沖縄県の「他国地位協定調査報告書(欧州編)」を読む。

著書名;「他国地位協定調査報告書(欧州編)」
著作者;沖縄県
HP  ;沖縄県地位協定ポ-タルサイト


 沖縄県は、2019年4月、「他国地位協定調査報告書(欧州編)」(以下、「報告書」)を公表した。
 この、「報告書」を読む。なお、アンダーライン等は、筆者による。
まず最初に、「報告書」による、日本の現状の確認から、日米地位協定の問題点の把握まで。

1.日本の現状の確認から、日米地位協定の問題点の把握

(1)日米地位協定とは。
①米軍による我が国における施設・区域の使用と我が国における米軍の地位について規定したもの。
②1960年に日米間で締結されて以来、現在まで一度も改定されていないこと。
③この間、米軍人等による様々な事件・事故、米軍基地に起因する騒音問題や環境問題等が発生していること。

(2)1972年の本土復帰から20180年12月末まで、沖縄県で米軍人等によって引き起こされた様々な事件・事故等について。
①米軍人等による刑法犯が5,998件。
②航空機関連の事故が786件。
③騒音問題では、嘉手納飛行場及び普天間飛行場の周辺住民が、国に対し、夜間・早朝の飛行差し止めや損害賠償を求める訴訟を幾度も提起するなど、日常的な航空機騒音に悩まされていること。
④米軍基地の返還跡地から環境基準値を超える有害物質が発見されるなどの環境問題も発生していること。

(3)近年、沖縄県で引き起こされたこと。
①2016年に米軍属の男が女性に対する死体遺棄。
②強姦致死及び殺人の容疑で逮捕・起訴された事件。
③オスプレイの名護市の集落近くへの墜落。
④2017年に東村の民間地へのCH-53Eの不時着・炎上。
⑤2017年CH-53Eの普天間第二小学校への窓枠の落下。
⑥2018年に米軍ヘリの施設外の民間地域への相次ぐ不時着、オスプレイのエンジンカバーの落下。
⑦名護市におけるキャンプ・シュワブからの流弾事故。

(4)沖縄県外において引き起こされたこと。
 2018年2月に三沢基地(青森県)所属のF-16戦闘機が離陸直後にエンジン火災を起こし、基地近くの小川原湖に燃料タンク2個を投棄したことで燃料油が流出し、シジミやワカサギなどが全面禁漁に追い込まれるなどの事故が発生。

(5)結局、このような相次ぐ事件・事故の度に日米地位協定の問題点が指摘されてきた。
(6)しかし、日米地位協定の見直しについては、次の状況。
①2000年に沖縄県が11項目の日米地位協定の見直しに関する要請を日米両政府に対して行った。
②米軍提供施設等が所在する主要都道府県で構成する渉外知事会や日本弁護士連合会が行った。
③2003年には、自民党国会議員でつくる「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」も改定案を作成し、日米地位協定の見直しを求めてた。
④沖縄県は2017年9月に、平成12年に実施した見直しに関する要請以降の状況の変化を踏まえ、見直し事項を新たに追加し、日米両政府に要請を行った。
⑤2018年2月には、公明党も日米地位協定検討ワーキングチームを党内に設置し、同年8月には政府に対し、起訴前の身柄拘禁の日本側への移転について、現在の運用を日米地位協定に明記することなど5項目の申し入れが行われたほか、2019年1年1月には直接訪米し、米政府への申し入れも行われた
⑥国民民主党も2018年12月に、米軍への国内法適用など6項目の日米地位協定改定案をまとめた。
⑦全国知事会においても、沖縄県からの提案をきっかけに設置された「米軍基地負担に関する研究会」における計6回の議論を踏まえ、2018年7月に、日米地位協定の抜本的な見直しを含む「米軍基地負担に関する提言」が全都道府県による全会一致で取りまとめられ、同年8月には政府に対して提言が行われた。

(7)これまでの日米両政府のの考え方
「環境補足協定」や「軍属に関する補足協定」を締結しているものの、その実効性は十分とは言い難い状況であり、依然として、多くの基地問題が発生する都度、運用改善により対応している。

