「共謀罪」法の施行を迎えて。

 犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が、2017年7月11日施行された。
 今後は、対象となる277の罪で、犯罪を計画し準備を始めた段階で処罰されることになる。 
 「共謀罪」法の施行を受けて、あらためてこの法の意味を考える。


東京新聞は、2017年7月10日、この法律の主旨を次のようにまとめている。

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 東京新聞は「共謀罪」法に関して、2017年6月15日、「数々の問題 置き去り」として、次の9点の問題点を指摘していた。


Ⅰ.計画段階の捜査で人権侵害の恐れ
Ⅱ.何が「合意」に当たるのか
Ⅲ.何が「準備行為」に当たるのか。
Ⅳ.何が「組織的罪集団」に当たるのか
Ⅴ.冤罪、誤認逮捕の恐れ
Ⅵ.なぜ犯罪対象が277なのか
Ⅶ.テロを防止できるか
Ⅷ.国際組織犯罪防止条約はテロを対象にしているのか
Ⅸ.共謀罪なしで条約締結できないのか

 また、東京新聞は、この各指摘事項について、「取材班の目」で次のように答える。


Ⅰ.「監視強化の歯止めなし」
Ⅱ.「曖昧な『計画』の具体性」
Ⅲ.「実行意志なくても捜査」
Ⅳ.「『一般人』でも処罰の対象」
Ⅴ.「冤罪防ぐ議論深まらず」
Ⅵ.「削減の努力不充分」
Ⅶ.「必要性に説得力欠く」
Ⅷ.「正式回答は後回しに」
Ⅸ.「イメージづくりに腐心」


 この東京新聞の指摘をまとめると、安倍晋三政権の説得力のない説明に残された七つの疑問と市民の側に発生した二つの恐怖感ということになる。
 「共謀罪」法の問題は、こうした東京新聞の指摘に、琉球新報の次の指摘事項(2017年7月11日社説),日弁連会長声明(2017年6月15日)を付け加えることになる。


Ⅰ.この法律は監視社会を招き、憲法が保障する「内心の自由」を侵害する。捜査機関の権限が大幅に拡大し、表現の自由、集会・結社の自由に重大な影響を及ぼす。
Ⅱ.共謀罪法によって、犯罪が行われていない段階で捜査機関が故意の有無を判断するのは、「心の中」に踏み込むことになる。このままでは広範かつ日常的に室内盗聴や潜入捜査などによって市民が監視される恐れがある。法律が拡大解釈されて冤罪(えんざい)を生む可能性は消えていない。
Ⅲ.共謀罪法は、我が国の刑事法の体系や基本原則を根本的に変更する。


 東京新聞の9つの問題点をこの枠組みに基づいて、東京新聞、朝日新聞社説(2017年7月10日・11日)、琉球新報社説、AERA2017年7月10日号から説明すると次のようになる。


(1)Ⅰに即して
  国会審議を通じてあらためて浮かびあがったのは、捜査当局が重ねてきた基本的人権を踏みにじる行いである。犯罪とまったく関係のない環境保護団体やイスラム教徒の動向を見張る。野党の機関紙を配布する人を長期にわたって徹底尾行する。選挙のとき、労働団体が入る建物の前に監視カメラを設置する――。いずれも警察が実際に手を染め、近年、人々の知るところとなった驚くべき行為だ。捜査や摘発の前倒しをねらう共謀罪法は、こうした警察の不当・違法な動きを助長することになりかねない。法律の必要性を説く前に、まず「過去」を検証し、謝罪する。それが当然踏むべき手順だった。ところが松本純国家公安委員長は、市民監視の実態について「今後の警察活動に支障を及ぼすおそれ」があるとして最後まで説明を拒み、「責務を果たすため必要な情報収集を行っている」と開き直る答弁をした。公安委員会は、警察の民主的運営を保障し、独善化を防ぎ、政治的中立性を確保するために設けられた組織だ。そのトップが使命を忘れ、チェック機能を放棄し、当局と一体化する。そんなことで人々の懸念をぬぐえるはずがない。(朝日新聞)
(2)Ⅱに即して
 政府は「計画には具体的、現実的合意が必要」と、かっての法案との違いを強調した。だが、6月になって、計画に内容について「詳細まで必要ない」と答弁を変えた。計画の詳細が決まっていなければ具体的、現実的と言えるのか。「どこまで犯罪を計画したら処罰されるのか」という犯罪成立の根幹すら、はっきりしないままだ。(東京新聞)
(3)Ⅲに即して
 政府はこれまで「故意がなければ処罰対象にならない」と説明してきた。だが、犯罪を実行する意志(故意)がなくても準備行為は行われる可能性が指摘された。犯罪が行われていない段階で捜査機関が故意の有無を判断するのは、「心の中」に踏み込むことにほかならない。日常の行為が準備行為とされる恐れも強い。(東京新聞)
(4)Ⅳに即して
 政府は法律の適用対象を「組織的犯罪集団」としている。犯罪集団のメンバーらが2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が現場の下見などの「準備行為」をすれば全員が処罰される。犯罪実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系を大きく変える。
 安倍晋三首相は当初、一般市民は対象外と説明したが、後に「犯罪集団に一変した段階で一般人であるわけがない」と答弁を変えている。そもそも誰が誰を「一般市民」と決めるのか。
 警察が風力発電計画に関する勉強会を開いた地元住民の個人情報を収集したり、選挙違反を調べるため労働組合事務所を隠し撮りしたりしたケースが国会審議で取り上げられた。政府は通常の警察活動だと言い切ったが、通常でもこのような行き過ぎた捜査が行われている。(琉球新報)
(5)Ⅴに即して
 国会では、捜査当局の拡大解釈で一般市民が処罰対象になりかねない、捜査の開始時期が早まり国民の監視が強まる、などと野党から批判があった。法務省は6月23日に全国の地検などに適正な捜査を求める通知を送付。警察庁も同日、都道府県警に通達を出し、適正さを確保する観点から、都道府県警本部の指揮で捜査するよう指示した。当面の間、捜査開始前に警察庁に報告することも求めた。(朝日新聞)

