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原発問題-高知新聞の【迫る伊方再稼働】を読む。

 高知新聞は、2016年6月27日から5日間連続で、「迫る伊方再稼働」として、下記内容で特集を組んだ。


(1)【迫る伊方再稼働】(1)戸別訪問で「本音」聞けたか
(2)【迫る伊方再稼働】(2)「揺れ」への評価に「想定外」ないか
(3)【迫る伊方再稼働】(3)避難計画「本当に逃げられるか?」
(4)【迫る伊方再稼働】(4)資産と会計 「特別な配慮」透明化を
(5)【迫る伊方再稼働】(5=終)司法判断 運転差し止め訴訟相次ぐ


 この特集を読む。
 まずは、要約する。


(1)【迫る伊方再稼働】(1)戸別訪問で「本音」聞けたか
Ⅰ.事実
①「四国電力は1988年から、伊方原発(愛媛県伊方町)周辺の住民宅を対象に「戸別訪問」を続けている。2016年は5月11日から1カ月間。延べ約1400人の社員が四国4県から加わった。」
②「一連の戸別訪問を四国電力は『訪問対話活動』と呼び、『他の電力会社にはない地元を大事にする取り組み』(笹谷誠志・広報部副部長)と位置付ける。戸別訪問が始まったのは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故から2年後で、伊方原発でも不安が高まっていた。『訪問対話』の狙いは地元の声を聞き、理解を求め、原発事業をスムーズに進めることにある。」
③「2011年に東京電力福島第1原発がチェルノブイリと同じ『レベル7』の事故を起こすと、2011年から訪問の範囲を広げ、伊方原発から20キロ圏内の住民全てを対象にした。同時に、それまでは非公開だった訪問結果の公表を始めた。」
④「四国電力によると、2015年は約2万8千戸を訪問し、在宅率は52%。原発の印象は『厳しい』が7%、『一定の理解』が65%だったという。」
Ⅱ.疑問
①「戸別訪問の結果に住民の本音は表れているのか。」
②「松山市の『伊方原発50キロ圏内住民有志の会』は2015年2~11月、伊方町に絞って全集落を歩き、3号機再稼働の賛否を直接尋ねた。訪問先は計3591戸。メンバーの藤原丸子さん(68)=八幡浜市=によると、回答1427戸のうち、『反対』は53・2%。『賛成』の2倍になった。藤原さんは伊方町で生まれ、父、弟とも四国電力社員だったという。『【大っぴらには言えんけど怖い】と話す人が多かった。仕事の関係で再稼働に賛成の人も、不安を抱えていました』」
Ⅲ.問い掛け
①「3号機の再稼働手続きで必要とされた『地元同意』は、伊方町と愛媛県だけだった。四国電力の戸別訪問先の6割近くを占める八幡浜市も含まれていない。『地元住民』は果たして、本当に納得しているのか。」
②「戸別訪問について笹谷副部長はこう話す。『おおむね再稼働に理解をいただきました。しかし訪問結果が原子力事業に直接影響を与えるわけではありません。対話が大事なんです』」


