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沖縄から-三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記第33回

沖縄の地で、体を張って新しい歴史を作ろうとしている人たちがいる。
そこには、その煌めきの記録を残そうとしているジャーナリストがいる。
だとしたら、その生きざまの瞬間を私たちは受け取る必要がある。
三上知恵の沖縄撮影日記。

 
 今回の報告は、「2015年10月13日は、沖縄県の歴史に残る日になった。」、で始まる。
 私たちはこの日をどのように迎えることができたのか。
 せめて、三上さんの伝える2015年10月13日を感じ取ろう。


 三上さんは、この日を、次のように写し取った。


 去年の11月、翁長知事を知事に選出してからおよそ1年。当選後はすぐにでも辺野古埋め立てを撤回、または取り消して欲しいと現場は期待した。しかし第三者委員会を立ち上げて慎重な上にも慎重な検討を重ねていった翁長知事。その手法に焦燥感を募らせた人も多かった。それでも、政府を動かすために島ぐるみで積み上げ、作り上げていった一体感に水を差すことはすまいと、お互いに立場の違う県民同士がずいぶん辛抱をしあってきたと思う。疑心暗鬼に陥りそうになる仲間を交互になだめながら、新たな信頼や連帯を構築しつつ、県民も鍛えられていった期間だった。そして一日千秋の思いで待っていた沖縄県としての「取り消し」だから、今後やってくる嵐はさておき現場は躍り上がるほどの喜びを爆発させた。


 また、こんなふうにも描く。


 ヒロジさんはこの日を迎えた心情をこう表現した。
 「これからやってくる怒濤のような嵐に立ち向かっていこうというふうに、沖縄がここまで団結したことはない。わたしは今この歴史のなかに生きていることを喜びとします。明日私の命を取るなら取れ! しかし今日ここにいて、ここで叫んで、歴史を開く、未来を開くという決意は変わらない。その喜びを毎日嚙み締めながら生きていきたい。生きたい。みなさん。是非、感激と感動と誇りを持って立ち向かっていきましょう」

 明日、命が費えるとしても、今日ここで叫び、未来を開くという決意は変わらない。6カ月もベッドの上に縛られ、たくさんの管を入れられて身動きもできない中で、生きたい、現場に立って叫びたい、せめて最後の日まで、歴史の中に生きた感触を体中にみなぎらせて、喜びとして嚙み締めたい、そう強く強く願って現場に戻った彼の言葉から、私たちはこの闘争の意味も、生きるという行為そのもののダイナミズムも教わっていく。

 なんという場なんだろう。自分の命の先にあるものたちへ繫いでいく大切なもの。その形を確かに見た気がした。それは、みんなで丸い虹を見たような体験だった。美しい虹の本来の姿、なかなか実像を結ばない「理想」の純然たる形を目の当たりにしたら、みんなで喜び溢れてそこに向かって歩いて行くことになるだろう。そんな丸い虹を天空に浮かび上がらせる力のあるリーダーが、翁長知事を始め、ヒロジさんももちろん、この島にはわんさかいるのだ。


 最後に、こんな言葉で終える。


 中谷防衛大臣は言う。「知事による埋立て承認の取り消しは違法である」。政治家の言葉は重く、灰色だ。彼らは丸い虹を見たことがあるのだろうか。数年や数カ月間だけ大臣など要職につく政治家たちと、島の歴史から未来まで、先祖から子孫までを見据えて今この瞬間に責任を果たそうとする島人と、どちらのパワーが本物なのか。この島が包含するエネルギーは、消して侮れない。何度も天空に丸い虹を映し出し、後生の先祖も揺り起こして共に島の未来に生きる子どもたちに繋がる道を笑って進もうというものたちを、誰もとめることはできないだろう。


 私たちは、ともに、丸い虹を見たい。

 以下、三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記第33回の引用。








三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記-第33回 丸い虹が見えていますか? 沖縄、国と全面対決へ-2015年10月21日



 2015年10月13日は、沖縄県の歴史に残る日になった。単純に、知事が辺野古の基地建設の埋め立て承認を取り消した日というだけではない。たとえ一都道府県が国と真っ向勝負する形になってでも、自己決定権と尊厳をつかみ取り、長い隷属の歴史に自ら終止符を打つのだと高らかに宣言した日であり、沖縄県民が覚悟を持って待ち望んだ瞬間だった。

 米経済誌「フォーブス」は翁長雄志知事を「日本で最も勇敢な男」と見出しの付いた記事で取り上げた。私は今月上旬、釜山と山形の二つの国際映画祭に参加した。ノミネート作品『戦場ぬ止み』の上映後、韓国、台湾、マレーシア、フランス、インドなど各国の映画制作者たちから激励を受けた。口々に言うのは「日本人は権力に抵抗しない、従うだけの国民だと思ったが、こんなに闘っていたとは」「人権を勝ち取る闘いに連帯したい」「私の国でも上映したい」とすこぶる肯定的な反応であった。

