「核のごみマップ」(「科学的特性マップ」)を考える。
2017年 08月 08日
東京新聞は2017年7月29日、「原発で使い終わった核燃料から出る『核のごみ(高レベル放射性廃棄物)』をめぐり経済産業省は二十八日、最終処分場を建設できそうな地域を色分けして示す地図『科学的特性マップ』をホームページ上で公開した。火山からの距離など自然条件を基に全国を四分類した結果、国土のうち沿岸部の約30%は『輸送面でも好ましい』とし適性が高い地域に分類。これらを含む約65%を建設できそうな地域と判断した。」、と報じた。
「核のごみマップ」(「科学的特性マップ」)とは何なのか。
このことを2017年7月30日と31日に拾い上げることのできた南日本新聞、愛媛新聞、茨城新聞、朝日新聞、毎日新聞の5紙の社説・論説から考える。
まずは、各紙の概要は次のものである。
Ⅰ.「科学的特性マップ」とは。
(南日本新聞)
火山や活断層が周囲にない適地は全国の都道府県に存在する。国土の約7割を占め、うち海岸から近く最適とされた地域のある自治体は全市区町村の過半数の約900が該当する。経産省は自治体名などを公表していないが、鹿児島県内で最適とされる地域が一定程度まとまって含まれるのは、南日本新聞社の集計で全43市町村のうち36市町村に上る。
経産省は、自治体に受け入れ判断を求めるものではないと説明する。候補地として手を挙げる自治体を待つ一方、国からも複数の自治体に調査への協力を求めながら段階的に処分場の建設地を絞り込んでいく考えのようだ。
(愛媛新聞)
「科学的特性マップ」と名付けられた地図は、適地を「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」という持って回った言い方で塗り分けた。その結果、国土の7割弱が適地に該当するという。愛媛を見ても、中央構造線断層帯を線状に除いただけで、全20市町に適地が広がる上、どの市町も核のごみを搬入しやすい「輸送面でも好ましい」地域を含んでいる。結局最低限避けるべき地域を示したにすぎず、「科学的」と呼べるものではない。
(茨城新聞)
(1)国は2015年、処分のための調査受け入れについて、自治体から名乗りを上げてもらうそれまでの方式を改め、国が科学的な有望地を示した上で複数の自治体に申し入れる方針を明らかにした。今回の公表はその一環だが、有望地という言葉が誤解を招くとして「科学的特性マップ」と言い換えている。
(2)地図では、活断層や火山の周辺など地下の安定性に問題がある地域、資源探査などで今後地下利用があり得る地域などを塗り分けたが、地震や火山噴火などの地下の出来事を解明することには限界がある。未知の活断層による地盤の変動、火山噴火の規模や時期の想定は難しく、その他の地域が安全であることを意味しない。問題は国民にそれがどれだけ周知されているかだ。現状でリスクについて共通理解があるとは思えない。
(朝日新聞)
(1) 日本で商業原発の運転が始まって半世紀がたった。抱える使用済み燃料は2万トン近い。その燃料から出る高レベル放射性廃棄物は、放射能が十分安全なレベルに下がるまでに数万年~10万年を要する。だから、地下300メートルより深い地層に運び込み、坑道を埋めてふさぎ、ひたすら自然に委ねる。それが政府の考える最終処分だ。人間の想像力を超えた、途方もない未来にまで影響が及ぶ難題だが、避けては通れない。にもかかわらず、処分をあいまいにしたまま原発が生む電気を使い、恩恵だけを享受してきた。原発が「トイレなきマンション」とたとえられるゆえんだ。
(2)いつまでも先送りはできない。マップは国民一人ひとりにその重い現実を突きつける。
(毎日新聞)
(1)特性マップはその第一歩で、火山や活断層、遠い将来に掘り起こされる恐れのある油田や炭田などのある地域を避けた上で、輸送の利便性が高い沿岸部を最も好ましい場所と位置づけている。
Ⅱ.「科学的特性マップ」への問題意識。
(南日本新聞)
