第3次嘉手納爆音訴訟(5)-各紙社説より-

 琉球新報は2017年2月23日、第3次嘉手納爆音訴訟の判決について、「米軍嘉手納飛行場の周辺住民2万2048人が国を相手に、夜間・早朝の米軍機飛行差し止めや騒音被害に損害賠償を求めた第3次嘉手納爆音訴訟の判決が23日午前、那覇地裁沖縄支部(藤倉徹也裁判長)で言い渡された。藤倉裁判長は差し止めの訴えを退け、過去分の損害賠償の支払いのみを命じた。」、と報じた。
 第3次嘉手納爆音訴訟の判決結果について、信濃毎日新聞「嘉手納訴訟 抜本解決は政治の務め」、北國新聞「嘉手納基地訴訟 国に騒音対策と説明責任」、神戸新聞「嘉手納爆音訴訟/政治は被害を放置するな」、東京新聞「嘉手納判決『静かな夜』はほど遠い」、とそれぞれその社説で批判的論評を行った。
 国の賠償責任については、「違法な騒音被害を放置してきたという司法の指摘も重い」(北國新聞)等のかたちで四紙とも批判的論評を行っている。
 ただ、飛行差し止めの問題については、北國新聞のみが「国の安全保障に責任を持つ政府にとって、飛行差し止め請求の棄却は妥当な判決であろう」、としている。
 なお、2017年2月24日現在、他紙では第3次嘉手納爆音訴訟の判決に関する論評は確認できなかった。
 まずは、各紙の社説を要約する。


Ⅰ.判決の意味

(信濃毎日新聞)

(1)米軍機の騒音で健康を害したとして夜間・早朝の飛行差し止めと損害賠償を国に求めた訴訟だ。基地の周辺住民約2万2千人が2011年4月に提訴した。睡眠妨害や聴覚被害を訴え、憲法が保障する平穏な生活を営む権利が侵害されていると主張していた。
(2)那覇地裁沖縄支部は、約301億9800万円を支払うよう命じている。同種の訴訟の賠償額では第4次厚木基地訴訟の約82億円を大きく上回り、過去最高だ。原告の多さ、巨額の賠償金が被害の深刻さを浮かび上がらせる。
(3)飛行差し止めについては「日本政府は基地における米軍機の運航を規制できる立場にない」として訴えを退けた。従来の最高裁判例に従う内容である。原告の一部が起こした米国を相手取っての訴訟は「不適法」と却下された。
(4)判決は「1970年代ごろには基地周辺で騒音の影響が社会問題となっていたにもかかわらず、米国と日本政府は今日まで抜本的な防止策を取っていない」と批判した。「違法な被害が漫然と放置されている」とも指摘する

(北國新聞)

 原告側は控訴する方針であり、判決の確定はまだ先になるが、国側は米軍基地の騒音軽減策と賠償金の負担について米政府と協議を進めるとともに、賠償金の支払いについて国民に説明し、理解を得る責任を負ったと受け止めなければなるまい。

(神戸新聞)

(1)那覇地裁沖縄支部は、2万2005人の原告住民に対する国の賠償責任を認め、自衛隊や米軍基地の騒音を巡る訴訟では過去最高となる総額約301億9800万円の支払いを命じた。原告の数も過去最大だったが、既に確定している第2次訴訟の約2倍の賠償水準を認めたことが総額を大きく膨らませた。
(2)1次提訴から35年、これまでに住民の一人一人が被ってきた健康被害を積み上げれば、金額が膨らむのは当然だ。過去最高の賠償水準は、司法が被害の大きさを認めたことの表れだろう。

(東京新聞)

 沖縄の米軍嘉手納基地をめぐる騒音訴訟で過去最高の約三百二億円の損害賠償を認める判決が出た。だが、嘉手納の空に静けさが戻るわけではない。国も司法も米軍も思考停止しているのでないか。


Ⅱ.残されたままの問題点

(信濃毎日新聞)

(1)住民側は判決を不服として控訴する方針だ。嘉手納の第1次提訴は1982年2月だった。今回の原告には1、2次提訴に参加した住民も含まれている。35年たってもなお爆音の苦痛や不安にさいなまれ、法廷闘争を続けなくてはならない。
(2)賠償金が支払われても、静かな夜を得られるわけではない。しかも、賠償が認められるのは過去に生じた被害分だけだ。これから先も住民は、受けた被害に対して提訴を重ねるしかない。

(北國新聞)

(1)米軍機の飛行差し止め請求については、日本側に運航を制限する権限はないとの司法判断が定着しており、今回も判例に沿った判決が下された。国の安全保障に責任を持つ政府にとって、飛行差し止め請求の棄却は妥当な判決であろう。が、基地騒音訴訟で過去最高額の損害賠償命令は重く、その負担を米側にも求める交渉をあらためて迫られている。
(2)米軍が公務中、第三者に与えた損害の賠償は、日米両政府が分担すると日米地位協定第18条に定められている。しかし、基地騒音の損害賠償に関して米側は分担に応じず、日本側が肩代わりする状況が続いている。この一点においても、米軍駐留経費の日本負担増という米側の要求には無理があると思わざるを得ないのだが、政府としては、損害賠償に関する地位協定の履行を米側に要求する一方、税金によって賄わざるを得ない基地騒音の賠償金支払いについて、安全保障のコストとして国民の理解を得る必要がある。
(3)違法な騒音被害を放置してきたという司法の指摘も重い。日米両政府が締結した嘉手納基地の騒音防止協定では、深夜・早朝の飛行制限や人口密集地上空の飛行回避、夜間のジェットエンジンテスト禁止などの対策が定められている。しかし、協定違反の飛行が絶えず、嘉手納基地の所属機以外の外来機も増えているとして、嘉手納町議会は昨年12月、騒音激化に抗議する意見書・決議を採択し、政府や米軍に提出している。

