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沖縄-「和解」を社説から考える。

 安倍晋三首相は4日、名護市辺野古の新基地建設をめぐる代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)が示した工事中止を含む和解案を受け入れると表明した。沖縄県側も受け入れ、和解が成立した。
 この「和解」について、各新聞社の社説・論説から考える。
 参考にした各紙の見出しは次のとおりである。

①沖縄タイムス社説-[辺野古訴訟 和解]政治休戦で終わらすな
②琉球新報社説-代執行訴訟和解 新基地 根本から問え 「辺野古が唯一」は本当か
③朝日新聞社説-政府と沖縄 真の和解にするために
④東京新聞社説-「辺野古」和解 県内断念こそ選択肢に
⑤毎日新聞社説-辺野古訴訟和解 政府は誠意ある対話を
⑥大分合同新聞論説-辺野古訴訟の和解成立 腰据えて話し合いを
⑦読売新聞社説-辺野古訴訟和解 移設推進方針は堅持して臨め


 引用したのは、今回数社であったが、こでもやはり政府側だけにたった読売新聞の主張の突出ぶりが際立っている。
 今回の各紙の要約は次のようになる。


(1)和解の意味
1.沖縄タイムス社説
①国が名護市辺野古への新基地建設をあきらめたわけではないが、それでもなお、沖縄県にとって「地方自治を守り、工事を止める」という2点で、和解の成立は重要な意味を持つ。
②これによって国が県を訴えた「代執行訴訟」、県が国を相手に起こした「係争委不服訴訟」が取り下げられ、県が提訴した「抗告訴訟」も連動して取り下げられる予定だ。
③沖縄防衛局は、行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申し立てを取り下げることになっている。法律上は、翁長知事が埋め立て承認を取り消した時点に戻り、工事は止まる。
④平たくいえば、工事を中断した上で、県と国が争っている訴訟をいったん取り下げて訴訟を一本化し、その判決には県も国も従う、というのが和解案の内容だ。
⑤とりわけ注目したいのは、地方自治法改正によって国と地方公共団体が「それぞれ独立の行政主体として役割を分担し、対等・協力の関係となる」ことが期待されたにもかかわらず、「改正の精神にも反する状況になっている」ことを指摘し、国におきゅうを据えている点だ。
⑥今後も裁判で争うとなると、えんえんと法廷闘争が続き、「知事の広範な裁量が認められて(国が)敗訴するリスクは高い」とも踏み込んで指摘している。裁判所はそのような状態の異常さを強調し、司法の立場から警鐘を鳴らしたのである。
⑦仮に新たな訴訟で県が敗訴した場合、埋め立て承認取り消し処分が取り消され、工事が再開される。裁判の結果に従うことは県も明らかにしているが、知事の姿勢が「辺野古容認」に変わるわけではない。どっちみち裁判が避けられないものだとすれば、和解勧告の受け入れがベターな選択だといえる。
2.琉球新報社説
①一見、国が柔軟な姿勢に転じたかに見える。だがそれは見せ掛けにすぎない。真実は、敗訴間近に追い詰められた国が、やむなく代執行訴訟から退却したのである。
②福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長がこの和解案を示した時点で、結論は必然だったとも言える。国と県の対立に決着を図る上で最も強権的な手法が代執行だ。他の手段を経ず、いきなり最終手段たる代執行を求めた国に対し、裁判長は代執行以外の手段を勧めたわけである。「このまま行けば国敗訴だ」と警告したのに近い。
③今後、県と国は再び協議の席に着く。溝が埋まらなければ、「是正の指示」、係争処理委員会、是正の指示の取り消し訴訟などの、より強権度の低い手続きへと進むことになる。その間、工事は止まる。いずれにせよ、あれだけ強硬だった政府の工事を暫定的ながら止めたのだから、沖縄側の勝利であり、成果には違いない。
3.朝日新聞社説
①これにより、政府は埋め立て工事を中止する。政府と県はすべての訴訟を取り下げ、円満解決に向けて協議を進めることでも合意した。貴重な大浦湾の自然環境が破壊される前に、工事が止まる意義は小さくない。
4.東京新聞社説
①安倍政権が工事中断を含む和解案を受け入れた背景には、強硬姿勢を貫けば選挙に悪影響が出るとの政治的判断もあったのだろう。
5.毎日新聞社説
①裁判所は、代替施設建設を前提とした「根本案」と、工事中止を含む「暫定案」という二つの和解案を示していた。今回、成立した和解の内容は、暫定案を修正したものだ。
6.大分合同新聞
①和解の条項は、国が翁長雄志知事を訴えていた代執行訴訟を取り下げ、知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消し処分に対する是正指示から手続きをやり直す。その上で、辺野古での工事を直ちに中止し、国と県が円満な解決策に向けて再協議するという内容だ。翁長知事は既に和解案を前向きに検討する考えを示していた。
② 現地での反対運動が続く辺野古移設問題は、いったん工事が中止され、国と県の話し合いが再開されることになる。
③しかし和解合意で何かが解決したわけではない。
7.読売新聞社説
①米軍普天間飛行場の移設問題の根本的な解決にはほど遠い内容だが、司法の勧告である以上、和解もやむを得まい。


