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沖縄-屋良朝博さんの「米海兵隊が内部資料に書いた『沖縄にいる理由』」を読む。

AERA2016年6月27日号は、特集「[大特集]沖縄を他人事だと思っていませんか」を組んだ。
 この号に掲載された屋良朝博さん(以下、屋良とする)の「米海兵隊が内部資料に書いた『沖縄にいる理由』」を読む。 
 


 屋良は、「米海兵隊はなぜ、沖縄にいなければならないのか。」について、このように書き始める。
 米海兵隊員へのオリエンテーションで使う資料である「沖縄の歴史と政治状況」(以下、内部資料とする)には、「沖縄への米軍駐留をめぐる日本政府の『ウソ』がはっきりと書かれていた。」、と。


「米海兵隊はなぜ、沖縄にいなければならないのか。日本政府は表向き、沖縄の地理的優位性などを挙げるが、本当の理由はほかにあった。
 日本政府が沖縄駐留を望んでいる。なぜなら、本土で代替地を探せないからだ──。」



 次に、屋良は、GHQ(連合国軍総司令部)のダグラス・マッカーサー最高司令官の「琉球の住民は日本人ではなく、本土の日本人と同化したことがない。日本人は彼らを軽蔑している。彼らは単純でお人よしで、米国の基地開発でかなりの金額を得て比較的幸せな生活を送ることになる」との物言いと、この内部資料の次の言葉を紹介する。
この内部資料は、「こうした特性が、根強い住民の反対運動の裏側にある」と分析しているとする。

「沖縄県や自治体は基地問題をテコに、中央政府から補助金や振興策を引き出している」
「沖縄の新聞は偏向している」
「沖縄の人は一般的に情報に疎く、彼らは限られた視界で物事を見ている」



屋良は、「米軍の沖縄駐留については、『沖縄と本土の関係』の中で触れられているところが注目点だ。」、と説明する。それは次のものである。


 
①「『沖縄県民は日本人である前に沖縄人であることを意識する』と独自性=異質性を指摘し、『1879年に強制的に日本帝国に引き入れられて以来、劣った民族として本土からの差別を経験してきた』と述べた上で、こう続ける。
②「過去20年以上にわたり、(日本)政府と沖縄県は立場が異なり、多くの場合、対立しあっている。日本政府は部隊と基地が(沖縄に)とどまることを希望している(なぜなら、本土で代替地を探せないからだ)」


 つまり、日本政府はこれまで、「沖縄が海兵隊にとって『唯一』の駐留適地だと何度も繰り返してきた。」ことや「様々な緊急事態への対処を担当する米海兵隊をはじめとする米軍が(沖縄に)駐留していることは、日米同盟の実効性をより確かなものにし、抑止力を高める」(防衛白書)という主張してきた。
 しかし、「米海兵隊側はそんなことはみじんも考えていないことを、この文章は浮き彫りにする。」、と屋良は言い当てるのである。
 だから、屋良は、「真実はかくも単純だ。日本と沖縄の関係性の中に、沖縄の苦悩が組み込まれていた。古今東西、独立国に外国軍を存在させようとすると、常に政治的圧力にさらされる。だから、国内で圧力が最も弱くなるところ、つまりマイノリティーのいるところに置くのが好都合なのだ。」、と鋭く問題の本質を指摘する。
 結局、「米海兵隊はなぜ、沖縄にいなければならないのか。」ということの答えは、「日本政府は部隊と基地が(沖縄に)とどまることを希望している(なぜなら、本土で代替地を探せないからだ)」、ということに過ぎないことがわかる。

 さらに、屋良は、「沖縄戦の前年、1944年に米海軍省は、沖縄についての『ハンドブック』を策定した。この中にも、『日本と琉球の間には(米国が)政治的に利用しうる軋轢(あつれき)の潜在的な根拠がある』と書いてある(かっこ内は筆者が補足)。」、と続ける。
 このことの意味は、「日本と沖縄の関係性を巧みに利用し、沖縄に基地を置くように日本側に仕向ければ、そのことに日本人は良心の呵責を感じないため、永続的な基地使用が可能になる、と見ていたと解釈できる。そんな米国の分析と洞察が正しかったことは、戦後70年の歴史で証明し尽くされている。」、とし、「そして、この『占領者の目』はいまも変わらないことを示しているのが、米海兵隊の資料なのだ。」、とする。



