安倍内閣総理大臣の2017年年頭所感を読んでみる。

 内閣総理大臣の年頭所感を批判するために、まとめたことは過去にはあった。
 最近は、安倍晋三の表現そのものを読むことがきつくなってしまったので、ずっと取りあげなかったのだが、沖縄タイムスが木村草太さん(以下、木村とする)、日刊ゲンダイが室井佑月さん(以下、室井とする)の文章を載せてくれたので、この両者の文章とあわせてこの年頭所感を読んでみた。
 まず、安倍晋三年頭所感で、気になったのは、次の文章表現のところである。


Ⅰ.「戦後、見渡す限りの焼け野原の中から、我が国は見事に復興を遂げました。」
Ⅱ.「如何にして『希望の光』を彼らに与えることができるか」
Ⅲ.「厳しさを増す安全保障環境」
Ⅳ.「一億総活躍社会を創り上げ、日本経済の新たな成長軌道」
Ⅴ.「積極的平和主義の旗をさらに高く掲げ」
Ⅵ.「日本を、世界の真ん中で輝かせる」


 恐らく、この六つの内容が表現するものについて、きちんと反論していくのが、2017に必要とされることになる。
 ここでは、気になる文章表現を並べてみてみて、大きな疑問符がつくものについて、少しだけ書くことにする。
ⅠとⅡについては、焼け野原の光景は本来侵略者の反省として語られなければならないはずなのに、全く安倍晋三の視野には侵略された側のことがはいっていない。もちろん、「希望の光」とは、自分たちのものだけではないはずなのにだ。
 だから、Ⅵは、独りよがりの姿勢が際立って見える。その結果は、誰からも信用されない事態を招くしかない。
 Ⅲについても、現在の環境をもたらしたのは、何が原因だったのかの検証が全くなされていないため、復古主義的な手法に頼るだけで、未来を築くことができない。これは、Ⅳについても同様である。
 Ⅴについては、意味不明、定義未定の言葉を使用するポピュリズムの典型である。


 さて、木村と室井の文章に触れる。
 最初に、 木村は、「木村草太の憲法の新手(47)首相年頭所感を考える」(沖縄タイムス:2017年1月8日)で、「この年頭所感は憲法改正に意欲を示したもの、と見る向きもある。そこで、憲法改正についてどのように考えるべきか、改めて検討したい。」、とこの年頭所感を憲法改正に係わって切り取っている。
 木村は、憲法について、「憲法は、国家権力によるさまざまな失敗の歴史を反省し、同じ過ちを繰り返さないようにするためのチェックリストだ。」、と規定したうえで。次のようにこの年頭所感を読んでいる。


「憲法を創るときには、現に生じた国家の失敗を分析した上で、『より良い解決を導くにはどうしたらいいか』と徹底的に考えられている。だからこそ私たちは、国家が何らかの失敗をしていると感じた時、憲法の条文を読み、先人たちが憲法に託した希望に学ぼうとする。そういう意味では、安倍首相が、希望というキーワードを示したことは正しい。ちなみに、私も昨年、『憲法という希望』という著作を出版した。憲法に高い関心を示す安倍首相が一読した可能性に期待したいところだ。しかし、ちまたにあふれる改憲論議の中身は、希望からは程遠く、あまりに軽々しい。」


 木村は、このことに続けて、巷に溢れている憲法改正論議の軽薄さについて、次のように指摘する。


(1)「自衛隊は今の憲法ではどう考えても違憲だ。国を守れないのは不合理だから改憲しよう」との議論をしばしば見かける。しかし、自衛隊合憲説は、頭ごなしに否定できるほど不合理な見解ではない。歴代政府はもちろん、ほとんどの政党も、合憲説を採っている。世論調査を見ても、自衛隊を違憲と評価する国民は少ない。だいたい、本気で自衛隊違憲説をとるなら、改憲が実現するまで、自衛隊は解散しなくてはならなくなるが、そこまで覚悟した提案なのだろうか。
(2)「憲法に新しい権利を書き込もう」と言う人もいる。しかし、環境権や犯罪被害者の権利、教育無償の権利を実現するには、通常の法律を作れば足りる。本気で実現したいなら、わざわざ手間のかかる改憲ではなく、法律を制定すべきだろう。