(2)和解の今後
1.沖縄タイムス社説
①今後、事態は、翁長知事の埋め立て承認取り消し処分に対する「地方自治法に基づく国による是正指示」→「県による国地方係争処理委員会への審査申し出」→「是正の指示の取り消し訴訟」へと進む可能性が高い。
2.琉球新報社説
①是正の指示の取り消し訴訟は国有利だとささやかれる。沖縄側敗訴もあり得るだろう。だが仮に敗訴しても、次は埋め立て承認の「撤回」をすればよい。設計変更は必ずあるからそのたびに知事が承認を下さなければ、工事はできない。いずれにせよ沖縄側が折れない限り、新基地完成は不可能である。
②今回、工事は1年以上、止まるだろう。米側もさすがに、日本政府の「移設に問題はない」との説明に疑念を募らせているはずだ。
3.毎日新聞社説
①具体的には、代執行訴訟を含む裁判を国と県それぞれが取り下げ、国は工事を直ちに中止する。国は代執行ではなく、地方自治法に基づく是正の指示の手続きを取り、その後、県による国地方係争処理委員会への審査申し出、県による是正指示の取り消し訴訟の提起へと進む。
②双方は、判決の確定まで円満解決に向けた協議を行い、確定後は直ちに判決に従う−−という内容だ。
4.読売新聞社説
①沖縄県の翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しに対する政府の是正指示の是非を巡る争いは、まず総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」で審査される。審査結果に不服がある場合は、改めて訴訟に持ち込まれ、その判決には政府も県も従う。この間、政府と県は解決に向けて協議し、政府は埋め立て工事を中止する。これらが和解の柱である。
②辺野古移設を推進する政府と、これに強く反対する県の主張は、大きく隔たっている。
 安倍首相と翁長氏が和解後に会談し、円満な解決に向けて協議することを確認した。しかし、両者が妥協点を見つけるのは簡単ではあるまい。結局は、訴訟で決着を図ることになるのではないか。


