「働き方改革」法が成立。この問題をきちんと押さえるために。(1)

「働き方改革」法が成立。この問題をきちんと押さえるために。(1)


 「この国は、また壊された。」
「働き方改革」法案の成立は、上記のように捉えられるものでしかない。
 毎日新聞は2018年6月29日、このこと次のように報じている。


(1)「安倍政権が今国会の最重要課題と位置づける働き方改革関連法は、29日午前の参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。残業時間の罰則付き上限規制が初めて設けられる一方、反対の声が根強い『高度プロフェッショナル制度』(高プロ)が創設される。施行は原則2019年4月だが、制度の適用は企業の規模などにより時期が異なる項目もある。」
(2)「高収入の一部専門職を労働時間規制から外す高プロや残業時間の上限規制に加え、正規・非正規労働者の不合理な待遇差を禁じる同一労働同一賃金の導入が柱となっている。八つの労働法規の改正が一つに束ねられ、規制の強化と緩和の要素を抱き合わせにした形だ。性質の異なる法律の改正を、一括して審議する手法を用いた政府・与党の姿勢に批判の声が上がった。」
(3)「このうち高プロについて、野党は『長時間労働を助長し、過労死を増やす』として、法案からの削除を求めた。また、残業時間の規制は、最長『月100時間未満、複数月の平均で80時間』とする上限が過労死ラインにあたるとの指摘があったものの、見直されなかった。」
(4)「参院厚生労働委員会は、省令で定める高プロの対象業務の明確化などを政府に求める47項目の付帯決議をした。適用は、人手不足への配慮や制度運用までの準備期間として先延ばしにされる項目がある。残業時間の上限規制は中小企業は20年4月で、自動車運転業と建設業、医師は24年4月。同一労働同一賃金は大企業が20年4月、中小企業が21年4月となっている。 」
(5)「政府は当初、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす裁量労働制の対象拡大を法案に盛り込む考えだったが、厚労省のデータに多くの異常値が含まれる問題が発覚し、撤回に追い込まれた。」                                   【神足俊輔】


 やはり、この問題をきちんと押さえなくてはならない。
 今回は、読売新聞(以下、読売。)の社説を、朝日新聞(以下、朝日)と毎日新聞(以下、毎日)の社説で考えるというかたちをを取ってみた。
 まず、読売は、今回の「働き方改革」法の成立について、労働者側からの深刻な問題として出された「残業代がなくなることで、長時間労働が助長される、との不安も根強い。新制度は、対象者の健康確保措置を企業に義務付けている。適正な運用が求められる。」との問いかけには簡単に触れるだけで、「弊害が目立つ日本の労働慣行を見直し、多様な人材が能力を発揮して活躍できる環境を整える。その契機としたい。」、と高く評価する。
読売は、具体的には、その評価の観点として次の3点を挙げている。

Ⅰ.実質的に青天井だった残業時間に制限を設け、長時間労働を是正する。
Ⅱ.正社員との格差が大きい非正規労働者の処遇も改善する。
Ⅲ.働き方改革を通じて生産性を高め、企業の成長力強化につなげる視点が重要である。


 また、読売は、その根拠を次のように挙げている。


(1)「労働力人口が減る中、社会・経済の活力を維持するには、子育てや介護と仕事を両立できる働き方を広め、女性や高齢者らの労働参加を促すことが欠かせない。」
(2)「長時間労働の恒常化は、多様な人材の活躍を阻み、生産性を低下させてきた。過労自殺などの悲劇も招いた。低賃金で不安定な非正規雇用の拡大は、消費を低迷させ、少子化の要因にもなっている。」
(3)「残業の上限は、いわゆる『過労死ライン』ぎりぎりだ。『緩すぎる』との批判もあるが、上限いっぱいの残業を肯定する趣旨ではないことは、言うまでもない。」
(4)「関連法には、有給休暇の一部を企業の責任で付与する制度も盛り込まれた。終業と始業の間に一定時間を確保する『インターバル制度』の導入については、企業の努力義務とした。企業は労働時間削減に可能な限り努めるべきだ。」
(5)「同一労働同一賃金に関しては、雇用形態による不合理な格差の禁止をより明確にした。処遇差についての説明義務も企業に課す。労使で協議を重ね、正社員と非正規労働者の双方が納得できる処遇体系を構築してもらいたい。」
(6)「高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外す『脱時間給』(高度プロフェッショナル)制度も、新たに導入される。」