(1)核のごみが存在する以上、最終処分をどうするかの検討は避けて通れない。マップの公表をきっかけに国民的議論を喚起しようという国の狙いは理解できる。しかし、真に国民の理解を得ようとするなら、徹底的な原子力政策の見直しが欠かせない。なぜなら、処分場立地促進の目的は原発推進にあるからだ。
(2)最終処分は2000年に法律が制定された。地下300メートルより深い岩盤にガラス固化体として埋め、放射線量が低くなる数万年から約10万年先まで生活環境から隔離して処分するという考え方だ。適地とされた鹿児島県内の地質について、研究者からは「火山噴火や断層の知見が十分反映されず、科学的とはいえない」「活断層が潜む可能性を否定できない場所が多数あり、調査が進んでいない」といった指摘が出ている。
(3)そもそも万年単位の超長期間、安全に地層処分ができるのかどうかは誰にも分からない。国はまず、秋以降に最適とされた地域で重点的に説明会を開く段取りだ。候補地選定へ向けた調査への理解を広げる糸口になるのか第1の関門が待ち受ける。
(愛媛新聞)
(1)原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を巡って、経済産業省は最終処分場の候補地となり得る地域を示した地図を公表した。だがその内容はあまりにも漠然としており、選定に向けた「長い道のりの最初の一歩」(経産省)になるかは疑わしい。
(2)分類の根拠となる基準も明確でない。決めたのは経産省職員が人選した委員会。意見を聞いたという相手も原子力委員会などの「内輪」に限られている。オープンな議論からは程遠く、到底納得できない。
(3)地震や火山噴火の将来予測は難しく、専門家でも議論が分かれている。理解を得るにはまず専門家による透明性のある議論の場を設け、国民に投げ掛け、共に論じることが欠かせない。
(4)国は今後、自治体からの応募を待つ一方、複数の自治体に調査への協力を求めるというが、具体的な道筋は示していない。「これまで以上に対話活動を充実させる。やがて関心を持つ地域が現れると期待する」。世耕弘成経産相は取り組みの加速を強調したが、このままでは受け入れに対する自治体の不安や反発は解消できまい。過疎高齢化に悩む地域が増える中、経産省関係者からは、調査や建設に伴う多額の交付金を目当てに誘致したい自治体はあるはずだ、とのもくろみも聞かれる。足元を見て助成金で「買収」するかのよう
(茨城新聞)
(1)原発稼働に伴うさまざまな問題の中で核のごみ処分を単独で解決することはできない。当初計画では、20年までに発生するガラス固化体を処分するとしていたが、11年の東京電力福島第1原発事故で原発の多くは停止。処分場に置かれる廃棄物の総量は推定できなくなった。
(2)高速増殖原型炉もんじゅの廃炉決定などで核燃料サイクル政策も行き詰まった。使用済み核燃料を再処理せずに処分する「ワンススルー方式」も視野に入る。地層処分の前提となる原子力政策、エネルギー政策の行く末はあまりにも不確かだ。
(3)政府が原発再稼働を推し進めるのに最大の障害は、トイレなきマンションと評される核のごみ処分の不備だ。今回のマップ公表には成果としてわずかな進捗(しんちょく)を強調することでそうした批判をかわす意図はないのか。この現状では、自治体に調査を申し入れても立地が進むとは到底思えない。自治体を名指しすれば、過去に各地で起こったような、受け入れの可否を巡る住民の分断、政治的な大混乱が繰り返されるのは必至だろう。
(朝日新聞)
(1)根本的な疑問がある。いまの原子力政策の維持・継続を前提に、最終処分地問題を進めようとしている点だ。
(2)使用済み燃料を再処理してプルトニウムやウランを取り出し、燃料に使う。残った廃棄物をガラスで固め、最終処分地に埋める。これが核燃料サイクルの概要である。しかし、サイクル事業の破綻(はたん)は明らかだ。1兆円超をつぎ込みながら、失敗続きで廃炉に追い込まれた高速増殖原型炉「もんじゅ」がそれを象徴する。
(3)最終処分地が決まったフィンランドやスウェーデンは、使用済み燃料をそのまま廃棄物として埋める「直接処分」を採用している。日本も現実的に対応していくべきだ。そして、原発を動かせば使用済み燃料も増えていくという事実を直視しなければならない。
