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沖縄県の民意を確認する。(3)

 沖縄タイムスは、2018年10月1日、玉城デニー氏の初当選を次のように報じた。


「第13回県知事選は30日投開票され、無所属新人で「オール沖縄」勢力が推す前衆院議員の玉城デニー氏(58)が過去最多となる39万6632票を獲得し、初当選を果たした。玉城氏は、8月に急逝した翁長雄志前知事の後継候補として名護市辺野古の新基地建設阻止や自立型経済の発展などを訴え、政府、与党が全面支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=を8万174票の大差で破った。県民が改めて辺野古新基地建設に反対の意思を明確に示した形だ。玉城氏は4日に知事に就任する。」


 今回の選挙戦の結果が伝えるものは、一つの沖縄の大きな民意である。
 この民意は、「沖縄でよかった」と言いつのる日本国民への異論でもある。
 沖縄の民意を、10月1日付けの各紙の社説等で確認する。
 実は、もう読売は取りあげるに値しないと考えているのだが、読売の社説があまりにひどいので、北海道新聞社説-「沖縄知事選 新基地拒否で県政継続」-及び京都新聞社説- 「沖縄に新知事 『基地』」に新たな視点を」-、と読売新聞社説とを比較する。


 三紙をまとめると、次のようになる。


Ⅰ.事実

(北海道新聞)
(1)沖縄県知事選はきのう投開票され、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する自由党前衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が勝利した。この結果は「辺野古移設が唯一の解決策」として新基地建設を強行し続ける安倍晋三政権の高圧的なやり方に、改めて「ノー」を突きつけたものと言える。
(2)玉城氏は新基地阻止を訴えてきた翁長雄志(おながたけし)知事が8月に急逝したことを受け、その後継として出馬し、保守、革新の枠を超えた「オール沖縄」勢力の支持を受けた。

(京都新聞)
(1)県民は、辺野古移設に改めて「ノー」を突き付けた。

(読売新聞)
(1)沖縄県知事選が投開票され、野党が支援した玉城デニー・前衆院議員が、自民、公明など4党推薦の佐喜真淳・前宜野湾市長らを破り、初当選した。
(2)米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画について、玉城氏は「何が起きても基地は造らせない」と強調した。亡くなった翁長雄志・前知事の「弔い選挙」と陣営が訴えたことも、支持を広げた要因だろう。自公両党は、多くの国会議員が沖縄入りし、総力を挙げて佐喜真氏を支持した。敗北は安倍政権にとって痛手である。


Ⅱ.選挙結果が見せたもの

(北海道新聞)
(1)移設反対の声が広がった背景には、安倍政権が米軍基地の県内移設を推進するため、経済振興を絡めて、アメとムチとも言える「上から目線」のやり方を続けていることへの怒りがある。国は県民の分断を招くような手法は改める必要があろう。
(2)政権与党が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳(さきまあつし)氏は、国とのパイプを強めて経済に力を注ぐと強調し、一定の支持を集めた。沖縄は県民所得、有効求人倍率ともに全国最低水準という経済状況にある。次期県政は経済振興を求める県民の声にも応える責任を負うことになろう。
(3)佐喜真陣営の訴えには、分かりづらさも多かった。普天間基地の返還が重要だとしながら、辺野古移設の是非にはあえて言及しなかった。推薦を受けた自公両党が辺野古移設を進める中で「争点隠し」とも言える主張に反発もあったのではないか。
(4)公明党は、本部が政権と歩調を合わせながら、県本部は普天間の県外移設を求めた。こうした足並みの乱れも影響したとみられる。

(京都新聞)
(1)きのう投開票された知事選は、自由党衆院議員だった玉城氏と、前宜野湾市長で自民、公明、維新、希望の各党が推す佐喜真淳氏の事実上の一騎打ちだった。佐喜真氏の敗北は、安倍晋三政権が進める移設に対し、県民の抵抗感が根強いことを改めて示した。
(2)選挙戦で玉城氏は辺野古移設反対を前面に掲げ、翁長氏の「弔い合戦」を印象づけた。保守層の取り込みを念頭に政党色を抑えた。佐喜真氏は辺野古移設の是非を明言せず、経済振興と普天間飛行場の早期移転を訴えた。移設問題の争点化を避けたといえる。それでも移設問題は選挙戦の大きなテーマだった。共同通信による選挙中盤の世論調査では、玉城氏支持層の8割強が移設に反対、佐喜真氏支持層も3割強が反対だった。勝敗にかかわらず、こうした県民の拒否感は否定できない。


