東京拘置所及び仙台拘置支所における2名に対して死刑を執行した。第2次安倍内閣以降、8回目で、合わせて14人になる。
2015年 12月 26日
東京拘置所及び仙台拘置支所における2名に対する死刑執行について、「法務省は18日、2人の死刑を執行した。うち1人は、2009年に川崎市のアパートで3人を殺害した殺人の罪で、11年に横浜地裁の裁判員裁判で判決を受けて確定した津田寿美年死刑囚(63)。09年5月に裁判員制度が始まって以来、市民が判断に加わった死刑囚に刑が執行されたのは初めて。東京拘置所で執行された。」、「法務省は18日、裁判官のみで判決を出した若林一行死刑囚(39)の刑も執行した。06年、岩手県洋野町の上野紀子さん(当時52)と次女友紀さん(同24)を絞殺。現金2万2千円などを奪って遺体を山林に遺棄したとして、強盗殺人などの罪で12年に確定していた。」、と報じた。
また、裁判員制度についても、「負担の軽減や心のケアといった課題はなお未解決だ。」、と伝えた。
この死刑執行に対して、日本弁護士連語会は、2015年12月18日、「死刑執行に強く抗議し、改めて死刑執行を停止し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求める会長声明」を発表した。
このアピ-ルの要約は、次のようになる。
(事実)
①第2次安倍内閣以降、死刑が執行されたのは、2015年6月以来8回目で、合わせて14人になる。
②東京拘置所における被執行者は、裁判員裁判による死刑判決を受け、裁判員裁判による死刑囚として初めて執行されたものである。本件は、弁護人が控訴したものの、自ら控訴を取り下げたことにより死刑が確定した事案であり、国連条約機関等から繰り返し求められている必要的上訴の要請を充たしていない。
③仙台拘置支所における被執行者は、第一審で認めた後、控訴審で否認に転じ無実を主張していたものである。
(抗議の理由)
①2014年3月、静岡地方裁判所が袴田巖氏の第二次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。現在、東京高等裁判所において即時抗告審が行われているが、もし死刑の執行がなされていたならば、まさに取り返しのつかない事態となっていた。袴田氏は48年ぶりに釈放されたが、その心身に不調を来しており、袴田事件は、えん罪の恐ろしさはもちろんのこと、死刑制度の問題点を浮き彫りにしている。
②死刑の廃止は国際的な趨勢であり、世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っている。死刑を存置している国は58か国であるが、2014年に実際に死刑を執行した国は更に少なく、日本を含め22か国であった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国の3か国のみであるが、韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止、米国の19州は死刑を廃止しており、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。こうした状況を受け、国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。
③2014年11月に実施された死刑制度に関する政府の世論調査の結果、「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であったものの、そのうち40.5%は「将来的には、死刑を廃止してもよい」とした。また仮釈放のない終身刑が導入されるならば、「死刑を廃止する方がよい」37.7%、「死刑を廃止しない方がよい」51.5%と回答している。この結果からも死刑廃止について議論する必要性があると言える。
(結論)
これまでの死刑執行に対しても強く抗議してきたところであるが、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑執行を停止し、死刑に関する情報を広く国民に公開し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求めるものである。
このアピ-ルが指摘する、①国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告していること、②死刑の廃止は国際的な趨勢であること、③袴田事件が浮き彫りにした「えん罪の恐ろしさはもちろんのこと、死刑制度の問題点」を捉え直すこと、という観点から、死刑執行を停止し、死刑制度の廃止を早急に検討しなければならない。
以下、日本弁護士連合会会長声明及び朝日新聞の引用。
死刑執行に強く抗議し、改めて死刑執行を停止し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求める会長声明
本日、東京拘置所及び仙台拘置支所において各1名に対して死刑が執行された。岩城光英法務大臣による初めての死刑執行であり、第2次安倍内閣以降、死刑が執行されたのは、2015年6月以来8回目で、合わせて14人になる。東京拘置所における被執行者は、裁判員裁判による死刑判決を受け、裁判員裁判による死刑囚として初めて執行されたものである。本件は、弁護人が控訴したものの、自ら控訴を取り下げたことにより死刑が確定した事案であり、国連条約機関等から繰り返し求められている必要的上訴の要請を充たしていない。また、仙台拘置支所における被執行者は、第一審で認めた後、控訴審で否認に転じ無実を主張していたものである。
当連合会は、2015年12月9日、岩城法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査の上、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。
このような状況における死刑の執行は極めて遺憾であり、当連合会は改めて死刑執行に強く抗議する。
2014年3月、静岡地方裁判所が袴田巖氏の第二次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。現在、東京高等裁判所において即時抗告審が行われているが、もし死刑の執行がなされていたならば、まさに取り返しのつかない事態となっていた。袴田氏は48年ぶりに釈放されたが、その心身に不調を来しており、袴田事件は、えん罪の恐ろしさはもちろんのこと、死刑制度の問題点を浮き彫りにしている。