(3)主張
1.沖縄タイムス社説
①和解条項の中には「円満解決に向けた協議を行う」との文言がある。新たな解決策を模索する第一歩にするよう、国に強く求めたい。
②なぜそのような混迷状況が生じてしまったのか。原因と結果を取り違えてはいけない。
③政府が「対話による解決」を望むのであれば、県の考えを取り入れ、計画を見直すことである。それが辺野古問題を着地させる「唯一の選択肢」である。
2.琉球新報社説
①県と国の対立は仕切り直しとなった。だが新基地建設という国の頑迷な姿勢はいささかも揺らいでいない。沖縄の民意を踏みにじり、あくまで新基地を押し付ける姿勢が民主主義、自治の観点から正しいのか。「辺野古唯一」は本当か。根本から問い直すべきだ。
②首相の姿勢が正当化されるなら、どんな危険を強制されても、環境を破壊されても、選挙でどんな意思表示をしても、国がひとたび決めてしまえば地方は奴隷のごとく従うしかないことになる。これで民主国家だと言えるのか。それこそが本質的な問題なのだ。
③真の意味での仕切り直しの好機である。海兵隊は、普天間代替基地は必要か。百歩譲って必要としても、「辺野古が唯一」とする軍事的理由はない。復帰前は海兵隊の航空団と歩兵砲兵は岩国と沖縄に分かれていた。両者が近距離にないといけないというのは虚構なのだ。「沖縄の海兵隊」という思考停止の見直しが必要だ。そこからしか真の解決は見つかるまい。
3.朝日新聞社説
①この和解を、今度こそ、政府と沖縄県の対話による事態打開につなげねばならない。
②最大の問題は、安倍首相が「辺野古が唯一の選択肢」との姿勢を崩していないことだ。その前提にたつ限り、「辺野古移設NO」の民意に支えられた翁長県政との真の和解は成り立ちえない。和解条項には、改めて訴訟になった場合、双方が司法判断に従うことが盛り込まれた。そうなる前に妥協点を見いだせなければ、問題の先送りに終わりかねない。
③新たな訴訟が確定するまでには一定の時間がかかる。丁寧な議論を重ねる絶好の機会だ。
一方で、政府の狙いは6月の沖縄県議選、夏の参院選に向けて、問題をいったん沈静化させることではないか、との懸念の声もある。思い出すのは、安保法制の国会審議がヤマ場を迎えた昨年夏にも、政府が工事を中断して県と1カ月間の集中協議期間を設けたことだ。この時は、県の主張を聞き置くばかりで実りある対話とは程遠かった。同じ轍(てつ)を踏んではならない。
④「辺野古が唯一の選択肢」という思考停止を脱し、県との真の和解をめざす。そのための一歩を踏み出すべきときだ。
4.東京新聞社説
①安倍晋三首相が裁判所の和解案を受け入れ、沖縄県名護市辺野古での米軍基地新設工事を一時中断する。しかし、計画自体を変えたわけではない。県民の基地負担軽減には県内移設を断念すべきだ。
②国と県が法的手段を通じてではなく、話し合いで解決策を探るのが、あるべき姿だ。国が協議のテーブルに戻ることは当然である。
③市街地に囲まれ、危険な普天間飛行場の返還は喫緊の課題だが、同じ県内での代替施設建設を条件とする限り、在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県に暮らす県民の米軍基地負担は抜本的には軽減されない。
④首相に埋め立て工事中断を決断する度量があるのなら、普天間飛行場の辺野古への県内移設を断念し、国外・県外移設を米側に提起すべきではないか。
⑤今回の和解が、選挙をしのぐ時間稼ぎであってはならない。望むべくは、沖縄を米軍基地の重圧から解き放つ「真の和解」である。
5.毎日新聞社説
①公表された和解勧告文の中で、裁判所は「沖縄対政府という対立の構図」に触れ、「どちらがいい悪いという問題以前に双方ともに反省すべきだ」と注文している。
②特に国と地方が対等・協力の関係になることが期待された改正地方自治法の精神に反すると指摘し、本来は沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して米国に協力を求めるべきだとの考えを示した。
③国と県は昨夏にも1カ月間、工事を中断して集中協議をしたことがある。だが安全保障関連法案の審議と重なるのを避けるための政治休戦の面が強く、議論は深まらなかった。 今度こそ政府は県の疑問に誠実に答え、解決策を見いだしてほしい。再協議を、参院選までの時間稼ぎの形式的なものにしてはならない。
6.大分合同新聞論説
①立脚点のまったく異なる協議はかみ合わなかった。同じ愚を繰り返してはならない。
今年4月で普天間飛行場の返還合意から20年となる節目に、双方が腰を据えて話し合い、多岐にわたる論点に真正面から向き合い、納得できる解決策を目指すべきだ。
②反発を和らげるための一時的な「棚上げ」だとすれば、本質的な解決にはほど遠い。
③高裁支部が和解を勧告したのは、本来「対等」とされる国と地方の間で国が知事に代わって「代執行」するという強権的な措置をとることへの疑問や、裁判で結論を出しても根本的な解決にはならないとの判断があったと思われる。
 県側も二つの訴訟を取り下げる方向で、協議の環境は整った。辺野古移設に代わる解決策を探り、米軍基地問題の抜本的な議論を行う事実上の最後の機会にもなりかねない。国と県の双方に真摯(しんし)な対応を求めたい。
7.読売新聞社説
①安倍首相は、辺野古移設について「普天間飛行場の全面返還のためには、唯一の選択肢との考えに変わりはない」とも強調した。日米両政府と地元関係者が膨大な時間と精力を費やした末に、ようやくまとめた結論が辺野古移設である。米軍の抑止力の維持と基地周辺住民の負担軽減を両立させるため、政府は、今の立場を堅持することが重要である。
②訴訟対策などに万全を期すとともに、移設先の住民らの理解を広げる努力を続けたい。
③懸念されるのは、国地方係争処理委員会の審査や、その後の訴訟が長期化することだ。
 その間、工事は中断されるので、代替施設の完成が遅れ、普天間飛行場の返還がずれ込むことは避けられない。市街地の中心にある飛行場の危険な状況も継続する。
 係争処理委員会などには、迅速かつ公正な審査・審理を行うことが求められよう。


