慰安婦合意の検証結果を考える。

 慰安婦合意の検証結果をどのように捉えればよいのか。
 朝日新聞は2018年12月28日、次のように報じていた。


(1)「韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は28日、慰安婦問題を巡る日韓合意について『手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された』と指摘し、『両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、大統領として、この合意では慰安婦問題は解決されないと再び明らかにする』と表明した。」
(2)「韓国の外相直属チームが27日に発表した日韓合意の検証結果を受けて、大統領府報道官を通じて声明を出した。声明では『被害者中心の解決という原則の下、早急に後続措置を用意してほしい』と関係部署に検討を指示したことを明らかにした。後続措置の具体的内容や、合意を維持するかどうかは言及していない。」
(3)「文氏は5月の大統領選で合意は『誤りだ』として再交渉を公約。だが就任後は『再交渉』という言葉を封印している。一方で声明では『歴史問題の解決とは別に、韓日間の未来志向的な協力のために、正常な外交関係を回復していく』とも主張した。」
(ソウル=武田肇)


 この日韓(韓国側からは韓日)慰安婦合意の問題について、朝日新聞、毎日新聞及びハンギョレの社説から考える。
 三紙は、朝日新聞社説-「日韓合意 順守こそ賢明な外交だ」-、毎日新聞社説-「文政権の『日韓合意』検証 再燃回避へ指導力発揮を」-、ハンギョレは-「日本は『慰安婦』被害者の名誉回復の意義に立ち返れ」、とそれぞれ2017年12月28日に論評した。
 まず最初に、ハンギョレの主張・見解をみてみる。


(1)「韓日慰安婦合意の経緯を検討したタスクフォース(検証結果)の発表で、2015年の韓日政府間の合意の隠されていた部分が明らかになり、国民の怒りが煮えたっている。文在寅(ムンジェイン)大統領は28日『重大な欠陥があったことが確認された』として『この合意で慰安婦問題が解決されることはできないという点を国民と共にはっきりと明らかにする』と述べた。事実上の『追加協議』を示唆すると解釈することもできる。」
(2)日本が指摘する『合意形式の妥当性』にはもちろん一理がある。しかし『合意を守りなさい』と声を高める日本のマスコミでさえ『慰安婦合意の核となる精神は、慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復にある』(朝日新聞)、『日本政府も【被害者の視点を欠いていた】とする報告書の指摘に謙虚に耳を傾けてほしい』(東京新聞)と言及している点に日本政府も注目すべきである。
(3)「韓日両政府は合意をなぜ成そうとしたのかその根本的な理由に立ち返るべきである。長い年月が経ったのでもう『未来』だけ見て適当にふたをして過ぎ去らせようとしたのではなかろうか。2015年の合意案に『被害者の名誉や尊厳の視点』が入っていると果たして言えるだろうか。当時の主な内容を『非公開』にしたのは誰のためだったのか。結局は政権に負担になる内容を隠そうとしたのではないか。このような問いに当時合意をした両国政府の当局は明確に答えねばならない責任がある。」
(4)「それでも『とにかく合意をしたのだから守りなさい』と主張するのは『慰安婦被害者の名誉』はもちろん、国際社会での日本の地位向上にも全く役に立たないだろう。」
(5)「慰安婦問題の合意は、互いに有利なことをやりとりするような通商協定とは性格が全く違う。歴史的意味と人類共通の価値を再確認する崇高な作業だ。
(6)「これを密室でやりとりするように『取り引き』して両国国民に隠して嘘をついていたことは容認できない。単に朴槿恵(パク・クネ)政権の無能と身勝手ぶりだけを恨むのではなく、日本の安倍政権もまたこの責任を厳重に負うのが当然だ。日本政府は両国が合意になぜ乗り出したかを今からでも振り返り、いかにすることが韓国と日本の未来指向的関係に役立つのか、深く考えるべきである。」