(毎日新聞)
(1)この地図で適性が高くても、土地利用の状況など社会的要因を加味すると不適格という場所もある。確定的なものでないことは十分な説明がいるが、国民が関心を示さなければ意味のない地図に終わってしまう。
Ⅲ.主張
(南日本新聞)
福島第1原発事故後の「原発回帰」路線を転換し、再生可能エネルギーなど原発に頼らない社会に向けて中長期的な方針を明確に打ち出すことが先決である。脱原発にかじを切れば、国民の処分への姿勢も変わりうる。今の方針では過去の処分場選定の取り組み同様、地域社会の分断を招き計画が頓挫する可能性は高いと言わざるを得ない。
(愛媛新聞)
(1)国は長年、核のごみという避けて通れない問題を先送りして原発政策を進め、東京電力福島第1原発の事故後もなお再稼働を推進してきた。問題のこれ以上の放置は許されない。「国が前面に立って選定に取り組む」のは当然の責務だ。安全な処分を追究、国民に真摯(しんし)に説明して深い討議を重ねた末に候補地を絞っていかなければならない。
(2)にもかかわらず、地図からは本気度がうかがえない。そればかりか、取り組みの前進をアピールし、近く見直し議論が始まるエネルギー基本計画に原発新増設を盛り込みたいとの思惑が見えることを危惧する。
(3)信頼がなければ協力は得られないと自覚すべきだ。無責任な原発推進を省み、国民の過半が望む脱原発へと政策を転換し、再生エネルギー政策を具体的に示すことが解決への大前提。原発を稼働させれば核のごみは増え続ける。その事実に向き合わないで処分を押しつけるのでは理解を得られるはずがない。
(茨城新聞)
(1)原発の高レベル放射性廃棄物について経済産業省は、最終処分に適している地質環境かどうかを基準に日本全国を塗り分けた地図を公表した。経産相は「処分実現に向けた長い道のりの最初の一歩」としたが、このように物議を醸すだけの施策では何も決まらない。いったん立ち止まり、選定の在り方を一から考え直す必要がある。
(2)まずはマップの塗り分けの意味を、リスクを含めて丁寧に説明し、科学の最新の知見によって基準や処分方法を常に検証すること。そのプロセスをオープンにして国民の疑問や不安に繰り返し答えることが、遠回りでも先決だ。コンセンサスづくりと誘致活動を中途半端に並行させては、進むものも進まない。
(3)核のごみは、政府が国策として推進し、電力会社が事業として発電を行った結果として生まれた産業廃棄物であることを再確認したい。発生責任は国と電力会社にある。そのための合意形成の負担が「国民的課題」の名の下に自治体や住民に押しつけられることがあってはならない。日本学術会議は15年、高レベル放射性廃棄物を50年間は地上で保管し、時間をかけて社会的合意を図ることを提言した。このような難しい課題を解決するには当然の考え方であり、地道で息の長い取り組みこそが求められる。
(朝日新聞)
(1)マップができたとはいえ、最終処分は候補地が見つかっても調査だけで20年程度かかるという。使用済み燃料をできるだけ増やさないために、並行して脱原発への道筋を示すことが不可欠である。
(2)処分すべき廃棄物の量の上限を定め、それ以上は原発を運転させないという考え方は検討に値する。原発を守るために最終処分地を確保するというのでは、国民の理解は得られまい。 経済産業省と原子力発電環境整備機構は今後、「輸送面でも好ましい」とされた海側の地域を中心に対話に取り組み、調査の候補地探しを本格化させる。
(3)注文がある。最終処分地を巡って想定されるリスクや不確実性を包み隠さず説明する。そして、経済面の恩恵や地域振興と引き換えに受け入れを迫るような手法をとらないことだ。経産省と機構は、マップ公表に先立つ一般向け説明会などで「(廃棄物を地中に埋める)地層処分は技術的に確立している」と繰り返し、10万年後のシミュレーション結果を示しながら安全性は十分と強調した。だが、万全を期してもリスクはゼロにはならない。「安全神話」から決別することが、福島第一原発事故の教訓だ。
