本からのもの-「標的の島」から「自衛隊の先島ー南西諸島重要戦略と『島嶼防衛』戦」

著書名;「標的の島」-「自衛隊の先島ー南西諸島重要戦略と『島嶼防衛』戦」
著作者:小西誠
出版社;社会批評社



 「標的の島」は、「最南端の島々で抗う住民たちによるドキュメント」と帯に書かれているように、日米両政府による米軍再編のなかで、進められる南西諸島の軍事要塞化に抗う人々の記録である。
 特に、軍事ジャーナリスト小西誠さん(以下、小西)は、第4章の「自衛隊の先島ー南西諸島重要戦略と『島嶼防衛』戦」のなかで、その要塞化に関する理論分析をしている。
 小西は、この中で最初に、「先島-南西諸島に新たに配備される予定の自衛隊の人員と部隊については、意外に現地でも正確には把握されていない。筆者の情報公開請求で開示された『南西諸島の防衛体制の強化』という防衛省文書でも、陸自の人員が記されているだけで、空自などは抜け落ちている」、と日本政府の姑息な手法を示す。
 それは、扇情的に危機感を煽ることで本質的な部分を隠す手法でもある。
以下、この第4章を取りあげる。。


Ⅰ.事実


(1)宮古島に配備される部隊は、地対艦ミサイル部隊約100人、地対空ミサイル部隊約150人に加えて、その指揮統制部隊(司令部)となる部隊約200人、そして警備部隊(普通科)の約350人の、合計して約800人と発表されている。また、石垣島に、この司令部を除く、地対艦・地対空ミサイル部隊・警備部隊の約600人の配置が予定されている。そして、奄美大島においては、先島諸島と同様、地対艦・地対空ミサイル部隊の約550人という隊員が発表されているが、これに空自の移動警察隊約50人も追加される予定だ(2016年度防衛概算要求)。
 こうしてみると、すでに発表されている部隊だけで先島諸島-奄美大島に新たに配備される部隊は、約2200人を超える人員を有する。
(2)もう一つ正確に認識されていないのが、沖縄本島における自衛隊の急激な増強についてだ、先の「南西地域の防衛体制の強化」という文書には、2016年3月末段階での沖縄(与那国島を含む)での自衛隊の配備人員が明記されている。それによれば、陸自約2650人、海自約1490人、空自約3910人の合計約8050人となっている。
(3)この沖縄での自衛隊の配備人員についてだが、2010年の沖縄県の統計では、陸自約2300人、海自約1300人、空自約2700人の、合計約6300人と発表されている。つまり、およそ5年間の間に、特にこの1年間の間に沖縄では、約1750人もの隊員が増加したことになるのだ。その増加の大部分は、一見して明らかだが空自部隊である(約1210人増)。


Ⅱ.こうした南西諸島への自衛隊の増強配備態勢の意味


(1)自衛隊の南西シフト、南西諸島への増強態勢は、琉球列島弧ー第1列島線に沿って展開されるのだが、そのもう一つの要となっているのが、西部方面普通科連隊(約660人)の旅団規模への昇格であり、日本型海兵隊ー水陸機動団の新編成である。
(2)この編成にともない、水陸機動団に新たに配備される予定の部隊が水陸両用車(AAV7)52両、オスプレイ17機であり、すでに今年度から順次その調達が始まりつつある。水陸両用車・オスプレイは、ともに米海兵隊が装備しているもので、海兵隊との互換性ー共同作戦によるそれが重視され、アメリカからの購入が確定している。
(3)南西シストによる自衛隊の新配備・増強は、これらに留まらない。九州南部の高畑山レーダーサイト(宮崎県串間市)、沖永良部レーダーサイト(鹿児島県沖永良部島)には、最新式のRE-DA-/J/FPS-7配備され、九州南部から奄美大島を経て、九州に至る、琉球列島弧の北側まで増強態勢が行われつつある。
(4)つまり、現在始まっているのは、南西重視戦略による自衛隊部隊の約1万人に近い規模の巨大な増強態勢であり、すでに配備されている沖縄本島の部隊と併せて、約2万人規模の「事前配備」態勢である。