Ⅲ.主張

(北海道新聞)
(1)国は、県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回に対し、法廷闘争などに踏み切るべきではない。工事を中止し、県側と真摯(しんし)に向き合わねばならない。
(2)沖縄の現状で忘れてならないのは、米兵・米軍属の事件が後を絶たないことである。選挙戦で玉城、佐喜真両氏はともに在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定の必要性を訴えた。全国知事会も協定を抜本的に見直すよう提言している。こうした声を受け、国は協定の改定に向けて取り組むべきだ。
(3)沖縄には国内の米軍専用施設の7割が集中している。その負担軽減こそが沖縄が求める声である。国が説得すべき相手は沖縄ではない。米国だ。首相は「沖縄に寄り添う」と言い続けている。ならば行動で示してもらいたい。

(京都新聞)
(1)安倍政権は重く受け止めてほしい。同時に、国民全体も沖縄の意思を理解しなければならない。
(2)だが、安倍政権は選挙結果に関わりなく移設を進める方針だ。県が辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回したことへの対抗措置をとるとみられ、再び県と政府の全面的な法廷闘争が続くことになる。地元の民意を切り捨てる形で移設手続きを強行すれば、県と国だけでなく県民同士の分断がますます進むことになりかねない。
(3)米軍基地が安全保障面で重要であればこそ、安倍政権は米国や他府県とも協議して、沖縄の重い負担を軽減するためのあらゆる可能性を探るべきだ。まずは、新知事と誠実に向き合ってほしい。
(4)基地を沖縄だけの問題にせず、日本全体の課題として考えようとの機運が生まれている。米朝関係の改善など東アジア情勢が大きく動く今こそ、基地の必要性も含め、新たな視点で基地問題をとらえ直す好機ではないか。安倍首相は沖縄の現状から目をそらさず、事態打開に踏み出してほしい。


(読売新聞)

(1)国との対立をあおるだけでは、県政を率いる重要な役割を果たせまい。新知事は、基地負担の軽減や県民生活の向上に地道に取り組むべきだ。
(2)玉城氏が反対の立場を貫けば、移設工事の停滞は避けられない。日米両国は、早ければ2022年度の普天間返還を目指しているが、工事は大幅に遅れている。政府は、計画の前進に向けて、県と真摯しんしな姿勢で協議するとともに、着実に基地の再編や縮小を進めなければならない。
(3)翁長県政は、辺野古の埋め立て承認の取り消しや、工事差し止め訴訟などで計画を阻止しようとした。司法の場で翁長氏の主張は認められていない。県は8月、埋め立て承認を撤回した。政府は近く、裁判所に撤回の執行停止を申し立てる方針である。基地問題を巡って国と争いを続けることに、県民の間にも一定の批判があることを玉城氏は自覚しなければならない。
(4)選挙戦で玉城氏は、普天間の危険性除去の必要性も訴えていた。辺野古への移設は、普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢である。日本の厳しい安全保障環境を踏まえれば、米軍の抑止力は不可欠だ。基地負担を減らすとともに、住民を巻き込んだ事故が起きないようにする。そのために、どうすべきなのか、玉城氏には冷静に判断してもらいたい。
(5)玉城氏を推した野党は、辺野古への移設計画について、「違う解決策を模索する」と反対する。具体的な案を示さずに普天間返還を実現するという主張は、かつての民主党の鳩山政権と同じで、無責任のそしりを免れない。
(6)知事の立場は、野党議員とは異なる。沖縄の発展に重い責任を負うからには、県民所得の向上や正規雇用の拡大に向けて、総合的に施策を推進する必要がある。政府との緊密な連携が欠かせない。


 不思議な感覚を抱いている。
 北海道新聞や京都新聞にあって読売新聞にはないものがある。
 読売の社説には、全く沖縄県知事選挙結果のことが触れられていない。
沖縄県民の選択、それは『民意』というものだが、その選択に込められた苦渋、焦燥、恐怖、苦悩、理想といったジャーナリズムが本質的に汲み取らなけねばならないものをあえて無視している。
例えば、「選挙戦で玉城氏は、普天間の危険性除去の必要性も訴えていた。辺野古への移設は、普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢である。」と言いきる根拠は、どこから来るというのか。
 今回の選挙結果は、「唯一の現実的な選択肢」と言い続ける安倍晋三政権への「否」の宣言であったはずなのにである。それは、沖縄県民は、辺野古新基地建設は求めないということである。この場合、普天間の危険除去は、徒然当たり前の前提である。
 ここには、普天間の問題と辺野古新基地建設を直接結びつけるという、日本政府の悪質なトリックをそのまま利用する欺瞞がある。
 まして、「日本の厳しい安全保障環境を踏まえれば、米軍の抑止力は不可欠だ。」「基地負担を減らすとともに、住民を巻き込んだ事故が起きないようにする。そのために、どうすべきなのか、玉城氏には冷静に判断してもらいたい。」、とのあきれた主張は、現在の新しい東アジアの安全保障の動きや、米軍基地問題解決の責任は日米両政府の基にあるということを無視したものであるに過ぎない論調である。
いや、むしろ、安倍晋三政権に責任はないと言いたいがために、無理矢理理屈を重ねているとしか受け取れない。
 さらに、読売新聞の「基地問題を巡って国と争いを続けることに、県民の間にも一定の批判があることを玉城氏は自覚しなければならない。」、との指摘そのものが、「全く沖縄県知事選挙結果のことが触れられていない。」ことの反証である。


