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名護市長選挙(2018年2月4日)を終えて。

 琉球新報は、2018年2月24日、速報で「名護市長選、渡具知武豊氏が初当選 現職・稲嶺氏に3458票差」、と次のように伝えた。



 「米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題が最大の争点となった名護市長選は4日に投開票され、移設を推進する政府が推す無所属新人の渡具知武豊氏(56)=自民、公明、維新推薦=が2万389票を獲得し、初当選した。移設阻止を訴えた無所属現職の稲嶺進氏(72)=社民、共産、社大、自由、民進推薦、立民支持=は1万6931票で、3458票差だった。市長が移設反対派から変わるのは8年ぶり。日米両政府が進める辺野古移設が加速していくことは確実で、移設阻止を訴える翁長雄志知事ら『オール沖縄』勢力には、秋に予定される知事選に向け大きな打撃となった。」



 戦後の日本の民主勢力の闘いは、沖縄の闘う姿に支えられてきた。そこには、『沖縄から日本が見える。』、という言い方で表現されてきた状況があった。
 気になるのは、日本のどこかで、またぞろ、「あの沖縄で何故負けたのか」、という言葉が囁かれることになるのかということである。
 実は、この選挙の敗北の意味について、沖縄タイムスの阿部岳記者の署名入り記事(沖縄タイムス2018年2月5日)は、「民意を背負えば、小さな自治体でも強大な権力に対して異議申し立てができる。沖縄に辛うじて息づいていたこの国の民主主義と地方自治は、ついにへし折られた。」、と指摘する。
 私自身も、自分のブログに、次のように書いた。


「『市民の選択の結果だ。真摯(しんし)に受け止めないといけない』と言葉少なに話した。」、と琉球新報。
 確かに、その通りである。
 しかし、『苦渋の選択』を呑まなかった稲嶺進さんは歴史に残る人。
『選挙は厳しい結果になったが、気がくじけるのを奮い立たせてきた。負けないぞと思って来たみんなを見て、これからも頑張ろうという思いだ』と語った。」(琉球新報)の声は日本中に届いている。
何故なら、「今後の市政との関係について『落ち着いた政治を行って、市民生活を良くするために経済や雇用を良くしていく。新市長は教育や福祉、環境行政に力を入れてもらいたいという市民の声に応えてもらいたい。国としても責任をもって応援する』と支援を明言した。」(沖縄タイムス)、とのにやけた顔の安倍晋三の言葉は、『構造的沖縄差別』の宣言に過ぎないことを知っているのは、すでに、沖縄だけではない。


 もしかしたら、このように書いた私自身も「沖縄の最後まで諦めない闘い」にすがりつきたかったのかもしれない。
確かに、この名護市長選挙の「敗北」は、大きな意味を持っている。
このことを理解するために、沖縄タイムスの阿部岳記者の記事と琉球新報及び沖縄タイムスの社説で考える。
 まずは、阿部岳記者は、次のように指摘している。


(1)「名護市長選の陰の勝者は、安倍政権だった。そして陰の敗者は、この国の民主主義だった。」
(2)「直前の世論調査でも、市民の3分の2が辺野古新基地建設に反対している。それでも稲嶺進氏が落選したのは、工事がじりじりと進んだことが大きい。市民は実際に止められるという希望が持てなかった。」
(3)「稲嶺氏自身は公約を守り、民意を体現して阻止に動いてきた。日本が民主主義国家であるなら、工事は当然止まるはずだった。」
(4)「安倍政権は、既成事実を積み重ねて市民の正当な要求を葬った。民主主義の理想から最も遠い『あきらめ』というキーワードを市民の間に拡散させた。稲嶺氏の2期目が始まった2014年に辺野古の工事に着手。抗議行動を鎮圧するため本土から機動隊を導入し、16年の東村高江では自衛隊まで使った。
(5)「力を誇示する一方、辺野古周辺の久辺3区に極めて異例の直接補助金を投入した。今回の選挙直前には、渡具知武豊氏が当選すれば新基地容認を明言しなくても再編交付金を出すと言いだした。何でもありなら、財源を巡る政策論争は成り立たない。」
(6)「安倍政権は名護の選挙の構図自体を4年かけて変え、市民から選択の余地を奪った。大多数の国民がそれを黙認してきた。渡具知氏も『辺野古の【へ】の字も言わない』という戦略で、暮らしの向上と経済振興を語った。市民は反対しても工事が進むならせめて、と渡具知氏に希望を託した。基地問題からは、いったん降りることにした。それを責める資格が誰にあるだろう。」
(7)「民意を背負えば、小さな自治体でも強大な権力に対して異議申し立てができる。沖縄に辛うじて息づいていたこの国の民主主義と地方自治は、ついにへし折られた。」