 木村は、最後にこう結論づける。日本国憲法に込められた「希望」について、まずは知るべきだ」、と。


(1)そもそも自民党も、改憲に本気なのか疑わしい。
(2)自民党改憲草案の特徴は、国民の義務を大きく増やす点にある。しかし、自分たちの義務を増やしてほしいと考える国民などそうそういないから、支持が集まるはずもない。本気で改憲を目指すなら、国民が何を求めているのか、もっと真剣に考えるべきだ。
(3)今必要なのは、もう一度、憲法を読み返し、そこに込められた「希望」を思い起こすことではないか。先人たちが、日本国憲法にどんな希望を託したのか。それを知り、それを超える理想像を描くことができたときにはじめて、私たちはより希望にあふれた憲法を手にできるだろう。


 次に、室井は、「新年から新聞を広げると、こればかり。まるでCMじゃ。安倍さんはこの国の首相だから、当たり前なのかもしれないけれど、もうマスコミは安倍政権のスローガンだけ取り上げるのを止めにしてくれないか? 言いっ放しにさせず、その後の後追い記事はもちろん、疑問や批判を挟まないなら、報道じゃなく広告だよ。安倍さんの年頭所感を載せるなら、アンダーラインを引いて、どの部分が嘘くさいか示すぐらいしろ。いっぱい突っ込みどころがあったじゃん。」、と「室井佑月の『嗚呼、仰ってますが。』突っ込みどころだらけだった安倍首相の年頭所感」(2017年1月5日)で切れ味鋭く斬ってみせる。
 また、次のように批判する。


(1)たとえば、冒頭の発言にアンダーラインを引いて、〈安倍氏のいう積極的平和主義とは、この国を守るための自衛隊が、この国とは関係ない国の争いに駆り出されることになること〉とか書かなきゃね。
(2)「女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、一度失敗を経験した人も、誰もが、その能力を発揮できる一億総活躍社会を創り上げ、日本経済の新たな成長軌道を描く」 「子どもたちの誰もが、家庭の事情に関わらず、未来に希望を持ち、それぞれの夢に向かって頑張ることができる。そういう日本を創り上げてまいります」ってとこにもアンダーライン入れなきゃだ。〈非正規労働者は増え、社会保障費は削られまくり、6人に1人の子供が貧困となった。でも、防衛費だけは奮発して、5兆円越え〉とかさ。
(3)「私たちの未来は、他人から与えられるものではありません。私たち日本人が、自らの手で、自らの未来を切り拓いていく。その気概が、今こそ、求められています」といっている。結局、最後は冷たく国民の自己責任論を持ち出すのですね。


 確かに、安倍晋三の年頭所感である。


 以下、安倍晋三内閣総理大臣年頭所感及び沖縄タイムス、日刊ゲンダイの引用。








(1)安倍内閣総理大臣 平成29年 年頭所感


 あけましておめでとうございます。

 「わが国の たちなほり来し 年々に
 あけぼのすぎの 木はのびにけり」

 30年前の新春、昭和62年の歌会始における昭和天皇の御製です。

 戦後、見渡す限りの焼け野原の中から、我が国は見事に復興を遂げました。昭和天皇がその歩みに思いを馳せたこの年、日本は、そして世界は、既に大きな転換期に差し掛かっていました。

 出生数が戦後最低を記録します。経済はバブル景気に沸きましたが、それは、長いデフレの序章となりました。世界では、米ソが中距離核戦力の全廃に合意し、冷戦が終わりを告げようとしていました。

 あれから四半世紀の時を経て、急速に進む少子高齢化、こびりついたデフレマインド、厳しさを増す安全保障環境。我が国が直面する、こうした課題に、安倍内閣は、この4年間、全力を挙げて取り組んでまいりました。