 世界中の国から集まったドキュメンタリーに登場するのは、圧政に苦しむ人々、街が戦場になり右往左往する家族、レイプと売春の巣窟から抜け出せない女性たち、弾圧される民主化運動…。どこにも圧倒的で人々には勝ち目のないような権力や歪んだ社会があり、それを前にひるまず、前を向いて闘う人々の姿があった。目を覆いたくなるほど、人間社会は不条理に満ち満ちている。それでも覚醒し、連帯し、誇りを持って立ち向かっていく姿はそれ自体が美しく、見るものにたくさんの勇気を与えてくれる。そして辺野古で19年も踏ん張って基地建設を止めてきた沖縄県民の群像は、世界各地で頑張っている人たちを惹きつける力を充分持っているということを映画祭で再認識させられた。

 生きることは、闘うこと。理想を語り、乗り越えていくこと。たくさんのドキュメンタリーを浴びるように見て沖縄に戻り、さらにその思いを強くした。辺野古に立ち戻って聞いた現場の人々の発する言葉、特に悪性リンパ腫を克服して辺野古のゲート前に戻ったヒロジさんの言動に接するとき、生きている実感と喜びの行き着く先まで見えてくるような気がした。知事の取り消しを受けた現場の想いを動画でも是非確認して欲しい。

照屋寛徳 衆議院議員
「ウチナーンチュの尊厳、自己決定権をかけた、なんとしても勝たなければいけない闘いです。一緒に頑張りましょう」

稲嶺進 名護市長
「国が金科玉条にしていた前知事の埋立て承認が無くなった。その根拠が崩れたわけです。より一層、知事を支える体制を整えていきたい」

武清さん
「嬉しいですよ。やっとここまで来たんだなあと。前よりも期待があるんですよ。こんなに人が集まった。もっと集まれば止められる。実際に工事が中断したわけですからこれは凄いことですよ」

 去年の11月、翁長知事を知事に選出してからおよそ1年。当選後はすぐにでも辺野古埋め立てを撤回、または取り消して欲しいと現場は期待した。しかし第三者委員会を立ち上げて慎重な上にも慎重な検討を重ねていった翁長知事。その手法に焦燥感を募らせた人も多かった。それでも、政府を動かすために島ぐるみで積み上げ、作り上げていった一体感に水を差すことはすまいと、お互いに立場の違う県民同士がずいぶん辛抱をしあってきたと思う。疑心暗鬼に陥りそうになる仲間を交互になだめながら、新たな信頼や連帯を構築しつつ、県民も鍛えられていった期間だった。そして一日千秋の思いで待っていた沖縄県としての「取り消し」だから、今後やってくる嵐はさておき現場は躍り上がるほどの喜びを爆発させた。

 これで、基地建設を強行すれば国側が「違法」になるわけだ。きのうまで反対運動を排除してきた沖縄県警も、きょうからは一義的には埋立て許可のない違法工事を取り締まる側に回ることになる。まさに180度転回だ。国が対抗措置として取り消しの無効を申し立て、裁判闘争に入っていくとしても、知事の許可がない工事はやめてくださいと、堂々と言えるようになったすがすがしさを県民は手にしたのだ。

 ヒロジさんはこの日を迎えた心情をこう表現した。
 「これからやってくる怒濤のような嵐に立ち向かっていこうというふうに、沖縄がここまで団結したことはない。わたしは今この歴史のなかに生きていることを喜びとします。明日私の命を取るなら取れ! しかし今日ここにいて、ここで叫んで、歴史を開く、未来を開くという決意は変わらない。その喜びを毎日嚙み締めながら生きていきたい。生きたい。みなさん。是非、感激と感動と誇りを持って立ち向かっていきましょう」

 明日、命が費えるとしても、今日ここで叫び、未来を開くという決意は変わらない。6カ月もベッドの上に縛られ、たくさんの管を入れられて身動きもできない中で、生きたい、現場に立って叫びたい、せめて最後の日まで、歴史の中に生きた感触を体中にみなぎらせて、喜びとして嚙み締めたい、そう強く強く願って現場に戻った彼の言葉から、私たちはこの闘争の意味も、生きるという行為そのもののダイナミズムも教わっていく。

 なんという場なんだろう。自分の命の先にあるものたちへ繫いでいく大切なもの。その形を確かに見た気がした。それは、みんなで丸い虹を見たような体験だった。美しい虹の本来の姿、なかなか実像を結ばない「理想」の純然たる形を目の当たりにしたら、みんなで喜び溢れてそこに向かって歩いて行くことになるだろう。そんな丸い虹を天空に浮かび上がらせる力のあるリーダーが、翁長知事を始め、ヒロジさんももちろん、この島にはわんさかいるのだ。

 中谷防衛大臣は言う。「知事による埋立て承認の取り消しは違法である」。政治家の言葉は重く、灰色だ。彼らは丸い虹を見たことがあるのだろうか。数年や数カ月間だけ大臣など要職につく政治家たちと、島の歴史から未来まで、先祖から子孫までを見据えて今この瞬間に責任を果たそうとする島人と、どちらのパワーが本物なのか。この島が包含するエネルギーは、消して侮れない。何度も天空に丸い虹を映し出し、後生の先祖も揺り起こして共に島の未来に生きる子どもたちに繋がる道を笑って進もうというものたちを、誰もとめることはできないだろう。


三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画「標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~」は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。これまで300回を超える自主上映活動が続いている。現在、次回作の準備を進めている。


by asyagi-df-2014 | 2015-10-23 05:34 | 沖縄から | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人