(8)沖縄県の考え方
①米軍基地を巡る諸問題の解決を図るためには、原則として日本の国内法が適用されないままで米側に裁量を委ねる形となる運用の改善だけでは不十分であり、地位協定の抜本的な見直しが必要であると考えている。
②日米地位協定の見直しについては、米軍基地が集中する沖縄という一地域だけの問題ではなく、我が国の外交・安全保障や国民の人権、環境保護、そして何よりも、日本の主権についてどう考えるかという極めて国民的な問題であると考えており、今後も、日米両政府に対して粘り強く求めていく考えである。
③沖縄県としては、日米地位協定の抜本的な見直しを実現するためには、この問題が日本国民全体の問題として受け止められる必要があると考えている。そのためには、日米地位協定に関する基礎的な情報や同協定が抱える問題点、そして見直しの必要性に対する理解を国民全体に広げていく必要がある。
④しかし、現状は、米軍専用施設が沖縄に集中していることもあり、事件や事故が起きても沖縄の問題として扱われ、この問題に対する理解や見直しに対する議論が国民的なものには至っていないのが実情であると考えている。
⑤このような状況を踏まえ、日米地位協定の問題点を更に明確化し、同協定の見直しに対する理解を広げることを目的として、他国の地位協定や米軍基地の運用状況について調査を行うものである。

(9)調査方針の特徴

①日米地位協定は、協定本文だけではなく、数多くの日米合意を含んだ大きな法体系になっていることに加え、協定の実施について協議する日米合同委員会は、原則として議事内容が非公開とされており、一部の関係者を除き、その協議内容を把握することはできない。
②これらのことから、日米地位協定を法的な側面から緻密に分析を行うことは非常に困難であり、それを一般国民が理解できるようにすることは更なる困難を伴うことが想定される。
③他国との比較という面から検討してみると、他国においてもやはり地位協定の下にそれぞれの国内法令や両国間での合意事項などが存在しており、そのすべてを詳細まで調査を行うことは難しい状況である。一方、日本と同じように米軍が駐留する他国においても、米軍に起因する事件・事故や訓練による騒音問題など、類似の事案が発生している。事案に対する各国の対応は、派遣国と受入国の間で締結した地位協定や受入国の国内法令、両国間での合意事項などが反映されたものとなる。
④このため、各事案に対する各国の対応(事例)を比較することで、日本と他国における地位協定や米軍基地の運用の違いがより鮮明になるとともに、各国の対応の違いを生み出した地位協定や国内法令の適用状況等の違いについて、より理解しやすいものになると考えられる。
⑤このような観点から、本調査においては、法令を中心にした調査ではなく、他国と日本の事例比較を中心に調査を行っている。項目としては、近年、沖縄県において米軍機による事故や訓練に関する様々な問題が発生していることを踏まえ、米軍に対する受入国の国内法の適用、基地の管理権、訓練・演習に対する受入国の関与、航空機事故への対応を中心に調査を行っている。


2.「報告書」による、「調査結果(まとめ)」。

(1)ドイツ・イタリアにおける地位協定の改定や新たな協定締結の経緯
①ドイツでは、1988年に発生した駐留軍の航空機による度重なる事故により、ボン補足協定改定を求める国民世論が大きくなったことを背景に、ドイツ側が抜本的な見直しを要求している。
②改定交渉に望んだドイツの代表団には、連邦政府だけでなく各州の代表者も参加している。
③イタリアでは、1995年に了解覚書(モデル実務取極)を締結した3年後の1998年に発生した米軍機によるロープウェー切断事故で20名もの死者が発生したことをきっかけとして反米軍感情が高まったことを背景に、モデル実務取極に規定されていた米軍機の訓練に対する許可制度や飛行規制などを大幅に強化している。
④両国共に、事故をきっかけとした国民世論の高まりを背景に交渉に臨み、それを実現させている。