 さて、この読売の三点の判断に関することについて、朝日と毎日は次のように主張している。


Ⅰ.「実質的に青天井だった残業時間に制限を設け、長時間労働を是正する。」ということに関わって

(朝日新聞)
(1)「今回の法改正で、これまで労使が協定を結べば事実上無制限だった残業時間に、罰則付きの上限を設けることになったのは、働き過ぎ是正に向けた第一歩だろう。だが、この上限も繁忙月では100時間未満と、労災認定の目安ぎりぎりだ。さらなる時短の取り組みが欠かせない。」
(2)「『この制度は本人の同意が必要で、望まない人には適用されない』と、首相は繰り返す。それをどのように担保するのか。高プロと同じように、本人同意が条件になっている企画業務型の裁量労働制の違法適用が、野村不動産で昨年末に発覚したばかりだ。しかも、社員が過労死で亡くなるまで見抜けなかった。実効性のある歯止めをつくらねばならない。省令など今後の制度設計に委ねられる部分は、ほかにも多い。政府は、高プロを『自由で柔軟な働き方』とするが、使用者が働く時間や場所を指示してはならないという規定は法律にない。適用対象業務を含め、労働政策審議会での徹底した議論が必要だ。」

(毎日新聞)
(1)「残業時間については労働基準法が制定されて初めて上限規制が罰則付きで定められた。『原則月45時間かつ年360時間』『繁忙期などは月100時間未満』という内容だ。過労死ラインは月80時間とされており、規制の甘さも指摘されるが、現行法では労使協定を結べば青天井で残業が認められている。長時間労働が疑われる会社に関する厚生労働省の調査では、月80時間を超える残業が確認された会社は2割に上り、200時間を超える会社もある。甘いとはいえ残業時間の上限を法律で明記した意義は大きい。」


 このように、朝日も読売も、この点に関しては、「働き過ぎ是正に向けた第一歩」「甘いとはいえ残業時間の上限を法律で明記した意義は大きい。」、と評価する。
しかし、労働者保護を実施するための補償は何も担保されてはいない。
このような評価に値するものであるかは疑問である。


Ⅱ.「正社員との格差が大きい非正規労働者の処遇も改善する。」に関わって


 毎日新聞は、「日本の非正規社員の賃金は正社員の6割程度にとどめられており、欧州各国の8割程度に比べて著しく低い。このため『同一労働同一賃金』を導入し、非正規社員の賃上げなど処遇改善を図ることになった。具体的な内容は厚労省が作成する指針に基づいて労使交渉で決められる。若年層の低賃金は結婚や出産を控える原因にもなっている。少子化対策の面からも非正規社員の賃上げには期待が大きい。抜け道を許さないための厳しい指針が必要だ。」、と指摘する。
 しかに、今回の「働き方改革」法は、戦後のこの時期まで本来の『同一労働同一賃金』政策を否定してきた側が、自らが導入し拡大させてきた非正規雇用制度が、予想通りに大きな問題を顕在させてきたことにより、『同一労働同一賃金』との言葉だけを取りあげ、自らの失政政を取り繕うだけのものではないのか。


Ⅲ.「働き方改革を通じて生産性を高め、企業の成長力強化につなげる視点が重要である。」に関わって

(朝日新聞)
(1)「今回の改革の原点は、働く人たちの健康や暮らしを守ることである。その改革の実をどのようにあげるか。それぞれの職場の状況に応じた、労使の話し合いが重要となることは言うまでもない。」