 さて、「工事を中断した上で、県と国が争っている訴訟をいったん取り下げて訴訟を一本化し、その判決には県も国も従う、というのが和解案の内容だ。」(沖縄タイムス)とする今回の和解案を、「国が名護市辺野古への新基地建設をあきらめたわけではないが、それでもなお、沖縄県にとって『地方自治を守り、工事を止める』という2点で、和解の成立は重要な意味を持つ。」(沖縄タイムス)、と受け取ることができる。
 また、今回の和解が示したものは、「是正の指示の取り消し訴訟は国有利だとささやかれる。沖縄側敗訴もあり得るだろう。だが仮に敗訴しても、次は埋め立て承認の『撤回』をすればよい。設計変更は必ずあるからそのたびに知事が承認を下さなければ、工事はできない。いずれにせよ沖縄側が折れない限り、新基地完成は不可能である。」、ということでもある。
 さらに、「『沖縄の海兵隊』という思考停止の見直しが必要だ。そこからしか真の解決は見つかるまい。」(琉球新報)、「『辺野古が唯一の選択肢』という思考停止を脱し、県との真の和解をめざす。そのための一歩を踏み出すべきときだ。」(朝日新聞)、「今回の和解が、選挙をしのぐ時間稼ぎであってはならない。望むべくは、沖縄を米軍基地の重圧から解き放つ『真の和解』である。」(東京新聞)、といった指摘を重く受け取る必要がある。
 最後に、朝日新聞は、次のように提起している。安倍晋三政権は、この「和解」を受けてこうした指摘を真摯に捉え直す契機としなければならない。


「福岡高裁那覇支部が示した和解勧告文には、こうある。
 『本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。そうなれば、米国としても、大幅な改革を含めて積極的に協力をしようという契機となりうる』
 そのために、普天間の機能の県外・国外への分散を進める。政府と県だけでなく、本土の自治体とも話し合い、米国との協議に臨むべきである。」


以下、各新聞社の社説・論説の引用。






沖縄タイムス社説-[辺野古訴訟 和解]政治休戦で終わらすな-2016年3月5日 05:00


 国が名護市辺野古への新基地建設をあきらめたわけではないが、それでもなお、沖縄県にとって「地方自治を守り、工事を止める」という2点で、和解の成立は重要な意味を持つ。

 和解条項の中には「円満解決に向けた協議を行う」との文言がある。新たな解決策を模索する第一歩にするよう、国に強く求めたい。

 翁長雄志知事による名護市辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐる「代執行訴訟」で、県と国は福岡高裁那覇支部が示した和解勧告案を受け入れ、和解が成立した。

 これによって国が県を訴えた「代執行訴訟」、県が国を相手に起こした「係争委不服訴訟」が取り下げられ、県が提訴した「抗告訴訟」も連動して取り下げられる予定だ。

 沖縄防衛局は、行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申し立てを取り下げることになっている。法律上は、翁長知事が埋め立て承認を取り消した時点に戻り、工事は止まる。

 平たくいえば、工事を中断した上で、県と国が争っている訴訟をいったん取り下げて訴訟を一本化し、その判決には県も国も従う、というのが和解案の内容だ。

 行政事件訴訟で裁判所側が和解勧告を出すのは極めて異例である。なぜ、裁判所は和解案を提示したのか。

 1月29日に提示され、4日に公表された和解案を読むと、国と県の訴訟合戦に対して裁判所が深く憂慮していたことがわかる。
■    ■
 とりわけ注目したいのは、地方自治法改正によって国と地方公共団体が「それぞれ独立の行政主体として役割を分担し、対等・協力の関係となる」ことが期待されたにもかかわらず、「改正の精神にも反する状況になっている」ことを指摘し、国におきゅうを据えている点だ。

 今後も裁判で争うとなると、えんえんと法廷闘争が続き、「知事の広範な裁量が認められて(国が)敗訴するリスクは高い」とも踏み込んで指摘している。裁判所はそのような状態の異常さを強調し、司法の立場から警鐘を鳴らしたのである。

 なぜそのような混迷状況が生じてしまったのか。原因と結果を取り違えてはいけない。
 県外移設を公約に掲げて再選された仲井真弘多前知事は、6月23日の「平和宣言」の中でも、県軍用地転用促進・基地問題協議会会長としての政府要請でも、繰り返し「県外移設」を求めてきた。

