会保障費の抑制に対応するために認知症の予防促進を掲げており、その一環として初めて数値目標を設定する。来月決定する認知症対策の指針となる大綱に盛り込む。
(2)厚生労働省の推計によると、65歳以上の認知症の人は15年時点で約520万人おり、65歳以上の人口の約16%。25年には約700万人となり、約20%に達する。「生涯現役社会の実現」を掲げる政府は、認知症対策を重要課題と位置付け、数値目標を設定することにした。
(3)16日の有識者会議に示した方針では、70代で認知症になる時期を19~29年の10年間で現在より1歳遅らせることで、70代の認知症の人の割合は約10%減るとした。25年には団塊の世代が全員75歳以上となり、認知症の人の増加が見込まれることから、25年までの6年間の目標として6%減を掲げることにした。6%減が達成できた場合、70~74歳の認知症の割合は18年の3・6%から3・4%に、75~79歳の10・4%は9・8%に下がることになる。
(4)目標達成に向けて進める認知症予防の取り組みとしては、運動不足の解消や社会参加を促すための「通いの場」の拡充などを挙げた。ただ、実効性や数値目標が実際に達成に至るかは不透明だ。
(5)政府は15~25年を対象とした認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定ずみだが、対策を強化するため、25年までを対象とした大綱を来月まとめる方針。これまでは認知症になっても地域で安心して暮らせるようにする「共生」に重点を置いていたが、大綱では「共生」と「予防」の2本柱とする。
(石川春菜)
<視点>予防強調、数字独り歩き懸念
(6)認知症に向き合う現場では、科学的根拠に基づく予防のあり方を研究したり、実践したりする取り組みも進められている。こうした予防の取り組み自体は否定されるものではない。しかし、認知症の国家戦略とも言うべき大綱に、認知症の人の割合を減らす数値目標を盛り込むことは、予防そのものの意義とは別の危うさをはらむ。新たな大綱において、予防と並ぶ柱は「共生」。削減目標はこの共生の理念を揺るがしかねない。かつて認知症は「痴呆(ちほう)」「ぼけ」と呼ばれ、本人は「何もわからない」という偏見のなかで孤立していた。近年、認知症の人自身が思いを語ることで、少しずつその壁を崩してきた。本人の活動や交流の場は急速に広がっている。
(7)いま国が予防を強調する背景には、社会保障費抑制の狙いもあるだろう。いまだ根強い偏見の中で、財政的圧力を背景とした削減目標の数字が独り歩きすれば、自治体が認知症の削減率を競うような、思わぬ副作用が生じないとも言い切れない。
(8)認知症の当事者でつくる日本認知症本人ワーキンググループのメンバーは今年3月、厚生労働相らと意見交換をした際、予防重視の方針について、「頑張って予防に取り組んでいながら認知症になった人が、落第者になって自信をなくしてしまう」との意見を伝えたという。こうした当事者の懸念を軽視すべきではない。誰のための予防で、何のための削減目標なのか。政府は、わかりやすく明確に説明する必要がある。
(編集委員・清川卓史)


 さて、琉球新報(以下、「新報」)は2019年5月19日、「認知症対策の大綱案 『共生』の理念を忘れずに」、と社説でこのことに関して論評した。
「新報」は、「政府が認知症対策を強化するための新たな大綱の素案を示した。『予防』重視の方針を打ち出したことが特徴だが、もう一つの柱である『共生』の視点に立った取り組みをしっかりと進める必要がある。」との押さえの中で、次のように指摘する。


