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ドロ-ン規制法の成立を考える。

 琉球新報(以下、「新報」)は2019年5月18日、表題について「基地上空ドローン禁止 改正規制法成立 報道大幅制限の恐れ」、と次のように報じた。


(1)小型無人機ドローンの飛行禁止区域に自衛隊や在日米軍施設上空を追加したドローン規制法の改正案が17日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立した。6月中旬にも施行される見通しだ。日本国内の米軍専用施設の7割が集中する沖縄では規制区域が広範に及ぶとみられ、名護市辺野古の新基地建設工事現場の撮影など報道機関によるドローンの活用が大幅に制限される可能性がある。荷物の宅配など今後利用の拡大が見込まれる分野でも、技術革新の効果を享受できないとの懸念もある。日本新聞協会などは「取材活動を大きく制限し、国民の知る権利を侵害する」と反対した。
(2)改正法の施行後は、規制対象となる防衛施設の上空にドローンを飛ばす際は、報道機関も含めて、基地の司令官など管理者の同意を得た上で、飛行の48時間前までに所轄の警察署長に届け出ることが必要となる。
(3)規制対象となる在日米軍の施設について、防衛省は法律の成立後に米側と協議して決めるとしている。対象施設の指定の仕方は基地内の建物ごとに指定する方法と、提供施設区域を面的に指定する方法がある。水域も含め、防衛省が規制対象をどのように設定するかも焦点となる。
(4)山本順三国家公安委員長は16日の参院内閣委員会の質疑で、対象施設の周囲約300メートルに設定される飛行禁止区域の範囲を見直す可能性を問われ「(見直しを)検討するに当たっては、ドローンの利活用の促進にも配慮しつつメリット、デメリットを見極める必要がある」と、禁止区域拡大も含め見直す可能性を示唆した。報道の自由が制限される懸念には、防衛省が米側に配慮を要請したのに対し、米側は「趣旨を理解した」と回答するにとどめている。


 このドロ-ン規制法の成立を、沖縄の二紙の社説から考える。
沖縄から見えるこの改正案について、沖縄タイムス(以下、「タイムス」)は「いまでも立ち入り調査がほとんど認められていない米軍基地の「ブラックボックス化」が進む懸念が消えない。」と、「新報」は「改正法によって最も大きな影響を受けるのは、全国の米軍専用施設面積の70%を押し付けられ、基地と隣り合わせの生活を余儀なくされている沖縄県民だ。」、との懸念を明らかにする。
こうした懸念を引き起こす原因と根拠を二紙は、次のように指摘する。


1.原因

(「タイムス」)
(1)施設内と、外側約300メートルの上空が規制される。米軍基地については提供水域と空域も含まれ、米軍専用施設の約7割が集中する沖縄では特に、取材規制などで深刻な影響を受けるのは間違いない。
(2)防衛省沖縄防衛局が土砂投入を強行している辺野古新基地建設現場にも広大なキャンプ・シュワブ水域が広がる。本紙写真部がドローン規制法改正を想定して水域から約300メートル離れた名護市安部からドローンを飛ばして撮影した新基地建設現場の写真が17日付紙面に掲載されている。現場まで約3・8キロも離れており、土砂運搬船や護岸がかろうじて見える程度だ。具体的な作業の様子はまったく確認できなかった。工事をチェックする目をふさがれる危機感が募る。
(3)報道機関や市民団体はドローンを使った空撮で、土砂投入に伴う赤土流出の疑いや汚濁防止膜の設置不備による濁った水の流出、工事の進捗(しんちょく)状況を明らかにするなど監視機能を果たしてきた。
(4)沖縄の米軍基地の特徴は民間地域に近いことだ。米軍の軍事活動が県民の生命や財産、生活環境を脅かしている以上、基地内で何が起きているのか知る必要がある。
(「新報」)
(1)規制されるのは、防衛相が指定する施設・敷地と周囲おおむね300メートルの区域の上空だ。飛行させるには施設管理者の同意が必要になる。違反すれば1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがある。警察官や自衛官は、違反者のドローンを捕獲したり、破壊したりできる。
(2)何よりも問題なのは、テロ防止の名の下に、国民の知る権利が大きく侵害される点だ。ドローンによる空撮ができなくなれば、報道機関の取材活動は著しく制限される。その結果、基地内や基地周辺で起きていることがベールに包まれ、実情を把握することが困難になるのである。
(3)飛行禁止の範囲は今後、政府が指定することになっているが、32カ所の米軍施設周辺に加え、キャンプ・シュワブを含む27カ所の提供水域、20カ所の提供空域まで対象になる可能性がある。指定を守って飛行させた場合でも、施設管理者の恣意的な判断によって民間のドローンが排除されることが日常的に起こり得る。

