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学校法人大阪朝鮮学園が大阪府と大阪市を相手取り、補助金不交付処分の取消しなどを求めた裁判で、大阪地方裁判所第7民事部は、大阪朝鮮学園の請求を全て却下、棄却する判決を言い渡した。

 標題について、朝日新聞は2017年1月26日、次のように報じた。


(1)学校法人「大阪朝鮮学園」(大阪市東成区)が、大阪府と同市による補助金の不支給決定の取り消しなどを求めた裁判の判決で、大阪地裁(山田明裁判長)は26日、決定は「裁量の範囲内」と認め、請求を棄却した。学園側は控訴の意向を明らかにした。朝鮮学校に対する自治体の補助金不支給をめぐる司法判断は初めて。
(2)補助金支給に際し、橋下徹府知事(当時)は2010年3月、「朝鮮総連と一線を画すこと」「北朝鮮指導者の肖像画の撤去」など4要件を提示。学園側は応じ、10年度分は支給された。しかし12年3月、生徒の訪朝が問題化。朝鮮総連との関係が疑われたため、府は11年度の補助金8080万円の不支給を決定。市も2650万円を不支給とした。
(3)判決は、補助金は憲法や関連法令からも、学園側に受給する法的権利があるわけではないと指摘。「ほかの学校と補助金に差異があっても直ちに平等原則には反しない」とした。不支給になれば「学習環境の悪化などが懸念される」と言及したが、府の要件を満たしていない以上、「支給を受けられなくてもやむを得ない」と述べた。また、支給先選びや要件提示について「府の裁量の範囲内」と認定。学園側が「教育への不当な政治介入で違法・無効だ」と主張した点については「学園を狙い撃ちした措置ではない」と退けた。さらに市の不支給についても「違法な手続きはない」とした。
(4)京都大大学院教育学研究科の駒込武教授(教育史)は「民族的少数者が自国の言語や文化を学ぶことは子どもの権利条約で保障されているのに、府は4要件で国同士の関係を教育に持ち込んだ。明らかな狙い撃ちだが、判決はそれを追認してしまった」と批判。「行政に一定の裁量があるのは事実だが、恣意(しい)的な判断では行政への信頼が失われる」と話した。
(5)判決を受け、大阪府の松井一郎知事は「府の主張が認められた。今後とも私立学校の振興に努める」とコメント。大阪市の吉村洋文市長は会見で「朝鮮学校に補助金支給は考えていないので極めて妥当な判決。今後も方針は変わらない」と話した。


 この判決について、「大阪朝鮮学園・補助金裁判不当判決に抗議する研究者有志」は2017年2月1日、声明を発表し、抗議した。
 この「声明」を要約する。


Ⅰ.判決の経過(背景)


(1)大阪朝鮮学園に対する補助金交付は、大阪府からは1974年度以来40年近くにわたって、また大阪市からも1990年度以来20年以上も継続された事業でした。ところが2010年3月、当時の橋下徹大阪府知事は突如、大阪朝鮮学園に対し、学習指導要領に準じた教育活動を行うこと、特定の政治団体と一線を画すこと、特定の政治指導者の肖像画を教室から外すこと、などのいわゆる「四要件」を補助金交付の条件として一方的に提示しました。
(2)2011年の秋には、教室だけでなく職員室からも肖像画を外すよう大阪府の要求がエスカレートしていきます。そして2012年3月、大阪府が交付要綱を「四要件」に即して改悪したのち、毎年恒例の平壌での迎春公演に朝鮮学校の児童・生徒が参加している旨を『産経新聞』が報道すると、大阪府はこれが「四要件」に抵触するとして補助金全額の不交付を決定しました。続いて大阪市も大阪府の決定に追随し不交付を決めました。大阪市が交付の根拠となる要綱を改定したのは不交付決定後のことでした。


