旧優生保護法下で、不妊手術を強制された宮城県の60代女性が、個人の尊厳や自己決定権を保障する憲法に違反するとして、国に1100万円の支払いを求める訴訟を起こした。
2018年 01月 30日
毎日新聞は2018年1月30日、「1948年から96年まで半世紀近く続いた旧優生保護法下で、不妊手術を強制された宮城県の60代女性が30日、個人の尊厳や自己決定権を保障する憲法に違反するとして、国に1100万円の支払いを求める訴訟を仙台地裁に起こした。同法に基づいて強制手術を受けた人は全国に1万6475人いるが、国家賠償請求訴訟は初めて。女性側は、被害者救済に必要な立法措置を怠った国の責任について追及する。」、と報じた。
また、次のように続けた。
(1)「一方、国側は、同法が母体保護法に改定されてから20年以上経過したことなどから、損害賠償請求権がなくなる民法規定の『除斥期間』(20年)を理由に棄却を求める構えとみられる。」
(2)「訴状によると、女性は15歳だった72年12月、『遺伝性精神薄弱』を理由に卵管の峡部(きょうぶ)を縛る不妊手術を強制された。手術後はたびたび違和感や痛みを覚え、87年ごろに入院した。卵巣組織が癒着する卵巣嚢腫(のうしゅ)と診断され右卵巣の摘出を余儀なくされた。不妊手術を理由に地元の男性との縁談も破談となったとしている。女性側は『子どもを産み育てるという憲法13条で保障された自己決定権や幸福追求権を侵害された』などと訴えている。また、宮城県が女性側の情報公開請求に基づき昨年8月に開示した療育手帳交付に関する資料には、女性の成育歴に『遺伝負因無し』と記されていたことから、『手術の理由を【遺伝性精神薄弱】とした審査過程そのものも信用できない』と主張する。」
(3)「優生保護法は96年、障害者への不妊手術の項目を削除するなどした母体保護法に改定された。今年で22年が経過しており、除斥期間が大きな争点の一つになる見通しだ。これについて原告弁護団は『(旧優生保護法下で不妊手術を受けた人がいる)事実を今後どうしていくか考えていきたい』とした2004年3月の厚生労働相(当時)の国会答弁に着目。答弁から救済措置の立法までに必要な『合理的期間』を3年とみなし、それが経過した07年ごろから国の不法行為(立法不作為)が始まったとして除斥期間には該当しないと反論する構え。」
(4)「女性側はこれまで厚労省に対し、優生手術を受けた人たちへの救済措置などを求めたが、同省側は『当時は適法だった』と争う姿勢を見せている。」【遠藤大志】
さらに、国側の対応について、「加藤勝信厚生労働相は30日午前の閣議後記者会見で『訴状が届いておらず、コメントは控えたい』と述べるにとどめた。原告らが求める全国的な実態調査については『当事者の話を直接聞いてきたので、引き続きそうした話があれば承りたい』と明言を避けた。」、と報じた。
なお、毎日新聞は2018年1月30日、このことに関して、「強制不妊手術9歳にも 宮城、未成年半数超」、と次のように報じている。
(1)「『優生手術』と呼んで知的障害者や精神障害者らへの強制不妊手術を認めた旧優生保護法(1948~96年)の下、宮城県で63~81年度に手術を受けた記録が残る男女859人のうち、未成年者が半数超の52%を占めていたことが判明した。最年少は女児が9歳、男児が10歳で、多くの年度で11歳前後がいたことが確認され、妊娠の可能性が低い年齢の子どもにまで手術を強いていた実態が浮かび上がった。30日には15歳で強制手術を受けた同県の60代女性が、初の国家賠償請求訴訟を仙台地裁に起こす。」(2)「宮城県が毎日新聞の取材に対し、優生手術に関する現存記録の一部内容を明らかにした。それによると、同県で63年度から19年間に優生手術を受けたのは、男性320人、女性535人、年齢性別不明4人で、そのうち未成年者は、男性191人(59%)、女性257人(48%)。手術理由のうち最も多かったのは『遺伝性精神薄弱』の745人で全体の8割超を占め、『精神分裂病』39人▽『遺伝性精神薄弱+てんかん』26人▽『てんかん』15人--などと続いた。また、知的障害や精神障害がなくても生まれつき難聴などの身体障害のある14人が手術されていた。」
(3)「同法に手術対象者の年齢制限の規定はなく、宮城県で手術を受けた859人のうち最高齢は男性51歳、女性46歳で、最年少は男児が10歳、女児が9歳だった。9歳の女児は2人で、いずれも不妊手術の理由を『遺伝性精神薄弱』とされ、63年度と74年度にそれぞれ手術を受けていた。また、毎年のように11歳の男女が手術を受けていた。」(4)「年代別では、65年度の127人をピークに66年度108人、70年度94人、73年度33人などと減少傾向をたどっていった。」
(5)「旧厚生省の衛生年報や毎日新聞の調べによると、同意のないまま優生手術を受けた人は同法施行期間中、全国で1万6475人に上り、そのうち記録に残る最多は北海道の2593人で、宮城県の1406人▽岡山県845人▽大分県663人--などと続く。」
(6)「優生手術の執刀経験がある東京都の産婦人科医師、堀口貞夫さん(84)は、実名で取材に応じ、『現在の医学の見地からすれば、9歳の女児に不妊手術を施すのは非常識だ』としながらも、『当時は法律に基づいて手術をせざるをえなかった』と振り返った。」
【遠藤大志】