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「米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯建設を巡り、工事の差し止めを求める仮処分申し立てが却下」を考える。

 琉球新報は2016年12月6日、「東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設を巡り、東村高江の住民31人が国を相手に工事の差し止めを求める仮処分申し立てについて、那覇地裁(森鍵一裁判長)は6日、申し立てを却下する決定を出した。」、と報じた。
 このことを考える。
 琉球新報は、「着陸帯差し止め却下 騒音激化に耳ふさぐ 政府に寄り添う地裁判断」、とその社説で、「静穏な生活環境を奪われ、騒音に苦しむ住民の訴えに耳をふさぐ無慈悲な裁判所の判断であり、断じて承服できない。」と厳しく批判した。
 琉球新報は、次のように批判を展開する。


(1)騒音被害が「十分に疎明されていない」ことが申請却下の理由だ。裁判所が工事を差し止める確かな推測には至らない、というのである。騒音被害の疎明責任を過度に住民側に求め、工事者の政府に寄り添う判断と断ぜざるを得ない。
(2)住民は2基のヘリパッド運用で安眠を奪われ、児童が学校を休む騒音被害にさらされている。今年6月の騒音発生回数はオスプレイ運用前の2014年度の月平均の24倍に上る。新たな4基のヘリパッド建設で騒音被害が激化するのは火を見るより明らかだ。


 さらに、琉球新報は、裁判所の決定内容の誤りを指摘する。


(1)改めて却下理由部分を提示したい。「航空機騒音、低周波音で重大な健康被害が及ぼされる恐れがあるとは十分に疎明されているとは言い難い」というのである。「疎明」とは「確からしい推測を裁判官に与えること」とされる。重大な騒音被害の「疎明」が不十分と住民側主張を退けるが、翻って政府の「重大な騒音被害がない」ことの十分な検証が果たされたとは到底思えない。住民はこれ以上の騒音被害を避けるため工事差し止めの仮処分を求めたのである。被害を受ける住民側に寄り添い、被害を及ぼす政府の側に厳格に対応するのが国民を守る司法の責任ではないか。
(2)しかし却下理由は住民に厳しく政府に甘い内容だ。住民側は琉大准教授の現地での騒音測定に基づき「違法な程度の航空機騒音」、「基準値を超えた違法な低周波音の恐れ」を主張したが、地裁判断は政府側の反論に沿って住民側の主張を退けた。
 判断の論拠として地裁は沖縄防衛局が実施した自主アセスメント(環境影響評価)に「一定の合理性がある」と重きを置いた。自主アセスはオスプレイ運用を想定せず、従来、環境専門家が有効性を疑問視している。
(3)しかし地裁は政府の自主アセスと騒音測定結果を重視し「違法な航空機騒音の恐れがあるとは言えない」と断じたのである。一方で環境基準を上回る琉大准教授の騒音測定については、必要な測定日数を満たさないとして安易に切り捨てた。司法の責任を果たさぬ政府主張に偏った仮処分却下の判断と言わざるを得ない。


 琉球新報は、判決の問題点を「緊急性・重大性を軽視」、と続ける。


(1)高江住民は9月21日に工事差し止めを提訴し、仮処分を申し立てた。平穏な日常を営む人格権の侵害、着々と進む工事を差し止める「緊急性・重大性」を訴えたのである。工事の完了は間近であり、あまりに遅い仮処分の判断にも疑問を覚える。
(2)被害が明白な住民保護に立脚するなら、権威ある琉大准教授が当初に示した「違法な騒音、低周波音の増加」の測定結果を重視し、工事を差し止める判断があってしかるべきではなかったか。
(3)地裁は准教授の測定結果を軽視する一方、仮処分の審尋が始まって後の政府に都合のいい陸上自衛隊木更津駐屯地での騒音測定を却下の判断資料に採用した。オスプレイの工事が近く完了し、これに合わせた北部訓練場の過半返還の返還式が間近に迫るタイミングでの仮処分申請却下である。政府の都合に合わせた判断の疑念を拭えない。
(4)却下理由は工事差し止めに国の支配は及ばないとする「第三者行為論」には踏み込まず、「違法な程度の航空機騒音、低周波音による重大な健康被害」の有無を判断根拠とした。


 琉球新報は、「実質的な審理に基づく判断の体裁だが、騒音の増加予測や健康被害など科学的な審理が尽くされたとは到底言えない。本訴訟での公正な審理の徹底を求める。」、と結論づけた。