Ⅱ.判決の問題点


(1)大阪府が日朝関係の悪化を背景に定めた「四要件」が、朝鮮学校を標的とする政治的意図をもっていたことは明らかです。「学習指導要領に準じた教育」を求めることも、教室や職員室における掲示物の適否を云々することも、行政による裁量の範囲を逸脱した干渉です。しかし判決文はこの「四要件」を含む要綱も「地方公共団体内部の事務手続」を定めたものであるから問題はなく、朝鮮学校を狙い撃ちにしたとは言えないと大阪府を擁護しました。
(2)さらに補助金不交付による児童・生徒の学習環境悪化、保護者の経済的負担増大などの悪影響については、補助金が学校法人への助成という枠組みを前提としている以上やむを得ない、とさえ述べています。判決文に司法の独立性を担保するような判断はまったく見られず、形式的な議論に終始することによって行政の不当な措置を追認し、正当化するだけのものとなっています。
(3)大阪府前知事の「四要件」提示を発端とする大阪での動きは、文部科学省の「高校無償化」制度からの朝鮮学校排除とあいまって、他の地方公共団体による補助金の打ち切りや減額を誘発しました。2016年3月には、文部科学省が朝鮮学校への補助金を交付してきた28都道府県の知事あてに、制度の再チェックを求める通知を発したため、各地方公共団体は対応を余儀なくされました。こうした日本政府・地方公共団体による朝鮮学校に対する狙い撃ち的な差別政策が、事実上、朝鮮学校は排除してもよいのだという排外主義的な思想を「上から」流布、扇動する機能を果たし、民族教育に対する風評被害をもたらしてきたのです。かかる状況を振り返るとき、わたしたちは、「人権の砦」であるはずの司法がこれに「お墨付き」を与えたことを、きわめて深刻な事態として捉えざるを得ません。
(4)今回の不当判決によって無残な形で否定されたのは、大阪朝鮮学園の訴えだけではありません。日本社会の良識であり、民主主義であり、人権意識であり、植民地主義を克服しようとする歴史認識なのです。
(5)教育の機会均等実現や民族教育の保障は、憲法をはじめとする国内法規や国際人権法に定められ、政府・地方自治体として実行しなければならない責務でもあります。実際に2014年9月には、国連の人種差別撤廃委員会が日本政府に対して、朝鮮学校への「高校無償化」制度の適用とともに、地方自治体の補助金の再開・維持を要請するよう勧告しています。しかし今回の不当判決は、憲法や国際人権法などが「補助金の交付を受ける権利を基礎付けるもの」ではないとして、このような勧告に明らかに逆行する判断を示しました。


Ⅲ.主張


(1)わたしたち研究者有志は、これを子どもの学習権や民族教育の意義を一顧だにしない不当判決と捉え、強く抗議します。
(2)わたしたちは今回の大阪地裁判決を決して認めることができません。
(3)朝鮮学校への補助金制度を維持している各地方公共団体には、大阪地裁の不当判決を補助金交付見直しの口実としないよう、そして既に補助金を停止している地方公共団体にはこの判決を自己正当化のために悪用しないよう求めます。
(4)わたしたちは地方公共団体が、歴史的経緯と国際基準に照らして民族教育の権利を保障し、朝鮮学校への補助金交付を維持、発展させることを求めます。
(5)あわせて政府・地方公共団体の文教政策において、朝鮮学校に対するレイシズム(人種・民族差別)をただちに中断するよう求めます。


 私たちは、「大阪朝鮮学園・補助金裁判不当判決に抗議する研究者有志の声明」が説く次の指摘をあらためて再認識しなければなりません。


Ⅰ.今回の不当判決によって無残な形で否定されたのは、大阪朝鮮学園の訴えだけではありません。日本社会の良識であり、民主主義であり、人権意識であり、植民地主義を克服しようとする歴史認識であること。
Ⅱ.2014年9月には、国連の人種差別撤廃委員会が日本政府に対して、朝鮮学校への「高校無償化」制度の適用とともに、地方自治体の補助金の再開・維持を要請するよう勧告している。しかし今回の不当判決は、憲法や国際人権法などが「補助金の交付を受ける権利を基礎付けるもの」ではないとして、このような勧告に明らかに逆行する判断を示したものであること。



