琉球新報の連載。「沖縄フェイクを追う~ネットに潜む闇」を読む。~(1)

 琉球新報(以下、「新報」)は2019年1月1日、「沖縄フェイクを追う~ネットに潜む闇」の連載を始めた。
この連載を読む。
 「新報」は、「18年9月30日投開票の県知事選で、真偽不明の情報や中傷的な情報を流した二つのサイトに注目し、取材を進めていた。」、という。
そのサイトは、「沖縄県知事選挙2018」「沖縄基地問題.com」。
 「新報」(2019年1月1日)の報告は、次のように始められる。


(1)大企業の本社が点在する立地と、周辺のビル群に溶け込んだ外観から集合住宅だと気付く人はどれほどいるだろうか。JRの駅にも近く、列車の音もひっきりなしに聞こえるが、その建物の周辺だけは、なぜか時間が止まったように静かだった。玄関口を入ると、両側にびっしりと並んだ郵便受けが飛び込んできた。10階建てで、住宅部分は独立行政法人が運営するが、すでに取り壊しが決まっている。
(2)物件情報によると、3階まではテナントとして利用され、4階以上に約400の賃貸住宅があるとされる。だが、壁に掛けられた居住人の名簿には、半分ほどの名しか残っていない。名簿、郵便受けの名前を丹念に見ていったが、目当ての男性の名はなかった。
(3)虚偽の住所か―。人けのない薄暗いフロアで、しばし立ち尽くした。
(4)11月初旬に発足した琉球新報ファクトチェック取材班は、18年9月30日投開票の県知事選で、真偽不明の情報や中傷的な情報を流した二つのサイトに注目し、取材を進めていた。「沖縄県知事選挙2018」「沖縄基地問題.com」。ネット上に残るサイトの情報を追うと、二つとも1人の男性の氏名で登録されていた。ここでは仮に「M」と呼ぶ。港区芝の集合住宅はMが「沖縄基地問題.com」で住所として記載していた建物だ。
(5)「沖縄県知事選挙2018」の登録住所は東京都荒川区東尾久のマンションの4階の部屋になっていた。しかし8年前に取り壊され、今は3階建ての別のマンションが立つ。大家にMの名について心当たりがないか訪ねた。しかし「管理会社に任せているから」と答えるだけだった。Mが登録していた電話番号に掛けると、一つは女性の声で「違う」と否定された。もう一つの電話番号に掛けると「この番号は現在使われておりません」と機械的なメッセージが返ってきた。ただ、古い電話帳をめくると手掛かりがあった。9年前に荒川区東尾久の登録住所で、Mと同じ姓名で電話番号が登録されていた。だが、この番号もすでに使われていなかった。実際に、このMがサイトを運営していたのか、第三者に名前や電話番号を使われたのか、分からないまま、消息は途絶えてしまった。
(6)迫っても、迫っても届かなかった「覆面の発信者」。目の前の闇が広がっていく気がした。
(ファクトチェック取材班・池田哲平、滝本匠、宮城久緒、)


