連合の迷走を憂う。

 連合は、一部の専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案について、条件付きで容認する方針を撤回した。
この撤回までの連合の迷走ぶりは、一強の天下を誇っていた安倍晋三政権に露骨にすり寄った結果と映るもので、労働組合の団結を傷つけるものとなった。
 この問題について、2017年7月29日から31日の間に、山陰中央新報、琉球新報、茨城新聞、北海道新聞の四紙が社説・論説を掲げた。
 まずは、連合迷走の経過と各紙の主張を要約する。


Ⅰ.経過


経過1:連合は「残業代ゼロ」で労働者を働かせる制度だとして新制度に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に健康確保措置を拡充する修正案を示し、7月中に政労使のトップ会談で修正に合意する方向となっていた。しかし、傘下の労働組合などから反対の声が続出したため、27日の中央執行委員会で方針を転換した。(山陰中央新報)
経過2:神津会長は組織内に混乱を招いたとして謝罪した。経緯を丁寧に説明し信頼を回復する努力が欠かせないが、果たして納得が得られるだろうか。何らかのけじめをつけるよう求める声が高まるかもしれない。(山陰中央新報)
経過3:「安倍1強」の中で、原案通り成立するよりは妥協して修正案を出す方が得策との考えが働いたようだ。だが、支持率が低下して屋台骨がぐらついている安倍政権に、結果的に助け船を出した形になっていた。(琉球新報)
経過4:連合の修正案では、新制度が定めている健康確保措置を強化し、年間104日の休日の確保を義務付けることなどを盛り込んだ。しかし、修正案は企業に対する要求が緩やかで、働き過ぎを防止する効果は極めて疑わしい。「新制度には反対」と言いながら政府に修正を求めるやり方そのものが分かりにくく、批判が起きたのは当然である。執行部が政府と水面下で折衝し、修正を要請する直前まで組織内に説明しなかったことも、独走だとして不信感を高めている。修正提案は、新制度の導入が阻止できないなら少しでもましな制度にする方がよいという判断ゆえだろう。(茨城新聞)
経過5:改正案の国会審議が2年以上も先送りされている状況で、政府を助けるような提案をするのは理解できない。連合は安倍政権に接近し過ぎているとの批判がある。政権との距離感に問題はないか顧みるべきだ。(茨城新聞)
経過6: 神津会長は組織内に混乱を招いたとして謝罪した。経緯を丁寧に説明し信頼を回復する努力が欠かせないが、果たして納得が得られるだろうか。何らかのけじめをつけるよう求める声が高まるかもしれない。(茨城新聞)
経過7:高度プロフェッショナル制度は、第1次安倍晋三政権が導入しようとして果たせなかった「ホワイトカラー・エグゼンプション」の焼き直しである。「残業代ゼロ」で際限なく働かされかねないとして、労働界が強く抵抗してきた。しかも、いったん導入されれば、対象が拡大する恐れがあり、第2次安倍政権でも、国会で2年以上たなざらしとなってきた。(北海道新聞)
経過8:政府は、残業時間の上限規制と抱き合わせにして、秋の臨時国会に提案する方針だ。連合執行部は、上限規制の「実を取る」ため、歩み寄ったとされるが、理解に苦しむ。
残業上限の「月100時間未満」は、国の過労死ラインと変わらない。論外の緩さだ。連合が提案した修正案の中身も実効性が疑わしい。健康確保措置として「年104日以上の休日取得」を義務付け、「2週間連続の休日取得」「臨時の健康診断」などの条件の中から労使に選ばせる内容だ。多くの企業が、臨時の健康診断を選ぶとみられる。これでは、過労を食い止めるどころか、長時間労働の「免罪符」に利用される懸念もある。(北海道新聞)