 この「占領者の目」に加えて、もう一つの「傲岸な目」(作者作成)について、屋良は、次のように示す。それは、日本政府の「傲岸な目」である。



①「米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の問題もそうだ。6月5日投開票の沖縄県議選で、辺野古移設反対派で翁長雄志県知事を支持する候補者が48議席中27議席を占めた。中立の公明党4人を含めると、辺野古反対は31議席と圧倒的多数になった。しかし、この民意を日本政府は無視しつづける。」
②「辺野古埋め立てをめぐり、政府は昨年11月、翁長知事を提訴した。訴状の中で政府は、外交、防衛にかかわる事柄について沖縄県ごときの出る幕はない、と言わんばかりに高圧的だ。司法が判断できない高度な政治問題だ、と裁判所さえ牽制している。
③「沖縄県は裁判で海兵隊の機能、運用など実態論を展開した。海兵隊を運ぶ海軍艦船が長崎県佐世保市に配備されているのだから、沖縄の海兵隊基地は船が隊員と物資を詰め込む「船着き場」でしかない。それは九州のどこでも代替可能である、と指摘した。
④「これに対し日本政府は、船に乗らない任務もある、と言い張った。いやはや、支離滅裂だ。海兵隊は1775年、海軍の一部として発足。今も実際に、米海軍の艦艇で世界の海を駆け巡り、沖縄の海兵隊も一年の半分以上は沖縄以外で訓練を行っている。しかも、米軍再編によって在沖海兵隊は戦闘兵力の主軸である第4海兵連隊(歩兵)を米グアムへ撤退させる。沖縄残留兵力では小規模紛争でさえも対応できなくなる。再編後の海兵隊はもはや戦う兵力とはいえなくなる。」



 屋良は、「日本の政治家はだれもが、『沖縄の負担軽減』と口をそろえる。しかし、基地を引き受ける気はない。しかも、その結果として再編が進まない責任は沖縄に押し付け、果実だけを得ようとする姿勢は、破廉恥としか言いようがない。そんな安全保障政策の軽薄さは言うまでもなく、米国側に見透かされている。」、と指摘する。
 これは、日本の安全保障政策はこれぐらいのレベルなのだと。そして、だからこそ沖縄が必要とされているのだと。



「米大統領選で共和党候補の指名を確実にしたドナルド・トランプ氏は、在日米軍の駐留経費を日本側が100%負担しなければ撤退する、と主張している。これに対し、民進党の長妻昭代表代行は5月7日の民放番組で、『日本も駐留経費を出していることや、沖縄が極東の重要な拠点であることを外務省が早急に説明しなければいけない』と発言した。安保に知恵のない日本が差し出せるのは、カネと沖縄ぐらい、ということなのだろうか。」



 また、屋良は、最近の安全保障の変化を次のように指摘する。



①「オバマ政権は今、アジアで『スマートパワー』を推進する。軍事という『ハードパワー』と、経済・文化・技術などの国際協力という『ソフトパワー』を統合した対外政策だ。海兵隊もアジアの同盟国、友好国との合同演習は従来の戦闘訓練に加えて、人道支援や災害救援をテーマにした訓練を重視するようになった。」
②「海兵隊は毎年2月にタイで『コブラゴールド』、4月にフィリピンで『バリカタン』という名称の国際共同訓練を実施している。遠くはラテンアメリカや欧州からも参加があり、オブザーバーを含め20~30カ国の軍隊が一堂に会する。
 各国軍の兵士は協力して山奥の小学校で校舎など公共施設を修繕、整備する。軍医らは仮設の診療所で地域住民を診療、治療する。こうした無償の人道支援活動を米軍は『テロとの戦い』と呼んでいる。テロリストが拠点とする山奥の寒村に展開し、テロへの抑止効果を期待しているのだ。加えて、共同訓練にはもう一つ大きな意味がある。中国軍の参加だ。」
③「13年のバリカタンの災害救援訓練に、中国軍はオブザーバー参加。翌年のコブラゴールドには陸上部隊17人を派遣し、人道支援活動などに初参加している。中国軍は『米中両軍の協力がアジアの安全保障に貢献している』と自賛した。しかし、この動きは日本であまり報じられていない。」



 最後に、屋良は、こうした状況を分析する中で次のように主張する。



①「日本にとっての安全保障は、米軍と協力して仮想敵の中国を警戒すること、と理解しているなら、時代遅れだ。仮想敵に軍事で対抗するのは『国防』であり、安倍晋三首相が言う『安全保障』は、言葉の使い方として間違っている。憲法改正を巡る論議をしたいなら、まずこの区別を明確にする必要がある。」
②「日米中のトライアングルは、見る角度によって全く違う風景になる。沖縄の米軍基地がなければ日米安保体制が維持できない、という思考から抜け出せない日本は、アジアの安保環境を読み違えている。」
③「女性の殺人・強姦致死容疑事件を受け、沖縄県議会は5月26日、全会一致で在沖海兵隊の撤退決議を初めて可決した(自民会派は退席)。米海兵隊の任務や運用の実態を知れば、この決議の正当性がわかるはずだ。」
④「アジアの安全保障環境は明らかに冷戦後の変化のただ中にある。日本人が、安保への賛否や保守対革新、右か左かといった冷戦時代の思考形式から抜け出さない限り、沖縄の差別的な基地負担は終わらない。」


by asyagi-df-2014 | 2016-07-01 05:49 | 本等からのもの | Comments(0)

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