(2)ドイツにおける地位協定等の状況
①航空法や騒音に関する法律、ドイツ軍の規則などを原則として米軍にも適用させることで、夜間の飛行など米軍の活動を大きく制限している。
②米軍の飛行もドイツ航空管制(DFS)が原則としてコントロールし、空域での訓練はドイツ航空管制(DFS)の事前許可が必要である。
③周辺自治体の首長や職員には立入証が交付されており、正当な理由があれば立ち入りが可能。また、ドイツの米軍基地内にはドイツの警察官2名が常駐している。各基地には騒音軽減委員会が設けられ、周辺自治体の意見等を米軍が聴取し、前向きに対応している状況であった。
④航空機事故への対応に関しても、NATO標準化協定(NATO STANAG3531)により自国領域内における他のNATO加盟国の航空機事故への調査権限が認められており、ドイツ側が主体的に調査等に関与している状況であった。

(3)イタリアにおける地位協定等の状況
①イタリアの米軍基地は全てイタリア軍司令官の下に置かれており、米軍の訓練等の活動には事前にイタリア軍司令官の許可が必要となっている。
②米軍基地の航空管制はイタリア軍が行っている。
③1998年に発生した米海兵隊によるロープウェー切断事故を受けて、訓練の許可制度、飛行高度、飛行時間などの規制を大きく強化した。各基地には州レベルでの地域委員会が設けられており、自治体からの要望は、委員会等を通じてイタリア軍司令官が対応している。また、飛行ルートの変更など、自治体からの要望は受け入れられている状況であった。

(4)ベルギーにおける地位協定等の状況
①ベルギーは面積・人口共に日本の九州よりも小さな国であり、歴史上、1830年にベルギーとして独立するまで、周辺大国の影響・支配を数多く受けてきた。独立後も2回の世界大戦でいずれもドイツ軍の侵攻を受け、その軍事支配を受けている。このような歴史的背景を持つベルギーにとって、防衛の中心は国際的な組織に属することであり、そのため、同盟国との関係は重要なものとされており、多数の国際機関の本部も誘致している。
②そのような状況においても、1990年にはベルギー国内の飛行規則を改正し、自国軍機の最低飛行高度を80mに維持する一方、外国軍機による低空飛行を禁止する措置を取るなど、自国の法律や規則を駐留軍にも適用することで、駐留軍を自国軍よりも厳しい規制の下に置いている。元ベルギー空軍大将のミシェル・マンデル氏によれば、駐留軍に対する規制措置によって同盟関係や防衛力に対する悪影響はなかったとのことであった。
③在ベルギーのシエーブル米空軍基地においては、周辺自治体による基地内への立入り権が、当然の権利として認められている状況であった。

(5)イギリスにおける地位協定等の状況
①英国においては、NATO軍地位協定締結当初から、国内法である駐留軍法を整備するなど、英国法を駐留軍にも適用させている。それにより、駐留軍機に対する規制措置や米軍の様々な活動に対する英国国防省の承認制度などが整備されている状況であった。
②米軍機の墜落事故の際にも、英国警察が現場の規制線を張り、英国法に基づき優先的に捜索等を行っており、それを米軍側も当然のこととして認識しているとのことであった。
③在英米軍基地には、英空軍の司令官や英国防省警察が常駐しており、英空軍司令官は、基地周辺の準自治体である教会区の会議に出席し、基地で行われる演習や夜間飛行訓練などについて地域住民に説明を行うなど、基地と地域コミュニティの良好な関係を維持する取組を行っていることが明らかになった。

