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「共謀罪」の閣議決定、国会提出を考える。(1)-沖縄タイムス及び琉球新報社説20170322-

 東京新聞は2017年3月22日、「政府は計画段階での処罰を可能とする『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を二十一日に閣議決定し、国会に提出した。法案では、処罰対象となる団体や合意の方法、処罰の前提となる『準備行為』の定義がいずれも曖昧で、捜査機関の裁量で、テロと関係のない市民団体などにも適用され、日常的な行為が準備行為と認定される恐れがある。実行後の処罰を原則としてきた刑法体系は大きく変わる。」、と報じた。
 このことを考える。
沖縄タイムスと琉球新報は2017年3月22日にそれぞれ、「『共謀罪』閣議決定人権軽視の懸念拭えず」、「『共謀罪』国会提出 無用で害悪、即刻廃案に」、と論評した。
 この二社の社説の要約は次のものである。


Ⅰ.主張


(沖縄タイムス)
(1)犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が閣議決定された。看板は変わっても、過去3度廃案になった共謀罪と本質的に変わりはない。内心の自由や表現の自由を脅かしかねず、強く反対する。
(2)戦時中に戻るような嫌な空気が漂うのは、国家が国民の心の中に踏み込む「監視の網」が広がろうとしているからだ。
(3)特定秘密保護法の制定と通信傍受の拡大を柱とした改正刑事訴訟法の成立、今回の共謀罪は密接に関係している。民主主義社会の根幹である基本的人権を軽視し、市民生活に深刻な影響を及ぼす法律をつくる必要はない。


(琉球新報)
(1)無駄なことの例えに「屋上屋を重ねる」という言葉がある。政府が国会に提出した組織犯罪処罰法改正案、いわゆる「共謀罪」法案はまさにその典型だ。現在ある法に基づいて対応できるのに、なぜ無用の法を加える必要があるのか。
(2)捜査機関の恣意(しい)的な運用で市民監視社会に道を開きかねない悪法でもある。無駄どころか害悪でしかない。

(3)東村高江でのヘリパッド建設に対する抗議活動で本来なら立件すら疑わしい事案を公務執行妨害などとして起訴し、政権批判を封じるのが現政権の体質であり、司法も追認する。犯罪集団と認定される危険性は誰にでもあるが、現政権で歯止めはないに等しい。市民社会の自由が奪われる前に即刻廃案にすべきだ。


Ⅱ.法案の疑問点


(沖縄タイムス)
(1)政府は2020年の東京五輪に向けた「テロ対策」として法案の必要性を強調している。適用対象はテロ組織や暴力団など「組織的犯罪集団」で、2人以上で犯罪を計画し、うち1人でも資金の手配や関係場所の下見など「準備行為」をしたときに、計画に合意した全員が処罰される。対象となる犯罪を当初の半分以下の277に絞り込んだとはいえ、範囲は広い。
 話し合っただけで処罰されるというのは、犯罪実行後の「既遂」を原則としてきた日本の刑法体系を根本から覆す。思想及び良心の自由を保障した憲法にも反する。
(2)とりわけ世論の批判が強いのは、市民がその対象となり、監視社会への道を開く恐れである。政府は「一般市民が対象となることはない」と繰り返し説明する。しかし組織的犯罪集団の概念はあいまいで、「正当な活動をする団体でも目的が一変すれば処罰の対象となる」との見解を示している。一変したかどうかを見極める捜査機関の恣意(しい)的な運用への懸念が消えない。
(3)改正案が反基地運動を展開する市民をターゲットにしているのではとの批判の声も根強い。米軍基地周辺での抗議行動が刑事特別法の「軍用物などの損壊」の下見と見なされたり、座り込みなどの呼び掛けが組織的威力業務妨害罪の「共謀」とされる可能性の指摘だ。
 法律の拡大解釈や過剰な取り締まりは、市民運動を萎縮させる。
(4)反基地運動のリーダーが微罪にもかかわらず約5カ月にもわたって勾留されたことと背景が似ている。自分たちにとって不都合な声を封じ、排除しようとするのが安倍政権のやり方なのか。
(5)政府は共謀罪ではなく「テロ等準備罪」との罪名を持ち出しテロ対策を前面に掲げるが、当初与党に示した案には「テロ」の表記がなかった。もちろんテロを未然に防ぐことは重要である。だがすでに一定の重大な犯罪には共謀罪、予備罪などが整えられている。政府が法改正の根拠とする国際組織犯罪防止条約も現行法のままで締結できる。


(琉球新報)
(1)法案の柱は犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の新設だ。現行刑法は犯罪の結果である「既遂」に対する処罰を原則としている。犯罪の前段階である「未遂」「予備」「陰謀」は、それぞれ殺人や内乱など引き起こされる結果の重大性によって厳密に適用される範囲が定められている。計画段階での処罰を可能にすることは「既遂」を原則とする刑法の体系をも根幹から揺るがす。
(2)政府は「共謀罪」の必要性に関してテロ防止を前面に掲げ、法案成立を急務とする。だが化学兵器や病原体などの使用、犯罪による収益に関する事実の隠匿など、テロ行為につながる準備段階の行為は、現行法でも処罰できる。
(3)テロ防止が目的だとしても、犯罪行為を計画段階で察知するには、捜査機関にさらなる権限を与えることが予想される。手段としては盗聴、尾行、潜入(おとり)捜査などが考えられる。これらが日常的に実行されれば、まさに警察による監視社会の実現だ。
(4)米軍基地周辺で行われる抗議活動が兵器や弾薬などの損壊行為に向けた下見と見なされ、「共謀罪」の適用対象になるという懸念は与野党にかかわらず存在する。
(5)安倍晋三首相は1月の国会答弁で、処罰対象は「そもそも犯罪を犯すことを目的とする集団」としていたが、2月には「そもそもの目的が正常でも、一変した段階で一般人であるわけがない」と説明を変えた。労働組合など正当な目的の団体であっても、捜査機関が「組織的犯罪集団」として認定すれば処罰対象にすると受け止められる。


 さて、沖縄タイムスと琉球新報の指摘だけでも、この法案は次の問題点が挙げられる。


Ⅰ.思想及び良心の自由を保障した憲法にも反する。
Ⅱ.現在ある法に基づいて対応できるのに、なぜ無用の法を加える必要があるのか。
Ⅲ.捜査機関の恣意(しい)的な運用で市民監視社会に道を開きかねない悪法でもある。無駄どころか害悪でしかない。
Ⅳ.計画段階での処罰を可能にすることは「既遂」を原則とする刑法の体系をも根幹から揺るがす。
Ⅴ.法律の拡大解釈や過剰な取り締まりは、市民運動を萎縮させる。


 確かに、「市民社会の自由が奪われる前に即刻廃案にすべきだ。」(琉球新報)が正しい判断だ。





by asyagi-df-2014 | 2017-03-25 07:43 | 共謀罪 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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