 結局、ハンギョレは、韓国にとって、この慰安婦合意の検証によって明らかになったことは、一つには、この合意で慰安婦問題が解決されることはできないということ、二つには、『慰安婦問題の合意は、互いに有利なことをやりとりするような通商協定とは性格が全く違う。歴史的意味と人類共通の価値を再確認する崇高な作業』である以上、2015年12月の慰安婦合意はこうした作業には値しない、という見解を主張をする。したがって、この検証を受けて、「日本政府は両国が合意になぜ乗り出したかを今からでも振り返り、いかにすることが韓国と日本の未来指向的関係に役立つのか、深く考えるべきである。」、と主張する。


 これに対して、日本側の朝日新聞と毎日新聞は、それぞれ次のように主張する。
 朝日新聞は、主張は、次のものである。


(1)「交渉の過程にいくつかの問題点があったとし、韓国に不利な『不均衡な合意』となったとの評価を示した。」
(2)「全体的に、朴槿恵(パククネ)・前政権の失政を強調したい文在寅(ムンジェイン)政権の姿勢がにじみでている。合意をめぐる世論の不満に対処するための、国内向けの検証だったというべきだろう。文政権はこの報告を踏まえた形で、政府見解を来年にまとめるという。いまの日韓関係を支える、この合意の意義を尊重する賢明な判断を求めたい。」
(3)「調査は、韓国外相直属で官民の有識者らがあたった。報告書は問題点として、韓国政府が元慰安婦たちの意見を十分に聞かなかった▽秘密協議で交渉が進められ、非公開の合意があった――などを挙げた。日本側の要求への批判よりも、もっぱら前政権の不手際を強調。そのうえで現状のように国内の不満が広がるのもやむをえないとの認識を示した。
(4)「対日関係は改善したい一方、世論を案じる文政権の苦しい立場がうかがえる。だが、今春の大統領選で合意の見直しを公約にしたのは文氏自身だ。政権を担う今、理性的な外交指針を築く覚悟が求められている。言うまでもなく、外交交渉では、片方の言い分だけが通ることはない。とりわけ慰安婦問題は長年に及ぶ懸案だ。合意は、その壁を乗り越え、互いに歩み寄った両国の約束である。
(5)「核となる精神は、元慰安婦らの名誉と尊厳を回復することにある。文政権は合意の順守を表明し、彼女らの心の傷を少しでも癒やせるよう、日本政府とともに着実に行動していくべきである。」
(6)「ソウルの日本大使館前に立つ少女像の移転問題についても、文政権は市民団体などへの説得に注力しなくてはならない。」
(7)「一方、日本政府の努力も欠かせない。政府間の合意があるといっても、歴史問題をめぐる理解が国民の胸の内に浸透していくには時間がかかる。合意に基づいて設けられた韓国の財団は元慰安婦への現金支給を進め、7割以上が受け入れを表明した。関係者は『全員がいろんな思いがある中、苦悩しつつ決断した』と話す。さらに日本政府にできることを考え、行動する姿勢が両国関係の発展に資する。」
(8)「この合意を、真に後戻りしない日韓関係の土台に育て上げるには、双方が建設的な言動をとり続けるしか道はない。」


