原発問題-毎日の「『忘災』の原発列島 本当に再稼働でいいのか」を受けて。
2015年 08月 07日
毎日新聞の東京夕刊に「特集ワイド:『忘災』の原発列島 本当に再稼働でいいのか」という記事が掲載されました。この記事で、毎日新聞は、「本当に、もう一度、立ち止まらなくてもいいのだろうか。」と、主張しています。
すぐにこうした記事が読めるインターネットは、地方の田舎に蟄居している状態の者の身には、非常にありがたい。
さて、毎日が指摘する川内原発再稼働に関しての問題点は次の通りです。
一番問題なのは、「政府は規制委に安全性の担保を求めているが、その規制委は『絶対に安全』とは口にしない−−。過酷事故を経験したのに、国の責任の所在は曖昧なままなのだ。」という、責任の所在が不明確なままであること。このこに関して、原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「政府は住民の合意を得て再稼働を進めたいと説明していたはず。それなのに、基準に合格といって原発を動かすのはおかしい。それに誰が責任者なのかを曖昧にしておくのは、もし事故が起きても責任追及をかわすためではないか」とさへ指摘しています。
再稼働関連では、福井地裁と鹿児島地裁で判断が分かれている「新規性基準」の問題、立地自治体と周辺自治体で扱いに格差がある「自治体の同意」の問題、実効性の担保はない「住民避難」の問題、原子力損害賠償法の見直しは始まったばかりの「損害賠償」の問題、プルトニウムはたまりつづける「核燃料サイクル」の問題、「使用済み核燃料」の問題、トイレのないマンションの7ままの「最終処分場」の問題、解体に伴う放射性廃棄物の処分場所が決まっていない「老朽原発廃炉」の問題、緊急性があるのに「問題」にされていないために真の解決への方向性さへ示されないままの「テロ対策」問題、「火山対策」問題、「活断層対策」問題、「集中立地」問題、などの多くの課題がそのままになってしまっています。
特に、「住民避難」の問題については、「再稼働に不可欠な住民の避難計画も心もとない。」と、指摘しています。
このことに関しては、「高齢者デイケアサービスを運営する江藤卓朗さん(58)は『通所施設なので、1人暮らしや老老介護の利用者も多い。避難するといっても、排せつの処理など日ごろの世話を誰がするのでしょうか。現場のことを考えていない机上の空論です』。」、「国際環境NGO『FoE Japan』の満田夏花理事は『風向きや事故の程度など最新の情報を、どうやって運転手に伝えるのでしょう。最新の避難計画に基づく訓練もしていないのはおかしい』、という現場の不安を通り越した怒りの「声」を伝えています。
さらに、「そもそも福島の事故が収束しないままの再稼働は許されるのか。」と、根本的な問題を示します。
その福島事故関連に関しては、詳細な調査ができていない「事故原因」の問題、廃炉が実現されるどうかは不透明な「廃炉作業」の問題、すでにタンクは敷地内に約1000基になっている「汚染水」の問題、原子力災害対策特別措置法に基づくがん僕シイタケなどの野菜類や肉、海産物の「出荷制限」の問題、福島県内への避難者62.892人(2015年7月31日現在)・福島県外避難者45.241人(2015年7月16日)の「避難者」の問題、「指定廃棄物」の問題、「自己の責任」の問題、といった課題が放置されたままになっています。
このような問題点、課題を示した上で、毎日は、「何といっても最大の課題は国民の理解を得られていないことだ。」と、します。
例えばそれは、「毎日新聞が1月に実施した世論調査では、川内原発再稼働に反対が54%、賛成が36%と大きな差が付いた。報道各社の世論調査も反対が賛成を上回る。」という数字が示す、国民の理解が不充分であるという実態があるということです。
再稼働について、菅官房長官は2015年8月4日の記者会見で「それについては地元の議会が判断しているのではないでしょうか」と、いつもの調子で逃げています。
このことに関しても、毎日は「確かに鹿児島県議会は再稼働に同意した。でも前出の田中三彦さんは危惧する。『新規制基準は重大事故の発生を防ぐためのものではなく、『重大事故は起きる』ことを前提としたもの。再稼働を地元が認めることは、重大事故が起きてもやむなしという地元の意思表明でもあるわけです』」と、大きな疑問を示します。
