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旧優生保護法の下での重大な人権侵害を放置するのか。

 何が問題なのか。
 北海道新聞は、「1948年に施行された旧法の前身は、ナチス・ドイツの「断種法」の考えを採り入れた戦前の国民優生法だ。精神疾患やハンセン病などの男女に対し、強制不妊手術や人工妊娠中絶を認めた。96年、強制手術など障害者差別に当たる条文が削除され、母体保護法に改定された。この間、日本弁護士連合会などによると、手術を受けた人は2万4991人に上る。うち強制手術は1万6475人で、道内は最も多い2593人だった。こうして子どもを産み育てる権利を奪われた人たちの救済は、ほとんど手つかずと言えよう。」、という指摘についてである。
 このことに関する根本の問題の一つは、「被害者たちは差別を恐れ、つらい体験を話せなかったろう。社会も鈍感だったのではないか。」(北海道新聞)、ということにある。
もう一つの大きな問題は、「強制手術の7割が女性だったことを踏まえ、国連女性差別撤廃委員会は一昨年、調査と救済を行うよう日本政府に勧告している。日弁連も昨年、被害者への謝罪と補償を求める意見書を出した。けれども政府は、かたくなに拒む姿勢を変えない。当時は適法だったから補償の対象にはならない、という理由である。」(信濃毎日新聞)、との日本政府の対応の姿である。
 また、こうした日本政府の対応は、一方で、「ハンセン病が理由の被害者には謝罪と補償がなされたが、他の被害者は放置されたのが実態だ。同じ過ちを犯したスウェーデンとドイツは既に、国が被害者に正式に謝罪し、補償を行っている。」(北海道新聞)、という事実があるにもかかわらずである。


 さて、このことについて、信濃毎日新聞は「優生手術 重大な人権侵害 救済を」、北海道新聞は「不妊手術強制 国は謝罪し救済すべき」、秋田魁新報は「不妊手術問題 実態調査し救済措置を」、とその社説で論評する。
この三社の「事実経過」と「主張」は、次のものである。


Ⅰ.事実経過

(信濃毎日新聞)

(1)「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する〉―。障害者らへの差別意識に根差した旧優生保護法の下、戦後半世紀近くにわたって、多くの人が不妊手術や堕胎を強いられた。」
(2)「旧法により不妊手術を受けさせられた人は2万5千人近い。その1割余、およそ2700人の個人名を記した資料が19道県にあることが共同通信の調査で分かった。長野県は含まれていない。裏返せば、9割近くは被害を裏付ける資料が残っていない可能性がある。時間がたつほど、廃棄や散逸により実態の把握は困難になる。補償、救済の道が閉ざされることにもなりかねない。」
(3)「強制手術の7割が女性だったことを踏まえ、国連女性差別撤廃委員会は一昨年、調査と救済を行うよう日本政府に勧告している。日弁連も昨年、被害者への謝罪と補償を求める意見書を出した。けれども政府は、かたくなに拒む姿勢を変えない。当時は適法だったから補償の対象にはならない、という理由である。」
(4)「日本と同様に障害者の不妊手術を法律で認めていたスウェーデンは90年代、政府が委員会を設けて実態を調べ、補償制度を設けた。ドイツも戦後、ナチス体制下で手術を強制された被害者に補償金や年金を支給している。」


(北海道新聞)

(1)「『不良な子孫の出生防止』を掲げた旧優生保護法に基づいて、知的障害などを理由に、不妊手術を強いられた人たちの名前が載った資料が、19道県に2707人分現存していることが分かった。このうち1858人分は本人の同意がなく、道内の841人分は全員がこれに含まれる。」
(2)「1948年に施行された旧法の前身は、ナチス・ドイツの「断種法」の考えを採り入れた戦前の国民優生法だ。精神疾患やハンセン病などの男女に対し、強制不妊手術や人工妊娠中絶を認めた。96年、強制手術など障害者差別に当たる条文が削除され、母体保護法に改定された。この間、日本弁護士連合会などによると、手術を受けた人は2万4991人に上る。うち強制手術は1万6475人で、道内は最も多い2593人だった。
こうして子どもを産み育てる権利を奪われた人たちの救済は、ほとんど手つかずと言えよう。」
(3)「ハンセン病が理由の被害者には謝罪と補償がなされたが、他の被害者は放置されたのが実態だ。同じ過ちを犯したスウェーデンとドイツは既に、国が被害者に正式に謝罪し、補償を行っている。」
(4)「被害者の救済を求め、2016年に国連が政府に勧告し、17年には日弁連も意見書を提出した。これに対し、かたくなに拒む政府の人権感覚には憤りを覚える。政府の対応が鈍いのも、この問題があまり知られていないからだ。」
(5)「被害者たちは差別を恐れ、つらい体験を話せなかったろう。社会も鈍感だったのではないか。」


(秋田魁新報))

