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原発問題-薩摩川内市の原発再稼働を考える

 薩摩川内市の岩切市長は、九州電力川内原発1、2号機の再稼働に同意すると市議会全員協議会で表明した。
 このことについて、各新聞の社説の主立った内容は、次の通りである。
 南日本新聞は、「周辺住民の不安や疑問は、なお払拭(ふっしょく)されていないのが実態である。火山の噴火対策など特有の課題もある」とし、「原子力防災を抜本的に見直すことが福島原発事故の教訓である。ならば、避難計画についても国は自治体任せにできないはずだ。積極的に関わり、具体的な計画づくりに力を入れてもらいたい。」と、まとめている。
 佐賀新聞は、「核のゴミ問題など原子力政策の重要課題は未解決のまま、再稼働の手続きだけが着々と進んでいく印象だ。」とし、「原発はこれまで「安全神話」と「地元理解」の両輪で進められてきた。事故後の再稼働に向けて新規制基準が設けられたように、地元理解もより高いハードルを設けるべきだ。」と、意見を表明する。
 西日本新聞は、「だが、地域の活性化を過度に原発へ頼るのは、かつての『安全神話』に基づく発想ではないか。福島原発の事故で神話は壊れた。広範な地域が放射能で汚染され、多くの住民が古里を追われた。原発は安全か。電力は本当に足りないのか。放射性廃棄物をどう処理するか。再稼働するなら事故は起こり得るとの前提で備えられるか。そうした多角的な論議を尽くすことが原発事故の教訓だ。」と、主張する。
 朝日新聞は、「政府が同意自治体の範囲を地元の判断に丸投げしているために起きている問題だ。」とし、「今後、11月上旬にも鹿児島県議会で再稼働の是非を採決した後、伊藤知事が再稼働の是非を判断する。その際、周辺自治体や住民の意向をくみ上げる努力を重ねるべきだ。それこそが『3・11』後の政治と行政の責任だろう。再稼働の地元とは、どこなのか。川内原発でまず、明確に示してほしい。」と、注文をつけた。

 鹿児島県議会が、こうした主張を受け入れたかたちで、結論を出すことを強く要望する。

 以下、各新聞社の社説の引用。






南日本新聞社説-再稼働「同意」  拙速避け丁寧な対応を-2014年10月29日

 薩摩川内市の岩切秀雄市長は、九州電力川内原発1、2号機の再稼働に同意すると市議会全員協議会で表明した。議会の再稼働賛成陳情採択を受けての判断である。

 原発の新規制基準の施行後、立地自治体の首長と議会が再稼働に同意したのは、全国で初めてだ。安倍政権は「新規制基準に適合した原発は再稼働を進める」としており、川内原発は再稼働第1号と目される。

 だが、周辺住民の不安や疑問は、なお払拭(ふっしょく)されていないのが実態である。火山の噴火対策など特有の課題もある。

 伊藤祐一郎鹿児島県知事は再稼働に前向きである。今後、県議会と伊藤知事の同意が焦点となるが、結論ありきのような拙速な判断は避けるべきだ。

 来月初めには、宮沢洋一経済産業相が来鹿し、政府方針を伝えることになっている。再稼働への手続きは着々と進んでいる。

 しかし、原子力規制委員会の審査結果について5市町で開いた住民説明会では、安全性や避難計画などに対する不安や批判の声が相次いだ。

県や自治体がつくる重大事故時の避難計画は、要援護者らの移送手段や渋滞対策などが十分とはいえない。放射線量や風向きを考慮して避難先を選ぶ県のシステムも十分機能するのか、実効性に疑問符が付く。

 原子力防災を抜本的に見直すことが福島原発事故の教訓である。ならば、避難計画についても国は自治体任せにできないはずだ。積極的に関わり、具体的な計画づくりに力を入れてもらいたい。

 再稼働に必要な「地元同意」の範囲も曖昧なままだ。伊藤知事は「鹿児島県と薩摩川内市で十分」としているが、いちき串木野と日置の両市議会は、市長と議会の同意を得るよう知事に求める意見書を可決している。