(2)【迫る伊方再稼働】(2)「揺れ」への評価に「想定外」ないか
Ⅰ.事実
①「高知大学理学部の松岡裕美准教授(地質学)によると、大地震は過去7千年で少なくとも5回あった。直近は1596年の慶長豊後地震で、震源は別府湾。マグニチュードなどは不明だが、別府湾沿岸は大津波で壊滅的な被害を受けたことが分かっている。数日間のうちに京都などでも大地震が発生したという。」
②「西日本を東西に横断するこの活断層は、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)北側の海域を走る。距離は6~8キロ。地質学上では「活断層の真上」とも言える立地が、再稼働を巡る不安の根底にある。」
④「原子力規制委員会の審査に対し、四国電力は『中央構造線による地震が最も大きな影響を与える』とした。その上で、安全設計の基礎をなす基準地震動について『最大650ガル』と設定した。」
⑤「揺れの『想定外』はこれまで、日本の原発で何度か起きている。2011年の東日本大震災では、東北電力女川原発(宮城県)で基準地震動580ガルを上回る636ガルの揺れを観測した。2007年の新潟県中越沖地震では、東京電力柏崎刈羽原発の揺れが最大1699ガル。想定の4倍近くにもなった。
Ⅱ.疑問
①「女川原発は伊方原発と同じく固い地盤の上にあります。東日本大震災後、女川の基準地震動は千ガルに引き上げた。女川と震源までの距離は約50キロ。それなのに(中央構造線間近の)伊方は650ガル。それでいいのか、と」(松岡准教授)
②「3号機稼働の1994年当時、基準地震動(473ガル)は『中央構造線は活断層ではない』との前提でした。それを基に造った原発を補強しても、ぼろ屋につっかえ棒をするようなものです」(岡村真特任教授)
③「『滑り量』と呼ばれる断層の『ずれ』に関する想定にも疑問が残る。中央構造線は東西に長い。四国電力は、長さ480キロが連動して動いた場合を想定。伊方原発前の海域下では、断層の平均滑り量を2・6~5・8メートルと算出した。これに対しても松岡准教授は『過小評価ではないか』と言う。『長さ480キロで平均滑り量2・6メートル』などとする四国電力の算定は、国内研究者の論文が基になっている。一方、同じ論文で長さ54キロの地震の場合、平均滑り量を2・5メートルとした。断層の動く長さが約9倍になっても『ずれ』の差がほとんどない。」
④「『断層が長くなると滑り量も大きくなるはず。だから【480キロで2・6メートル】は明らかにおかしい。その論文に基づけば、伊方原発付近の平均滑り量は最低でも3メートルほどになります】」(松岡准教授)
⑤「中央構造線で地震が起きた場合、伊方原発は安全なのか。」


(3)【迫る伊方再稼働】(3)避難計画「本当に逃げられるか?」


Ⅰ.「原子力総合防災訓練」を受けた住民と自治体職員の声
①「緊張感? なかったですよ。いつも同じ内容ですから」
②「事故が起これば、あんなにスムーズにできないよ」
③「避難計画は現実的じゃない」
④「半島先端の三崎港からフェリーで避難するなんて、実際はあり得ん。台風やしけの時は船が岸壁に着けん。津波が来たらなおさら無理」
⑤「この避難路、地震が来て使える? 土砂崩れもある。ここは孤立するよ。急傾斜が多い。ヘリが降りる所もない。フェリー乗り場まで行けん。大半が避難を諦めとる」
⑥「一本道。あれがつえたら、どこにも逃げれん」
⑦「高齢者が多く、避難の時間が読めない。移動手段のない人は梼原町がピックアップすることになっているけど、現実的じゃない。そもそも国や高知県からすぐに情報が入ってくるかどうか。情報がなければ、計画を作った意味がありません」(梼原町総務課係長)
Ⅱ.疑問
「原発に異常があると、四国電力は高知県にメールや電話で通報し、情報はその後、『県→市町村→住民』の順で流れる。より重大な過酷事故の場合は、原子力災害対策特別措置法に基づいて首相が『原子力緊急事態宣言』を出し、政府が司令塔になる。しかし、福島の事故では、政府や東京電力が大混乱に陥り、情報伝達が遅れ、住民の避難も遅れた。その記憶は新しい。」


(4)【迫る伊方再稼働】(4)資産と会計 「特別な配慮」透明化を


Ⅰ.事実
①「全国50基の原発を2012年度に廃炉にすると決めた場合、電力会社10社で総額4兆4千億円の損失が出る」
②「『短期的に燃料費だけをみれば発電コストは安い。一方で建設費は大きいので、投資が終わっている以上は使わないと大損してしまう』(立命館大学の大島堅一教授)」
③「2015年3月期の貸借対照表によって資産価値を見ると、『原子力発電設備』は1075億円に達する。水力や火力の発電設備よりはるかに大きい。『核燃料』も1414億円という巨額資産だ。」
④「四国電力は3号機を再稼働させれば、収支が年間約250億円改善すると見込んでいる。逆に、2015年3月期に3基全てを廃炉にすると仮定したらどうなるか。
 単純計算すると、原発設備の資産価値はゼロ、転売できない核燃料(四国電力によると576億円)も価値が無くなる。廃炉に備えた引当金の不足分約400億円も必要。そうした結果、『純資産』は700億円余りにまで減り、経営は大幅に悪化する。
⑤「原発に関する他の資産なども考慮すれば、全基廃炉で四国電力は債務超過になりかねないとの試算もある。」
⑥「ただ、実際には債務超過にならないよう電力会社向けに特別の“原発会計制度”が存在する。この制度は福島原発事故以降、『廃炉を円滑に進めるため』として、経産省主導で変更を重ねてきた。例えば、廃炉を決めた設備や核燃料の一部は資産とみなして、損失を一括計上せず、10年の分割処理が可能になった。
⑦「『ただし』と言うのは立命館大学の金森絵里教授(会計学)だ。
 電力会社には、あらゆるコストを電気料金に上乗せできる『総括原価方式』がある。損失を将来に先送りする『10年分割』を採用すれば、それによって生じるコストはこの方式で回収できる。
 金森教授は『コストの負担者が電力会社から国民に変わっている。会計ルール違反です。会計基準は中立であるべきなのに、政治の中にある』と手厳しい。
 『廃炉を進める制度を構えるのは良いけど、いくらの費用が国民に転嫁されたか透明性のある制度設計にすべきです。複雑で不透明性を増す制度変更によって(電力業界を)支援するのは、原子力ムラの体質とも言えるでしょう。これでは電力自由化は成功しない。電力会社と国民の間の信頼も損なわれます』」
Ⅱ.疑問
「東京電力だったから福島の事故直後に数兆円を用意できた。四国電力は事故収束費用を用意できるのか。『事故を起こさない』と言うのは幸運を願っているだけ。リスクを負えないのに利益を欲しがるのは、資本主義ではありません」(大島教授)