 日本の司法制度は、行政権力の意向に寄り添うあまりに、自らの使命を見失いその責任を放棄してしまっているのではないか。
 権力なき市井が負わされている「緊急性・重大性」を見抜くのが、司法のそもそもの役割ではないのか。
 あらためて、裁判所は、本訴訟でその使命を果たすべきだ。


 以下、琉球新報の引用。








琉球新報社説-着陸帯差し止め却下 騒音激化に耳ふさぐ 政府に寄り添う地裁判断-2016年12月7日 06:01


 静穏な生活環境を奪われ、騒音に苦しむ住民の訴えに耳をふさぐ無慈悲な裁判所の判断であり、断じて承服できない。

 東村高江の住民が米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)工事の差し止めを求めた仮処分申請を那覇地裁が却下した。
 騒音被害が「十分に疎明されていない」ことが申請却下の理由だ。裁判所が工事を差し止める確かな推測には至らない、というのである。 
 騒音被害の疎明責任を過度に住民側に求め、工事者の政府に寄り添う判断と断ぜざるを得ない。

 司法の責任果たさず

 住民は2基のヘリパッド運用で安眠を奪われ、児童が学校を休む騒音被害にさらされている。今年6月の騒音発生回数はオスプレイ運用前の2014年度の月平均の24倍に上る。新たな4基のヘリパッド建設で騒音被害が激化するのは火を見るより明らかだ。
 改めて却下理由部分を提示したい。「航空機騒音、低周波音で重大な健康被害が及ぼされる恐れがあるとは十分に疎明されているとは言い難い」というのである。
 「疎明」とは「確からしい推測を裁判官に与えること」とされる。重大な騒音被害の「疎明」が不十分と住民側主張を退けるが、翻って政府の「重大な騒音被害がない」ことの十分な検証が果たされたとは到底思えない。
 住民はこれ以上の騒音被害を避けるため工事差し止めの仮処分を求めたのである。被害を受ける住民側に寄り添い、被害を及ぼす政府の側に厳格に対応するのが国民を守る司法の責任ではないか。
 しかし却下理由は住民に厳しく政府に甘い内容だ。住民側は琉大准教授の現地での騒音測定に基づき「違法な程度の航空機騒音」、「基準値を超えた違法な低周波音の恐れ」を主張したが、地裁判断は政府側の反論に沿って住民側の主張を退けた。
 判断の論拠として地裁は沖縄防衛局が実施した自主アセスメント(環境影響評価)に「一定の合理性がある」と重きを置いた。
 自主アセスはオスプレイ運用を想定せず、従来、環境専門家が有効性を疑問視している。
 しかし地裁は政府の自主アセスと騒音測定結果を重視し「違法な航空機騒音の恐れがあるとは言えない」と断じたのである。
 一方で環境基準を上回る琉大准教授の騒音測定については、必要な測定日数を満たさないとして安易に切り捨てた。司法の責任を果たさぬ政府主張に偏った仮処分却下の判断と言わざるを得ない。

 緊急性・重大性を軽視

 高江住民は9月21日に工事差し止めを提訴し、仮処分を申し立てた。平穏な日常を営む人格権の侵害、着々と進む工事を差し止める「緊急性・重大性」を訴えたのである。工事の完了は間近であり、あまりに遅い仮処分の判断にも疑問を覚える。
 被害が明白な住民保護に立脚するなら、権威ある琉大准教授が当初に示した「違法な騒音、低周波音の増加」の測定結果を重視し、工事を差し止める判断があってしかるべきではなかったか。
 地裁は准教授の測定結果を軽視する一方、仮処分の審尋が始まって後の政府に都合のいい陸上自衛隊木更津駐屯地での騒音測定を却下の判断資料に採用した。
 オスプレイの工事が近く完了し、これに合わせた北部訓練場の過半返還の返還式が間近に迫るタイミングでの仮処分申請却下である。政府の都合に合わせた判断の疑念を拭えない。
 却下理由は工事差し止めに国の支配は及ばないとする「第三者行為論」には踏み込まず、「違法な程度の航空機騒音、低周波音による重大な健康被害」の有無を判断根拠とした。
 実質的な審理に基づく判断の体裁だが、騒音の増加予測や健康被害など科学的な審理が尽くされたとは到底言えない。本訴訟での公正な審理の徹底を求める。


by asyagi-df-2014 | 2016-12-07 12:08 | 沖縄から | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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