 にもかかわらず、国との「密室協議」を経て、県議会にも県民にも何の事前説明もないまま、唯我独尊の手法で埋め立てを承認した。

 これが混迷の始まりだ。

 安倍政権は仲井真前知事の埋め立て承認を唯一の根拠に、名護市長選、県知事選、衆院選で示された「辺野古反対」の民意を無視して工事を強行した。

 そのことが訴訟合戦を招き、混迷を深めたのである。

 安倍晋三首相は和解が成立したその日に、記者団に対して「辺野古が唯一の選択肢であるという国の考え方に変わりはない」と語った。あ然として二の句が継げない。
■    ■
 6月の「県議選」、夏の「参院選」に配慮し、ソフト路線を演出するだけの、魂の抜けた、権謀術数の和解受け入れであってはならない。

 今後、事態は、翁長知事の埋め立て承認取り消し処分に対する「地方自治法に基づく国による是正指示」↓「県による国地方係争処理委員会への審査申し出」↓「是正の指示の取り消し訴訟」へと進む可能性が高い。

 仮に新たな訴訟で県が敗訴した場合、埋め立て承認取り消し処分が取り消され、工事が再開される。裁判の結果に従うことは県も明らかにしているが、知事の姿勢が「辺野古容認」に変わるわけではない。どっちみち裁判が避けられないものだとすれば、和解勧告の受け入れがベターな選択だといえる。

 政府が「対話による解決」を望むのであれば、県の考えを取り入れ、計画を見直すことである。それが辺野古問題を着地させる「唯一の選択肢」である。


琉球新報社説-代執行訴訟和解 新基地 根本から問え 「辺野古が唯一」は本当か-2016年3月5日 06:01


 辺野古新基地の埋め立てをめぐる代執行訴訟で、安倍晋三首相は工事中断を含む暫定的和解案を受け入れた。もともと前向きだった県も応じ、和解が成立した。

 一見、国が柔軟な姿勢に転じたかに見える。だがそれは見せ掛けにすぎない。真実は、敗訴間近に追い詰められた国が、やむなく代執行訴訟から退却したのである。
 県と国の対立は仕切り直しとなった。だが新基地建設という国の頑迷な姿勢はいささかも揺らいでいない。沖縄の民意を踏みにじり、あくまで新基地を押し付ける姿勢が民主主義、自治の観点から正しいのか。「辺野古唯一」は本当か。根本から問い直すべきだ。

沖縄側の勝利

 「暫定案」は国が工事を停止して代執行訴訟を取り下げた上で、代執行より強制力の低い手続きを踏んで再度、県に是正を求めるという内容だ。
 福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長がこの和解案を示した時点で、結論は必然だったとも言える。国と県の対立に決着を図る上で最も強権的な手法が代執行だ。他の手段を経ず、いきなり最終手段たる代執行を求めた国に対し、裁判長は代執行以外の手段を勧めたわけである。「このまま行けば国敗訴だ」と警告したのに近い。
 一方で裁判長は、県側が申請していた環境や軍事専門家の証人申請を却下していた。前知事の埋め立て承認に瑕疵があったことを立証するのに不可欠な証人たちだ。却下は、翁長雄志知事の承認取り消しの適法性に対する関心の低さの表れとも見える。不適法との心証を抱いていたのかもしれない。
 さらに裁判長は、違法確認訴訟で県が敗訴すれば県は確定判決に従うかと問い、県は「従う」と答え
た。このやりとりを国側にあえて見せたのではないか。代執行訴訟では国が敗訴しそうだが、仕切り直して是正の指示の取り消し訴訟になれば、いずれは国有利での解決もあり得る、とのメッセージを送ったようにも見える。
 だから国は代執行訴訟取り下げという「退却」を選択したのだろう。
 今後、県と国は再び協議の席に着く。溝が埋まらなければ、「是正の指示」、係争処理委員会、是正の指示の取り消し訴訟などの、より強権度の低い手続きへと進むことになる。その間、工事は止まる。いずれにせよ、あれだけ強硬だった政府の工事を暫定的ながら止めたのだから、沖縄側の勝利であり、成果には違いない。

真の仕切り直し

 安倍首相は早速、「辺野古移設が唯一の選択肢という考え方に変わりはない」と述べた。この頑迷ぶりが今日の混迷を招いたという自覚はうかがえない。ましてや民主主義や地方自治の無視を恥じる姿勢は見当たらなかった。
 首相の姿勢が正当化されるなら、どんな危険を強制されても、環境を破壊されても、選挙でどんな意思表示をしても、国がひとたび決めてしまえば地方は奴隷のごとく従うしかないことになる。これで民主国家だと言えるのか。それこそが本質的な問題なのだ。
 是正の指示の取り消し訴訟は国有利だとささやかれる。沖縄側敗訴もあり得るだろう。だが仮に敗訴しても、次は埋め立て承認の「撤回」をすればよい。設計変更は必ずあるからそのたびに知事が承認を下さなければ、工事はできない。いずれにせよ沖縄側が折れない限り、新基地完成は不可能である。
 今回、工事は1年以上、止まるだろう。米側もさすがに、日本政府の「移設に問題はない」との説明に疑念を募らせているはずだ。
 真の意味での仕切り直しの好機である。海兵隊は、普天間代替基地は必要か。百歩譲って必要としても、「辺野古が唯一」とする軍事的理由はない。復帰前は海兵隊の航空団と歩兵砲兵は岩国と沖縄に分かれていた。両者が近距離にないといけないというのは虚構なのだ。「沖縄の海兵隊」という思考停止の見直しが必要だ。そこからしか真の解決は見つかるまい。