 琉球新報は「名護市長に渡具知氏 新基地容認は早計だ」、沖縄タイムスは「[名護市長に渡具知氏]『基地疲れ』経済を重視」、と2018年2月5日の社説で論評した。
 この二紙の主張等は次のものである。


Ⅰ.主張

(琉球新報)

(1)「渡具知氏の当選によって市民が新基地建設を容認したと受け止めるのは早計である。渡具知氏は、建設容認を明言せず、問題を解決するために国と対話する姿勢を示しただけだからだ。」
(2)「安倍晋三首相は2日の衆院予算委員会で、沖縄の基地負担軽減について『移設先となる本土の理解が得られない』との認識を示した。普天間飛行場の県内移設は、軍事上ではなく政治的な理由であることを首相が初めて認めたことになる。政治家として無責任で沖縄に対する差別発言だ。渡具知氏の当選をもって、他府県に移設できない新基地を名護市に押し付けることは許されない。」
(3)「名護市の課題は新基地問題だけでなく、経済活性化や雇用促進も重要だ。基幹病院整備は早急に取り組む必要がある。福祉、教育、人口減なども切実だ。これらの課題にしっかり取り組んでほしい。」


(沖縄タイムス)


(1)「渡具知氏が『県外・国外移転』を公約に掲げて当選した事実は重い。市長就任後もぶれることなく『県外・国外移転』を追求し、地位協定見直しに向け積極的に取り組んでもらいたい。」
(2)「新基地阻止を強く訴えた稲嶺氏だったが、地域活性化や医療など生活に密着した課題への対応が見えにくかったという印象は否めない。稲嶺氏が敗れたことは、新基地建設反対運動だけでなく、秋の知事選に大きな影響を与えるのは確実だ。翁長知事による埋め立て承認撤回に不透明さが増し、一部で取り沙汰されている県民投票も見通せなくなった。翁長知事は今後、公約である新基地阻止をどのように実現していくのか。県議会与党とも早急に対応を協議し、新たな方針を打ち出す必要がある。」


Ⅱ.選挙結果を受けて

(琉球新報)


(1)「当選した渡具知氏は辺野古移設について『国と県が係争中なので注視していく』と語っている。新基地容認とするのは牽強(けんきょう)付会である。一例を挙げれば、名護市長選を前に、琉球新報社などが実施した電話世論調査から市民の態度は明白だ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画について、53・0%が「反対」、13・0%が「どちらかといえば反対」を選択し、66%を占めた。一方で「賛成」は10・5%、「どちらかといえば賛成」が17・8%と3割に満たない。」
(2)「渡具知氏の当選は、新基地建設の是非を争点化することを避けて経済を前面に出し、前回自主投票だった公明の推薦を得た選挙戦術が奏功したと言える。」
(3)「渡具知氏は『国と県の裁判を注視していく』と語りつつ『岸本建男元市長が辺野古移設を受け入れた。私はそれを支持し容認した』とも述べている。当時、岸本市長は受け入れに当たって、住民生活や自然環境への影響を抑えるためのⅰ環境影響評価の実施ⅱ日米地位協定の改善と15年の使用期限ⅲ基地使用協定の締結-など7条件を提示した。条件が満たされなければ「移設容認を撤回する」と明言した。岸本氏が示した条件は満たされていない。渡具知氏はこの点に留意すべきだ。」
(4)「一方、普天間の県外国外移設を求めている公明党県本部は、自民党が推薦する渡具知氏を推薦した。金城勉代表は渡具知氏と政策協定を結んだ理由について『地位協定の改定と海兵隊の県外、国外の移転を求めるということで合意に至った』と述べている。それなら海兵隊が使用する新基地は必要ないではないか。」

(沖縄タイムス)


