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国連人権理事会と日本、沖縄

 2017年6月6日からスイス・ジュネーブで国連人権理事会が開催された。
沖縄タイムスは、阿部岳記者による「国連と沖縄・上・中・下」を掲載した。また、琉球新報は「国連『指針』違反 人権理事国らしい対応を」(2017年6月22日)、沖縄タイムスは「[国連報告者指摘]懸念に正面から答えよ」(2017年6月14日)、とそれぞれが主張を展開した。
 国連人権理事会と日本、沖縄という問題が、特別報告者の報告と日本政府の反論及び人権侵害の当該者からの報告という中で、浮き彫りになった。
 これを基に、国連人権理事会と日本、沖縄という問題を考える。
 まず、阿部岳記者の「ジュネーブの国連機関でこの1週間、沖縄の基地反対運動に対する政府の圧力が何度も議論になった。今後の課題を探る。」、という記事を要約する、
なお、阿部岳記者は、山城博治さんの釈放に向けて、沖縄タイムスの社説で心情に深く届く訴えを書いた人でもある。


Ⅰ.人権の遵守ということの意味 

(1)沖縄平和運動センターの山城博治議長は16日、スイス・ジュネーブの市街地にある国連人権高等弁務官事務所を訪れた。一室に集まった国連職員は、特別報告者のアシスタントら。返事は明快だった。「山城議長は当然、人権の擁護者である」「私たちは引き続き状況を見守っていく」。山城議長は思わず立ち上がり、90度のお辞儀をして「うれしいです。ありがとう」と言った。
(2)「人権の擁護者」は他の人の権利も守るため、国際的には特別な保護の対象となる。一方、山城議長は国内では刑事被告人として罪に問われている。同行した金高望弁護士は「国内法の形式的な適用のおかしさを痛感している。改めて国際人権法の到達点に感動した」と語った。
(3)例えば、集会に関する政府向けのガイドラインがある。「集会による一定の交通阻害や経済的損失は許容されなければならない」「警察機関は地域の人口構成を反映しなければならない」といった内容だ。
(4)軽微な道交法違反で逮捕が続き、県外から500人もの機動隊が投入される沖縄の状況は違反だらけだ。日本政府はこのガイドライン策定を求める決議に賛成しておいて、順守していない。金高弁護士は「日本では裁判所も国際人権法に耳を傾けないことが多いが、ヘイトスピーチに適用した画期的な判例もある。私たちも諦めず、愚直に国際基準を訴えていきたい」と決意を新たにした。
(5)スイス公共放送国際部が運営するニュースサイト「スイスインフォ」は10カ国語で発信している。日本語版の上原亜紀子編集長が山城議長にインタビューした。「2年前にも知事が来た。地方の権限が強いスイスの人はなぜ民意が反映されないのか、と不思議に思うだろう」と指摘する。「国連でも関心は高まっていて、沖縄という言葉を出すだけで基地問題のことだとすぐ分かる。山城議長のスピーチは短時間だったが、国際社会に訴える意義は大きい」と評価した。
(6)16日の沖縄に関するシンポジウム会場には、米軍のコロンビア駐留に反対するアメリカ法学者協会のデービッド・ロペス氏がいた。登壇者の話に聞き入り、「地球の反対側同士でも関係ない。米軍という同じ根っこから問題が生まれている。沖縄の闘いは私たちの闘いだ」と語った。

Ⅱ.もう一方の動き、反論

(1)スイス・ジュネーブの高級ホテルで13日、市民団体「沖縄の真実を伝える会」がシンポジウムを開いた。メンバーらが参加者20人余りに「真実」を報告した。「日本の共産主義者が沖縄に結集し、琉球独立の名の下に革命を計画している」「加害者が被害者を装って国連を悪用しようとしている」。国連の特別報告者デービッド・ケイ氏や沖縄平和運動センターの山城博治議長が、沖縄における表現の自由の侵害を人権理事会に報告する。その打ち消しを狙っていた。一定の効果はあったようだ。地元に住む女性は「沖縄では米軍犯罪が深刻なのかと思っていた。中国軍の方が脅威だと分かった」と感想を話した。もっとも、別の地元女性は「何でも共産主義者のせいか」と首をかしげた。
(2)日本政府も反論に躍起になった。12日のケイ氏の報告には駐ジュネーブ国際機関政府代表部で人権を担当する次席大使ではなく、トップの伊原純一大使が反論した。会議の合間を縫って出席、「わが国の説明や立場に正確な理解がない点は遺憾」と声明を読み上げた。記者団に囲まれたが「政府として言うべきことは言った」とだけ話すと、足早に会場を後にした。関係者は「トップが出ろ、と東京から指示があった。声明も全て東京で書いているから、聞かれても答えようがない」と代弁した。
(3)政府が事前に書面で提出した反論はさらに激しい内容だった。「伝聞と推測に基づく」「人権理事会の権威を著しく損なう」。
(4)一部のメディアも政府と一体化し、「国連反日報告」などと攻撃を強める。