(1)素案では2025年までの6年間で、70代に占める認知症の人の割合を6%低下させることを目指すとした。認知症の人数を抑制する数値目標の導入は初めてだ。70代で発症する時期を10年間で現在より1歳遅らせることで、70代の認知症の人の割合を1割減らせると試算している。
(2)予防の具体策としては、運動や人との交流が発症を遅らせる可能性があるとして、公民館や公園など身近な場での体操や教育講座など「通いの場」への参加を促した。市民農園での農作業など地域活動も推奨している。
(3)認知症の治療法はまだ確立されていないが、予防には運動や健康的な食事、禁煙が良いとされており、高齢者の運動不足解消や孤立防止に向けた具体策を進めていくことは評価できる。ただ新たな数値目標の達成に向けて、こうした取り組みでどの程度の効果が見込めるかは不透明だ。
(4)政府は素案に治療法の開発強化も盛り込んだ。治療薬の臨床試験(治験)に、認知症になる可能性がある人の参加を増やす仕組みを構築するという。「未発症」段階での研究を深めることで発症のメカニズムが解明され、早期の診断や予防法の開発へ道が開けることが期待されよう。ただ未知な部分も大きい。認知症対策の科学的根拠がまだ不十分であることは政府も認めている。そうした中で予防重視の方針や数値目標を新たに示した背景には、膨張する社会保障費を抑制したいという思惑がある。
(5)だが、予防重視の方針に関して当事者や家族からは「認知症になった人は努力が足りないと思われるのでは」と、数値目標が独り歩きすることへの懸念も出ている。有識者からも「認知症にならない社会をつくる、という誤ったメッセージになる」と疑問がある。当事者らのこうした声は正面から受け止めなければならない。
(6)認知症の高齢者は2015年時点で約520万人と推計されており、高齢者の7人に1人に上る。さらに、団塊の世代全員が75歳以上となる25年には約700万人に達する。認知症の発症原因や予防の科学的効果が十分立証されていない中、加齢によって誰でも発症し得る病気であることを理解することがまずは大切なことではないか。
(7)政府は大綱の前身となる15年の国家戦略(新オレンジプラン)で、「住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会の実現」を掲げた。認知症になっても地域で安心して暮らすことができるという「共生」の理念だ。その基本精神を置き去りにすることなく、当事者に寄り添って新たな対策を進めてほしい。


 確かに、基本理念として「認知症の人が地域において尊厳を保持しつつ他の人々と共生すること」を掲げ、「予防」と「共生」が掲げられてはいるが、安倍晋三政権の成長戦略路線の中では、削減目標ありきの社会保障費抑制のための「予防」政策が偏重されることは、既定路線なのではないか、との不信感が拭えないこと。
「朝日」と「新報」の指摘から受け取るものは、次のことである。


Ⅰ.「認知症の発症原因や予防の科学的効果が十分立証されていない中、加齢によって誰でも発症し得る病気であることを理解することがまずは大切なこと」(「新報」)であることを、取り組みの大原則にしなければならないこと。
Ⅱ.「かつて認知症は「痴呆(ちほう)」「ぼけ」と呼ばれ、本人は「何もわからない」という偏見のなかで孤立していた。近年、認知症の人自身が思いを語ることで、少しずつその壁を崩してきた。本人の活動や交流の場は急速に広がっている。」(「朝日」)、との取り組みの成果を大切にしなければならないこと。
Ⅲ.「認知症の国家戦略とも言うべき大綱に、認知症の人の割合を減らす数値目標を盛り込むことは、予防そのものの意義とは別の危うさをはらむ」(「朝日」)ものであること。したがって、予防と並ぶ柱は「共生」であり、削減目標はこの共生の理念を揺るがしかねないものであること。
Ⅳ.いま国が予防を強調する背景には、社会保障費抑制の狙いがあること。また、「いまだ根強い偏見の中で、財政的圧力を背景とした削減目標の数字が独り歩きすれば、自治体が認知症の削減率を競うような、思わぬ副作用が生じないとも言い切れない。」(「朝日」)ことが予想されること。
Ⅴ.「予防重視の方針について、『頑張って予防に取り組んでいながら認知症になった人が、落第者になって自信をなくしてしまう』との意見を伝えたという。こうした当事者の懸念を軽視すべきではない。」(「朝日」)こと。また、「『認知症になった人は努力が足りないと思われるのでは』と、数値目標が独り歩きすることへの懸念も出ている。有識者からも『認知症にならない社会をつくる、という誤ったメッセージになる』と疑問」(「朝日」)を解消することが大事であること。
Ⅵ.「誰のための予防で、何のための削減目標なのか。政府は、わかりやすく明確に説明する必要がある。」(「朝日」)ことが重要であること。
Ⅶ.国の社会保障費抑制政策の中で、「公助」の位置づけは著しく後退させられてきているが、今回の基本政策の具体策の一つとして、「地域づくりの推進」や「公民館や公園など身近な場での体操や教育講座など『通いの場』への参加」(「新報」)が位置づけられている。このことは実際に、地域住民への過度な「自助」「共助」の押しつけになる危険性がある。特に、過疎地域では、その負担は危険水域に達している状況がある。このことのために、「公助」があって初めて、「自助」「共助」が生かされることを背景にした政策立案をする必要があること。




by asyagi-df-2014 | 2019-05-26 08:50 | 持続可能な社会 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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