「ヘイトスピーチ対策法」施行一年を考える。

 2017年6月3日、ヘイトスピーチ対策法が施行されて1年がたった。
このことが日本社会に何をもたらしているのか、もたらしていないのかについて考える。
 毎日新聞は2017年6月4日、「ヘイトスピーチ対策法 1年 デモ一掃、街に平穏 川崎」、と次のように伝えた。


(1)在日コリアン排斥を訴えるヘイトスピーチが繰り返された川崎市の関係者は、対策法の抑止効果を評価するが、一方でかいくぐる手法も出現しており、より効果的な対策が急務となっている。
(2)川崎市は昨年5月、ヘイトスピーチを繰り返した団体の市立公園の利用を不許可とした。市人権施策推進協議会の阿部浩己会長=神奈川大法科大学院教授=は、福田紀彦市長が公園利用を不許可とした背景を「対策法が与えた影響は大きい」と話す。団体は翌6月5日、中原区に場所を移して開始しようとしたが、直後に県警の説得などで)中止した。(3)在日コリアンが多く住む市内の桜本地区でのヘイトデモを禁じる横浜地裁川崎支部の仮処分決定(同6月)も、対策法を根拠とした。桜本地区は仮処分後、平穏を取り戻した。在日コリアン3世の崔江以子(チェカンイジャ)さん(43)は、「『ヘイトデモが来るのでは』との不安がなくなり、安心して暮らせるようになった」と笑う。崔さんの長男(14)も友人から「(デモがなくなり)よかったね」と声をかけられるという。
(4)他方で対策法を意識した動きも出てきた。過去にヘイトスピーチを主催した男性が今年3月に市内で開いた講演では、差別と断定される言葉は口にせず、聴衆からの質問も受けなかった。阿部会長は「実際に発せられた言葉だけでなく、背景なども総合的に勘案し、差別的言動と判断するのが重要」と指摘する。
(5)市は今秋、ヘイトスピーチをする恐れがある個人・団体による公的施設の利用を事前規制するガイドラインを制定する。崔さんは市の姿勢を評価しつつ、「差別そのものを根絶する条例や法律が必要」と強調する。福田市長は、憲法が保障する表現の自由も視野に「時間をかけて、納得できる条例にすべきだ」と述べるなど、条例制定には慎重に対処する姿勢を示している。


 何よりも、「(デモがなくなり)よかったね」との声は、ヘイトスピーチ対策法の成果である。だが、毎日新聞が指摘する、「対策法の抑止効果を評価するが、一方でかいくぐる手法も出現しており、より効果的な対策が急務」ということが今後の大きな課題となっている。
 これに関連して、朝日新聞(2017年6月5日)及び琉球新報(2017年6月4日)の社説は次のように指摘する。