Ⅲ.こうした琉球列島弧での自衛隊の大配備の目的等


(1)産経新聞などの報道も影響して、少なからぬ人々は、この自衛隊配備の目的が「尖閣問題」「尖閣戦争」対処のように受け取っているようだが、これらの自衛隊配備は、尖閣問題とは全く関係がないものである。何故なら、尖閣列島の問題が、日中の間で険悪化したのは、2012年の「尖閣国有化」後であるからだ。しかし、後述するように、自衛隊が「離島防衛ー島嶼防衛」対処を策定したのは、2000年における陸自教範・新『野外令』によってである。
(2)琉球列島弧(線)への自衛隊配備の直接の目的は何だろうか。この琉球列島弧は、軍事的には第1列島線と呼ばれている。九州南端から奄美大島・沖縄本島を経て、先島諸島から台湾・フィリピン・ボルネオ島に至るラインである。第1列島線の外側に、第二列島線と呼ばれるラインがあり、これは伊豆諸島を起点に小笠原・サイパン・グアムを経て、パプアニューギニアに至るラインである。この第1・第2列島線というラインは、そもそもは中国が設定したと言われているが、現実には、同時に日米両軍の設定ラインでもある。
(3)第1列島線は、地図を見れば一見明白だが、特に中国側から見れば一目瞭然だが、中国大陸の、東中国海に封じ込める列島線となっていることだ。・・・つまり、琉球列島弧の島々に自衛隊のミサイル部隊を配置し、琉球列島弧の各海峡(大隅・奄美・宮古・与那国)を通過する中国艦艇・航空機に対し、「通峡阻止」の対艦・対空ミサイル戦、海空戦闘、対潜戦(機雷戦)を仕掛け、中国を東中国海に封じ込めるというものだ。このためには、以上の戦闘に加えて、「通峡阻止」の陸自の地上戦も必要とされるというわけだ。
(4)陸自が言うところの、島嶼防衛戦における「通峡阻止」のための地上戦が戦略化され、策定される。陸自は、この島嶼防衛戦を「事前配備・緊急増派・奪回」の3段階戦略として位置づけており、防衛白書などで大々的に発表している。それによると、第1段階として「平素からの部隊等配置による抑止体制の確立」(→石垣島・宮古島・沖縄本島などへの事前配備)、第2段階として「機動部隊等の実力部隊による緊急的かつ急速な機動展開」(→3個機動師団・4個機動旅団の編成)、第3段階として「万一島嶼部の占領を許した場合における水陸両用部隊による奪回」(→水陸機動団+増援部隊)として、作戦を具体化している。
(5)陸自の構想する、これら3段階作戦で特徴的なのは、この作戦計画があらかじめ「敵による島嶼草書占領」を前提にしていることであり、その後の「奪回」を戦略としていることだ。この理由は明らかだ。「島嶼の防衛」は、基本的には不可能ということである。
(6)実際に、石垣島、宮古島などの島嶼も、サイパン島などとほとんど大きさが変わらず、その縦深のなさからして、長期持久戦は不可能である。したがって、島嶼防衛戦の初期の作戦としては、一旦、敵の上陸を許容し、以後の「奪回」の専任部隊である水陸機動団などの部隊による上陸作戦が基本作戦として策定されているのである。また、これらの水陸機動団を軸にし、機動運用部隊による増派部隊もまた、上陸作戦を担うのである。


Ⅳ.予想されるミサイル戦争


(1)島嶼防衛戦の最初の戦闘は、空と海でのミサイル戦争となることも不可能である。自衛隊の各島に配備された対艦・対空ミサイルは、中国艦艇・航空機の通峡阻止のための先陣をきることになる。しかし、同時に、中国本土から撃ち込まれる弾道ミサイル・巡航ミサイルも激しく島嶼を攻撃し、島嶼部に置かれた地上目標、固定目標は、一瞬のうちに破壊される。
(2)したがって、自衛隊が想定しているのは、あらかじめ中国の島嶼占領を前提とした「島嶼奪回」作戦である。そのために、水陸機動団などの海兵隊の編制が行われようとしているのだ。
(3)こうして繰り返される島嶼防衛戦は、彼我双方の対着上陸戦闘・着上陸戦闘を何度も繰り返すことによって、先島ー南西諸島の島々を破壊尽くし、一木一草も生えない焦土と化してしまうに違いない。