(6)日本における地位協定等の状況

①日本では、「環境補足協定」や「軍属に関する補足協定」を米国と締結しているものの、その実効性は十分とは言い難い状況であり、依然として、多くの基地問題が発生する都度、運用改善により対応している。
②日本政府は、1960年に日米地位協定が締結されて以降、米国に対して正式に改定を提起したことは一度もないとされている。
③国内法の適用に関して日本政府は、一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、日本に駐留する米軍についても同様であるとの立場を取り、日米地位協定にも一部の法令を除き日本の国内法を適用する条文がないことから、在日米軍には日本の国内法は原則として適用されていない。
④米軍機の飛行に関しては、航空機の運行について定めている航空法の第6章などの規定が、航空法特例法の規定により一部を除き適用除外となっている。また、日本政府は米軍機の飛行に対する規制権限を有しておらず、日米両政府で合意した夜間・早朝の飛行制限等も守られていない。
⑤地域委員会設置に関しても、これまで地元自治体が設置を求めているが実現していない。
⑥航空機事故等への対応についても、日米合同委員会において、施設・区域内のすべての者若しくは財産、施設・区域外の米軍の財産について、日本の当局は捜索、差押え又は検証を行う権利を行使しないことに合意しているほか、事故現場の統制についても日本側の主導により行われている状況ではない。

(8) 総括

Ⅰ.ドイツ・イタリアでは、米軍機の事故をきっかけとした国民世論の高まりを背景に、地位協定の改定や新たな協定の締結交渉に臨み、それを実現させている。
Ⅱ.ベルギー・イギリスでは、協定を包括的に補足するような協定の存在は確認することはできなかったが、外国軍の駐留や駐留軍に対する国内法の適用に必要な法整備を行い、自国の法律や規則を駐留軍にも適用させている。そのような取り組みにより、これらの国では、自国の法律や規則を米軍にも適用させることで自国の主権を確立させ、米軍の活動をコントロールしている。
Ⅲ.騒音軽減委員会や地域委員会の設置、基地内への受入国側人員の配置等それぞれの国の実情に応じた形で、米軍基地の運用について、地元自治体からの意見聴取や必要な情報の提供が行われているほか、受入国側の基地内への立入り権も確保されている。
Ⅳ.米軍機の墜落事故の際にも、受入国側が主体的に捜索等に関わっている状況であった。
Ⅵ.調査結果を総合すると、このような状況がNATO、ヨーロッパでは標準的であると考えられるが、これに対し、日本では、原則として国内法が適用されず、日米で合意した飛行制限等も守られない状況や地元自治体が求める地域の委員会設置や米軍機事故の際の主体的な捜索、基地内への立入り権の確保等が実現していない状況であり、NATO、ヨーロッパとは大きな違いがある。


 最後に、「報告書」は、「他国地位協定調査における今後の課題と取組」について、次のようにまとめている。

(1)これまでの調査において、米軍に対する受入国の国内法の適用、基地の管理権、訓練・演習に対する受入国の関与、航空機事故への対応等の点について、NATO、ヨーロッパでの標準的な状況が確認できたと考えている。
(2)一方、NATOのように集団的安全保障体制ではなく、米国と個別に地位協定を締結している国やヨーロッパ以外の地域における状況については、これまで明らかにはなっていない。このようなことから、今後、調査対象国を韓国、フィリピン、オーストラリアなどアジア諸国等にも拡大することで、調査の更なる展開を図り、日米地位協定の問題点を更に明確化していくと共に、これまでの調査で日本と各国の違いが明らかになった「駐留軍に対する国内法の適用」及び「領空における空域の管理」については、引き続き、調査を継続していく必要がある。
(3)地位協定ポータルサイトのより一層の内容充実、調査結果を分かりやすくまとめたパンフレットの作成などの取組により、日米地位協定の見直しの必要性に対する理解を国民全体に広げていく必要がある。


3.補論-沖縄県の「本論評は、執筆者個人の見解であり、沖縄県の見解ではない。」との紹介の基に。

 この「報告書」は、この報告書の理解を深めるために、の「沖縄県『他国地位協定調査 報告書(欧州編)』を読んで」と伊勢崎賢治東京外国語大学総合国際学研究院教授の「日米地位協定に『見直し』は必要であろうか?」を補論として、掲載している。

