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安倍晋三政権と沖縄

 2018年9月30日。
 沖縄県知事選挙という大きな節目を迎える。またもや、沖縄にその命運を委ねるのかという忸怩たる想いの中で、
 OKIRONで、宮城大蔵上智大学教授は、「安倍政権の『幕引き』と沖縄上・下」を著し、安倍晋三政権と沖縄について次のように指摘した。
 一部を紹介する。


(1)さて、このように「キャッチフレーズ羅列」の第二次安倍政権の中にあって異彩を放つのが、実行ありきとばかり突き進んできた普天間・辺野古問題である。強固な政権基盤という安倍政権が手にした政治的資産は、消費税や社会保障をめぐる国内合意の調達といったハードルの高い問題には振り向けられず、その一方で辺野古新基地に反対して登場した翁長雄志県政を圧迫することには徹底的かつ熱心に用いられた。
(2)その手法も一括交付金の増減に始まり、強引な法解釈や県や名護市を頭越しにした集落単位への補助金交付など、実に芸が細かい。安全保障環境の変容に応じた態勢整備といった「大きな絵」は語られず、もっぱら「唯一の解決策」という決まり文句の反復ばかりである。細々とした微細な工作に用いる政治的エネルギーを、もう少し国政指導者に相応しい、歴史と国際情勢を踏まえた大局的な政治に向けられないものか。
(3)そんな歯がゆさを感じていたのだが、なるほど考えてみれば普天間・辺野古問題に安倍首相が直接的に関わった気配はほとんどない。もっぱら菅義偉官房長官の管轄する問題となってきた。上述のような日常業務的な手練手管も、同氏のキャラクターの反映なのであろう。
(4)菅氏にとっては、「県外移設」の公約を翻させ、水面下で「話しをつけた」はずの仲井真弘多前知事を選挙で下して登場した翁長知事と協議に応じることは、自らの政治手法の否定につながりかねず、自らの権勢を掘り崩す「蟻の一穴」と見えたのであろうか。また、翁長氏との感情的なしこりもあっただろう。だが結果として、菅氏が主導した強硬一辺倒の対応が、この問題を必要以上にこじらせてしまったことは確かである。筆者もこの問題について、自民党の重鎮が「官房長官がねえ・・・」と漏らすのを耳にしたことがある。


 また、沖縄知事選挙については、次のように触れる。


(1)自公が異例のテコ入れをする佐喜真淳候補、翁長知事の遺志を継ぎ、「オール沖縄」を標榜する玉城デニー候補。だが、どちらの候補が勝っても、普天間・辺野古をめぐるこれまでの政府側の強硬策は見直しを迫られるのではないか。そのとき安倍首相は・・・。
(2)折しも9月30日に翁長後継を選ぶ沖縄県知事選挙が実施される。官房長官は危機対応の要として東京を離れないというのが歴代政権での慣行であるが、菅氏はこれを顧みず、再三にわたって選挙応援のために沖縄入りしている。それ自体が問題のはずだが、それだけ同氏も必死なのであろう。とはいえ、仮に政権側が推す佐喜真淳氏が当選したとしても、各種世論調査によれば県民の7割前後は辺野古新基地に反対である。政権側の強硬策を丸呑みするようでは、佐喜真氏も知事としてもたないのではないか。また、同氏を推薦し、支持母体の創価学会ともどもひときわ熱心に選挙運動をしている公明党だが、公明党県本部は「県外移設」を維持したままという事情がある。安倍政権も、政敵と化した翁長知事相手だったので問答無用の強硬姿勢をとってきたが、佐喜真氏が知事となれば、何らかの対応が必要になるのではないだろうか。
(3)逆に玉城デニー氏が当選となれば、国政レベルでも安倍政権への打撃は甚大である。求心力の衰えが加速する中で、辺野古新基地だけは強引に推進という異様さがどこまで維持できるだろうか。また、当面は無理に工事を進めても、いずれ設計変更に伴う知事の承認は不可避で、工事が行き詰まる可能性は高い。そもそも地元の知事と全面対立しながら工事を進めていることが異常なのである。
(4)こうしてみれば今回の県知事選挙は、政権側の強引な対応によってこじれてしまった普天間・辺野古問題を本来の軌道に載せる好機だといえる。本来の軌道とは、政府と県が十分な協議を通じてどのようなものであれば沖縄にも受け入れ可能なのかを探り出す作業である。それが本来、政治が果たすべき役割なのである。