 以下、朝日新聞及び「大阪朝鮮学園・補助金裁判不当判決に抗議する研究者有志の声明」の引用。








(1)朝日新聞-補助金不支給は「適法」、朝鮮学校側が敗訴 大阪地裁-2017年1月26日20時37分



 学校法人「大阪朝鮮学園」(大阪市東成区)が、大阪府と同市による補助金の不支給決定の取り消しなどを求めた裁判の判決で、大阪地裁(山田明裁判長)は26日、決定は「裁量の範囲内」と認め、請求を棄却した。学園側は控訴の意向を明らかにした。朝鮮学校に対する自治体の補助金不支給をめぐる司法判断は初めて。

 補助金支給に際し、橋下徹府知事(当時)は2010年3月、「朝鮮総連と一線を画すこと」「北朝鮮指導者の肖像画の撤去」など4要件を提示。学園側は応じ、10年度分は支給された。しかし12年3月、生徒の訪朝が問題化。朝鮮総連との関係が疑われたため、府は11年度の補助金8080万円の不支給を決定。市も2650万円を不支給とした。

 判決は、補助金は憲法や関連法令からも、学園側に受給する法的権利があるわけではないと指摘。「ほかの学校と補助金に差異があっても直ちに平等原則には反しない」とした。不支給になれば「学習環境の悪化などが懸念される」と言及したが、府の要件を満たしていない以上、「支給を受けられなくてもやむを得ない」と述べた。

 また、支給先選びや要件提示について「府の裁量の範囲内」と認定。学園側が「教育への不当な政治介入で違法・無効だ」と主張した点については「学園を狙い撃ちした措置ではない」と退けた。さらに市の不支給についても「違法な手続きはない」とした。

 京都大大学院教育学研究科の駒込武教授(教育史)は「民族的少数者が自国の言語や文化を学ぶことは子どもの権利条約で保障されているのに、府は4要件で国同士の関係を教育に持ち込んだ。明らかな狙い撃ちだが、判決はそれを追認してしまった」と批判。「行政に一定の裁量があるのは事実だが、恣意(しい)的な判断では行政への信頼が失われる」と話した。

 判決を受け、大阪府の松井一郎知事は「府の主張が認められた。今後とも私立学校の振興に努める」とコメント。大阪市の吉村洋文市長は会見で「朝鮮学校に補助金支給は考えていないので極めて妥当な判決。今後も方針は変わらない」と話した。


(2)大阪朝鮮学園・補助金裁判不当判決に抗議する研究者有志の声明


2017年1月26日、学校法人大阪朝鮮学園が大阪府と大阪市を相手取り、補助金不交付処分の取消しなどを求めた裁判において、大阪地方裁判所第7民事部は大阪朝鮮学園の請求を全て却下、棄却する判決を言い渡しました。わたしたち研究者有志は、これを子どもの学習権や民族教育の意義を一顧だにしない不当判決と捉え、強く抗議します。

大阪朝鮮学園に対する補助金交付は、大阪府からは1974年度以来40年近くにわたって、また大阪市からも1990年度以来20年以上も継続された事業でした。ところが2010年3月、当時の橋下徹大阪府知事は突如、大阪朝鮮学園に対し、学習指導要領に準じた教育活動を行うこと、特定の政治団体と一線を画すこと、特定の政治指導者の肖像画を教室から外すこと、などのいわゆる「四要件」を補助金交付の条件として一方的に提示しました。さらに2011年の秋には、教室だけでなく職員室からも肖像画を外すよう大阪府の要求がエスカレートしていきます。そして2012年3月、大阪府が交付要綱を「四要件」に即して改悪したのち、毎年恒例の平壌での迎春公演に朝鮮学校の児童・生徒が参加している旨を『産経新聞』が報道すると、大阪府はこれが「四要件」に抵触するとして補助金全額の不交付を決定しました。続いて大阪市も大阪府の決定に追随し不交付を決めました。大阪市が交付の根拠となる要綱を改定したのは不交付決定後のことでした。