(1)「辺野古の海を切りさくように次々と護岸が造られる中で迎えた選挙である。『もう止められない』との諦めムードをつくり、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を争点から外し、経済振興を前面に押し出すのが渡具知陣営の一貫した戦術だった。」
(2)「渡具知氏は選挙期間中、全くといっていいほど辺野古を語っていない。現職の失政が市の閉塞感を招いたとして流れを変えようと訴え、暮らしの向上を求める市民の期待票を掘り起こした。勝利の最大の理由は、一にも二にも自民、公明、維新3党が協力体制を築き上げ、徹底した組織選挙を展開したことにある。」
(3)「菅義偉官房長官が名護を訪れ名護東道路の工事加速化を表明するなど、政府・与党幹部が入れ代わり立ち代わり応援に入り振興策をアピール。この選挙手法は『県政不況』という言葉を掲げ、稲嶺恵一氏が現職の大田昌秀氏を破った1998年の県知事選とよく似ている。」
(4)「注目すべきは期日前投票が2万1660人と過去最多となったことである。有権者の44・4%に及ぶ数字は、企業や団体による働き掛け、締め付けが徹底していたことを物語っている。」
(5)「前回選挙との大きな違いは、自主投票だった公明が、渡具知氏推薦に踏み切ったことだ。渡具知氏が辺野古移設について『国と県の裁判を注視したい』と賛否を明らかにしなかったのは、公明との関係を意識したからだろう。両者が交わした政策協定書には『日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める』ことがはっきりと書かれている。安倍政権が強調する『辺野古唯一論』と、選挙公約である『県外・国外移転』は相反するものだ。」
(6)「本紙などの出口調査では、辺野古移設反対が64・6%に上った。選挙によって辺野古移設反対の民意が否定されたとはいえない。」


 さて、今回の名護市長選挙の「敗北」をどのように捉えることができるのか。
 一つには、「名護市長選の陰の勝者は、安倍政権だった。そして陰の敗者は、この国の民主主義だった。」との沖縄タイムス阿部岳記者の指摘の重みである。安倍晋三政権がこの選挙結果を『民意』として強攻策で押してくるのは目に見えている。それだけの覚悟が必要とされる。
 もう一つには、「渡具知氏が『県外・国外移転』を公約に掲げて当選した事実は重い。市長就任後もぶれることなく『県外・国外移転』を追求し、地位協定見直しに向け積極的に取り組んでもらいたい。」(琉球新報)、「両者が交わした政策協定書には『日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める』ことがはっきりと書かれている。安倍政権が強調する『辺野古唯一論』と、選挙公約である『県外・国外移転』は相反するものだ。」(沖縄タイムス)、との指摘に関わることである。新市長やそれを支えた市民及び公明党関係者には、このことを深く理解する必要があるし、少なくとも新市長の市政運営がこの線に沿ってなされるように関わっていく必要がある。
 また、安倍晋三政権には、「渡具知氏の当選によって市民が新基地建設を容認したと受け止めるのは早計である。渡具知氏は、建設容認を明言せず、問題を解決するために国と対話する姿勢を示しただけだからだ。」(琉球新報)、との指摘を突きつけていく必要がある。
 ところで、「この選挙手法は『県政不況』という言葉を掲げ、稲嶺恵一氏が現職の大田昌秀氏を破った1998年の県知事選とよく似ている。」、との沖縄タイムスの指摘は、今回の選挙をあまりにも言い当てたものとなっているではないか。このことからくみ取るものもまた多い。


 沖縄タイムスの「辺野古の海を切りさくように次々と護岸が造られる中で迎えた選挙である。『もう止められない』との諦めムードをつくり、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を争点から外し、経済振興を前面に押し出すのが渡具知陣営の一貫した戦術だった。」「菅義偉官房長官が名護を訪れ名護東道路の工事加速化を表明するなど、政府・与党幹部が入れ代わり立ち代わり応援に入り振興策をアピール。この選挙手法は『県政不況』という言葉を掲げ、稲嶺恵一氏が現職の大田昌秀氏を破った1998年の県知事選とよく似ている。」、という指摘は、この選挙結果を表現しているのかもしれない。
 やはり、気になるのは、この「敗北」の結果の克服策も、残念ながらより一層の困難さに追い込まれる中でしか見つからないのではないかいう杞憂である。
 沖縄タイムス阿部岳記者の結論「名護市長選の陰の勝者は、安倍政権だった。そして陰の敗者は、この国の民主主義だった。」から「民意を背負えば、小さな自治体でも強大な権力に対して異議申し立てができる。沖縄に辛うじて息づいていたこの国の民主主義と地方自治は、ついにへし折られた。」、が今見える風景であることには間違いない。

 だとしたら、本当の意味で、このへし折られたところから、この「敗北」を次につなげるかは、私たち本土の人間と言われる一人一人に、問われている。




by asyagi-df-2014 | 2018-02-08 07:32 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

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