(5)【迫る伊方再稼働】(5=終)司法判断 運転差し止め訴訟相次ぐ
Ⅰ.事実
①「関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転を差し止める仮処分決定を下した。」
②「東京電力福島第1原発事故後、原発の運転差し止めを求める訴訟や仮処分の申し立てが全国で相次いでいる。四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)もその流れの中にある。」
③「大分県でも6月27日に住民が仮処分を申し立てた。」
Ⅱ.問い掛け
「事故のリスクを否定できない以上、それを受け入れさせる理由があるとすれば、公益性しかない。でも、原発ゼロの2年間の経験ができた。リスクを受忍する正当性はどこにありますか」


 この特集から読み取れるものは、次のことである。


(1)当該が自分の利益のために結論づける「地元理解」は、どう考えても、再稼働への根拠にはならないということ。
(2)「3.11」の真実は、企業の「想定外」は、「想定内」と考えなければならないということではなかったのか。
 過小評価ないしは意図的な無視が「3.11」の真実ではなかったのか。
 伊方原発再稼働においても次の問題が解決されていない。
・基準値震動の想定
・滑り量」と呼ばれる断層の「ずれ」に関する想定
・企業の経営規模を超える「リスク」を担えない企業が、本当に原子力産業に関わることができるのか。
(3)現在の「再稼働」に関連して、「避難計画」がおざなりになっているのが実態である。「避難計画」は、「想定外」か「想定内」という問題ではなく、原子力発電の危険性に問題に根本問題にかかわる、人の命を問うものである。
(4)「事故のリスクを否定できない以上、それを受け入れさせる理由があるとすれば、公益性しかない。」。しかし、「原発ゼロの2年間の経験ができた。」ことにより、この公益性の主張は、根拠を失った。したがって、この事故リスクを受忍する正当性はどこにもない。


 以下、高知新聞の引用。








高知新聞-【迫る伊方再稼働】(1)戸別訪問で「本音」聞けたか-2016.06.27 08:15



 四国電力は1988年から、伊方原発(愛媛県伊方町)周辺の住民宅を対象に「戸別訪問」を続けている。2016年は5月11日から1カ月間。延べ約1400人の社員が四国4県から加わった。

 愛媛県八幡浜市の近藤享子さん(61)宅には6月4日、社員2人が足を運んできた。高松市の本店から来たという。

 県営住宅の4階。

 同じ階に住む住民ら5人と記者が同席する中、6畳ほどの居間で説明が始まった。

 作業着姿の社員が「地域の皆さまへ」と題した冊子を手渡し、「1号機廃炉」の説明を始めた。7月下旬の再稼働を目指す3号機についても、非常用発電装置の設置などの「安全対策」を強調していく。

 住民側からは「配管はすごく繊細と聞いています。地震で破裂して(原子炉が)冷却できなくなったら?」といった質問が出た。四国電力側はその都度、「対策をがっちりやってます」「大丈夫」と繰り返す。