朝日新聞社説-政府と沖縄 真の和解にするために-2016年3月5日(土)


 この和解を、今度こそ、政府と沖縄県の対話による事態打開につなげねばならない。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる訴訟で、政府と県の和解が成立した。

 これにより、政府は埋め立て工事を中止する。政府と県はすべての訴訟を取り下げ、円満解決に向けて協議を進めることでも合意した。

 貴重な大浦湾の自然環境が破壊される前に、工事が止まる意義は小さくない。

 ただ、対立がこれで解消したわけでもない。

 最大の問題は、安倍首相が「辺野古が唯一の選択肢」との姿勢を崩していないことだ。その前提にたつ限り、「辺野古移設NO」の民意に支えられた翁長県政との真の和解は成り立ちえない。

 和解条項には、改めて訴訟になった場合、双方が司法判断に従うことが盛り込まれた。

 そうなる前に妥協点を見いだせなければ、問題の先送りに終わりかねない。

 新たな訴訟が確定するまでには一定の時間がかかる。丁寧な議論を重ねる絶好の機会だ。

 一方で、政府の狙いは6月の沖縄県議選、夏の参院選に向けて、問題をいったん沈静化させることではないか、との懸念の声もある。

 思い出すのは、安保法制の国会審議がヤマ場を迎えた昨年夏にも、政府が工事を中断して県と1カ月間の集中協議期間を設けたことだ。この時は、県の主張を聞き置くばかりで実りある対話とは程遠かった。同じ轍(てつ)を踏んではならない。

 首相はきのう、普天間の危険性の除去と、県の基地負担の軽減が「国と県の共通の目標」だとも強調した。

 ならば、政府がいま、なすべきことははっきりしている。

 首相が県に約束した普天間の「5年以内の運用停止」の実現に全力を尽くすことである。

 福岡高裁那覇支部が示した和解勧告文には、こうある。

 「本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。そうなれば、米国としても、大幅な改革を含めて積極的に協力をしようという契機となりうる」

 そのために、普天間の機能の県外・国外への分散を進める。政府と県だけでなく、本土の自治体とも話し合い、米国との協議に臨むべきである。

 「辺野古が唯一の選択肢」という思考停止を脱し、県との真の和解をめざす。そのための一歩を踏み出すべきときだ。


東京新聞社説-「辺野古」和解 県内断念こそ選択肢に-2016年3月5日


 安倍晋三首相が裁判所の和解案を受け入れ、沖縄県名護市辺野古での米軍基地新設工事を一時中断する。しかし、計画自体を変えたわけではない。県民の基地負担軽減には県内移設を断念すべきだ。

 この裁判は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設に必要な辺野古沿岸部の埋め立て承認を、翁長雄志知事が取り消したため、知事に代わって国が取り消し処分を撤回する「代執行」のために、国が翁長知事を訴えたものだ。

 国と県が福岡高裁那覇支部の和解案を受け入れ、きのう和解が成立した。国は代執行訴訟を取り下げて埋め立て工事を中断、訴訟手続きをやり直し、県との協議を継続するという。

 国と県はこの代執行訴訟を含めて三つの裁判で争っていた。訴訟合戦はやはり異様な光景だ。

 安倍政権は、県側の反対を押し切って埋め立て工事を強行し、知事の埋め立て承認取り消し処分に対しても、地方自治法に基づく是正指示や違法確認訴訟などの手順を踏まず、いきなり代執行訴訟に踏み切った。かなり強引だったと言わざるを得ない。

 六月には沖縄県議選があり、夏には参院選もある。工事車両などが出入りする辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前では、市民が抗議活動を続けている。