 これに続いて、「新報」は2019年1月3日、この「覆面の発信者」について、報じた。
 

(1) 一通の転送メールが本紙記者の元に届いた。沖縄県知事選挙が告示される6日前の2018年9月7日だった。メールの内容は県知事選への立候補を予定していた玉城デニー氏(現沖縄県知事)が過去にある反社会的行動に関わったという内容のものだった。情報の出どころは一切書かれていない。だが、メールには何人もの固有名詞が書かれていた。詳細な記述もあり、事情をよく知っているかのような文面だった。
(2)ある反社会的行動とは「大麻吸引」だ。メールの冒頭には「玉城デニーの大麻疑惑」と記されていた。35年前に働いていたとされる会社で、大麻を吸っていた社員が複数いたとし、その中の一人が玉城氏だった、と記述している。
(3)情報を基に琉球新報の知事選取材班は、玉城氏の行為を把握していたとされる「当時の親会社代表」や「当時の社長」として名前が挙げられた2人の人物に取材した。2人とも完全否定し「全部うそだ」「勝手に名前を使われた」と困惑気味に話した。
(4)玉城氏本人にも取材した。大麻吸引の有無とこの会社の勤務経験があるかを問うと「大麻を吸引したこともないし、この会社で勤務した事実もない」と明確に否定した。
(5)本紙記者に転送メールを送ったのは、県外の新聞社に勤める記者だった。聞くと、県外の複数のメディアの記者に送りつけられたメールで、回り回って入手したようだ。元の発信先はたどることができなかった。この記者は送られてきたメールを「メール爆弾」と呼んだ。
(6)メールには情報提供者として「県内経済団体関係者」と記されていた。だが、選挙取材の期間中を含め、現時点でもこの「県内経済団体関係者」が何者なのか、実在するのかも含めて分かっていない。
(7)告示前には「大麻吸引」の他にも、玉城氏を対象にした根拠不明の言説が飛び交い、本人の元にも届いていた。玉城氏側は9日、犯罪に関与したかのような書き込みについて被疑者不詳のまま、那覇署に名(めい)誉(よ)毀(き)損(そん)の疑いで告訴状を提出した。
(8)告訴の後も「大麻吸引」に関する言説の流布は途絶えることはなかった。それどころか、多くのサイトやブログに疑惑として取り上げられ、さらにツイッター(短文投稿サイト)でも数多く発信され、大規模に拡散された。玉城氏は9月24日に、ツイッターで「大麻→事実無根」と発信した。選挙期間中だっただけに、たとえ、フェイク(偽)であったとしても影響を無視できなかったようだ。
(9)「大麻吸引」の言説を最初に発信したネット上の媒体はどれだったのか。琉球新報がネットを調べ、たどりついたのは「2018年沖縄県知事選について考えるブログ。」と題したブログだった。内容は県外新聞社の記者に送られてきたメールの内容とほぼ一緒だった。さらにどこで入手したのか、玉城氏の若い頃の写真も掲載されていた。
(10)最初に「大麻吸引」の件が掲載されたのは2018年9月12日だ。報道関係者に「大麻疑惑」のメールが出回ったのは9月7日だった。ブログ掲載より5日早い。ブログとメールの「覆面の発信者」は同一人物か、それとも別人か、現時点でも判明していない。
 (ファクトチェック取材班・宮城久緒)
(11)玉城デニー氏(現沖縄県知事)に対する「大麻吸引」のフェイク(偽)記事は「沖縄県知事選について考えるブログ。」が9月12日に初めて発信した。それ以前に取り上げたサイトやブログは確認できなかった。そして5日後の9月17日、保守系のサイトが追い掛けるように「玉城デニー候補が過去に大麻疑惑?」という記事を掲載した。この記事がきっかけとなり、ネット上で広く拡散されていくことになった。記事では「キナ臭い記事を発見しました」と書き出し、「沖縄県知事選について考えるブログ。」の記述を引用している。さらに翌18日、このサイトの記事を別の保守系の組織が、ブログで引用して取り上げた。
(12)ツイッターでは告示日前日の12日から16日までは「大麻」疑惑に関する投稿はほぼ確認されていない。ところが保守系サイトが取り上げた17日に23人が一斉に投稿した。翌18日には57人に増えた。さらに翌日の19日には、東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)の番組「ニュース女子」で出演を重ねている評論家がツイッターで発信した。「ニュース女子」は北部訓練場のヘリパッド建設問題で、反対する人々をテロリストに例えて放送し、放送倫理・番組向上機構(BPO)に「重大な放送倫理違反」を指摘された。
(13)この評論家は、基地建設に反対する人々を敵視しているとみられる人々から、著名人として一定の支持を受けている。評論家がツイッターに投稿したことを受け、即日でツイッター引用や再投稿する登録者が最多の85件も確認できた。
(14)その後も投稿が繰り返され、拡散が続いた。投開票日前日の29日まで連日、10~60件の投稿が確認できた。複数のサイトやブログでの引用が重なり、最初に発信された言説が大量に増殖し、広く流布されていく様子が見て取れた。「沖縄県知事選について考えるブログ。」は現在、閉鎖されており、見ることはできない。
(15)「ネット右翼」に詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「扇動的な情報がネットでは勢いを持つ。退屈なものはウケない」と指摘する。その上で「著名人がデマの拡散、流布に加担している。そういう人が加担することでガセ(うそ)も真実に近く見えてしまう」と拡散の構造を説明した。
(16)ツイッターではサイトやブログの内容を踏まえ「デマと言うなら説明しろ」などと主張し、証拠のない言説に対する説明責任が玉城氏にあるかのように詰め寄る「詭弁(きべん)」とも受け取れる言説が繰り返された。ネットでは警察に告訴されることや裁判になることを警戒してか、フェイクと判断できる表現は避ける傾向がみられる。あいまいな表現ではあるが、対象となる特定の人物に対し、疑いを生じさせる内容で発信し、大量に拡散させることで打撃を与えている。そのような卑怯(ひきょう)な手段がツイッターなどSNS(会員制交流サイト)を通じてネットでは横行し始めている。そのきっかけになっているのが「覆面の発信者」だ。
 (ファクトチェック取材班・宮城久緒、安富智希)




by asyagi-df-2014 | 2019-01-13 09:00 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
画像一覧
更新通知を受け取る