Ⅰ.効果と実態
(朝日新聞)
(1)東京・新大久保や大阪・鶴橋をはじめ、多くの在日コリアンが生活する地域でのデモや街宣行動は減少傾向にある。川崎市や大阪市では、差別をあおるデモを繰り返した団体や個人に、裁判所が一定範囲での活動を禁じる仮処分決定を出した。「不当な差別的言動は許されない」と明記した国の対策法ができた成果だといえよう。
(2)一方、ネットやSNS上では、匿名を隠れみのにした排外的な表現が後を絶たない。大阪のNPO法人・コリアNGOセンターには、今も「絶対に在日朝鮮人を日本から追い出す」と脅すメールが届く。日韓の歴史認識をめぐる摩擦や北朝鮮の核・ミサイル実験が報じられるたび、緊張を強いられる人々がいる。「韓国にお帰りください」といったメッセージが今も届くというフリーライターの李信恵(リシネ)さん(45)は「社会の根っこの偏見や差別意識は変わっていないと感じる。対策法という骨組みはできたが、肉付けはこれからです」と話す。
(琉球新報)
(1)対策法は国外出身者とその子孫への差別を助長する著しい侮辱などを「不当な差別的言動」と定義し「許されない」と宣言した。国や自治体に相談体制の整備や教育、啓発を実施するよう求めている。ただし憲法が保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして、禁止規定や罰則はもうけられていない。
(2)法務省は自治体に対して「○○人は殺せ」「祖国へ帰れ」などの文言や、人をゴキブリなどに例える言動をヘイトスピーチの具体例として提示している。ところがデモをする側が対策法に認定されないよう文言を変えている。福岡市の街頭宣伝ではプラカードの書き込みを「朝鮮人死ね」ではなく「朝鮮死ね」に変えたり、叫ぶ言葉も「日本海にたたき込め」ではなく「日本海に入ってください」に変えたりしている。憎悪表現による攻撃をしていることに変わりない。法逃れだけ進んで、こうした街宣が続くとしたら、標的にされる人々はこれからも傷つき、恐怖を抱き続けるだろう。
(3)一部の自治体では抑止条例制定の動きがみられる。公的施設でのヘイト禁止を明記するなどの対策に乗り出すところもある。その一方で、ほとんどの自治体は対策法で努力義務となっている相談窓口の整備を既存の制度活用にとどめている。対策が進んでいるとは言い難い。
(4)法務省によると、2016年に全国の法務局が救済手続きを始めたインターネット上の人権侵害は1909件(前年比10%増)で、過去最多となった。デモは半減したが、ネット空間での差別が横行している状況を放置するわけにはいかない。
(5)沖縄では米軍基地建設に反対する人々に対して、ヘイトスピーチとしか言いようがない攻撃も相次いでいる。米軍北部訓練場のヘリパッド建設現場では大阪府の機動隊員が反対運動をしている市民に「土人」と発言した。東京のローカルテレビ局の東京メトロポリタンテレビジョンはヘリパッド建設に反対する市民を「テロリスト」に例える番組を放映した。デモやネットだけでなく、公共放送や警察官までもがヘイトスピーチに手を染めている。極めて深刻な状況だ。


Ⅱ.問題点の指摘
(朝日新聞)
(1)対策法に罰則はもうけられていない。一方で同法は自治体に対し、相談窓口を置くことや人権教育の充実、啓発活動などの施策を、地域の実情に応じて講じるよう求めている。しかし集会を事前規制するガイドラインや、条例づくりの動きがあるのは川崎市、名古屋市、神戸市などひと握りだ。自治体を後押しするためにも、国は定期的に実態調査し、手立てを示してほしい。居住地によって泣き寝入りを余儀なくされる人をうんではならない。
(2)全国で初めてヘイトスピーチ抑止条例をつくった大阪市は今月、在日コリアンに「ゴキブリ」「殺せ、殺せ」などと発言するデモの動画を「ヘイト」と認定し、内容や日時などを公表した。条例では投稿者の実名を公表できるが、動画投稿サイトの運営会社の協力が得られず、ネット上の呼称を公表した。今後、市は投稿者の実名を把握するために条例の改正も検討するという。実効ある抑止に向けた先行自治体の模索を、他の自治体も参考にしてほしい。
(琉球新報)
(1)警察庁によると、差別をあおるなどの右派系市民グループによるデモは、昨年6月3日の施行から今年4月末までに35件を確認し、前年同期の61件からおよそ半数近くに減った。一定の効果が出ているとも映るが、デモは続いている。対策法の限界を指摘する声もあり、さまざまな施策を進める必要がある。


 どうやら、ヘイトスピーチ対策法が施行されて1年がたった日本の姿は、「法務省によると、2016年に全国の法務局が救済手続きを始めたインターネット上の人権侵害は1909件(前年比10%増)で、過去最多となった。デモは半減したが、ネット空間での差別が横行している状況を放置するわけにはいかない。」(琉球新報)、「デモやネットだけでなく、公共放送や警察官までもがヘイトスピーチに手を染めている。極めて深刻な状況だ。」(琉球新報)、というものでしかない。
 やはり、必要なことは、「対策法施行から1年がたち、課題も見えてきた。民族、出自、障がいなど全ての差別を網羅する差別禁止法制定の必要性を指摘する声もある。包括的な法整備の検討も含め、今後議論を深めたい。(琉球新報)」という地平の確立である。
 当然そこには、「大切なのは一人ひとりが、同様の言動を受けたらどんな風に感じるか、想像することだ。家庭や学校、職場で、社会的少数者の尊厳を傷つける言動を許さないという意思を共有したい。(朝日新聞)」、ということが前提になる。




by asyagi-df-2014 | 2017-06-07 06:58 | 書くことから-ヘイトクライム | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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