大阪府が日朝関係の悪化を背景に定めた「四要件」が、朝鮮学校を標的とする政治的意図をもっていたことは明らかです。「学習指導要領に準じた教育」を求めることも、教室や職員室における掲示物の適否を云々することも、行政による裁量の範囲を逸脱した干渉です。しかし判決文はこの「四要件」を含む要綱も「地方公共団体内部の事務手続」を定めたものであるから問題はなく、朝鮮学校を狙い撃ちにしたとは言えないと大阪府を擁護しました。さらに補助金不交付による児童・生徒の学習環境悪化、保護者の経済的負担増大などの悪影響については、補助金が学校法人への助成という枠組みを前提としている以上やむを得ない、とさえ述べています。判決文に司法の独立性を担保するような判断はまったく見られず、形式的な議論に終始することによって行政の不当な措置を追認し、正当化するだけのものとなっています。

わたしたちは今回の不当判決が、大阪府・市だけにとどまらず、他の地方公共団体にも負の影響を与えるのではないかと強く憂慮しています。大阪府前知事の「四要件」提示を発端とする大阪での動きは、文部科学省の「高校無償化」制度からの朝鮮学校排除とあいまって、他の地方公共団体による補助金の打ち切りや減額を誘発しました。2016年3月には、文部科学省が朝鮮学校への補助金を交付してきた28都道府県の知事あてに、制度の再チェックを求める通知を発したため、各地方公共団体は対応を余儀なくされました。こうした日本政府・地方公共団体による朝鮮学校に対する狙い撃ち的な差別政策が、事実上、朝鮮学校は排除してもよいのだという排外主義的な思想を「上から」流布、扇動する機能を果たし、民族教育に対する風評被害をもたらしてきたのです。かかる状況を振り返るとき、わたしたちは、「人権の砦」であるはずの司法がこれに「お墨付き」を与えたことを、きわめて深刻な事態として捉えざるを得ません。すなわち、今回の不当判決によって無残な形で否定されたのは、大阪朝鮮学園の訴えだけではありません。日本社会の良識であり、民主主義であり、人権意識であり、植民地主義を克服しようとする歴史認識なのです。

教育の機会均等実現や民族教育の保障は、憲法をはじめとする国内法規や国際人権法に定められ、政府・地方自治体として実行しなければならない責務でもあります。実際に2014年9月には、国連の人種差別撤廃委員会が日本政府に対して、朝鮮学校への「高校無償化」制度の適用とともに、地方自治体の補助金の再開・維持を要請するよう勧告しています。しかし今回の不当判決は、憲法や国際人権法などが「補助金の交付を受ける権利を基礎付けるもの」ではないとして、このような勧告に明らかに逆行する判断を示しました。

以上の点から、わたしたちは今回の大阪地裁判決を決して認めることができません。また、朝鮮学校への補助金制度を維持している各地方公共団体には、大阪地裁の不当判決を補助金交付見直しの口実としないよう、そして既に補助金を停止している地方公共団体にはこの判決を自己正当化のために悪用しないよう求めます。わたしたちは地方公共団体が、歴史的経緯と国際基準に照らして民族教育の権利を保障し、朝鮮学校への補助金交付を維持、発展させることを求めます。あわせて政府・地方公共団体の文教政策において、朝鮮学校に対するレイシズム(人種・民族差別)をただちに中断するよう求めます。

2017年2月1日


by asyagi-df-2014 | 2017-02-07 11:50 | 書くことから-憲法 | Comments(0)

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