(神戸新聞)

(1)判決は「国民全体が利益を受ける一方、一部少数者に特別の犠牲が強いられていると言わざるを得ない」と述べている。その上で「米国と日本政府は抜本的な防止策を取らず、違法な被害が漫然と放置されている」と断じた。
(2)認定された健康被害は多岐にわたる。日常生活の精神的苦痛、睡眠妨害、高血圧症などの健康上のリスク増大…。被害を救済するには、一部でも夜間と早朝の飛行を差し止めることしかない。司法判断もそれを促している。
(3)一方で、原告の飛行差し止めの訴えは今回も退けられた。日本政府には第三者の米軍の行為を制約する権限はない。これまでの「第三者行為論」を踏襲した。判決の中で、解決に向けて動こうとしない政府の姿勢を厳しく批判しながら、司法自身も次の一歩を示そうとしない。では、静かな夜を取り戻したいと願う住民は一体、どうすればいいのだろうか。

(東京新聞)

(1)米軍基地に絡む騒音被害の訴訟は今やワンパターン化しているといえる。騒音被害の賠償は認めるけれど、米軍機の飛行差し止めは退ける-そんな形式である。これは一九九三年に最高裁が、国に米軍機の運用を制限する権限はないと判断したことを根拠としているのだろう。
(2)第四次厚木基地騒音訴訟では自衛隊機についてのみ、夜間と早朝の飛行を差し止める判断が出たものの、最高裁で取り消された。昨年十二月に飛行差し止めを認めない判断が確定している。だから、いよいよ賠償は認めるが飛行差し止めはなしという形式が明確化している。それに従えば、今回の判決も容易に予想できた。嘉手納町などに住む原告のほぼ全員にあたる二万二千五人について、過去の騒音被害を認めて国に賠償するよう命じたのである。
(3)賠償額は原告によって異なる。国が住宅防音工事を行う基準である「うるささ指数」(W値)をものさしにしている。W値七五の原告には一カ月あたり七千円。W値九五だと三万五千円…。だが、国がお金を払えば済む問題ではない。騒音は人間の生活や生存そのものを脅かす公害だからだ。
(4)もともと九六年に嘉手納基地の午後十時から午前六時までの飛行制限については、日米両政府の合意がなされたはずである。ところが実際には昼夜を問わぬ爆音にさらされている。滑走路に近い地区では二〇一五年度に夜間・早朝に月平均で一七五・七回もの騒音が発生しているという。


Ⅲ.主張

(信濃毎日新聞)

(1)いつまで訴えを繰り返さなければならないのか。原告らはやりきれない思いだろう。
沖縄県の米軍嘉手納基地を巡る第3次爆音訴訟の判決はこれまで同様、国に損害賠償だけを命じるものだった。司法による救済に限界があるなら、抜本解決を図るのは政治の務めだ。
(2)基地の爆音を巡り、各地で訴訟が繰り返され、国への賠償命令が続いている。政府は切実な訴えを重く受け止め、違法な状態の解消に努める責任がある。
(3)判決後、菅義偉官房長官は記者会見で「可能な限りの配慮を米軍に申し入れ、住宅の防音工事など負担低減に全力で取り組む」と述べている。言葉だけでなく、きちんと実行しなくてはならない。まずは睡眠妨害をなくすことが急務だ。全国の基地で夜間、早朝の飛行を止めるよう、米側と交渉すべきである。

(北國新聞)

 日米両政府は、騒音防止協定を徹底し、さらなる対策の検討も進めてもらいたい。

(神戸新聞)

(1)判決のたびに国の責任が指摘されるが、政治は動かない。「願いがかなうまで、声を上げ続ける。そうでないと『(現状を)認めた』『受け入れた』と言われかねない」。原告住民の言葉は重い。今度こそ国は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
(2)沖縄だけでなく厚木、岩国、横田など各地で、基地の騒音による健康被害救済を求める訴えが広がる。特別な犠牲を、違法な被害を強いられている住民を放置してはならない。

(東京新聞)

(1)原告が真に求めているのは「静かな夜」である。その点を国も司法も米軍も、どれだけ真剣に考えているだろうか。
(2)確かに那覇地裁沖縄支部は「周辺住民に生じている違法な被害が漫然と放置されている」と国の対応を非難した。ならばもっと強く騒音被害の改善を図るよう国に迫るべきであろう。国も日米間の合意に基づいて、日米合同委員会などの場で米国側に強く働きかけるべきである。
(3)約三百二億円という史上最高の賠償額を国はもっと深刻に受け止めるべきである。「静かな夜」で眠りたいという、人間としての当たり前の求めに真摯(しんし)に応答しないといけない。



 今回の判決への評価は、「原告の飛行差し止めの訴えは今回も退けられた。日本政府には第三者の米軍の行為を制約する権限はない。これまでの『第三者行為論』を踏襲した。判決の中で、解決に向けて動こうとしない政府の姿勢を厳しく批判しながら、司法自身も次の一歩を示そうとしない。では、静かな夜を取り戻したいと願う住民は一体、どうすればいいのだろうか。」(神戸新聞)、という指摘に尽きる。
 安倍晋三政権へは、やはり、「W値七五の原告には一カ月あたり七千円。W値九五だと三万五千円…。だが、国がお金を払えば済む問題ではない。騒音は人間の生活や生存そのものを脅かす公害だからだ。」(東京新聞)、との怒りを突きつけなけねばならない。





by asyagi-df-2014 | 2017-03-05 06:14 | 沖縄から | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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