 宮沢経産相は対象拡大について「地域の状況に応じて考えてもらうのが一番良い」と述べた。判断を避けるのでは、再稼働を進める立場として無責任に過ぎる。国は住民の声に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

 県が国に要請した住民説明会は、住民の理解を進めるのが狙いだった。だが、不安や疑問の声があったにもかかわらず、県は「おおむね理解を得た」との見解である。このような県の姿勢に不信感を募らせた人もいたに違いない。

 川内原発は国にとって全国の原発再稼働のモデルケースとなる。国に求められているのは、住民が納得できるよう力を尽くすことだと肝に銘じるべきだ。

佐賀新聞社説- 再稼働で初の地元同意-2014年10月29日

 鹿児島県薩摩川内市がきのう、九州電力川内原発の再稼働への同意を表明した。原子力規制委員会が新規制基準を設けて以降、立地自治体で初の同意となる。核のゴミ問題など原子力政策の重要課題は未解決のまま、再稼働の手続きだけが着々と進んでいく印象だ。

 再稼働に必要な地元同意の範囲に法的な枠組みはない。国はそれぞれの地域に判断を委ねている。鹿児島県の伊藤祐一郎知事は「薩摩川内市と県で十分」と述べている。これでは東京電力福島第1原発事故の前と何ら変わらない。

 市議会はきのう、原発の再稼働を推進する陳情を賛成多数で採択した。続けて岩切秀雄市長が「国の責任の下で再稼働することを立地自治体として理解する」と同意を表明した。県議会も11月上旬にも再稼働の賛否を判断する。ともに臨時議会で同意をいかに急いでいるかがよく分かる。

 被害が広域化した福島事故を受け、国は避難計画策定など事故に備える地域を原発から半径10キロ圏から30キロ圏に拡大した。川内原発に当てはめれば9市町にかかる。このうち、いちき串木野市と日置市の各議会は地元同意に加えるよう求める意見書を採択したが、素通りされようとしている。

 以前と同じ範囲では福島に学んだとは言えない。原発はこれまで「安全神話」と「地元理解」の両輪で進められてきた。事故後の再稼働に向けて新規制基準が設けられたように、地元理解もより高いハードルを設けるべきだ。

 早く再稼働させたい国や電力会社にとって、同意対象が増えるのはできるだけ避けたいのだろう。周辺自治体にとっても、賛否が分かれる問題で同意対象に加わるのは面倒なことではある。

 しかし、過酷事故が起こればどうなるか、誰もが知るところになった。立地自治体だけで収まる話ではない。どこまでが「地元」なのか。周辺自治体が同意の範囲拡大を求めるのは当たり前だ。二つの市議会の意見書が無視されるようであれば、今回の手続きを他の原発のモデルケースにしてはならない。

 このままでは年明け以降にも再稼働となる。脱原発の世論が高まった日本社会が再び原発を受け入れることになる。岩切市長は同意とともに「原発に依存していては日本が成り立たなくなる。次世代エネルギーの研究も進めないといけない」とも述べている。

 安倍政権は川内原発を突破口に次々と再稼働したい考えだ。だが将来の電源構成比率や核廃棄物の最終処分場の選定といった原発の地元にとっての関心事は結論が先延ばしされたままだ。次の鹿児島県の判断は、原子力政策を再び前に動かす大きな意味を持つ。立地県の代表として国に注文する姿勢がほしい。(宮﨑勝)