 県営住宅から伊方原発までは約10キロ。4階に住む斉間淳子さん(72)はこう言った。

 「この前、熊本で地震があって、パッと思うたのは伊方原発のことよ。ちょっとの揺れでも不安。『大丈夫』と言われても怖い。再稼働はしないで」

 訪問は約2時間。最後に四国電力社員は「お気持ちはしっかり承りました」と言い、退室した。
    ■  ■
 一連の戸別訪問を四国電力は「訪問対話活動」と呼び、「他の電力会社にはない地元を大事にする取り組み」(笹谷誠志・広報部副部長)と位置付ける。

 戸別訪問が始まったのは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故から2年後で、伊方原発でも不安が高まっていた。「訪問対話」の狙いは地元の声を聞き、理解を求め、原発事業をスムーズに進めることにある。

 2011年に東京電力福島第1原発がチェルノブイリと同じ「レベル7」の事故を起こすと、2011年から訪問の範囲を広げ、伊方原発から20キロ圏内の住民全てを対象にした。同時に、それまでは非公開だった訪問結果の公表を始めた。

 四国電力によると、2015年は約2万8千戸を訪問し、在宅率は52%。原発の印象は「厳しい」が7%、「一定の理解」が65%だったという。
    ■  ■
 戸別訪問の結果に住民の本音は表れているのか。

 松山市の「伊方原発50キロ圏内住民有志の会」は2015年2~11月、伊方町に絞って全集落を歩き、3号機再稼働の賛否を直接尋ねた。

 訪問先は計3591戸。メンバーの藤原丸子さん(68)=八幡浜市=によると、回答1427戸のうち、「反対」は53・2%。「賛成」の2倍になった。

 藤原さんは伊方町で生まれ、父、弟とも四国電力社員だったという。

 「『大っぴらには言えんけど怖い』と話す人が多かった。仕事の関係で再稼働に賛成の人も、不安を抱えていました」

 3号機の再稼働手続きで必要とされた「地元同意」は、伊方町と愛媛県だけだった。四国電力の戸別訪問先の6割近くを占める八幡浜市も含まれていない。

 「地元住民」は果たして、本当に納得しているのか。戸別訪問について笹谷副部長はこう話す。

 「おおむね再稼働に理解をいただきました。しかし訪問結果が原子力事業に直接影響を与えるわけではありません。対話が大事なんです」



高知新聞-【迫る伊方再稼働】(2)「揺れ」への評価に「想定外」ないか-2016.06.28 08:20


 高知大学理学部の松岡裕美准教授(地質学)によると、大地震は過去7千年で少なくとも5回あった。

 直近は1596年の慶長豊後地震で、震源は別府湾。マグニチュードなどは不明だが、別府湾沿岸は大津波で壊滅的な被害を受けたことが分かっている。数日間のうちに京都などでも大地震が発生したという。

 西日本を東西に横断するこの活断層は、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)北側の海域を走る。距離は6~8キロ。地質学上では「活断層の真上」とも言える立地が、再稼働を巡る不安の根底にある。

 中央構造線で地震が起きた場合、伊方原発は安全なのか。

 原子力規制委員会の審査に対し、四国電力は「中央構造線による地震が最も大きな影響を与える」とした。その上で、安全設計の基礎をなす基準地震動について「最大650ガル」と設定した。

 ガルは地震の揺れの強さを示す数値で、数字が大きいほど揺れは強く、より強固な耐震性が必要になる。
    ■  ■
 揺れの「想定外」はこれまで、日本の原発で何度か起きている。

 2011年の東日本大震災では、東北電力女川原発(宮城県)で基準地震動580ガルを上回る636ガルの揺れを観測した。

 2007年の新潟県中越沖地震では、東京電力柏崎刈羽原発の揺れが最大1699ガル。想定の4倍近くにもなった。

 松岡准教授は言う。

 「女川原発は伊方原発と同じく固い地盤の上にあります。東日本大震災後、女川の基準地震動は千ガルに引き上げた。女川と震源までの距離は約50キロ。それなのに(中央構造線間近の)伊方は650ガル。それでいいのか、と」

 中央構造線を早くから問題視してきた高知大学防災推進センターの岡村真特任教授もこう言う。

 「3号機稼働の1994年当時、基準地震動(473ガル)は『中央構造線は活断層ではない』との前提でした。それを基に造った原発を補強しても、ぼろ屋につっかえ棒をするようなものです」
    ■  ■
 「滑り量」と呼ばれる断層の「ずれ」に関する想定にも疑問が残る。