Ⅴ.エアシーバトル構想、オフショア・コントロール構想


(1)エアシーバトルの構想の具体的内容は、「米国の行動自由」(アジア太平洋地域の派遣)に挑戦する中国の「アクセス阻止・エリア拒否戦略」に対抗して、陸・空・海・宇宙・サイバー空間のすべての作戦領域における統合作戦を遂行するということである。
(2)これをもっとわかりやすく言うと、中国の海空戦力・対艦・対地ミサイルによる第1列島線・第2列島線への接近拒否に対抗する、アメリカの「対抗的中国封じ込め戦略」(2012年「米国国防指針」)ということである。
(3)しかし、これは単なる第1列島線への封じ込めには留まらない。このエアシーバトル構想は、また「ネットワーク化され、統合された部隊による縦深攻撃で、敵部隊を混乱、破壊、打倒すること」(2013年「エアシーバトル室」から)でもあり、縦深攻撃とは、中国本土への攻撃。中国の戦略軍司令部の破壊まで想定したものである。
(4)明らかなとおり、このエアシーバトル構想が発動されたとするなら、戦争が「東中国海」という地理的制限はおろか通常型の戦争に限定されることもあり得ない。この戦争は、不可避的に米中を中心とする通常型の世界戦争から核戦争にまで発展することは不可避だ。
(5)したがって、この対中戦争を限定する、世界戦争への閾値を低くする戦略が打ち出されることになる。それがオフショア・コントロールというものであり、事実上、エアシーバトル戦略を修正したものだ。
(6)オフショア・コントロール戦略とはどのようなものなのか。この構想は、まず第1段階として米国と同盟国の共同の航空力・海軍力を行使して、中国の石油・天然ガス・貿易などの海上輸送を遮断し、中国商戦の同国の港への出入りを阻止・封鎖することが初期の戦略だ。
(7)中国の世界貿易のほとんどを占める、アジア太平洋地域・インド洋地域への輸出入を封鎖し、中国の海上交通・海上貿易を完全に遮断するということだ(例えば、中国は国内総生産の50%を輸出入に依存し、石油輸入量の78%、海外貿易の85%が海上経由)。オフショア・コントロールの戦略は、中国が遠洋での戦闘能力(渡洋能力) を保有していないことが前提になっている。現実に中国は、この遠洋能力の開発に必死になっており、南沙諸島の軍事化もその一つと言える。
(8)オフショア・コントロールは「海洋拒否戦略」、あるいは「海洋限定戦争」と称するように、このような経済封鎖だけには留まらない。これは、米軍と同盟国軍による海洋遠隔地のコントロールから始まり、次には中国近海全域で中国海軍艦艇・商船を撃沈し攻勢に出るとされる。
(9)オフショア・コントロールの作戦の目標は、第1列島線内に無人地帯を作り出すことに置かれ、「琉球諸島の小さな島々、フィリピン群島の一部、さらには韓国沿岸に配備された対艦ミサイルと水中監視システムを組み合わせることにより、攻撃的な対潜水観戦は、中国海軍の水上艦艇ならびに潜水艦が第1列島線を突破し、西太平洋の広大な海域に打って出ることを、きわめて困難にする」ということだ(以上はアーロン・フリードバーグ著「アメリカの対中戦略」芙蓉書房)。
(10)いずれにしても、この島嶼防衛戦略は、「第1列島線に無人地帯」を作り出し、中国のA2/AD能力を無力化するのが目標であり、この戦略構想にとっては、第1列島線ー琉球弧は、まさに、「天然の障壁」であり、対中国への「万里の長城」として存在するということだ。
(11)オフショア・コントロールの戦略がエアシーバトルと異なるのは、核戦争へのエスカレーションを防ぐために、「戦闘行為の範囲と持続期間を十分に低くするということ、中国政府が目的遂行のため、最後の審判の日の武器を使用することに賛成しない程度に、十分に抑制的である」とすべきとし、「米政府にとっては、展開兵力の種別や量について、核の閾値以下に留めることが肝要となる」とすることだ(米海軍大学教授、トン・ヨシハラとジェームズ・R・ホームズ『海幹校戦略研究』第2巻第1号増刊2012年8月)。
(12)彼らは、また米国の戦略策定者は、作戦目標について、米軍の同盟国支援のためには、中国人民解放軍に多大な出血を強要するような派遣ではなく、「海軍力により孤立化させ得る、敵領域の明確な一部への影響力使用また確保のための限定作戦」とすべきであるとし、この「海洋限定戦争」を提唱するのである。
(13)このような戦争が、「海洋拒否戦略」、あるいは「海洋限定戦争」と称され、まさしく「自衛隊を主力」として行われる戦争である。(日米ガイドラインは、「日本の防衛」のためには自衛隊を主力とし、米軍が自衛隊を支援し保管するとして定めている)。