 ここで、北海道新聞と京都新聞の主張を再掲する。
 これだけで、読売への反論に充分である。


(1)「辺野古移設が唯一の解決策」として新基地建設を強行し続ける安倍晋三政権の高圧的なやり方に、改めて「ノー」を突きつけたものと言える。(北海道新聞)
(2)県民は、辺野古移設に改めて「ノー」を突き付けた。(京都新聞)
(3)経済振興を絡めて、アメとムチとも言える「上から目線」のやり方を続けていることへの怒りがある。国は県民の分断を招くような手法は改める必要があろう。(北海道新聞)
(4)沖縄の現状で忘れてならないのは、米兵・米軍属の事件が後を絶たないことである。選挙戦で玉城、佐喜真両氏はともに在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定の必要性を訴えた。全国知事会も協定を抜本的に見直すよう提言している。こうした声を受け、国は協定の改定に向けて取り組むべきだ。(北海道新聞)
(5)沖縄には国内の米軍専用施設の7割が集中している。その負担軽減こそが沖縄が求める声である。国が説得すべき相手は沖縄ではない。米国だ。首相は「沖縄に寄り添う」と言い続けている。ならば行動で示してもらいたい。(北海道新聞)
(6)米軍基地が安全保障面で重要であればこそ、安倍政権は米国や他府県とも協議して、沖縄の重い負担を軽減するためのあらゆる可能性を探るべきだ。まずは、新知事と誠実に向き合ってほしい。(京都新聞)
(7)基地を沖縄だけの問題にせず、日本全体の課題として考えようとの機運が生まれている。米朝関係の改善など東アジア情勢が大きく動く今こそ、基地の必要性も含め、新たな視点で基地問題をとらえ直す好機ではないか。安倍首相は沖縄の現状から目をそらさず、事態打開に踏み出してほしい。(京都新聞)


 ここで、もう一つの反証。
 琉球新報は2018年10月3日、「辺野古再考促す 米NYタイムズ、玉城氏知事当選で社説」、と次の記事を掲載した。


①「【ワシントン=座波幸代本紙特派員】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は1日、米軍普天間飛行場移設に伴う沖縄県名護市辺野古の新基地建設計画に反対する玉城デニー氏の県知事選当選を受け『沖縄の米軍駐留を減らすために」と題した社説を掲載し「日米両政府は妥協案を見いだすべきだ』と新基地計画の再考を促した。」
②「同紙は、日本政府がこれまで沖縄に対し、『アメとムチ』で新基地建設を受け入れさせようとしてきたが『沖縄の人々は何度も何度も、新しい基地は要らないと答えてきた。彼らは既に過重な米軍を受け入れていると考えている』と指摘した。」
③「その意思は玉城氏が知事に選ばれたことで非常に明確に示されたとし『安倍晋三首相に迫られた決断は、最高裁で玉城氏が司法の場に訴える【反対】を全て退けるか、(もっと前にやるべきだったが)沖縄の正当な不満を受け入れ、負担を軽減する、あまり面倒でない方法を探すことだ』と提起した。」
④「また、米軍は『沖縄の兵たん、航空、地上部隊を日本の他の場所に分散させると、東シナ海での迅速な対応能力を低下させる』と主張するが、日本と地域の安全保障のために、不公平、不必要で、時に危険な負担を県民に強いてはいけないと説明した。その上で安倍首相と米軍司令官は、公平な解決策を見いだすべきだと主張した。」


 どうだろうか。
 「読売の社説には、全く沖縄県知事選挙結果のことが触れられていない。」、という意味は、米紙ニューヨーク・タイムズの社説一つを見ても理解できるではないか。
 米紙ニューヨーク・タイムズは、沖縄知事選について、「日本政府がこれまで沖縄に対し、『アメとムチ』で新基地建設を受け入れさせようとしてきたが『沖縄の人々は何度も何度も、新しい基地は要らないと答えてきた。彼らは既に過重な米軍を受け入れていると考えている』。・・・その意思は玉城氏が知事に選ばれたことで非常に明確に示されたとし『安倍晋三首相に迫られた決断は、最高裁で玉城氏が司法の場に訴える【反対】を全て退けるか、(もっと前にやるべきだったが)沖縄の正当な不満を受け入れ、負担を軽減する、あまり面倒でない方法を探すことだ』」、と指摘する。


 こう並べてみると、読売がその使命を放棄しているのがよくわかる。


by asyagi-df-2014 | 2018-10-13 09:02 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

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