川崎市は2017年11月9日、ヘイトスピーチを事前規制するガイドラインを公表。

 表題について、朝日新聞は2017年11月9日、次のように報じている。


(1)「川崎市は9日、外国人への差別的言動などヘイトスピーチの恐れがある場合に、市の公園などの公的施設の利用を事前に規制できるガイドライン(指針)を公表した。ヘイトスピーチを事前に規制する指針は全国初という。来年3月末までに施行する。」
(2)「指針では、『ヘイトスピーチが行われる恐れが客観的な事実に照らし、具体的にある場合』に、警告や公的施設の使用不許可や条件付きの許可ができるとした。利用を許可した後に、ヘイトスピーチが行われる恐れがあると分かった場合は、許可を取り消せる。」
(3)「施設利用の申請書類ではヘイトスピーチが行われるかが分からなくても、申請者側のそれまでの活動歴や、インターネットでの情報発信などから総合的に判断するという。」
(4)「不許可や許可取り消しの場合は、弁護士らでつくる第三者機関から意見を聴いたうえで結論を出す。憲法が定める『表現の自由』の制約にならないよう、『他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが、客観的な事実に照らして明白な場合に限る』との要件を盛り込んだ。市民会館での集会を認めなかった大阪府泉佐野市の判断が憲法に違反するかが争われた裁判で、最高裁が1995年に示した判決内容を踏まえた。」


 こうした「ガイドライン」が必要とされる背景についても、次のように指摘している。


(1)「ヘイトスピーチは2013年以降、東京・新大久保や大阪・鶴橋などで激化。川崎市でも公園を利用した集会やデモが繰り返された。16年5月には、外国人への差別的言動の解消をはかるヘイトスピーチ対策法が成立。①命や身体、財産に危害を加えるよう告げる②著しく侮蔑する③地域社会からの排除をあおる――ことなどを『不当な差別的言動』と定めた。」
(2)「川崎市は同月末、排外主義的なデモを繰り返す団体に、市内の公園使用を不許可に。横浜地裁川崎支部も6月初め、デモを禁じる仮処分決定を出していた。」
(3)「今回の指針は、市の案に対して市民からパブリックコメントを募り、一部修正して作成された。一方、大阪市では16年1月、ヘイトスピーチの抑止策をまとめた全国初の条例を成立させ、同年7月から全面施行している。ヘイトスピーチがあったと認定されれば、市は行為者の個人や団体名を公表できる。」


 また、東京新聞は2017年11月10日、このように伝えた。


(1)「市立公園など公的施設でのヘイトスピーチ(憎悪表現)を事前規制するガイドラインを策定した川崎市。来年三月からは、ヘイトスピーチを行う恐れがある場合、市が施設を使わせないようにできる。ヘイト被害を訴えてきた市内の在日コリアンからは歓迎する声が上がる一方で、運用面の課題なども指摘されている。」
(2)「『私たちを被害から事前に守る策を行政機関が持ったことは心強い。大きな一歩だ』。ガイドラインが示された市議会を傍聴した同市川崎区の在日コリアン三世、崔江以子(チェカンイジャ)さん(44)は笑顔を浮かべた。」
(3)「昨年六月施行のヘイトスピーチ対策法は、国や自治体にヘイト根絶に向けた取り組みを求めているが、ヘイトスピーチをした人に対する罰則はない。ここ数年、川崎市内で繰り返されたヘイトスピーチ。今回のガイドラインは、こうした被害を事前に食い止める効力を持っている。」
(4)「対策法ができる前、市内でのヘイトデモの予告を受け、市に施設を貸さないよう要請したが断られた崔さん。『理念法と呼ばれている法律に川崎市が実効性を持たせた』と評価した。」
(5)「ただ、表現の自由との兼ね合いや、『許可』『不許可』をどこで線引きするかなど、運用上の問題も残されている。専修大の山田健太教授(言論法)は『地方自治体でヘイトスピーチ規制に向けた動きが出ているのは良いこと』とした上で、反戦や護憲を掲げる団体への公共施設の使用不許可が相次いでいる問題に触れ『【この団体だからダメ】という外形的理由による一律の禁止は、過度な事前規制につながる恐れがある。非常に慎重な運用が必要だ』という。」
(6)「関西学院大の金明秀(キムミョンスー)教授(社会学)は『対策法に沿って差別の撤廃に取り組む動きは、法の精神を具体化する試みとして評価できる』としながら『巧妙化するヘイトスピーチ、デモにどこまで対応できるか』と指摘する。」
(7)「この日、ガイドラインが示された市議会文教委員会でも▽利用申請当日に施設を貸し出す場合、第三者機関に意見を聞くなどの対応が速やかに取れるか▽民間企業などに管理運営を委託する指定管理者制度を導入している公的施設での責任の所在はどうなるのか-といった問題が突き付けられた。市はガイドラインの周知期間中に対応を考える方針だ。」
(8)「ヘイトスピーチ問題に詳しい前田朗・東京造形大教授(刑事人権論)は『問題点がある場合は、このガイドラインを具体的に議論して改善していけば良いという段階に入った』とみている。」