(毎日新聞)
(1)「最も賛否が分かれたのは高プロの導入だ。年収1075万円以上の専門職を残業規制から外し、成果に応じた賃金とする制度である。本人が希望すれば対象から外れることになったが、上司との力関係で、高プロ適用を拒否できる人がどれほどいるのか疑問が残る。 残業代を払わずに長時間労働をさせられる社員を増やしたい経営者側の意向を受けて、安倍政権が関連法に盛り込んだものだ。対象の職種や年収の基準を法律で規定することも一時は検討されたが、省令で決められることになった。これでは、なし崩し的に対象が広げられる恐れがある。長時間の残業を強いられると過労死した人の遺族が懸念するのはよく分かる。経営側の利益のために制度が乱用されないよう、監視を強めるべきだ。」(2)「一方、働く側からは柔軟な働き方を求める声が高まっている。介護や育児をしながら働く人は増え、地域での活動や副業、趣味などにもっと時間をかけたい人も多いはずだ。求められるのは、コスト削減のための制度ではなく、働く人が自分で労働時間や働き方を決められるような制度である。」


 実は、今回三社の社説を比べてみたのは、読売が主張する「働き方改革を通じて生産性を高め、企業の成長力強化につなげる視点」について、朝日と毎日が、それぞれの社説でどのようにで触れているかを知りたかったことにある。
朝日の指摘する「今回の改革の原点は、働く人たちの健康や暮らしを守ることである。」とする視点と読売の視点の違いは大きい。
 また、毎日も「長時間の残業を強いられると過労死した人の遺族が懸念するのはよく分かる。経営側の利益のために制度が乱用されないよう、監視を強めるべきだ。」「求められるのは、コスト削減のための制度ではなく、働く人が自分で労働時間や働き方を決められるような制度である」、との視点を唱えている。
 結局、朝日毎日の二社と「企業の成長力強化」とでしか見ていない読売とは、大きな違いがあることがわかる。


 これ以外に、読売に欠けているものは、次の視点である。
 一つには、現在のこの国の方針決定のあり方に関わることである。
 朝日は、次のように指摘する。


(1)「制度の乱用を防ぐための監督指導の徹底など47項目もの参院での付帯決議が、何よりこの法律の不備を物語る。本来なら、議論を尽くして必要な修正を加えるべきだった。」
(2)「国会審議で浮き彫りになったのは、不誠実としか言いようのない政府の姿勢だ。比較できないデータをもとに、首相が『裁量労働制で働く方の労働時間は一般労働者よりも短い』と誤った説明をし、撤回に追い込まれた。その後も、法案作りの参考にした労働実態調査のデータに誤りが次々と見つかった。」
(3)「一定年収以上の人を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)の必要性も説得力に欠ける。政府は当初、『働く人にもニーズがある』と説明した。しかし具体的な根拠を問われて示したのは、わずか12人からの聞き取り結果というお粗末さ。審議終盤、首相は『適用を望む労働者が多いから導入するのではない』と説明するほかなかった。」


 まさしく、この政権には、丁寧さや弱者への配慮が足りないことが浮き彫りになっている。

 もう一つは、毎日の「これらの改革を着実に実行するには、公的機関による監視や指導が不可欠だ。2015年に東京と大阪の労働局に『過重労働撲滅特別対策班(かとく)』が新設された。検察庁へ送検する権限を持つ特別司法警察職員だが、現在は計15人しかいない。これでは全国の会社に目を光らせることなどできないだろう。労働基準監督署による指導だけでなく、労働組合のチェック機能の向上、会社の取り組みに関する情報公開の徹底などが求められる。」、という労働保護のあり方の根本的な問題である。


 結局、今回の「法」に貫かれている「弊害が目立つ日本の労働慣行を見直し」(読売)という考え方は、「過労死」という言葉が普通に使用されるまでに労働者を追い込んだ日本の労働行政と資本の側が、さらに「働き方改革を通じて生産性を高め、企業の成長力強化につなげる」(読売)ために、新たに編みだしたものでしかないということである。
 今回の働き方改革関連法の成立に関わっての評価は、この法を「弊害が目立つ日本の労働慣行を見直し、企業の成長力を強化」と読売風に評価するのかしないのかにかかっている。
読売の言う「弊害」は、あくまでも使用者の勝手な都合に基づく「弊害」に過ぎない。
 労働者保護の観点を全く含んでいないことが、今回の「法」の最大の問題点である。



by asyagi-df-2014 | 2018-07-09 07:16 | 書くことから-労働 | Comments(0)

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