 安倍政権が工事中断を含む和解案を受け入れた背景には、強硬姿勢を貫けば選挙に悪影響が出るとの政治的判断もあったのだろう。

 国と県が法的手段を通じてではなく、話し合いで解決策を探るのが、あるべき姿だ。国が協議のテーブルに戻ることは当然である。

 とはいえ、安倍政権が辺野古への県内移設を断念したわけではない。首相はきのう「二十年来の懸案である普天間飛行場の全面返還のためには、辺野古移設が唯一の選択肢という国の考えに何ら変わりはない」とわざわざ強調した。

 市街地に囲まれ、危険な普天間飛行場の返還は喫緊の課題だが、同じ県内での代替施設建設を条件とする限り、在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県に暮らす県民の米軍基地負担は抜本的には軽減されない。

 首相に埋め立て工事中断を決断する度量があるのなら、普天間飛行場の辺野古への県内移設を断念し、国外・県外移設を米側に提起すべきではないか。

 今回の和解が、選挙をしのぐ時間稼ぎであってはならない。望むべくは、沖縄を米軍基地の重圧から解き放つ「真の和解」である。


毎日新聞社説-辺野古訴訟和解 政府は誠意ある対話を-2016年3月5日


 米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設計画をめぐり国が県を訴えた代執行訴訟で、双方は裁判所が示した和解案を受け入れ、再度、協議の場につくことになった。

 ただ、国が辺野古移設を推進する方針は変わっていない。話し合いが不調に終われば、再び裁判に持ち込まれる可能性が高い。

 裁判所は、代替施設建設を前提とした「根本案」と、工事中止を含む「暫定案」という二つの和解案を示していた。今回、成立した和解の内容は、暫定案を修正したものだ。

 具体的には、代執行訴訟を含む裁判を国と県それぞれが取り下げ、国は工事を直ちに中止する。国は代執行ではなく、地方自治法に基づく是正の指示の手続きを取り、その後、県による国地方係争処理委員会への審査申し出、県による是正指示の取り消し訴訟の提起へと進む。

 双方は、判決の確定まで円満解決に向けた協議を行い、確定後は直ちに判決に従う−−という内容だ。

 県の主張をより多く取り入れており、国は当初、否定的だった。

 安倍晋三首相は和解案を受け入れた理由を「国と県が延々と訴訟合戦を繰り広げている関係が続けば、こう着状態となり、普天間が固定化されかねない」と説明した。

 政権が和解に応じた背景の一つには、選挙があると見られる。6月の県議選、夏の参院選を控え、国と県の対立がこれ以上、激しくなれば選挙に悪影響を与えかねない。

 代執行訴訟での敗訴リスクを回避する判断が働いた可能性もある。暫定案が代執行以外の手続きを求めたため、裁判所が代執行訴訟に批判的との見方が出ていたからだ。

 和解案受け入れについて、翁長雄志(おながたけし)知事は「和解が成立したことは大変意義のあることだ。それぞれが説明責任を果たしながら問題の解決に導いていくことが大切だ」と語った。

 公表された和解勧告文の中で、裁判所は「沖縄対政府という対立の構図」に触れ、「どちらがいい悪いという問題以前に双方ともに反省すべきだ」と注文している。

 特に国と地方が対等・協力の関係になることが期待された改正地方自治法の精神に反すると指摘し、本来は沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して米国に協力を求めるべきだとの考えを示した。

 国と県は昨夏にも1カ月間、工事を中断して集中協議をしたことがある。だが安全保障関連法案の審議と重なるのを避けるための政治休戦の面が強く、議論は深まらなかった。
 今度こそ政府は県の疑問に誠実に答え、解決策を見いだしてほしい。再協議を、参院選までの時間稼ぎの形式的なものにしてはならない。