 中央構造線は東西に長い。四国電力は、長さ480キロが連動して動いた場合を想定。伊方原発前の海域下では、断層の平均滑り量を2・6~5・8メートルと算出した。

 これに対しても松岡准教授は「過小評価ではないか」と言う。

 「長さ480キロで平均滑り量2・6メートル」などとする四国電力の算定は、国内研究者の論文が基になっている。一方、同じ論文で長さ54キロの地震の場合、平均滑り量を2・5メートルとした。

 断層の動く長さが約9倍になっても「ずれ」の差がほとんどない。

 「断層が長くなると滑り量も大きくなるはず。だから『480キロで2・6メートル』は明らかにおかしい。その論文に基づけば、伊方原発付近の平均滑り量は最低でも3メートルほどになります」
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 こうした指摘に、四国電力は真っ向から反論する。

 広報部の笹谷誠志副部長は「断層の長さが50キロを超えると、滑り量は飽和傾向になります」と指摘する。

 2016年4月に熊本地震が起きると、震度7クラスの地震が連続した場合の安全対策にも懸念が広がった。原子力部の杉原雅紀・耐震設計グループリーダーは「連続した大地震は設計上想定していない」とした上で言う。

 「(原子炉格納容器など)重要な設備は千ガル程度まで耐震性があります。揺れで原子炉破壊には至らないでしょう」



高知新聞-【迫る伊方再稼働】(3)避難計画「本当に逃げられるか?」-2016.06.29 08:20



 「緊張感? なかったですよ。いつも同じ内容ですから」

 愛媛県伊方町の末光勝幸さん(63)は、2015年11月に政府と高知県が実施した「原子力総合防災訓練」をそう振り返る。

 2011年の東京電力福島第1原発事故後、政府は原発から30キロ圏内の自治体に対し、避難計画の策定を義務付けた。訓練は、それを検証する狙いがある。

 末光さんの自宅は伊方町役場に近い。四国電力伊方原発から約4キロ。訓練の時は、地区自主防災組織の会長だった。

 「愛媛県で震度6強の地震が発生し、3号機は外部電源を喪失して放射性物質が外へ出た」―。そんな想定の下、末光さんらは近くの中学校に集合し、約50キロ離れた公園へバスで避難した。

 内閣府の報告書によると、このバス移動には1時間49分かかった。「事故が起これば、あんなにスムーズにできないよ」と末光さんは言う。

 愛媛県八幡浜市の国道378号で2016年1月、雪や凍結で100台超の車が立ち往生したことがある。渋滞は3キロ以上。車内で夜を明かす人も出た。

 末光さんが訓練で通った道である。
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「避難計画は現実的じゃない」という感想は、山下三郎さん(70)も抱いた。

 伊方原発は細長い佐田岬半島の付け根付近に位置する。万が一、過酷事故が起きたら、住民たちはどう逃げるのか。

 陸路が使えない場合、原発より西側の住民約5千人は、フェリーやヘリで大分県などに避難する計画だ。陸路とは国道197号。主要道路は片側1車線のこの道しかない。

 山下さんに半島を案内してもらった。自主防災組織の会長を長年務め、防災士の資格も持つ。

 「半島先端の三崎港からフェリーで避難するなんて、実際はあり得ん。台風やしけの時は船が岸壁に着けん。津波が来たらなおさら無理」

 山下さんの住む集落から三崎港への道は狭く、所々に亀裂もある。

 「この避難路、地震が来て使える? 土砂崩れもある。ここは孤立するよ。急傾斜が多い。ヘリが降りる所もない。フェリー乗り場まで行けん。大半が避難を諦めとる」
  ■  ■  
 伊方原発が事故を起こすと、風の強さや向きによっては高知県にも放射性物質が運ばれてくる、との予測がある。

 高知県で30キロ圏内に入る地域はなく、避難計画の策定を義務付けられた自治体はない。

 それでも一部が50キロ圏に入る高岡郡梼原町と四万十市は6月、自主的に避難計画を作った。

 梼原町で50キロ圏に入るのは「井高」「文丸」の2集落で、計37世帯、64人が暮らす。

 文丸集落の高齢化率は81・5%に上る。「私は若い方」と話す吉村秀子さん(67)の自宅は、愛媛県境まで約2キロ。梼原町の避難計画では、5キロ余り先まで行き、閉校した小学校に屋内退避することになっている。