 宮城大蔵上智大学教授は、安倍晋三について、こう指摘する。


(1)大規模な金融緩和からの出口の難しさを考えれば、安倍政権の看板政策である「アベノミクス」が、負の遺産としてはともかく、肯定的な意味で歴史に残ることはないだろう。日露交渉も拉致問題も行き詰まり、憲法改正も「言っただけ」で後を継ぐ後継者も見当たらない。荒涼たる光景の中で、沖縄の抵抗を押し切って辺野古新基地を建設することが、安倍政権の代表的な「実績」になるのだろうか(もっとも、現政権のうちに新基地が完成することはあり得ないのだが)。多くの問題点が指摘される中で強引に成立させたという点では、先日のカジノ法案も思い起こされる。「辺野古とカジノが置き土産」などと揶揄されては、安倍首相もいたたまれないであろう。
(2)安倍首相が敬愛してやまない祖父・岸信介の代表的な業績といえば日米安保改定(1960年)である。安保改定といえば、なんといっても戦後最大の抗議運動が耳目をひくが、改定された条約の内容自体は、在日米軍の出動に関わる事前協議制度の導入など、日米をより対等な関係に近づけるものであった。また、岸は「両岸」と揶揄されたように、イデオロギーや立場を越えて気脈を通じる老練さと奥深さを備えていた。
(3)そして岸の弟、すなわち安倍首相の大叔父にあたる佐藤栄作は、沖縄返還を悲願として、その実現に政治生命をかけた。戦後の首相として初めて沖縄を訪れた際(1965年)、佐藤が那覇空港で述べた「沖縄が本土から分かれて20年、私たち国民は沖縄90万のみなさんのことを片時たりとも忘れたことはありません」「沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国にとって戦後が終わっていないことをよく承知しております」というスピーチは、戦後政治史を代表する演説であった。
(4)その血脈を継ぎ、保守を掲げる安倍首相である。保守の根幹とは、歴史と国民統合である。引くに引けなくなった官房長官と一蓮托生となってアメリカの一基地の返還・移設をここまで政治化し、一部における沖縄ヘイトの風潮まで生み出してしまったことについて、安倍首相は、内心では不本意なのではなかろうか。しかし、仮にそうであったとしても、この政権下での施策はすべて、安倍首相の名前で歴史に刻まれる。


 だから最後に、宮城大蔵上智大学教授は、締めくくる。


「今からでも遅くはない。知事選後という好機に、普天間・辺野古問題を本来の軌道に載せるべく、指導力を発揮して欲しい。このままではいずれ天上で祖父や大叔父に対面したとき、彼らがなした政治的営為に、深く傷をつける軽率な政治であったと白眼視されるのではないか。だから本稿【上】の冒頭のように思うのである。『本当にそれでいいのですか?』」


 宮城大蔵上智大学教授の「荒涼たる光景の中で、沖縄の抵抗を押し切って辺野古新基地を建設することが、安倍政権の代表的な『実績』になるのだろうか」との指摘は、心情的には思うところもある。
 また、安倍晋三に関しての「安全保障環境の変容に応じた態勢整備といった『大きな絵』は語られず」「なるほど考えてみれば普天間・辺野古問題に安倍首相が直接的に関わった気配はほとんどない。」、との批判は頷くところである。
 だからこそ、今、沖縄について考える時なのだ。
 さらに、「菅の必死な理由とは」の指摘は、「菅氏にとっては、『県外移設』の公約を翻させ、水面下で『話しをつけた』はずの仲井真弘多前知事を選挙で下して登場した翁長知事と協議に応じることは、自らの政治手法の否定につながりかねず、自らの権勢を掘り崩す『蟻の一穴』と見えたのであろうか。」、との指摘にこれまた頷く。




by asyagi-df-2014 | 2018-09-30 07:01 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人