(1)「旧優生保護法の下で知的障害などを理由に不妊手術を施されたとみられる個人名が記された資料が全国に約2700人分、現存していることが共同通信の調査で確認された。手術を受けたのは約2万5千人とみられており、確認分はその1割にとどまるが、実態解明につながる重要な資料だ。国としても早急に調査を進める必要がある。」
(2)「優生保護法は『不良な子孫の出生を防止する』との優生思想に基づき1948年に施行された。ナチス・ドイツの『断種法』の考えを取り入れた国民優生法が前身で、知的障害や精神疾患などを理由に不妊手術や人工妊娠中絶を認める内容。53年の国の通知は身体拘束やだました上での手術も容認していた。」
(3)「『優生思想に基づく障害者差別だ』との批判が高まり、96年に障害者差別に該当する条文が削除され、名称が母体保護法に改定された。だが旧法に基づき不当に体を傷つけられ、子どもを産み育てる権利を奪われた人たちへの救済はその後も一向に進んでいない。」
(4)「この問題を巡っては、2016年に国連の女性差別撤廃委員会が、被害者が法的救済を受けられるよう日本政府に勧告。日本弁護士連合会も昨年、国に実態調査や謝罪を求める意見書を出したが、国は『当時は適法だった』と応じていない。」
(5)「そうした中、宮城県内の60代女性が近く、知的障害を理由に不妊手術を強いられたのは幸福追求権を保障する憲法に違反するとして国に損害賠償を求める初の訴訟を起こす。女性は重い知的障害があり10代で不妊手術を受けたが、事前に医師側から手術の説明はなかったという。加藤勝信厚生労働相はこうした動きを受け『まずは個々の方からいろいろな話を聞かせてほしい』と述べているが、同様の法律があったドイツやスウェーデンでは、既に国が正式に謝罪し補償を行っている。動きは鈍いと指摘せざるを得ない。」


Ⅱ.主張

(信濃毎日新聞)

(1)「1996年にようやく法は改められたが、補償や救済は一切なされていない。重大な人権侵害を放置できない。国は実態を調査し、救済を進める責任がある。
(2)「1948年に施行された優生保護法は、ナチスの断種法に倣った戦前の国民優生法が前身だ。知的障害者や精神疾患、ハンセン病の患者らへの不妊手術、人工妊娠中絶を認め、本人の同意を得ない強制手術も可能だった。さらに国は53年の通知で、身体の拘束や麻酔のほか、だまして手術をすることも容認した。法もその運用も、尊厳を踏みにじるものだったと言うほかない。」
(3)「憲法は個人の尊重を根幹に置き、人権の保障と法の下の平等を定めている。旧優生保護法はその精神と全く相反する。当時は適法という政府の強弁に理はない。命の選別につながる優生思想は社会になお深く根を張っている。不妊手術や堕胎を強いられた被害者の救済は、その克服に向け、欠くことのできない一歩である。宮城県の60代の女性は30日、国に損害賠償を求める裁判を起こす。被害者の訴えを正面から受け止め、政府は後ろ向きの姿勢を改めなければならない。」

(北海道新聞)

(1)「不妊手術について、政府は『「当時は適法』と主張する。しかし、そもそも命の選別が許されるはずがない。今回見つかった資料は全体の1割だが、被害の事実を裏づける重要な証拠だ。政府は、今回は資料が見つからず、破棄された可能性もある都府県を含め、あらためて徹底的な実態調査を急ぐ必要がある。」
(2)「被害者には高齢者も多い。政府は国家による人権侵害の事実を直視し、謝罪と救済を速やかに行わねばならない。」
(3)「30日には、中学3年のときに不妊手術を強制された宮城県の60代女性が、国に損害賠償請求を求める初の訴訟を仙台地裁に起こす。その背後には、人知れず苦しむ多くの被害者がいる。政府は誤りを認め、被害の全体像の解明に着手し、被害者一人一人と誠実に向き合うべきだ。」


(秋田魁新報))


(1)「訴訟がそうした状況を打開する突破口になればと思う。声を上げたくても上げることができずにいる人は多いとみられるが、訴訟などで注目されることによって名乗りを上げる人が出てくる可能性がある。来月には仙台弁護士会が電話相談窓口を設置する予定だ。」
(2)「日弁連によると、手術を受けた約2万5千人のうち約1万6500人は本人の同意を得ずに行われた。本県でそうしたことを示す台帳などは見つかっておらず、個人名の記された資料が3人分残るのみだが、県衛生統計年鑑という資料に、本人の同意なく不妊手術を施されたのが、記録が残る1949年以降147人いたことが記載されている。」
(3)「障害者差別を正当化する法律の下で被害者が受けた苦痛は計り知れない。高齢の被害者は多いとみられ、国は法的救済に向けて対応を急がなければならない。」


 確かに、「障害者差別を正当化する法律の下で被害者が受けた苦痛は計り知れない。高齢の被害者は多いとみられ、国は法的救済に向けて対応を急がなければならない。」(秋田魁新報)、と言える。
 特に、「30日には、中学3年のときに不妊手術を強制された宮城県の60代女性が、国に損害賠償請求を求める初の訴訟を仙台地裁に起こす。」、と秋田魁新報は伝える。
 だとしたら、私たちは、何をしなければならないのか。




by asyagi-df-2014 | 2018-02-01 07:15 | 人権・自由権 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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