 また、毎日新聞の主張は、次のものである。


(1)「慰安婦問題を巡る一昨年12月の日韓合意に関する検証結果が公表された。韓国政府が専門家に委嘱し、5カ月かけて進めてきたものだ。検証報告書の核心は、朴槿恵(パククネ)前政権が当事者である元慰安婦の思いを十分にくみ取らなかったと批判している点だ。だが、朴前政権による元慰安婦や支援団体への説得努力が不十分だったとしたら、それは後任の政権が引き継ぐべきものだ。」
(2)「日韓合意は『最終的かつ不可逆的な解決』をうたっている。政府間の約束は政権交代したからといって簡単に変更できるものではない。感情的対立に発展しやすい歴史問題では、なおさらだ。」
(3)「支援団体が反対する場合には韓国政府が説得するという非公開の合意があったことも問題視された。しかし、元慰安婦の7割以上は合意に基づいて設立された財団の事業を受け入れている。一部の元慰安婦や支援団体の反対を根拠に、政府間で解決を宣言しても問題は再燃するという見方は一方的にすぎる。」
(4)「日本側が抱く疑念の背景には、慰安婦問題に関して文在寅(ムンジェイン)大統領が見せてきた姿勢がある。文氏は選挙で『再交渉』を公約にしていた。当選後は『再交渉』という言葉を使わなくなったが、合意に否定的な国民感情を強調し、慰安婦の記念日制定などを進めた。トランプ米大統領が韓国を訪問した際の夕食会に元慰安婦を招いてもいる。その中で出た検証結果である。合意の『破棄』や『再交渉』を勧告したわけではないが、日本側が警戒感を強めるのは当然であろう。」
(5)「文政権は改めて元慰安婦や支援団体の意見を聞くという。康京和(カンギョンファ)外相は報告書発表にあたり、日韓関係への影響を考慮しながら今後の方針を決める考えを示した。来年2月の平昌冬季五輪への出席を安倍晋三首相に求めていることから、決定を五輪後に先送りするとの観測がある。仮に首相が訪韓しなければ、文政権は再交渉を言い出すということだろうか。」
(6)「北朝鮮情勢は緊迫の度を高めており、日韓関係を再び悪化させることは絶対に避けねばならない。文氏は韓国内で問題が再燃しないよう指導力を発揮すべきである。」


 朝日新聞の主張は、慰安婦合意は、「いまの日韓関係を支える」ものである以上、「この合意の意義を尊重する賢明な判断を求めたい。」、ということにある。だから、「対日関係は改善したい一方、世論を案じる文政権の苦しい立場がうかがえる。」、とさえ自らの問題というよりも相手側の問題として押さえる。
 つまり、この慰安婦検証問題は、韓国の国内問題に過ぎなく、「全体的に、朴槿恵(パククネ)・前政権の失政を強調したい文在寅(ムンジェイン)政権の姿勢がにじみでている。合意をめぐる世論の不満に対処するための、国内向けの検証だったというべきだろう。」、と反論している。
 毎日新聞は、「北朝鮮情勢は緊迫の度を高めており、日韓関係を再び悪化させることは絶対に避けねばならない。文氏は韓国内で問題が再燃しないよう指導力を発揮すべきである。」、とさえ主張してしまっている。
 ただ、この毎日の主張は、安全保障の問題を、軍事だけに限定する間違いを起こしている、という指摘だけで十分であるが。


 慰安婦合意の検証について、私たちが、まず大事にしなければならないのは、被害者側が「この合意で慰安婦問題が解決されることはできない」という立場に立った時、加害者側は、まず、そのことの意味の「本質」を冷静に掘り下げる必要があるのではないか。
 特に、この合意に当事者性が不足していると判断されるのであれば、当事者性が充分に保障される方向に持って行くべきではないのか。
 このことからすれば、朝日新聞の指摘でもある「とりわけ慰安婦問題は長年に及ぶ懸案だ。合意は、その壁を乗り越え、互いに歩み寄った両国の約束である。」、という重たい「合意」という事実(麻によると、核となる精神は、元慰安婦らの名誉と尊厳を回復することにある。)-それは、ハンギョレのいう「歴史的意味と人類共通の価値を再確認する崇高な作業」-が、適正なものであるのかどうかという検証を、日本と韓国の両方で行っていくことが必要になっているのではないか。
このことは、安倍晋三政権と朴槿恵政権の間で交わされた外交合意の持つ意味を、例えば、当事者性を持たせるといったことで、改革していくことに繋がるのではないか。




by asyagi-df-2014 | 2018-01-02 17:36 | 侵略戦争・戦後処理 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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