西日本新聞-再稼働同意表明 市民の不安は置き去りか-2014年10月29日


 九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の市議会と岩切秀雄市長が、同原発再稼働への同意を表明した。予想されたこととはいえ、釈然としない。
 再稼働への市民の賛否は割れた。賛成意見の一方で、必要性や安全性、避難計画の実効性など多くの疑問や不安も指摘された。
 同意表明はそうした不安を置き去りにした「見切り発車」に映る。議論が不十分なまま、再稼働手続きを加速させてはならない。
 市長らが同意した大きな理由は、地域経済活性化への期待だ。
 同市の経済は原発に依存している。2014年度は約13億円の電源立地地域対策交付金のほか、約4億円の使用済み核燃料税も入る。再稼働すれば多くの技術者や作業員が同市を訪れるだろう。
 だが、地域の活性化を過度に原発へ頼るのは、かつての「安全神話」に基づく発想ではないか。福島原発の事故で神話は壊れた。広範な地域が放射能で汚染され、多くの住民が古里を追われた。
 原発は安全か。電力は本当に足りないのか。放射性廃棄物をどう処理するか。再稼働するなら事故は起こり得るとの前提で備えられるか。そうした多角的な論議を尽くすことが原発事故の教訓だ。
 現実はどうか。再稼働を判断する責任体制は依然、曖昧だ。避難計画も実効性には疑問が残り、市民の不安解消にはなお遠い。
 同市で開かれた原子力規制委員会の審査の説明会は質疑応答で紛糾した。再稼働の必要性や避難計画に関する質問は「説明の対象外」として受け付けなかった。
 出席者への調査で約5割が説明会を「良くなかった」と回答したことが、住民の不信を物語る。不信の声を軽視してはならない。
 地元同意をめぐっては意思決定に関与できない周辺自治体の不満がくすぶっており、地域全体の合意形成への配慮も十分とは言い難い。同市の同意を受け、同県の伊藤祐一郎知事と県議会も近く最終判断するとみられる。同意を既定路線として突っ走るのではなく、慎重な判断と手続きを求めたい。


朝日新聞社説-再稼働の地元―立地自治体に限るな-2014年10月29日

 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機が立地している鹿児島県薩摩川内市がきのう、再稼働に同意した。市議会の採決を受け、岩切秀雄市長も同意を表明。再稼働に至る地元の同意手続きが一つクリアされたことになる。

 だが、政府も電力会社も、これで地元の理解を得られたと考えるべきではない。

 原発再稼働に関して、地元の同意も自治体の範囲も法的な定めはない。伊藤祐一郎・鹿児島県知事は自らの判断で、知事、県議会、それに原発立地自治体の薩摩川内市長、同市議会と定めた。

 だが、もし過酷事故が起きれば、被害は立地自治体にとどまらない。福島第一原発を見れば明らかだ。同意を得る対象を立地自治体に限るべきではない。実際、周辺自治体は再稼働に必ずしも納得してはいない。

 原発から最短5・4キロのいちき串木野市や、市の北半分が30キロ圏内に入る日置市の議会は、再稼働の同意対象に自分たちの市も含めるよう求める意見書を可決した。

 30キロ圏に一部がかかる姶良(あいら)市議会も、7月に川内原発の再稼働に反対し、廃炉を求める意見書を可決。電源立地地域対策交付金や使用済み核燃料税が入ってくる立地自治体の議会に公正な判断ができるのか。そんな不信感が語られている。

 政府が同意自治体の範囲を地元の判断に丸投げしているために起きている問題だ。

 30キロ圏の5カ所で住民説明会が開かれたが、必ずしも理解が進んだとは言えない。県が説明対象を新たな規制基準に基づく審査に限ったため、避難計画の説明もなかった。会場では「再稼働を判断する材料は不十分」との声も上がった。住民にすれば当然である。

 川内原発の場合、巨大噴火の可能性や予兆観測について火山学者から異論が出るなど、不安が解消されたわけではない。

 避難計画の立案や実行は県と市町村にゆだねられている。県はきょう、避難計画を含む補足説明会を日置市で開くが、さらに機会を増やすべきだ。幅広い地元の人々の疑問や不安に正面から応える責任が、知事や県議会にはあるのではないか。

 今後、11月上旬にも鹿児島県議会で再稼働の是非を採決した後、伊藤知事が再稼働の是非を判断する。その際、周辺自治体や住民の意向をくみ上げる努力を重ねるべきだ。それこそが「3・11」後の政治と行政の責任だろう。再稼働の地元とは、どこなのか。川内原発でまず、明確に示してほしい。


by asyagi-df-2014 | 2014-10-30 05:41 | 書くことから-原発 | Comments(0)

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