(4)処分地選びは原発政策と切り離せない関係にあり、政策への国民の信頼がなければ進まない。福島の事故で原発への信頼が失われた以上、政策の抜本的な見直しが欠かせない。
(毎日新聞)
(1)原発政策を進めてきた日本には、すでに核のごみが大量にある。原発への賛否によらず最終処分は必要であり、国民の幅広い理解が欠かせない。この地図を多くの人に興味を持ってもらうきっかけとしたい。
(2)適性が低いと判断された地域の人も日本全体の課題として関心を持ち続けてもらいたい。処分場選定を進めるには、政府や事業主体への信頼が欠かせない。福島の原発事故で安全神話が崩れ、処分場政策にも不信感を抱く人たちは少なからずいる。地震・火山国で未知の断層も抱える日本に不安材料があるのも確かだ。そうした懸念にも納得のいく説明を重ね、新たな知見に応じた計画の見直しも怠らないでほしい。
(2)マップを示したからといって急に国民の合意形成が進むわけではない。一定の期間、地上で「暫定保管」することも選択肢の一つだろう。その検討も進める必要がある。
(3)核のごみの総量を一定に抑えることは処分場選定を前進させる重要な要素だ。再稼働を進めれば核のごみは増え続ける。そのマイナスも考慮に入れ原発政策を考えるべきだ。
確かに、「核のごみマップ」(「科学的特性マップ」)を発表した政府の思惑は、朝日新聞の「火山や活断層、地下資源の有無など自然条件から全国を『好ましい』と『「好ましくない』に大別しつつ4区分した。住まいや故郷がある市区町村が気になって調べた人もいるだろう。ひと安心、心配、警戒……。国土全体の6割もが『好ましい』とされただけに、『私の所は関係ない』」と、ひとごととして受け流したかもしれない。」との指摘にあるのではないか。一つのイメージ戦略である。
私自身も、自分の居住地ををまずこのマップに当てはめてみてしまった。
実は、「核のごみマップ」(「科学的特性マップ」)を考える時、まず大事なのは、南日本新聞が指摘する次のことである。
Ⅰ.核のごみが存在する以上、最終処分をどうするかの検討は避けて通れない。
Ⅱ.マップの公表をきっかけに国民的議論を喚起しようという国の狙いは理解できる。
Ⅲ.しかし、真に国民の理解を得ようとするなら、徹底的な原子力政策の見直しが欠かせない。なぜなら、処分場立地促進の目的は原発推進にあるからだ。
つまり、「核のごみマップ」(「科学的特性マップ」)の前提には、「福島第1原発事故後の「原発回帰」路線を転換し、再生可能エネルギーなど原発に頼らない社会に向けて中長期的な方針を明確に打ち出すことが先決である。」、という基本理念が背景にあるかどうかが重要になってくる。
逆に言えば、政府の「核のごみマップ」(「科学的特性マップ」には、朝日新聞の「根本的な疑問がある。いまの原子力政策の維持・継続を前提に、最終処分地問題を進めようとしている点だ。」、との欺瞞が透けて見える。
当然、こうしたイメージ戦略では、「原発を稼働させれば核のごみは増え続ける。その事実に向き合わないで処分を押しつけるのでは理解を得られるはずがない。」(愛媛新聞)、との指摘を超えられないことは明らかである。
このことは、朝日新聞が、「処分地選びは原発政策と切り離せない関係にあり、政策への国民の信頼がなければ進まない。福島の事故で原発への信頼が失われた以上、政策の抜本的な見直しが欠かせない。」、と触れるところでもある。
また、「科学的特性マップ」の科学性についても、愛媛新聞の「『科学的特性マップ』と名付けられた地図は、適地を『好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い』という持って回った言い方で塗り分けた。その結果、国土の7割弱が適地に該当するという。愛媛を見ても、中央構造線断層帯を線状に除いただけで、全20市町に適地が広がる上、どの市町も核のごみを搬入しやすい『輸送面でも好ましい』地域を含んでいる。結局最低限避けるべき地域を示したにすぎず、『科学的』と呼べるものではない。」との指摘が言い当てている。