(1)明田川融法政大学法学部教授の沖縄県「他国地位協定調査 報告書(欧州編)」を読んで-特に、受け入れ国国内法適用ということの理解のために(筆者)-

1.有効な視点

①米国は、第二次大戦中から、冷戦体制崩壊後の今日にいたるまで、世界に広がる「基地帝国」(ジョン・W.ダワー)を構築してきた。そのため、米軍基地とそこに在る米軍人・軍属らを規律すべき取り決めについての何らかの洞察を得ようとする者にとっては、自国が米国と結んでいる取り決めと、他国と米国との間の取り決めを比較検討することが、一つの有効な視座を与える。
②そもそも日米地位協定の前身である行政協定締結交渉において、また、同協定改定交渉において外務省が範とあおいだのは、NATO軍地位協定(1951年)や旧西ドイツに駐留するNATO軍の地位に関する、いわゆるボン補足協定(1959年)であった。
③ドイツやイタリアに駐留するNATO軍(米軍を含む)を規定する取り決めと日米地位協定とでは―とりわけ受け入れ国側の基地への立ち入り、基地に対する管理権、受け入れ国法令の適用に関して―著しく異なることが判ると、琉球新報ならびに中国新聞取材班が独・伊両国に取材し、運用の面でも日本と大きく異なることを明らかにした(「駐留の実像」ならびに「イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから」)。

2.沖縄県「他国地位協定調査」の特色

①2017年度より沖縄県が取り組んでいる本調査は、他国との比較論的調査という古典的な手法に依りながらも、近年の政治的要請にも応えるものと評価することができる。
②各事案への各国の「対応(事例)を比較する」ことから、日本と他国における地位協定運用の違いを「より鮮明にする」という方針が採られている。
③こうした「対応(事例)」中心の調査方針を採った点に特色がある。

3.受け入れ国の基地立ち入り権と管理権

①2018年度「他国地位協定調査」では、受け入れ国による基地への立ち入り権が独伊以外の国でも認められていることが確認された。米空軍シエーブル基地が所在するシエーブル市(ベルギー)の市長は、「私は当然、基地に入る権利があるし、入ることができる」「基地の中で何かが起きれば、私の市民たちの安全を確実にするために確かめる必要があるし、そうではない平常時であっても、基地で何が起こっているかを知る権利がある」と述べているのだ。基地提供を受けている側の基地広報官も、基地周辺自治体の「首長だけでなく、市役所の職員でも基地内には当然入ることができる」理由として、基地が「基地はベルギーの領土内にあるのだから」と証言している。

4.受け入れ国に国内法が適用されないという日本製の考え方-日本国法令の「尊重」にとどまる日米協定

①日米地位協定は、米軍人・軍属・それらの家族による日本国法令の「尊重」義務を規定し、米軍の作業は「公共の安全に妥当な考慮を払つて」行わなければならないなどと定めるのみだ。この点に関する政府(外務省)の考え方も、外国の国家機関である軍隊が受け入れ国の主権の下に服さないことの「当然の帰結」として、「一般国際法上」、外国軍隊には受け入れ国の法令の適用が「ない」のであり、したがって米軍に対しても、特定の事項に関する法令の適用が日米間で合意されている場合を除き、基地内外を問わず「原則として我が国の法令の適用はない」という立場をとってきた。
②米軍に国内法令が適用されないとどうなるか。たとえば、その第6章で最低高度の順守(第8 1条)や粗暴な操縦の禁止(第85条)などを定める航空法は、地位協定に基づく航空特例法― だから、正確には特例法という国内法の適用による航空法からの除外ということになるのだが ―によって米軍機には適用されない。そうした状況においても地位協定の運用改善によって対応していくことが合理的と説明する。
③日本政府は、外務省のホームページにある「日米地位協定Q&A」から具体的根拠の示せない「国際法」の文言を削ったものの、国内法令不適用の根拠が国際法にあるとする姿勢は変えていない(『朝日新聞』2019年1月13日)。

5.受け入れ国に国内法を適用させるという沖縄県等の考え方

①「米側に裁量を委ねる形となる運用改善だけでは不十分であり、日米地位協定を抜本的に見直すことで、米軍にも国内法を適用し、自国の主権を確立させる必要がある」というのが沖縄県としての「考え」である(2019年第2回沖縄県議会における渡久地 修議員の質問に対する知事公室長答弁)。
②沖縄県に加えて、日本弁護士連合会や野党議員も、基地周辺住民の権利侵害の多くは「日本法令の適用除外」によって起きており、「一般国際法」の根拠は如何と政府に質してきた。
③近年では、米国政府や米軍内にさえ、外国軍隊は国際法上、受け入れ国の法律に従うべきだとの見解を示している。

