労働問題-居酒屋大手の「和民」の過労自殺訴訟で和解。ワタミは、再発防止策を真摯に実行しなければならない。
2015年 12月 12日
居酒屋大手の「和民」の過労自殺訴訟について、毎日新聞は2015年12月8日、「居酒屋大手の『「和民』の過労自殺訴訟で、ワタミ側は懲罰的要素を含む巨額の賠償請求を受け入れることで和解した。従業員に過重労働を課すと、大きな代償を伴うことを改めて印象づけた。一方で和解条項に盛り込まれた再発防止策は、ワタミと同様の飲食、サービス業だけでなく、多くの企業が取り入れるべきモデルとなった。」、と報じた。
また、この和解に盛り込まれた再発防止策は、「時間外や休日労働について、労使はあらかじめ『36協定』を結び、残業時間の上限を設定する。ワタミの場合は月45時間だったが、多くの企業と同様に特別延長協定が結ばれ、上限は75時間になっていた。そもそも過労死認定ラインの月80時間を超える例も多く、協定が長時間労働の歯止めになっていない現実がある。これに対し、ワタミ側と遺族側が合意した和解条項には、協定更新時に残業時間を短縮することが盛り込まれた。さらに、ワタミはタイムカードを打刻した後に働かせることがないよう労働時間を厳格に管理したうえで、研修会なども労働時間に含めて記録していくという。これらは、長時間労働による過労死、過労自殺の防止に有効な策だと評価できる。ワタミに限らず多くの企業が重みを受け止め、過労死防止を徹底することが求められる。」、と伝えた。
東京新聞は2015年12月10日、ワタミという企業の実像について、「同グループの居酒屋『和民』で起きた過労自殺は、あまりにも痛ましい。訴状などによると、森美菜さん=当時(26)=は二〇〇八年四月に入社し、中旬に店舗に配属。慣れない大量調理を任された上、連日の深夜勤務を強いられた。残業は月百四十一時間に上った。休日も研修や会社行事へ参加させられ、配属から一カ月後には適応障害を発症。二カ月後にマンションから飛び降りた。『体が痛い。どうか助けて下さい』とのメモが残されていた。」、と報じた。
「体が痛い。どうか助けて下さい」、と労働者に叫ばせてしまう状況が、実は、日本の働く者たちが追い込まれている実態ではないか。
決して、「遺族」に、「いい会社になってほしい」と語らせてはならない。
各企業は、長時間労働による過労死、過労自殺の実態を克服するために、ブラック企業やブラックバイトの実態を解消するために、あらためて、この和解の「重みを受け止め、過労死防止を徹底すること」に、本腰で取り組まなければならない。
政府は、「働く人の命と健康を守ることは最優先だ。それを国も企業経営者も肝に銘じてほしい。」、という東京新聞の指摘を真摯に受けとめなければならない。
以下、毎日新聞の引用。
毎日新聞-ワタミ過労自殺和解 再発防止策、他企業のモデル-毎日新聞2015年12月8日 22時05分
居酒屋大手の「和民」の過労自殺訴訟で、ワタミ側は懲罰的要素を含む巨額の賠償請求を受け入れることで和解した。従業員に過重労働を課すと、大きな代償を伴うことを改めて印象づけた。一方で和解条項に盛り込まれた再発防止策は、ワタミと同様の飲食、サービス業だけでなく、多くの企業が取り入れるべきモデルとなった。
時間外や休日労働について、労使はあらかじめ「36協定」を結び、残業時間の上限を設定する。ワタミの場合は月45時間だったが、多くの企業と同様に特別延長協定が結ばれ、上限は75時間になっていた。そもそも過労死認定ラインの月80時間を超える例も多く、協定が長時間労働の歯止めになっていない現実がある。
これに対し、ワタミ側と遺族側が合意した和解条項には、協定更新時に残業時間を短縮することが盛り込まれた。さらに、ワタミはタイムカードを打刻した後に働かせることがないよう労働時間を厳格に管理したうえで、研修会なども労働時間に含めて記録していくという。
これらは、長時間労働による過労死、過労自殺の防止に有効な策だと評価できる。ワタミに限らず多くの企業が重みを受け止め、過労死防止を徹底することが求められる。
【東海林智】
和解条項に盛り込まれた再発防止策
・36協定更新の際に残業時間を短縮する
・労働時間を厳格に把握する
・研修などを労働時間として記録し、賃金を支払う
・長時間労働や賃金未払いに関する労働基準監督署の是正勧告を全従業員に周知する
・労働条件に関するコンプライアンス委員会の調査、検証を実施して公表する
東京新聞社説-ワタミ謝罪 経営者の責任は重い-2015年12月10日
人を使い捨てにするような経営は大きな代償を伴う。ブラック企業の代表例として注目されてきたワタミの過労自殺訴訟の和解はそれを印象づけた。他の企業も襟を正し、防止策を徹底すべきだ。
「創業者の理念に基づき、従業員に過重な労働を強いた。最も重大な損害賠償責任を負う」
八日に成立した和解は、ワタミグループの創業者であり当時の社長である渡辺美樹参院議員の法的責任について認め、計一億三千万円の損害賠償を支払うこととした。
同グループの居酒屋「和民」で起きた過労自殺は、あまりにも痛ましい。
訴状などによると、森美菜さん=当時(26)=は二〇〇八年四月に入社し、中旬に店舗に配属。慣れない大量調理を任された上、連日の深夜勤務を強いられた。残業は月百四十一時間に上った。休日も研修や会社行事へ参加させられ、配属から一カ月後には適応障害を発症。二カ月後にマンションから飛び降りた。「体が痛い。どうか助けて下さい」とのメモが残されていた。
ワタミ側は和解で、労働時間を正確に把握することなどの過重労働対策にも同意。遺族は「いい会社になってほしい」と語った。
過労死が起きるような体制を放置しておけば、経営者の責任が問われる。ワタミに限らず、他の多くの企業の経営者もその重みを受け止めてほしい。
過労死は後を絶たない。一四年度の精神障害による労働災害の認定は四百九十七人で、そのうち過労自殺は未遂も含めて九十九人と、ともに過去最多だ。
労災認定された人のうち過労死認定ラインを超える時間外労働が月八十時間以上の人は四割を占めていた。長時間労働を是正することは急務である。
政府は、二〇年までに週六十時間以上働く人の割合を5%以下にするなどの目標を盛り込んだ過労死防止対策大綱を策定。労働基準監督署が一部の事業所を抜き打ちで監督指導するなどの対策をとるが、決め手にはならない。
日本では労使協定を結べば、際限なく従業員を働かせることができる。一方、フランスやドイツなどでは、これ以上働かせてはならないという総労働時間の罰則付き上限規制を定めている。日本でも導入を検討するべきではないか。
働く人の命と健康を守ることは最優先だ。それを国も企業経営者も肝に銘じてほしい。