Ⅲ.こうした政府の反論への異論

(1)神奈川大法科大学院の阿部浩己教授は、政府が北朝鮮には特別報告者の勧告受け入れを迫っていることを挙げ「ダブルスタンダードだ」と指摘。「日本政府は人権分野で国際社会の潮流から大幅にずれ、敵対しているようにすら見える」と懸念した。
(2)NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士は「レッテル貼りで異論を排除する手法を国際社会でも使おうとしている。有効ではないし、日本のためにもならない」とみる。「どの国も完璧ではない。批判された内容を謙虚に、建設的に検討することで、国際社会での評価はかえって高まる」と提起した。

Ⅳ.山城博治議長からの発信

(1)沖縄平和運動センターの山城博治議長を国連に送る計画は、沖縄国際人権法研究会の中で昨年から持ち上がっていた。表現の自由に関する特別報告者、デービッド・ケイ氏がことし6月の国連人権理事会で対日調査報告書を発表することが分かっていた。それに合わせ、スイス・ジュネーブで沖縄代表として発信するのは誰がいいか。山城議長が最適任だと一致したものの、この時点ではまだ留置場にいた。
(2)ジュネーブでの全日程を終えた16日、研究会共同代表の星野英一琉球大教授は「最初は全く見通しが立たなかった。実現できて感無量です」と喜んだ。費用のカンパは、インターネットだけで127万円(18日時点)が集まった。
(3)基地建設反対運動のさなかに逮捕され、5カ月間拘束された山城議長の言葉に、国連で出会った人々は真剣に聞き入った。山城議長は「県民の思いを果たすために泥まみれで運動をしてきて、手錠や腰縄をかけられた。世界中の人が人権を語る場に参加できて光栄だ」と語った。
(4)ジュネーブに駐在し、沖縄からの訪問を支援した反差別国際運動(IMADR)の小松泰介事務局次長によると、当事者が人権理事会で「日本政府による弾圧」を訴えるのは初めてとみられる。「国連関係者に正確で重みのある情報を届けられて成功だった」と言う一方で、「今後のフォローが大切だ」と指摘する。

Ⅳ.今後のフォロー、取り組みということ

(1)「ここで終わったら自己満足になる。現実的に国内政治をどう変えるかを真剣に考えなければ」と話すのは、同行した研究会メンバーで沖縄大地域研究所特別研究員の親川裕子氏。琉球弧の先住民族会(AIPR)の活動で初めてジュネーブを訪れたのは約20年前。「当時は県民にも政府にも全く相手にされず、疎外感があった。今、沖縄で国際人権法が注目され、政府も理事会で山城議長に即座に反論するのを見ると、時代は変わったなと思う」と述懐する。「小さなことの積み重ねでここまで来た」。
(2)研究会は今後も国連に対する働き掛けを続ける。国連加盟国が互いに人権状況をチェックする「普遍的定期審査(UPR)」で、日本が11月に対象になることから、当面はその場で各国から日本政府に質問してもらうことを目指して活動する。


 次に、琉球新報は、「日本政府が、東村高江や名護市辺野古の新基地建設で行ってきた警備活動は国連のガイドライン(指針)に反していることが明らかになった。」、と社説の中で、指摘する。
その具体的な説明は次のものである。


(1)国連人権理事会へ国連特別報告者が提出した報告書に、市民の抗議活動を各国が制限する際のガイドラインが示されている。国連ビルで開かれたシンポジウムでは、国連特別報告者が日本政府に熟読するよう求めた。
(2)昨年2月に提言されたガイドラインは(1)長期的な座り込みや場所の占拠も「集会」に位置付ける(2)座り込みなどによる交通の阻害は、救急車の通行といった基本的サービスや経済が深刻に阻害される場合以外は許容されなければならない(3)集会参加者に対する撮影・録画行為は萎縮効果をもたらす(4)力の行使は例外的に(5)集会による渋滞や商業活動への損害も許容されなくてはならない-という内容だ。
(3)米軍北部訓練場のヘリパッド建設や、辺野古新基地建設に反対する抗議行動に対する警備は、国連ガイドラインを逸脱していることになる。国際基準と言わずとも、ビラやチラシ、集会やデモ行進、座り込みなどは憲法21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」として保障されている。
(4)ヘリパッド建設に対する抗議行動中に逮捕され、5カ月間勾留された山城博治沖縄平和運動センター議長について、国連特別報告者は「不均衡な重い罪を課している」としてガイドラインに反するとの認識を示した。
(5)米法学者も国際人権規約第9条違反と指摘し「山城さんのケースは明らかに微罪。米国の警察なら、仮に逮捕してもこの程度の微罪ならその日のうちに保釈している。これで長期勾留するなど民主国家としてあり得ない」と語っている。
(6)ガイドラインには「法執行者の構成は、そのコミュニティー(地域)を代表するものでなければならない」という規定もある。法執行機関と地域の「信頼」を重視したものだ。しかし、北部訓練場のヘリパッド建設で政府は、全国から500人以上の機動隊員を派遣し抗議する市民を排除し続けた。その過程で大阪府警の機動隊員が市民に「土人」と発言し、県民を深く傷つけ信頼が著しく損なわれた。