 確かに、この川崎市のガイドラインは、「対策法に沿って差別の撤廃に取り組む動きは、法の精神を具体化する試みとして評価できる」(関西学院大の金明秀(キムミョンスー)教授)ものである。
 東京新聞の指摘する「表現の自由との兼ね合いや、『許可』『不許可』をどこで線引きするかなど、運用上の問題」や「巧妙化するヘイトスピーチ、デモにどこまで対応できるか」(同上)、といった懸念は、『問題点がある場合は、このガイドラインを具体的に議論して改善していけば良いという段階に入った』(前田朗・東京造形大教授)、との指摘をそのまま受け取ることができるのではないか。


 このことについて、信濃毎日新聞は「ヘイト事前規制 表現の自由踏まえつつ」(2017年11月11日)、河北新報は「ヘイト事前規制/地域が多様性尊重してこそ」(2017年12月5日)、それぞれの社説で論評した。
この二社の社説で、このガイドラインがどのように各地域で捉えられているのかについて紹介する。


Ⅰ.信濃毎日新聞社説の主張


(1)「差別や排外主義をあおる言動を許さない厳しい姿勢を、自治体として明確に示した。表現の自由に十分配慮した上で、差別と排除にどう立ち向かうか。地域、社会で議論し、取り組みを根づかせていく一歩にしたい。」
(2)「集会やデモによる意見表明の自由は、民主主義の土台である。公権力による介入は最大限抑制的でなければならない。とりわけ事前規制には慎重であるべきだ。指針が協議会の報告に沿って、その点を十分考慮したことは評価できる。表現の自由を過度に制約しないよう、利用制限は「極めて例外的な場合」に限ると明記した。不許可、許可取り消しにあたっては、事前に第三者機関の意見を聴き、判断の公平性、透明性を担保するとした。その上でどう実効性を持たせるか。実際に利用を制限する判断は難しさが伴うだろう。個別の事例に丁寧に対応し、前に進めていくほかない。ヘイトスピーチの根絶に向け、他の自治体の先例となる取り組みにつなげたい。」
(3)「あからさまなヘイトスピーチは一時期より減ったものの、なお沈静化してはいない。大阪市が、ヘイトスピーチと認定した団体・個人名を公表する条例を制定するなど、川崎以外でも動きは起きているが、まだ広がりを欠く。」
(4)「差別的な言動がはびこらない社会をどうつくっていくか。国や自治体が責務として取り組むとともに、市民が自ら動き、排外主義を押し返す力を地域社会で高めていくことが欠かせない。」


Ⅱ.河北新報社説の主張


(1)「『不当な差別的な言動を許さない』という揺るぎのない意思の表れだろう。」
(2)「ただ、憲法が保障する表現の自由をむやみに制約してはならないのは当然のこと。手探りの面もあろうが、実績を積み重ねていく中で両立の課題を解決していくべきだ。」
(3)「利用の制限としては、ヘイトスピーチの恐れが『客観的事実に照らして具体的に認められる場合』に警告、条件付き許可、不許可、許可の取り消しにできる、と定めた。
とりわけ不許可と許可取り消しについては、他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険が明白な場合などに限定した。不許可などに至る判断に、公平性、透明性が担保されなければならないのは言うまでもない。専門家による客観的な視点が不可欠だ。市が設置する第三者機関に事前に意見を求めるように、一定の歯止めをかけた点は評価できる。」
(4)「ヘイトスピーチをどう定義するのか。理念法として昨年6月に施行された『ヘイトスピーチ対策法』に基づき、差別的意識を助長し、または誘発する目的を有する-ことなど4要件を挙げている。それでも抽象的な内容であるのは否めない。何らかの物差しが必要ではないか。対策法の基本的な解釈をまとめ、許されない具体例を示した法務省の見解が参考になろう。」
(5)「ガイドラインという規制の手だてができたのは前進と言えるが、直ちにヘイトスピーチが根絶するわけではないのも確かだろう。」
(6)「 少子高齢化が急速に進む日本社会を見れば、労働力としてこれから外国人が増えることがあっても減ることはあり得ない。東北も例外であるまい。コミュニティーが多様性を拒否するのではなく、尊重することが求められる。」




by asyagi-df-2014 | 2017-12-22 07:09 | 書くことから-ヘイトクライム | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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