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沖縄から-三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記第67回

沖縄の地で、体を張って新しい歴史を作ろうとしている人たちがいる。
そこには、その煌めきの記録を残そうとしているジャーナリストがいる。
だとしたら、その生きざまの瞬間を私たちは受け取る必要がある。
三上知恵の沖縄撮影日記。

 
 今回の報告は、「バトンを受け取って走るのは、ただ走っているより数倍つらい。たとえ軽い紙の筒であってもズシリと重い。責任を持たされ、期待をもたれ、注目されるというのはそれほどにしんどいものだ。」、で始まる。
 つまり、三上さんの「『引き受ける』ということ Tシャツに込めた想い」について。
三上さんは、こんな風に始めます。


(1)1997年に辺野古で結成された「命を守る会」を率いた金城裕治さん(故人)はよく言っていた。
 「戦火の中で苦しんだ先祖がいるでしょう? そのみなさんの思いを引き受けて、いま、我々の世代が頑張らなければどうするの?」
(2)引き受けるという言葉は、勇気も覚悟もないと口にできない重い言葉だ。でも裕治さんは、辺野古の海を埋めるなら、その前に私たちが人柱になる、と宣言しているもっと上の辺野古集落のおばあたちの気持ちを引き受けて、さらに現場で起きる摩擦や矛盾も引き受けて、本当に度量の深いリーダーとして座り込みの現場をまとめていた大人物だった。その影響もあって、支援に来ている若者たちも、僕たちがみなさんの思いを引き受けて頑張ります、とよく発言していた。私は、みんなが責任を取りたくないこの世知辛い時代に、辺野古では優しさや勇気の連鎖が起きているんだなど感動したものだ。
(3)そしていつしか、私も報道活動を通じてかかわった方々の思いをちゃんと引き受けて頑張る人間になりたいと理想を持つようになった。沖縄戦の苦しみや、占領下で米軍に踏みにじられた屈辱や、今なお被害を受け続ける理不尽さ、その嘆きも、問題を解決に向けて進めることも含めて、引き受けて生きて行こうと思うようになった。もちろん、結果的には何もできやしないのかも知れないが、知ってしまった以上、逃げ回れるはずもない。沖縄の尊敬する先輩方から学んだ姿勢で、私なりに引き受けていくつもりで、今も右往左往しながら一つひとつの出来事に向き合っている。


 三上さんは、『標的の島 風かたか』とTシャツについて、語りかけます。


(1)間も無く全国公開になる映画『標的の島 風かたか』も、そんな覚悟が私に作らせている作品である。実は、今回はその私の密かな思いを込めたTシャツを製作した。自己満足の世界の話であって大変恐縮だが、このページを読んで下さっている方だけにはそっと伝えたい。
(2)まず、左の背中に背負っている図柄は、月桃の花と蝶。沖縄戦の頃にぷっくりとした優しい花をつける月桃は、沖縄戦と平和の象徴。月桃の香りは、みんなが子どもの頃に食べた「ムーチー」の甘さを思わせ、それを作ってくれた母や祖母の記憶と繋がると話してくれた人もいる。そして、その香りに誘われて来た黒い蝶。黒い蝶は、沖縄では亡くなった方の魂の化身であると言われている。去年、20歳で元米兵の狂気の犠牲になった女性の追悼集会で、彼女は黒い蝶に例えられた。彼女が命に代えて私たちに残したメッセージを背負って生きていきますからね、という気持ちで蝶をデザインした。
(3)さらに、下に流れる清流に散りばめられてある白い花、イジュの花にも意味がある。去年、石垣島で戦争マラリアのシーンを取材していたのはちょうど5月。山では真っ白いイジュの花がたくさん落ちて、山道は花で埋め尽くされて白くなっていた。1945年の5月に、石垣島の一部の集落の6千人は、この白い山道をたどって、日本軍の命令でマラリアが蔓延する山奥の小屋に移住させられた。そして次々にマラリアにかかって死者が続出した。
(4)映画には、孫なのであろう、小さな遺体を背負って運び出そうとする老人の絵が紹介されるが、敵に見つからないよう、日が落ちてからこの白く浮き上がった道を辿って埋葬の地まで運ばれたという。わたしは、強制移住地・白水への道を埋めたイジュの花を踏みしめながら、これは死ぬ必要のなかった何千という島民を弔う花の道であったのだと思った。住民が捕虜になれば作戦が筒抜けになってしまうとして、住民を死の地へ追い込んだ日本軍。軍の作戦によって命まで奪われた人々の存在を忘れない、二度と軍事優先の島にしてはならないという教訓を忘れない、という決意をイジュの花に託した。
(5)これらのデザインを担当して下さったのは、紅型作家の亀谷明日香さんだ。彼女のデザインはあの有名な高江Tシャツ、昼の森と夜の森の2バージョンがある作品でよく知られている。私はこの作品が大好きで、いつか亀谷さんに頼めたらと思っていた。今回時間のない中でダメ元で相談すると、私の最初の映画から見て下さっている亀谷さん、これは是非、と快くひきうけてくださった。すごく嬉しかった。
(6)新作映画を早速見ていただいた亀谷さんと「風かたか」を図案にするとどんな風になるのか、いろいろ話し合った。そしてできあがったのが、テーブルサンゴが横一列に並んだデザインだ。
(7)風かたかとは、風除けのことで、防波堤のような役割を果たすものを指す。それと同時に、風を避けた結果、一角に生まれる穏やかな空間、安心できる場所のことも指すという。亜熱帯の海の中では、テーブルサンゴは小さな魚たちやイカの卵やカニ、ホヤなどあらゆる小さな命をかくまう役割を果たしている。
 サンゴは、命のゆりかごとよく言われる。枝状のサンゴが作り出す空間は、まさに外敵が入れない場所・安心できる風かたかになっていることに気付き、Tシャツの表は海の中の風かたかを横一列に配した。このTシャツを着てみんなで座り込んだら、テーブルサンゴのラインが隣の人とも繋がっていく。つまり、次の世代まで基地の苦しみを引き継がせまいと頑張る、風かたかになろうとしている覚悟のある人たちに着てもらい、彼らが座り込めばサンゴの防波堤はいくらでも繋がっていくという意味を込めた。


 最後に、三上さんは、ともに引き受けることの意味を、同氏の印として、と次のように訴えています。



 今回は、デザインも色も贅沢に作ってしまった。原価も高くなり、諸事情あって100枚の限定生産にする事になった。場所も、東京はポレポレ東中野と那覇は桜坂劇場でのみ販売予定。
 私とともに、沖縄戦も、マラリア地獄も、蝶になった女性のことも引き受けて、肩に背負って生きていかんとする方々は、ぜひ同志の印としてこのTシャツを着てほしい。特に今回は女性のイメージが強い映画なので、一見とてもかわいらしい紅型のデザインでありながら実は強い意志を秘めている女性たちにこそ、このTシャツを着ていただいて、さらに困難な今の状況に、ともにしなやかに立ち向かっていって欲しい。





by asyagi-df-2014 | 2017-03-23 07:47 | 沖縄から | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人