Ⅱ.主張


(山陰中央新報)
(1)執行部が政府と水面下で折衝し、修正を要請する直前まで組織内に説明しなかったことも、独走だとして不信感を高めている。修正提案は、新制度の導入が阻止できないなら少しでも良い制度にするという判断だろう。しかし、改正案の国会審議が2年以上も先送りされている状況で、判断は正しかったのか。野党側からは、連合は安倍政権に接近し過ぎているとの批判がある。政権との距離感に問題はなかったかチェックも必要だ。
(2)新制度の内容を再検討すると、政府は時間に縛られない効率的な働き方ができると説明するが、違法なサービス残業がはびこる現状では、新制度は長時間労働を助長する懸念が強い。政策の順番として、長時間労働の抑制を先行させるべきではないか。
(3)年収要件が引き下げられ、適用対象が拡大される可能性も否定できない。経団連はしばしば年収要件の引き下げに言及してきた。新制度をアリの一穴として、残業代ゼロの働き方を広げるのが経営側の本音ではないかと疑われても仕方ない。
(4)これほど働く人に影響の大きい制度を十分に議論しないまま導入するようなことがあってはならない。連合はあらためて新制度の問題点を厳しく指摘すべきであり、政府も労基法改正案の成立を急いではならない。まず徹底的に議論することが必要だ。


(琉球新報)
(1)働く人を守る労働組合として当然の結論だ。
(2)一方で政府は、連合が要請した休日確保措置などを盛り込んで修正する方針だ。残業規制を含む働き方改革関連法案とセットでの成立をもくろんでいる。水と油のような両法案を切り離し、過重労働や残業時間の規制を優先して徹底審議するよう強く求める。
(3)労働者を守る組織として存在意義を見失った独断は、厳しく非難されるべきだ。目を向けるべきは、政権にすり寄ることではなく、働く者の健康と権利を守ることだ。
(4)連合が要請した条件は、年収1075万円以上の専門職に、「年間104日の休日」を義務化した上で「連続2週間の休暇取得」「勤務間インターバルの確保」「臨時の健康診断」など4項目から労使に選ばせる内容だった。しかし、新制度導入を推進する経団連は、第1次安倍政権時代に「年収400万円以上」と主張していた。一度、新制度が成立してしまうと、アリの一穴で制限は緩和され、長時間労働が増えていくのは火を見るより明らかだ。
(5)政府は連合の主張を取り込み、秋の臨時国会に提案する構えだ。2015年に提案後2年以上一度も審議されてこなかったので、まずは審議入りを目指す狙いなのだろう。
政府が狡猾(こうかつ)なのは、残業時間の上限規制を盛り込んだ「働き方改革法案」と、新制度を導入する「労働基準法改正案」を一本化して一括審議を図る点だ。残業規制を人質にしているとしか思えない。
(6)最優先すべきは長時間労働の抑制だ。法案を切り離して別個に審議した方がいい。
 過重労働の改善は喫緊の課題であり、時代の要請である。県内484企業を対象にした調査でも56%が働き方改革に取り組んでいると答えた。
 働く者の健康や生命に関わる残業時間抑制の法案を優先して早期に成立させ、残業代ゼロ法案は廃案にすべきだ。


(茨城新聞)
(1)新制度の内容を再検討すると、あらためて問題が多い制度だと言わざるを得ない。政府は時間に縛られない効率的な働き方ができると説明するが、違法なサービス残業がはびこる現状では、新制度は長時間労働を助長する懸念が強い。順番として、長時間労働の抑制を先行させるべきではないか。
(2)年収要件が引き下げられ、適用対象が拡大される可能性も否定できない。経団連はしばしば年収要件の引き下げに言及してきた。新制度をアリの一穴として、残業代ゼロの働き方を広げるのが経営側の本音ではないかと疑われても仕方ない。
(3)これほど働く人に影響の大きい制度を十分に議論しないまま導入するようなことがあってはならない。連合はあらためて新制度の問題点を厳しく指摘すべきであり、政府も労基法改正案の成立を急いではならない。まず徹底的に議論することが必要だ。


(北海道新聞)
(1)容認方針の撤回は当然である。傘下の組織に十分な説明もなく、政府や経団連と水面下で調整し、結果的に大きな混乱を招いた執行部の責任は重い。労働者の権利を守る組織という原点に立ち、信頼の回復に全力を尽くさねばならない。
(2)連合が修正合意を見送っても、政府は、労基法改正案に連合の修正案を反映させるようだ。残業時間の上限規制を柱とした働き方改革関連法案の成立を急ぐ姿勢も変えていない。あまりに乱暴なやり方だ。労働側の言い分も一応聞いたという体裁だけ繕って、明確な歯止めを欠いたまま、長時間労働を助長しかねない制度を法制化するのは言語道断である。