川内原発の再稼働の問題は、実は、毎日の「本当に、もう一度、立ち止まらなくてもいいのだろうか。」という優しい提起の問題にとどまるものではなく、再稼働はしてはいけないという問題だ。
以下、毎日新聞の引用。
毎日新聞-特集ワイド:「忘災」の原発列島 本当に再稼働でいいのか-2015年08月07日
「安全神話」は虚構だったのを忘れたのだろうか。新規制基準下では初めて、九州電力は11日にも川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)を再稼働させる。東京電力福島第1原発事故から4年5カ月の年月を重ねても、課題は山積したままだ。それでも、この国は、原子炉に再び火をともそうとしている。
◇責任所在、曖昧なまま 避難計画「自治体任せ」
「原発稼働の一義的な責任者は事業者。一方、政府は原子力規制委員会において安全性が確認された原発は再稼働を進める判断をしている」
菅義偉官房長官は4日午前の記者会見で、川内原発の再稼働を判断するのは誰かと質問されると、こう答えた。
では、規制委はどのような認識なのか。九電が策定した地震や津波対策などは、東日本大震災後の新規制基準に適合する、と発表した昨年7月の記者会見を振り返ろう。田中俊一委員長の発言だ。「基準への適合はみているが、安全とは私は言わない」
つまり、政府は規制委に安全性の担保を求めているが、その規制委は「絶対に安全」とは口にしない−−。過酷事故を経験したのに、国の責任の所在は曖昧なままなのだ。
とはいっても、政府は昨年4月に閣議決定したエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた。当然、再稼働に慎重な意見も多い地元では「政府のしかるべき人が説明すべきだ」との声が根強い。でも、原発政策を所管する宮沢洋一経済産業相は7月28日の記者会見でこう言い切った。「再稼働のタイミングで鹿児島に入る予定はない」
原子力資料情報室の伴英幸共同代表はあきれ顔だ。「政府は住民の合意を得て再稼働を進めたいと説明していたはず。それなのに、基準に合格といって原発を動かすのはおかしい。それに誰が責任者なのかを曖昧にしておくのは、もし事故が起きても責任追及をかわすためではないか」
再稼働に不可欠な住民の避難計画も心もとない。
そもそも新規制基準の要件には、過酷事故が起きた際の避難計画の策定が入っていない。「所管の原子炉等規制法の対象外なので」というのが原子力規制庁の言い分だ。避難計画は、災害対策基本法に基づいて「自治体任せ」になっているのが実情だ。
海外は違う。国際原子力機関(IAEA)は原子力事故対策で「5層の防護」を定めている。その内訳は、3層目までが過酷事故の防止▽4層目が過酷事故が起きた時の対策▽5層目が放射性物質が敷地外に漏れ出た場合の防災対策−−となっている。例えば、米国では、原子力規制委員会(NRC)が防災対策について認可をしないと原発は動かせない。
原子力行政に詳しい吉岡斉・九州大教授は「米国ではNRCと、米連邦緊急事態管理局(FEMA)が住民の避難計画をダブルチェックする。それに引き換え日本は無責任です。事故が起きた時に住民の安全を確保するために一つの自治体で対応するなどあり得ない。法改正をして避難計画の妥当性を新基準で審査すべきだ。国は怠けているのです」と厳しく批判する。
では、鹿児島県が策定した川内原発の避難計画の実効性に問題はないのか。県は、福島原発事故で避難中の入院患者ら要援護者が犠牲になった事例を念頭に対応策をまとめている。原発から半径10キロ圏の施設は避難先を確保し、10〜30キロ圏の施設は事故後に調整するなどとした。
対応策は国から了承されたが、住民には不安が残る。原発から約17キロ離れた同県いちき串木野市で、高齢者デイケアサービスを運営する江藤卓朗さん(58)は「通所施設なので、1人暮らしや老老介護の利用者も多い。避難するといっても、排せつの処理など日ごろの世話を誰がするのでしょうか。現場のことを考えていない机上の空論です」。