 「一本道。あれがつえたら、どこにも逃げれん」

 避難計画を作った側にも不安がある。梼原町総務課の高橋里香係長が言う。

 「高齢者が多く、避難の時間が読めない。移動手段のない人は梼原町がピックアップすることになっているけど、現実的じゃない。そもそも国や高知県からすぐに情報が入ってくるかどうか。情報がなければ、計画を作った意味がありません」

 原発に異常があると、四国電力は高知県にメールや電話で通報し、情報はその後、「県→市町村→住民」の順で流れる。

 より重大な過酷事故の場合は、原子力災害対策特別措置法に基づいて首相が「原子力緊急事態宣言」を出し、政府が司令塔になる。

 しかし、福島の事故では、政府や東京電力が大混乱に陥り、情報伝達が遅れ、住民の避難も遅れた。その記憶は新しい。


高知新聞-【迫る伊方再稼働】(4)資産と会計 「特別な配慮」透明化を-2016.06.30 08:35



 全国50基の原発を2012年度に廃炉にすると決めた場合、電力会社10社で総額4兆4千億円の損失が出る―。

 東京電力福島第1原発の事故から1年余り後の2012年6月、経済産業省のそんな試算が明らかになり、経済界に衝撃を与えたことがある。電力10社のうち北海道電力、東北電力、東京電力、日本原子力発電の4社が債務超過に陥る、との内容だったからだ。

 原発の設備や核燃料は会計上、電力会社にとって大きな「資産」だ。資産を失い、補填ができないと、経営は悪化する。

 火力、水力、太陽光、原子力。こうした電源の中で、原発は発電コストが安く、優位とされてきた。四国電力も伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働に際し、同様の説明をしている。

 原発のコスト問題に詳しい立命館大学の大島堅一教授(環境経済学)はこう解説する。

 「短期的に燃料費だけをみれば発電コストは安い。一方で建設費は大きいので、投資が終わっている以上は使わないと大損してしまう」

 四国電力の佐伯勇人社長も6月28日の記者会見で「今ある資産を有効活用するのが経営の考え方。(廃炉を決めた)1号機もできれば使いたかった」と述べた。
 ■  ■ 
 四国電力の経営上、伊方原発はどんな位置付けになっているのか。決算書をひもといてみた。

 2015年3月期の貸借対照表によって資産価値を見ると、「原子力発電設備」は1075億円に達する。水力や火力の発電設備よりはるかに大きい。「核燃料」も1414億円という巨額資産だ。

 四国電力は3号機を再稼働させれば、収支が年間約250億円改善すると見込んでいる。

 逆に、2015年3月期に3基全てを廃炉にすると仮定したらどうなるか。

 単純計算すると、原発設備の資産価値はゼロ、転売できない核燃料(四国電力によると576億円)も価値が無くなる。廃炉に備えた引当金の不足分約400億円も必要。そうした結果、「純資産」は700億円余りにまで減り、経営は大幅に悪化する。

 原発に関する他の資産なども考慮すれば、全基廃炉で四国電力は債務超過になりかねないとの試算もある。

 ただ、実際には債務超過にならないよう電力会社向けに特別の“原発会計制度”が存在する。この制度は福島原発事故以降、「廃炉を円滑に進めるため」として、経産省主導で変更を重ねてきた。例えば、廃炉を決めた設備や核燃料の一部は資産とみなして、損失を一括計上せず、10年の分割処理が可能になった。

 「ただし」と言うのは立命館大学の金森絵里教授(会計学)だ。

 電力会社には、あらゆるコストを電気料金に上乗せできる「総括原価方式」がある。損失を将来に先送りする「10年分割」を採用すれば、それによって生じるコストはこの方式で回収できる。

 金森教授は「コストの負担者が電力会社から国民に変わっている。会計ルール違反です。会計基準は中立であるべきなのに、政治の中にある」と手厳しい。

 「廃炉を進める制度を構えるのは良いけど、いくらの費用が国民に転嫁されたか透明性のある制度設計にすべきです。複雑で不透明性を増す制度変更によって(電力業界を)支援するのは、原子力ムラの体質とも言えるでしょう。これでは電力自由化は成功しない。電力会社と国民の間の信頼も損なわれます」
 ■  ■ 
 事故リスクと経営規模の視点から、大島教授はこうも問いかける。

 「東京電力だったから福島の事故直後に数兆円を用意できた。四国電力は事故収束費用を用意できるのか。『事故を起こさない』と言うのは幸運を願っているだけ。リスクを負えないのに利益を欲しがるのは、資本主義ではありません」