2.根拠

(「タイムス」)
(1)ドローン規制は米軍が日本側に要請した経緯がある。2017年11月に当時の米太平洋軍司令官が防衛相と会談した際、米軍キャンプ・シュワブでのドローンの飛行を規制するよう強く要請した。
(2)改正法では基地司令官などの同意があれば飛行できるとするが、規制の経緯を考えると、司令官が同意する可能性はほとんどない。
(3)具体的にどの米軍基地を指定するのかは米側と協議して防衛相が判断するという。米軍の恣意的な運用がなされる懸念が拭えない。基地周辺300メートルの飛行禁止も政府はすでに国会で範囲を拡大する方向性を示唆している。
(4)基地周辺の恒久的な規制と、9月のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会、東京五輪パラリンピックの会場を取材メディアを除き上空飛行を禁止する時限的な規制とセットだ。テロ防止を全面的に押し出し、恒久的な規制を隠すのが政府の意図である。
(「新報」)
(1)基地から派生するさまざまな問題が見えにくくなり、住民はこれまで以上に蚊帳の外に置かれる。災害発生時に、被害の迅速な把握が困難になることも懸念される。
(2)米国はかねて、基地周辺でのドローン使用を禁止するよう日本側に要請してきた。法改正で、これに応えた格好だ。国民の知る権利よりも米軍の都合を優先する態度と言わざるを得ない。
(3)防衛省は、報道の自由との関係を含め適切に同意の可否を判断するよう米側に求めたというが、アリバイづくりにしか映らない。


3.主張

(「タイムス」)
(1)県マスコミ労協は声明で「基地の実態を隠し、米軍や自衛隊の都合を優先する法改正に強く反対する」と批判した。日本新聞協会は「限度を超える規制とならないよう注視していく」とする編集委員会代表幹事の談話を発表した。
(2)衆参両院の内閣委員会は国民の知る権利と取材・報道の自由を損なうことのないよう慎重かつ合理的な運用を政府に求める付帯決議を採択。米軍の実態に目隠しするような法改正を日本側がするのがそもそも本末転倒である。報道目的には除外規定を設けることを明示すべきである。
(「新報」)
(1)報道目的の場合は飛行を原則として認めるとした立憲民主党提出の修正案が与党などの反対で否決されたのはその表れだ。与党の動きは政府の意を受けたものと言える。
(2)米軍基地や周辺で重大事故が起きたとき、報道機関がドローンを使って上空から撮影することに米軍は同意するだろうか。むしろ、隠す方向に動くのではないか。今回の法改正を機に、米軍による傍若無人な基地運用がますますエスカレートすることが危惧される。日米両政府による米軍基地の「隠蔽(いんぺい)工作」という側面は否めない。
(3)政府は、軍施設周辺の撮影などを禁じる法律があった戦前のような体制に逆戻りしたいのか。国民の権利を米国に譲り渡すかのような姿勢は断じて容認できない。


 確かに、日米地位協定が日本の主権を侵害している状況を沖縄が告発してき現状を見た時、この法が、「日米安保条約-日米地位協定-「運用」「密約」の構造的沖縄差別の構図そのものを支えるものになることは間違いない。それは、「基地周辺の恒久的な規制と、9月のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会、東京五輪パラリンピックの会場を取材メディアを除き上空飛行を禁止する時限的な規制とセットだ。テロ防止を全面的に押し出し、恒久的な規制を隠すのが政府の意図である。」(「タイムス」)、ということである。
 結局、今回の法は、「政府は、軍施設周辺の撮影などを禁じる法律があった戦前のような体制に逆戻りしたいのか。国民の権利を米国に譲り渡すかのような姿勢は断じて容認できない。」(琉球新報)、ということに尽きる。




by asyagi-df-2014 | 2019-05-25 05:45 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人