6.明田川融が示す受け入れ国国内法令適用という「考え方」

①「領土主権」(領域主権)である。これは、受け入れ国は自国の領域内にある全ての人と物に対して立法管轄権と法執行権を有するという考えで、「国際法の基本」である。したがって、「一般的に、特別な協定がない限り駐留軍には受入国の国内法が適用される」ことになる。日本の外務省の考え方とは正反対なのだ。(ちなみに、日弁連が政府に国内法の適用を求めるのもこの考え方に基づいており、この考えを裏づける「条約法に関するウィーン条約」には日本も1981年に加盟している。)
②土地や環境といった価値とともに、何より、「市民の権利」を守らなければならないという考え方である。たとえば、ドイツで行われていたNATOの飛行訓練を1990年に受け入れることになったベルギーでは、受け入れ地住民の間に騒音への懸念が高まった。そこでベルギー政府は地元の合意を得るために国内法令改正により飛行下限高度を引き上げ低空飛行を規制した。「他国と協議しなければならないことではない」という。「他国」より「地元の合意」を優先するベルギー政府の姿勢は、沖縄県の度重なる要請に重い腰をあげようとしない日本政府のそれとは異なる。
③最後に、「軍は様々な理由で駐留しているので、国内法による規制で駐留軍が撤退してしまうようなことはベルギーではあり得ない」という考え方も示唆を与える。しばしば、日米地位協定の改定を求めれば、米国が日本やアジア太平洋地域に対する関与を減退させることにつながりかねないという議論を耳にする。しかし、まさに米軍は「様々な理由」で日本に駐留している。兵站基地としての日本は米軍から「最高点に近い評価」を得ているという。加えて、駐留経費負担の面でも日本は「非常に気前がいい」(春名幹男『仮面の日米同盟』)。そして近年では、集団的自衛権行使容認も閣議決定された。
④このような状況を考えあわせるならば、内閣は国内法―とりわけ沖縄県の要望の強い航空法 ―を米軍にも適用して、沖縄に静かで安全な空を取り戻すことをうべきではないだろう。前年度調査で得られた「沖縄が抱える問題は、日本の政治家が動いて条約を勝ち取らないと解決が難しい。……世界の状況を見れば、米国が日本を必要としていることは明らかなのだから、そこをうまく利用して立ち回るべきだ」というランベルト・ディーニ伊元首相の言葉が想起される。その「政治家」を動かすためにも、日米地位協定問題をめぐる真の国民的議論が行われることを望む。