 大島教授のこの質問を四国電力に伝えると、広報担当者から回答が届いた。

 「事故収束費用は状況によって全く異なることから試算していない。当社の経営規模を超える費用の発生も考えられるが、そうした事態を絶対に起こさないよう多重安全対策を実施しており、引き続き安全性向上へ不断の努力を重ねていく」




高知新聞-【迫る伊方再稼働】(5=終)司法判断 運転差し止め訴訟相次ぐ-2016.07.01 08:10


 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転を差し止める仮処分決定を下した―。大津地裁が「司法」として初めて稼働中の原発を止めたのは2016年3月だった。

 産業界や電力会社にとって、相当な衝撃だったに違いない。

 関西経済連合会の角和夫副会長が「憤りを超えて怒りを覚える」と述べたのは数日後だ。

 「なぜ一地裁の裁判官、一人の裁判長によって、国のエネルギー政策に支障を来すようなことが起こるのか。こういうことができないように法律改正を望む」

 関西電力の八木誠社長(当時)も「一般的に(原発停止に伴う原告住民らへの)損害賠償請求は(最終的に関西電力が)逆転勝訴すれば考えられる」と述べ、原告側から「どう喝だ」と批判された。

 大津地裁はどんな理由で原発の運転を止めたのか。

 発電の効率性を甚大な災禍と引き換えにはできない▽過酷事故対策や津波対策、避難計画に疑問が残る▽住民らの人格権を侵害する恐れが高いにもかかわらず、安全性確保の説明を尽くしていない―。決定文にはそんな理由が並ぶ。

 住民側の弁護団長は井戸謙一弁護士(62)。裁判官出身で、2006年には金沢地裁の裁判長として、北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを命じる判決(上級審で住民側が逆転敗訴)を出したことがある。

 「(金沢地裁の時は)耐震設計の問題を提起しなければ、という意識はあったが、控訴されれば現実には止まらない。ひっくり返される可能性も高いと思っていた」

 それに対し、今回の大津地裁による仮処分決定は直ちに効力を生む。自らの経験を踏まえ、井戸弁護士はこう評価した。

 「すごく勇気の要る判断です」
    ■  ■
 東京電力福島第1原発事故後、原発の運転差し止めを求める訴訟や仮処分の申し立てが全国で相次いでいる。四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)もその流れの中にある。

 松山地裁では2011年12月から裁判が続く。判決時期がまだ見通せないとあって、住民らは2016年5月に本訴とは別に仮処分を申し立てた。

 原告の一人で「伊方原発をとめる会」の和田宰事務局次長(64)は「熊本地震であらためて中央構造線の危険性を感じた。(原発を)止める可能性があることはやり尽くす」と言い、引く構えはない。

 広島地裁の裁判は3月に始まった。原告団長の堀江壮さん(75)=広島市=は原爆の被爆者だ。

 「恐ろしさを知っとるのに、次の世代に対して何もしないというのは許されん。(伊方原発と)瀬戸内海で接する広島も人ごとじゃ済まん」

 このほか大分県でも6月27日に住民が仮処分を申し立てた。

 一連の動きに対し、四電の佐伯勇人社長は「仮処分命令が出れば、電力需給や収支面で甚大な影響が出ることは間違いない」と警戒する。

 5年前は3人だった訴訟担当の社員を次第に増やし、2016年7月からは7人にすることも決めた。
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 過去の原発訴訟では、最終的に運転差し止めが確定した例はない。上級審に進むにつれ、「電力会社側勝訴」になった。

 ただ、福島原発の事故後は、住民側の訴えを認めるケースが出てきており、司法判断は揺らいでいるようにも映る。

 井戸弁護士は、差し止めの判決や仮処分決定が今後も出るとみる。「原発は安全」という社会通念が、福島原発事故で変わったからだ。

 「惰性で住民の請求を退けてきた司法の姿勢が、福島の被害を招いた一つの原因だった、と。裁判所はその反省に立たなければいけない」

 井戸弁護士はそう強調し、さらに言った。

 「事故のリスクを否定できない以上、それを受け入れさせる理由があるとすれば、公益性しかない。でも、原発ゼロの2年間の経験ができた。リスクを受忍する正当性はどこにありますか」

 伊方原発が予定通り再稼働しても、正当性への問いは消えない。


by asyagi-df-2014 | 2016-07-05 05:50 | 書くことから-原発 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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