 さて、ここで、各紙を参考に、連合迷走の経過をまとめると次のようになる。


Ⅰ.連合は、「『残業代ゼロ』(高度プロフェッショナル制度)で労働者を働かせる制度だとして新制度に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に健康確保措置を拡充する修正案」を示した。つまり、『残業代ゼロ』を飲み込むことと組織の維持を天秤にかけ、自らの権力維持の方を選んだ。
Ⅱ.そもそも、この「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル制度)は、「第1次安倍晋三政権が導入しようとして果たせなかった『ホワイトカラー・エグゼンプション』の焼き直しである。『残業代ゼロ』で際限なく働かされかねないとして、労働界が強く抵抗してきた。しかも、いったん導入されれば、対象が拡大する恐れがあり、「第2次安倍政権でも、国会で2年以上たなざらしとなってきた。」、という代物であったにもかかわらずである。
Ⅲ.連合の修正案は、「新制度が定めている健康確保措置を強化し、年間104日の休日の確保を義務付けることなどを盛り込んだ。しかし、修正案は企業に対する要求が緩やかで、働き過ぎを防止する効果は極めて疑わしい。」というものであった。また、「『新制度には反対』と言いながら政府に修正を求めるやり方そのものが分かりにくい」、というものでもあった。
Ⅳ.この連合の修正案は、「残業上限の『月100時間未満』は、国の過労死ラインと変わらない。論外の緩さだ。連合が提案した修正案の中身も実効性が疑わしい。健康確保措置として『年104日以上の休日取得』を義務付け、『2週間連続の休日取得』『臨時の健康診断』などの条件の中から労使に選ばせる内容だ。多くの企業が、臨時の健康診断を選ぶとみられる。これでは、過労を食い止めるどころか、長時間労働の『免罪符』に利用される懸念もある。」、というものでしかない。
Ⅴ.連合が今回起こした問題は、「批判が起きたのは当然である。執行部が政府と水面下で折衝し、修正を要請する直前まで組織内に説明しなかったことも、独走だとして不信感を高めている。」、とマスコミに捉えられるものであった。
Ⅵ.さらに、一強の天下を誇っていた安倍晋三政権に露骨にすり寄った結果ではないかと、「改正案の国会審議が2年以上も先送りされている状況で、政府を助けるような提案をするのは理解できない。連合は安倍政権に接近し過ぎているとの批判がある。政権との距離感に問題はないか顧みるべきだ。」、とまでマスコミに批判されてしまっている。



 こうした連合迷走の経過からわかることの一つは、連合が深刻な内部課題を負ったということである。。
 連合のこれからは、連合という組織が、「労働者の権利を守る組織という原点に立ち、信頼の回復に全力を尽くさねばならない。」(北海道新聞)、との指摘を受け入れることができるかということにある。言はば、働く人を守る労働組合の立場を徹底的に貫くことができるかが問われている。
 何故なら、実は、「政府が狡猾(こうかつ)なのは、残業時間の上限規制を盛り込んだ『働き方改革法案』と、新制度を導入する『労働基準法改正案』を一本化して一括審議を図る点だ。残業規制を人質にしているとしか思えない。」、というのが当たり前の情勢分析であるはずなのに、連合は、意図的にこの情勢分析を否定したのである。
 もっと言えば、「最優先すべきは長時間労働の抑制だ。法案を切り離して別個に審議した方がいい。」(琉球新報)、との判断は市井に生きる労働者にとっては、生死の鍵を握るものであるはずなのにである。
 最後に、連合や安倍晋三政権に、山陰中央新報の次の訴えは、届くのか。
連合の役目は、まだ生きているのかということが問われている。


 これほど働く人に影響の大きい制度を十分に議論しないまま導入するようなことがあってはならない。連合はあらためて新制度の問題点を厳しく指摘すべきであり、政府も労基法改正案の成立を急いではならない。まず徹底的に議論することが必要だ。




by asyagi-df-2014 | 2017-08-10 05:36 | 書くことから-労働 | Comments(0)

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