 「今回成立した共謀罪の形には、賛成できません」。そう語るのは、早稲田大学大学院法務研究科の古谷修一教授。早くから、日本国内での共謀罪導入を唱えてきた人物でもある。それでも今回成立した「共謀罪」法に賛成できない理由は、共謀罪が適用される犯罪の数が277とあまりに多いことだ。条約5条には、犯罪の種類について「金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的の(犯罪)」と規定している。なぜ277もの犯罪が決められたのか。古谷教授は共謀罪を運用する側の心の内をこう推察する。「これをどう運用するかはわかりませんが、利用できるようにしておきたい、と考えるのではないでしょうか」(AERA)
(6)ⅥとⅧに即して
 政府は、国連の組織犯罪防止条約に加盟し、テロを封じ込めるには、この法律が不可欠だと主張した。だが当の国連の専門家から疑義が寄せられると、ほおかむりを決めこんだ。すでに加盟している他国がどんな法整備をしたのか、詳細はついに説明されず、計画段階から処罰できる犯罪類型を277もつくることについても、説得力のある理由は示されなかった。(朝日新聞)
(7)Ⅶに即して
 政府は、現行法で対応できず、「共謀罪」創設の必要性を示す例として、ハイジャック目的の航空券導入や毒物テロ事案を挙げていた。しかし、オウム真理教がいつ組織的犯罪集団に変わったかについて「当時はその観点から捜査していない」と繰り返すなど、具体的な議論には応じず抽象的な答弁に終始した。政府が第一の目的としたテロ対策としての実効性にも、疑問符がついたままだ。(東京新聞)
(9)Ⅸに即して
 条約締結のためには共謀罪の創設が必要との政府の主張と、別の方法があるとする野党の論議は平行線をたどった。首相は国連事務総長と会談した際、政府の取り組みを評価する言質を取るなど、国際社会から共謀罪の創設を求められているとのイメージを繰り返し強調した。(東京新聞)


 一方では、「共謀罪」法の実態は、「こんな法律があっても使えない、という結論になっています」、ということが、説かれていると、AERA(2017年7月10日号)は指摘する。実際に、次のような声があると。


 「警察取材が長いジャーナリストは、共謀罪法を冷めた目で見る警察幹部が少なくないと指摘する。
 『国際条約批准のために作文された法律で捜査現場が使うことを想定していない、準備行為の立件のためには捜査手段を整えなければいけないがその見通しがない、といった意見があります』
 立件に必要な捜査手段とは、通信傍受や潜入捜査のことだ。通信傍受は00年に始まったが、対象犯罪が13類型に限られている。過去の刑事司法改革論議では警察が会話傍受、たとえば直接机の下などに盗聴器を仕掛ける捜査手段の導入も提案したが、見送られたという。そのため、『こんな法律があっても使えない、という結論になっています』(ジャーナリスト)というのだ。」


 しかし、このことについても、次のAERAの見解が正鵠を得ている。
 

(1)警察は立件できる手段がない。だから共謀罪は安心──。だが、未来にわたってそんな安心が担保されるのか。
 法律には、拡大解釈を罰則をもって明確に禁じる文章が記載されているわけではない。また前出の梓澤弁護士は、「警察は刑事訴訟法上、『犯罪があると思料するときは』捜査ができると規定されている」とも指摘する。いくら検察や裁判所が歯止めになるといっても、警察が「これは共謀罪だ」「彼らは犯罪組織だ」と思い込んで捜査を始めてしまうことは止められないし、その時点で重大な人権侵害は起こりうる。そして警察はすでに現状の法体系でも、個人の人権を脅かす捜査や情報収集を繰り返してきた。
(2)公安警察を長く取材し『日本の公安警察』などの著書があるジャーナリストの青木理さんは、「警察官はおおむねみんなまじめだし、職務に忠実」と言う。そして、こう付け加える。
「だからこそ、彼らは暴走する可能性があることを忘れてはいけない」
 オウム事件で存在感を発揮できなかった公安警察は外事3課を創設してテロ対策に乗り出したものの、捜査ターゲットが見当たらないまま、イスラム教徒に対する大規模な情報収集を行った──そう、青木さんは読む。膨大な個人情報への遠慮のない侵入は、彼らの「まじめさ」のたまものでもある。だから共謀罪による監視対象者を一定期間後に開示するなど、警察の捜査手法を第三者にチェックさせる仕組みが不可欠と青木さんは言う。
「実際にテロが起きて世論がヒステリックになった時、警察がその後押しを得て捜査手法を広げ暴走する可能性がある。内なる暴力装置の暴走こそが国を危うくするという発想がない今の政治家は『平和ボケ』だ」


 さて、「共謀罪」法の施行を受けて、何が必要なのか。
 まずは、日本弁護士連合会が行ったように、「本法律が恣意的に運用されることがないように注視し、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、今後、成立した法律の廃止に向けた取組を行う所存である。」、との決意表明をひとり一人が発することである。





by asyagi-df-2014 | 2017-07-12 06:12 | 共謀罪 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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