また、県は今年6月、原発5キロ圏に暮らす住民約4900人のうち、自家用車で避難できない約3000人を避難させるため、バス事業者33社と緊急輸送協定を結んだ。運転手の被ばくは、一般人の限度(年間1ミリシーベルト)を下回るという条件を設定した。
これに対して、国際環境NGO「FoE Japan」の満田夏花理事は「風向きや事故の程度など最新の情報を、どうやって運転手に伝えるのでしょう。最新の避難計画に基づく訓練もしていないのはおかしい」と批判する。
実際、九電は7月下旬、重大事故の発生を想定した大規模な訓練を実施した。施設内の訓練で、住民の避難訓練は行われていない。望月義夫環境相は7月末の記者会見でこう述べている。「避難訓練は再稼働の条件としては考えていません」。要は、再稼働と住民の避難訓練はセットではないということなのだ。
◇山ほどある未解決の課題
そもそも福島の事故が収束しないままの再稼働は許されるのか。
今も福島県民11万人が避難を続け、事故原因も不明な点が多い。「原子炉を冷やすのに必要な交流電源がなぜ喪失したのか。東電や規制委員会は電源設備が津波で被水したためとしていますが、特に1号機の場合、津波襲来前に電源喪失が起きた可能性があります」。こう語るのは、元原発技術者で国会事故調委員を務めた田中三彦さん。「私が参加する東電の柏崎刈羽原発再稼働問題を議論している新潟県の技術委員会でも、電源喪失に加え重要な配管や設備が地震の揺れで破損しなかったかなど、福島原発事故について今も東電と議論しているところです」
さらに政府や福島県は、被災者支援に区切りをつける動きを強め、「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を2017年3月までに解除する目標を閣議決定した。これに伴い、事故前は両区域で暮らしてきた住民の精神的損害賠償は18年に一律終了。また、避難指示が出ていない地域から避難した自主避難者についても、県は避難先の住宅の無償提供を17年3月で打ち切る方針だ。
住民の怒りは収まらない。被災者約4000人が国と東電を相手取り、除染による原状回復と慰謝料などを求めている「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」の原告団長の中島孝さん(59)は憤る。「支援を打ち切れば、被災者はいなくなったように見える。原発を再稼働させていくには、俺たちの存在がきっと邪魔なんだよ」。中島さんは地元の福島県相馬市で約30年前からミニスーパーを経営している。「あらゆる人が仕事を失ったり、避難したりするなどつらい思いをしている。自分たちのような思いを二度と味わわせたくない。これだけの事故を起こしても、国や東電の誰も責任を取っていない」と怒りを爆発させるのだ。
課題はそれだけではない。前出の伴さんは「川内原発の場合、火山の巨大噴火が起きるリスクもある。テロ対策も十分とは言えません。また、除染で出た指定廃棄物の処分場や、原発運転時に発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分場の問題なども解決していません」と指摘する。
主な課題をまとめた表を見てほしい。例えば、原子力施設で事故が起きた時の損害賠償制度の見直し。事業者に無限責任を課している現行制度を改め、国の責任を明確にするよう原子力委員会の専門部会で検討中だが、結論は出ていない。
何といっても最大の課題は国民の理解を得られていないことだ。毎日新聞が1月に実施した世論調査では、川内原発再稼働に反対が54%、賛成が36%と大きな差が付いた。報道各社の世論調査も反対が賛成を上回る。こうした状況での再稼働について、菅官房長官は4日の記者会見でこう述べた。「それについては地元の議会が判断しているのではないでしょうか」
確かに鹿児島県議会は再稼働に同意した。でも前出の田中三彦さんは危惧する。「新規制基準は重大事故の発生を防ぐためのものではなく、『重大事故は起きる』ことを前提としたもの。再稼働を地元が認めることは、重大事故が起きてもやむなしという地元の意思表明でもあるわけです」
改めて表を見てほしい。原発を動かすのなら解決すべき課題は山ほどあるのだ。それを無視して、この国は再稼働に突き進もうとしている。本当に、もう一度、立ち止まらなくてもいいのだろうか。【石塚孝志】