死刑の廃止は国際的な趨勢であり、世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っている。死刑を存置している国は58か国であるが、2014年に実際に死刑を執行した国は更に少なく、日本を含め22か国であった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国の3か国のみであるが、韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止、米国の19州は死刑を廃止しており、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。こうした状況を受け、国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。
2014年11月に実施された死刑制度に関する政府の世論調査の結果、「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であったものの、そのうち40.5%は「将来的には、死刑を廃止してもよい」とした。また仮釈放のない終身刑が導入されるならば、「死刑を廃止する方がよい」37.7%、「死刑を廃止しない方がよい」51.5%と回答している。この結果からも死刑廃止について議論する必要性があると言える。
当連合会は、これまでの死刑執行に対しても強く抗議してきたところであるが、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑執行を停止し、死刑に関する情報を広く国民に公開し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求めるものである。
2015年(平成27年)12月18日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進
朝日新聞-市民参加6年半、初執行 裁判員判決による死刑-2015年12月19日05時00分
法務省は18日、2人の死刑を執行した。うち1人は、2009年に川崎市のアパートで3人を殺害した殺人の罪で、11年に横浜地裁の裁判員裁判で判決を受けて確定した津田寿美年死刑囚(63)。09年5月に裁判員制度が始まって以来、市民が判断に加わった死刑囚に刑が執行されたのは初めて。東京拘置所で執行された。
裁判員裁判で死刑判決を受けたのは26人、このうち確定者は今回の執行前までに7人。津田死刑囚は2番目に早く確定していた。
死刑執行による裁判員の精神的な重圧は、制度設計時から指摘されていた。だが、法務省幹部は「制度が定着する中、執行を避けていては、逆に市民に失礼だと考えた」と話す。
では、誰から執行するのか。最初の確定者は共犯者が逃亡中で、執行が難しかった。津田死刑囚は公判で「命で償う」と語り、弁護人が控訴したものの、自ら取り下げて確定していた。
省内には「プロの裁判官が裁く高裁、最高裁の審理も経て確定したケースが望ましい」という声もあったが、「自ら控訴を取り下げたことは、罪の内容に疑いがないことを意味する」。ある幹部はこう説明した。
今回の執行で、収容中の確定死刑囚は126人。うち90人余りが再審請求中だ。請求中は執行しないのが慣例となっており、津田死刑囚が請求していなかったことも、執行に踏み切った理由の一つとみられる。
14年までの10年間に執行された死刑囚について、確定から執行までの平均期間をみると約5年5カ月。津田死刑囚は確定から4年5カ月が経過していた。
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法務省は18日、裁判官のみで判決を出した若林一行死刑囚(39)の刑も執行した。06年、岩手県洋野町の上野紀子さん(当時52)と次女友紀さん(同24)を絞殺。現金2万2千円などを奪って遺体を山林に遺棄したとして、強盗殺人などの罪で12年に確定していた。
■一生背負う・苦しみ消えない 裁判員経験者ら
津田死刑囚の裁判で裁判員を務めた20代男性は、判決から約2年後の取材で、死刑執行のニュースのたび、誰が執行されたのか気が気でない日々を送っていると語った。「自分の出した結論で一人の命を絶つわけだから気が重い。このつらさは、裁判員にしか分からない」とも話していた。
この日の執行を死刑判決にかかわった各地の裁判員経験者はどう感じたのか。
埼玉県の50代女性は「いつかこうした日が来るとは思っていた。ついに来たかという感じ」と話す。「国民の判断によって一人の命がなくなったわけで、改めて責任は重大だと思う」。自分が担当した事件を、今でも思い出す。今月、死刑が確定することを知った直後も寺に行って被害者に報告した。「私は一生背負っていく覚悟でいる」
宮崎市の会社員男性(44)は裁判官が判決を告げるときには体や手が震え、自宅に帰っても涙が止まらなかった。「死刑が執行されれば、裁判員の自分たちが殺すようなもの。その苦しみは一生消えない。二度と裁判員はやりたくない」
愛知県小牧市の20代男性は裁判員になるまで、法律が認める以上、死刑はあっていいと考えていた。今は揺れている。「罪と向き合い、一生背負い、被害者や遺族に償う。苦しみながらでも、生きた方がいいと思うことがある」
■<解説>心のケアなお課題
司法に市民感覚を入れようと導入された裁判員制度は、死刑で市民に重い負担を負わせるという懸念が当初からあった。開始3年後に見直しが検討された際には、経験者の意見などから、死刑求刑事件を対象から外すことも議論されたが、「重大事件こそ市民の目で」と維持された。
今年3月までに裁判員を務めた人は約5万8千人にのぼり、法務省は今回、一歩を踏み出した。だが、その一方で裁判員候補者のうち6割が辞退しており、負担の軽減や心のケアといった課題はなお未解決だ。
また、悩み抜いた選択が現実となった今回の執行でも、従来通り執行の詳細は明らかにされていない。刑場は民主党政権下で一度、公開されたのみだ。「究極の刑」に向き合う市民に、情報公開は不可欠だ。(金子元希)
■<考論>負担と向き合う必要
裁判員制度の設計に関わった元検事総長の松尾邦弘弁護士の話 設計時、死刑に関わる裁判員の負担は大きなポイントとして議論されたが、この制度は「司法への国民参加」の柱で、死刑を抜きにすることは考えられなかった。開始から時間が経ち、死刑に関わることも含めて国民は受け入れてくれている。来るべき時が自然と来たということだろう。執行で制度が揺らぐことはないが、裁判員の負担という課題には、検察、裁判所ともに、今後も向き合っていかなければならない。
■<考論> 死刑制度考えるとき
元東京高裁判事の木谷明弁護士の話 今回の執行を、死刑制度について国民に本気で考えてもらう機会と捉えるべきだろう。世論調査では死刑存置論が依然として多数だが、国民が死刑の可否を判断するための情報は、あまりにも少ないのが現状だ。執行の順序、再審請求の状況、死刑囚の処遇、世界の潮流といった情報を知らずに的確な判断はできないだろう。だれもが裁判員になる可能性がある。無期懲役や終身刑のあり方も含めて、議論していく必要がある