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日本の死刑制度を考える。

 日本弁護士連合会(以下、日弁連。)は2018年7月6日、「死刑執行に強く抗議し、直ちに死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める会長声明」、との日弁連会長声明を出した。
 この期に、この声明で、日本の死刑制度を考える。
日弁連会長声明は、「本日、東京拘置所において3名、大阪拘置所において2名、広島拘置所において1名及び福岡拘置所において1名の合計7名に対して死刑が執行された。そのうち6名が再審請求中であり、心神喪失の疑いのあるものも含まれている。昨年8月就任以降、上川陽子法務大臣による2回目の執行であり、第2次安倍内閣以降、死刑が執行されたのは、13回目で、合わせて28名になる。」、との指摘で始まる。


 今回の死刑執行の法的問題点について、次の指摘を挙げる。


(1)「特に日本では、1980年代に4件の死刑事件について再審無罪が確定しており、袴田事件も、東京高等裁判所で静岡地方裁判所の再審開始決定が取り消されたものの、弁護側の特別抗告により最高裁判所における審理が続くことになる。これらの事件は、誤判・えん罪の危険性が具体的・現実的であることを、私たちに認識させるものであった。死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権が保障されるべきであり、再審請求中の死刑確定者に対する死刑の執行はこの観点からも問題の残るものである。」
(2)「また、今回執行された死刑確定者の中には、当連合会が、2018年6月18日付けで、心神喪失の状態にある疑いが強いので、死刑の執行を停止するよう、法務大臣に対し人権救済申立事件の勧告をしたものが含まれている。同勧告で述べたとおり、死刑確定者について、適正手続保障の観点から、法務省から独立した機関において、心神喪失の状態にあるか否かを判定する必要があるが、そうした法整備がなされないまま、法務大臣の命令により執行がなされた。」


 次に、日本国民世論の動向とOECD加盟国での死刑制度の現状について、指摘する。


(1)「内閣府が2014年11月に実施した世論調査で、『死刑もやむを得ない』とした80.3%の回答者への追加質問では、そのうち40.5%が『状況が変われば将来的には死刑を廃止してもよい』と回答している。また、終身刑を導入した場合の死刑制度の存廃について、終身刑が導入されるならば、『死刑を廃止する方がよい』という回答も全回答者の37.7%に上っている。死刑についての情報が十分に与えられ、死刑の代替刑も加味すれば、死刑廃止を容認する国民世論が形成可能であることを認識しておく必要がある。」
(2)「2017年12月現在、142か国が法律上あるいは10年以上死刑を執行していない事実上の廃止国であり、うち106か国が全ての犯罪について死刑を廃止している。OECD加盟国のうち、死刑を存置しているのは、日本・韓国・米国の3か国だけであるが、韓国は10年以上死刑執行をしていない事実上の死刑廃止国であり、米国は2017年10月時点で19州が死刑を廃止し、4州が死刑執行モラトリアム(停止)を宣言している。したがって、死刑を国家として統一して執行しているのは、OECD加盟国のうちでは日本だけという状況にある。」


 日弁連会長声明は、こした指摘の基に、「死刑執行に強く抗議し、直ちに死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める」との声明の根拠を次のように示す。


(1)「このように、国際社会においては死刑廃止に向かう潮流が主流であり、日本を含め死刑制度を残し、現実的に死刑を執行している国は、世界の中では少数になってきている。国連の自由権規約委員会(1993年、1998年、2008年、2014年)、拷問禁止委員会(2007年、2013年)及び人権理事会(2008年、2012年)は、死刑の執行を繰り返している日本に対し、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を出し続けている。今回の執行に対しても国際的な批判や懸念が表明される可能性がある。」
(2)「2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック及び国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が近づくにつれ、多数の国家、国民の注目が日本に集まってきている。このような時期に死刑を執行することは、日本に対する国際評価に影響することも考慮する必要がある(この旨を含んだ2018年3月29日付けの「死刑執行停止を求める要請書」を法務大臣に提出している。)」


 最後に、日弁連会長声明は、「本日の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑を廃止するまで全ての死刑執行を直ちに停止した上で、2020年までに死刑制度を廃止するよう求める次第である。」、と次のように要求する。


「当連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、『死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言』を採択し、日本政府に対し、日本においてコングレスが開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることなどを求めてきた。死刑が生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害であることに政府は目を向ける必要がある。当連合会は、本日の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑を廃止するまで全ての死刑執行を直ちに停止した上で、2020年までに死刑制度を廃止するよう求める次第である。」


 確かに、この声明で日本の死刑制度を考える時、次のことを確認する。


Ⅰ.日本の裁判制度のなかで、誤判・えん罪の危険性が具体的・現実的であること。
Ⅱ.死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権が保障されるべきであり、再審請求中の死刑確定者に対する死刑の執行は問題の残るものであること。
Ⅲ.死刑確定者について、適正手続保障の観点から、法務省から独立した機関において、心神喪失の状態にあるか否かを判定することができる法整備が必要である。しかし、その整備が行われないままに法務大臣の命令により今回の死刑執行が行われたこと。
Ⅳ.日本においても、「死刑についての情報が十分に与えられ、死刑の代替刑も加味すれば、死刑廃止を容認する国民世論が形成可能であること」(会長声明)ということを把握する必要があること。
Ⅴ.死刑を国家として統一して執行しているのは、OECD加盟国のうちでは日本だけという状況にあること。
Ⅵ.「国連の自由権規約委員会(1993年、1998年、2008年、2014年)、拷問禁止委員会(2007年、2013年)及び人権理事会(2008年、2012年)は、死刑の執行を繰り返している日本に対し、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を出し続けている」(会長声明)状況を理解する必要があること。
Ⅶ.「2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック及び国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が近づくにつれ、多数の国家、国民の注目が日本に集まってきている。このような時期に死刑を執行することは、日本に対する国際評価に影響することも考慮する必要がある」(会長声明)こと。
Ⅶ.死刑執行が生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害であること。


 さて、日本の死刑制度を考えるために、最も必要なことは、「死刑執行が生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害であること。」との視点である。




by asyagi-df-2014 | 2018-07-19 05:44 | 人権・自由権 | Comments(0)

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