大分合同新聞論説-辺野古訴訟の和解成立 腰据えて話し合いを-2016年3月5日


 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への移設をめぐる国と県の訴訟で、安倍晋三首相は福岡高裁那覇支部が示した和解案の受け入れを表明、県側との和解が成立した。
 和解の条項は、国が翁長雄志知事を訴えていた代執行訴訟を取り下げ、知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消し処分に対する是正指示から手続きをやり直す。その上で、辺野古での工事を直ちに中止し、国と県が円満な解決策に向けて再協議するという内容だ。翁長知事は既に和解案を前向きに検討する考えを示していた。
 現地での反対運動が続く辺野古移設問題は、いったん工事が中止され、国と県の話し合いが再開されることになる。
 しかし和解合意で何かが解決したわけではない。安倍首相は和解案の受け入れ表明と同時に、「辺野古移設が唯一の選択肢であるとの考え方は何ら変わらない」と言明した。協議が決裂した後の訴訟の判決には「双方が従う」との内容も和解条項には盛り込まれた。
 ただ県側は司法判断が示されれば従うものの、辺野古移設にはあらゆる手段を使って反対を続ける構えだという。
 国と県は昨年夏にも約1カ月間、工事を中断し、集中的に協議したが、不調に終わった。県側は戦後の占領下で「銃剣とブルドーザー」によって強制的に土地を取り上げられて米軍基地が建設され、基地が沖縄に集中していった歴史を訴えた。これに対し、国側は1996年の日米両政府の普天間返還合意以降の経緯に絞って「辺野古移設案」を主張した。
 立脚点のまったく異なる協議はかみ合わなかった。同じ愚を繰り返してはならない。
 今年4月で普天間飛行場の返還合意から20年となる節目に、双方が腰を据えて話し合い、多岐にわたる論点に真正面から向き合い、納得できる解決策を目指すべきだ。
 今回の安倍首相の判断の背景に、国と県との対立が続けば6月の沖縄県議選や夏の参院選、取りざたされる衆参同日選などに悪影響を与えるとの懸念があり、反発を和らげるための一時的な「棚上げ」だとすれば、本質的な解決にはほど遠い。
 安倍首相は「国と県の双方が延々と訴訟合戦を繰り広げている関係が続けば、結果として普天間飛行場が固定化されかねない」とも指摘した。米太平洋軍司令官からは普天間移設の時期が現行計画よりも2年ほど遅れて「2025年になる」との発言も出ている。固定化を避けるためにも、再協議を急ぎたい。
 高裁支部が和解を勧告したのは、本来「対等」とされる国と地方の間で国が知事に代わって「代執行」するという強権的な措置をとることへの疑問や、裁判で結論を出しても根本的な解決にはならないとの判断があったと思われる。
 県側も二つの訴訟を取り下げる方向で、協議の環境は整った。辺野古移設に代わる解決策を探り、米軍基地問題の抜本的な議論を行う事実上の最後の機会にもなりかねない。国と県の双方に真摯(しんし)な対応を求めたい。


読売新聞社説-辺野古訴訟和解 移設推進方針は堅持して臨め-2016年03月05日


 米軍普天間飛行場の移設問題の根本的な解決にはほど遠い内容だが、司法の勧告である以上、和解もやむを得まい。

 普天間飛行場の辺野古移設を巡る代執行訴訟で政府と沖縄県が、福岡高裁那覇支部が新たに示した暫定案の修正案を受け入れ、和解した。

 沖縄県の翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しに対する政府の是正指示の是非を巡る争いは、まず総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」で審査される。

 審査結果に不服がある場合は、改めて訴訟に持ち込まれ、その判決には政府も県も従う。この間、政府と県は解決に向けて協議し、政府は埋め立て工事を中止する。これらが和解の柱である。

 辺野古移設を推進する政府と、これに強く反対する県の主張は、大きく隔たっている。

 安倍首相と翁長氏が和解後に会談し、円満な解決に向けて協議することを確認した。しかし、両者が妥協点を見つけるのは簡単ではあるまい。結局は、訴訟で決着を図ることになるのではないか。

 政府は当初、工事の中止が伴う和解には否定的だったが、受け入れに転じた。首相は「延々と訴訟合戦を繰り広げれば、膠着こうちゃく状態となり、普天間の現状が固定化されかねない」と語った。

 確かに、複数の裁判が同時並行で長々と続くよりも、裁判を一本化した方が手続きが円滑になる可能性はある。政府と県は今回、判決に従って互いに協力して誠実に対応すると「確約」した。この約束を順守せねばなるまい。

 安倍首相は、辺野古移設について「普天間飛行場の全面返還のためには、唯一の選択肢との考えに変わりはない」とも強調した。

 日米両政府と地元関係者が膨大な時間と精力を費やした末に、ようやくまとめた結論が辺野古移設である。米軍の抑止力の維持と基地周辺住民の負担軽減を両立させるため、政府は、今の立場を堅持することが重要である。

 訴訟対策などに万全を期すとともに、移設先の住民らの理解を広げる努力を続けたい。

 懸念されるのは、国地方係争処理委員会の審査や、その後の訴訟が長期化することだ。

 その間、工事は中断されるので、代替施設の完成が遅れ、普天間飛行場の返還がずれ込むことは避けられない。市街地の中心にある飛行場の危険な状況も継続する。

 係争処理委員会などには、迅速かつ公正な審査・審理を行うことが求められよう。


by asyagi-df-2014 | 2016-03-06 17:26 | 沖縄から | Comments(0)

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