Ⅵ.日本のこれから


(1)島嶼防衛戦争の「戦略目標」が米軍による同盟国支援(自衛隊)のために、中国に多大な出血を強要するような派遣ではなく「海軍力により孤立化させ得る、敵領域の明確な一部への影響力使用また確保のための限定作戦」であるということは、中国のA2/AD能力とも相まって、究極的には、「先島諸島限定戦争」(奄美大島を含む「島嶼戦」)として想定されるということだ。
(2)この戦禍を避ける唯一の方法は、先島諸島の住民たちが今こそ「無防備都市(島)宣言」を行い、一切の軍隊の配備・駐留を拒むことだ。もともと、先島諸島には、戦後71年にわたって軍隊はほとんど駐留していなかったのであり、何事もなく平和が保たれてきたのだ。だからこそ、島民たちは、無防備都市を宣言する権利を持つのである。


 小西のこの第4章から受け取るべきものは、次のものである。


Ⅰ.現在始まっているのは、南西重視戦略による自衛隊部隊の約1万人に近い規模の巨大な増強態勢であり、すでに配備されている沖縄本島の部隊と併せて、約2万人規模の「事前配備」態勢である、ことを把握すること。
Ⅱ.陸自の構想する、3段階作戦で特徴的なのは、この作戦計画があらかじめ「敵による島嶼草書占領」を前提にしていることであり、その後の「奪回」を戦略としていることだ。これは、「島嶼の防衛」は、基本的には不可能ということ。
Ⅲ.自衛隊の各島に配備された対艦・対空ミサイルは、中国艦艇・航空機の通峡阻止のための先陣をきることになる。しかし、同時に、中国本土から撃ち込まれる弾道ミサイル・巡航ミサイルも激しく島嶼を攻撃し、島嶼部に置かれた地上目標、固定目標は、一瞬のうちに破壊される、ということについてきちんと把握すること。。
Ⅳ.自衛隊が想定しているのは、あらかじめ中国の島嶼占領を前提とした「島嶼奪回」作戦である。そのために、水陸機動団などの海兵隊の編制が行われようとしていること。
Ⅴ.繰り返される島嶼防衛戦は、彼我双方の対着上陸戦闘・着上陸戦闘を何度も繰り返すことによって、先島ー南西諸島の島々を破壊尽くし、一木一草も生えない焦土と化してしまうこと。
Ⅵ.このエアシーバトル構想が発動されたとするなら、戦争が「東中国海」という地理的制限はおろか通常型の戦争に限定されることはあり得ないため、この戦争は、不可避的に米中を中心とする通常型の世界戦争から核戦争にまで発展することは不可避だということ。
Ⅶ.この対中戦争を限定する、世界戦争への閾値を低くする戦略が打ち出されることになる。それがオフショア・コントロールというものであり、事実上、エアシーバトル戦略を修正したものだということ。
Ⅷ.この戦禍を避ける唯一の方法は、先島諸島の住民たちが今こそ「無防備都市(島)宣言」を行い、一切の軍隊の配備・駐留を拒むこと。もともと、先島諸島には、戦後71年にわたって軍隊はほとんど駐留していなかったのであり、何事もなく平和が保たれてきたのであるから、島民たちは、無防備都市を宣言する権利を持つことを知ること。


 この小西の第4章で把握できたことは、日米ガイドラインの「『日本の防衛』のためには自衛隊を主力とし、米軍が自衛隊を支援し保管する」、ということの意味は、「自衛隊は、エアシーバトル構想やオフショア・コントロール構想の唱える『海洋拒否戦略』『海洋限定戦争』という戦略のなかで、自衛隊が、中心になって戦争を行う」、ということである。
 また、この中で、南西諸島-琉球弧は、日米両政府の思惑の中では、まず初めに壊されるということが前提としてあるということである。




by asyagi-df-2014 | 2017-11-05 09:25 | 本等からのもの | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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