 琉球新報は次のように結論づける。


Ⅰ.政府は国連人権理事会の理事国として、あるいは国際社会の一員としてガイドラインに従わなければならない。
Ⅱ.日本は昨年、国連人権理事会の理事国選挙に、特別報告者との対話を重視すると共に「人権理事会の活動に積極的に貢献していく」と公約し当選したはずだ。山城さんに対する特別報告者の指摘に真摯(しんし)に向き合わなければならない。ところが「法に基づく適正なもので国際法違反はない」と開き直っている。理事国選挙の公約に反し、特別報告者を軽視する態度は許されない。


 さらに、沖縄タイムスは、国連人権理事会を受けて、「[国連報告者指摘]懸念に正面から答えよ」、と主張する。この中で、人権擁護の最前線に立つ2人の報告者の最近の日本政府の方針への強い懸念について、次のように報告する。


Ⅰ.特別報告者デービッド・ケイ氏報告

(1)言論と表現の自由に関する特別報告者のデービッド・ケイ氏が、ジュネーブで開催中の国連人権理事会に対日調査報告書を提出し、演説した。ケイ氏は昨年4月に訪日し調査した結果をもとに、放送局に電波停止を命じる根拠となる条項が盛り込まれた放送法見直しの勧告を検討するよう要請。報道の独立性確保を訴えた。
(2)基地を巡る沖縄の状況についても、抗議行動に加えられる圧力を指摘。活動への規制は「最小限で釣り合いの取れたものにとどめるべきだ」と慎重な対応を求めた。対日報告書では沖縄平和運動センターの山城博治議長の長期勾留について「抗議行動を萎縮させる懸念がある」ことにも言及している。
(3)これに対しジュネーブ国際機関政府代表部の伊原純一大使は「報道機関に違法・不当に圧力をかけた事実はない」「デモを含む表現の自由は最大限保障している」などと反論した。
(4)辺野古では今も新基地建設に反対する市民に対し、警察官や海上保安官らによる強制排除が続いている。政治的表現の自由が規制されているのである。政府の説明が説得力を持たないのは、ケイ氏が示した危惧を多くの県民が抱いているからにほかならない。


Ⅱ.特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏報告

(1) 国会で審議中の「共謀罪」法案について懸念を示す書簡を日本政府に送ったのは、プライバシーの権利に関する特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏。ケナタッチ氏は、対象となる犯罪が幅広くテロや組織犯罪と無関係なものも含まれる可能性があることなどを挙げ、「プライバシーや表現の自由を不当に制約する恐れがある」と指摘する。
(2)ところが安倍晋三首相は書簡を「著しくバランスを欠く不適切なもの」と批判。与党からは「国連の権威に名を借りた主張」という声まで飛び出している。ケナタッチ氏はプライバシー権の保護と救済を示してほしいと要請しているのであり、法案すべてを否定しているのではない。
(3)昨年、日本は人権理事会の理事国選挙に立候補した際「特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現に協力していく」と誓約している。異論は受け付けないというのは約束をほごにするものだ。


 琉球新報は、日本政府に対して、次のように危惧感を表明する。


(1)特別報告者に対する政府の反応に、1930年代のリットン調査団への抗議を彷彿(ほうふつ)させるという声が上がり始めている。日本の満州国建国を認めなかった調査団の報告に異議を唱え、国際連盟を脱退した時とよく似ているという。
(2)政府は国際世論に与える影響を心配し、特別報告者の指摘に神経をとがらせているようだが、国際社会から不誠実に映るのはどちらだろう。批判を正面から受け止める謙虚さと、指摘に対する丁寧な説明が必要である。



 最後に、沖縄タイムスと琉球新報の記事は、あらためて、国連人権理事会と日本、沖縄という問題を考えさせるものになった。
 少なくとも、次のことは言える。


Ⅰ.安倍晋三政権には、「批判を正面から受け止める謙虚さと、指摘に対する丁寧な説明」が必要である。
Ⅱ.安倍晋三政権は、「特別報告者に対する政府の反応に、1930年代のリットン調査団への抗議を彷彿(ほうふつ)させるという声が上がり始めている。」、という国際的な声を真摯に把握しなければならない。
Ⅲ.特に、安倍晋三政権は、国連人権理事会の理事国として、あるいは国際社会の一員としてガイドラインに従わなければならない。
Ⅳ.今後については、国連加盟国が互いに人権状況をチェックする「普遍的定期審査(UPR)」で、2017年11月に日本が対象になることに向けたとりくみが重要になる。



by asyagi-df-2014 | 2017-07-03 05:54 | 人権・自由権 | Comments(0)

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