(2)伊勢崎賢治東京外国語大学総合国際学研究院教授の日米地位協定に「見直し」は必要であろうか?-国家間の互恵性について(筆者)-

1.まさしく、日米地位協定に「見直し」は必要であ在るのかという視点

①日米間に「主」と「従」の関係があり、「従」が「主」に対して、待遇の改善を求める。これが今まで日本人が求めてきた「見直し」である。しかし、本調査による他国の地位協定の「比較」が突きつける現実の要請は、待遇の「見直し」ではない。主従関係そのものの「見直し」である。
②駐留米軍の「自由の制限」は、すなわち受入国の「主権の回復」である。地位協定を巡る国際情勢の大変換期にあって、地位協定の「安定」に苦慮するアメリカ政府が行き着いた政策は、「互恵性」の導入であった(国務省 国際安全保障諮問委員会 地位協定に関する報告書、p23、2015年) 。
③互恵性。すなわち派兵国と受入国の主権が対等になる。外交特権のように「逆」がありうるのだ。「たとえ米軍の駐留が一方的なものであっても互恵性の導入は受入国の“国家のプライド”と“主権”にかかわる問題をかわすのに有効」とまで同報告書はうたう。互恵性は事故の防止を保証するものではない。だが、事故発生時に、少なくとも「不平等条約」であるという誹りをかわせる。
④互恵性とは、つまり「アメリカが本土で、他国の軍に許さないことを駐留米軍は受入国でやらない」ことであるから、「アメリカではFAA(アメリカ連邦航空局)のルールに外国軍機も従わなければならない」のになぜ?と、本調査でインタビューに応じた要人たちが「横田空域」に驚くのは当然過ぎるくらい当然のことなのだ。
⑤この「文化」は、アメリカの現在の戦場となっている新しい受入国との地位協定にも既に常態化している。駐留米軍への依存度が日本より格段に高いはずのアフガニスタンにおいても、だ。2012年に合意した両国の協定では、序文から「アフガニスタンの主権」が基調になっており、協定の文面を支配する「文化」の格差に目眩がする。アフガニスタンに裁判権での互恵性はまだないが、同協定では、米軍人・軍属を裁く米本国での裁判にアフガン政府関係者が立ち会える権利を保障している(アフガニスタン・アメリカ治安・防衛相互協力協定 第13条2項)。こんな措置は、日米間では、俎上にも上がらない。
⑥互恵性を基調とする「文化」は、米軍が使用する基地と空域は受入国の「主権」が支配し、当然、駐留米軍の「自由出撃」を許さない。本来これは、現代の開戦法規である国連憲章51条が固有の権利として国連加盟国に保障する個別的自衛権の観点から、当然の帰着である。「自由出撃」で誘発される敵国の報復の第一の標的は直近の受入国になるからだ。それは集団的自衛権を分かち合う間柄にとっても同じで、自衛権すなわち国防における主権は不可侵のものであり、「自由出撃」は独立した主権国家間の国際関係に存在し得ない概念である。これを許す日米間に、日本の主権は存在しない。
⑦同時に、その敵国に対して、日本の戦力、例えば自衛隊が何もしなくても、戦時国際法の中立法規の要求(基地を造らせない。通過をさせない。金を出さない等)を何も満たさない日本は、敵国にとって合法的な攻撃目標となる。「自由出撃」を許す日本は、アメリカのための「自動交戦国」である。

2.伊勢崎賢治のまとめ

 伊勢崎賢治は、「日本人は、今一度、鏡に映った自身の姿を見つめるべきだ。親米保守は、アメリカの行動のリスクを内包できない、同盟国にはあるまじき国防の「無主権」を。反米リベラルは、「九条の平和」の本当の姿を。なぜ、現代の国際関係では当たり前のこの「文化」が、日本に到達していないのか?朝鮮半島を基点とするこの圏域では、いまだ「冷戦」が継続しているからだ。」、とこの中でまとめる。
 また、次のように指摘する。

①朝鮮国連軍。38度線で北朝鮮/中国に対峙しているのはアメリカ/韓国軍ではない。“国連”である。拒否権を持つ中国を安保理に擁する現在の「国連」ではありえない終戦直後の国連軍である。本土から一万キロも離れたこの地域に国外最大の軍事拠点を置くアメリカに、「国際益」を装う機会を与え続ける冷戦の遺物である。
②戦後、日本が正式に国連加盟国になる前の1954年、日本は、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアなど9カ国と「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」を結んでいる。この朝鮮国連軍地位協定は、日米地位協定と連動し、横田を含む7つの在日米軍基地が、この国連軍の使用に指定されている。つまり、「米朝開戦」は「“国連”朝開戦」であり、その開戦の意思決定に日本は含まれず、開戦と同時に日本は北朝鮮にとっての合法的な攻撃目標となる。「自動交戦国」の根源はここだ。
③日本は、「冷戦」の終結をじっと待つのか。それとも、国際法で保障されている国防の主権を盾に、現代の「国連」が匙を投げている“国連軍”の解体を主体的に推し進めるのか。本調査が次の訪問先にあげている韓国で、協働できる可能性を探って欲しい。



by asyagi-df-2014 | 2019-05-10 07:16 | 本等からのもの | Comments(0)

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