 私たちが政権を奪還する前、「日本はもはや成長できない」、「日本は黄昏を迎えている」といった、未来への不安を煽る悲観論すらありました。

 しかし、決して諦めてはならない。強い意志を持ち、努力を重ねれば、未来は、必ずや変えることができる。安倍内閣は、さらに未来への挑戦を続けてまいります。

 本年は、日本国憲法施行70年の節目の年にあたります。

 「歴史未曽有の敗戦により、帝都の大半が焼け野原と化して、数万の寡婦と孤児の涙が乾く暇なき今日、如何にして『希望の光』を彼らに与えることができるか・・・」

 現行憲法制定にあたり、芦田均元総理はこう訴えました。そして、先人たちは、廃墟と窮乏の中から、敢然と立ち上がり、世界第三位の経済大国、世界に誇る自由で民主的な国を、未来を生きる私たちのため、創り上げてくれました。

 今を生きる私たちもまた、直面する諸課題に真正面から立ち向かい、未来に不安を感じている、私たちの子や孫、未来を生きる世代に「希望の光」を与えなければならない。未来への責任を果たさなければなりません。

 女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、一度失敗を経験した人も、誰もが、その能力を発揮できる一億総活躍社会を創り上げ、日本経済の新たな成長軌道を描く。

 激変する国際情勢の荒波の中にあって、積極的平和主義の旗をさらに高く掲げ、日本を、世界の真ん中で輝かせる。

 そして、子どもたちこそ、我が国の未来そのもの。子どもたちの誰もが、家庭の事情に関わらず、未来に希望を持ち、それぞれの夢に向かって頑張ることができる。そういう日本を創り上げてまいります。

 私たちの未来は、他人から与えられるものではありません。私たち日本人が、自らの手で、自らの未来を切り拓いていく。その気概が、今こそ、求められています。

 2020年、さらにその先の未来を見据えながら、本年、安倍内閣は、国民の皆様と共に、新たな国づくりを本格的に始動します。この国の未来を拓く一年とする。そのことを、この節目の年の年頭にあたり、強く決意しております。

 最後に、本年が、国民の皆様一人ひとりにとって、実り多き、素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

                     平成二十九年一月一日
                         内閣総理大臣 安倍 晋三


(2)沖縄タイムス-木村草太の憲法の新手(47)首相年頭所感を考える-2017年1月8日 05:00



 憲法施行70年の節目にあたる今年、安倍晋三首相は年頭所感で、芦田均元総理が憲法制定にあたり述べた「歴史未曽有の敗戦により、帝都の大半が焼け野原と化して、数万の寡婦と孤児の涙が乾く暇なき今日、いかにして『希望の光』を彼らに与えることができるか…」との言葉を引用し、「今を生きる私たちもまた、直面する諸課題に真正面から立ち向かい、未来に不安を感じている、私たちの子や孫、未来を生きる世代に『希望の光』を与えなければならない。未来への責任を果たさなければなりません」、「2020年、さらにその先の未来を見据えながら、本年、安倍内閣は、国民の皆さまと共に、新たな国づくりを本格的に始動します」と訴えた。

 この年頭所感は憲法改正に意欲を示したもの、と見る向きもある。そこで、憲法改正についてどのように考えるべきか、改めて検討したい。

 憲法は、国家権力によるさまざまな失敗の歴史を反省し、同じ過ちを繰り返さないようにするためのチェックリストだ。憲法を創るときには、現に生じた国家の失敗を分析した上で、「より良い解決を導くにはどうしたらいいか」と徹底的に考えられている。だからこそ私たちは、国家が何らかの失敗をしていると感じた時、憲法の条文を読み、先人たちが憲法に託した希望に学ぼうとする。

 そういう意味では、安倍首相が、希望というキーワードを示したことは正しい。ちなみに、私も昨年、『憲法という希望』という著作を出版した。憲法に高い関心を示す安倍首相が一読した可能性に期待したいところだ。しかし、ちまたにあふれる改憲論議の中身は、希望からは程遠く、あまりに軽々しい。

 例えば、「自衛隊は今の憲法ではどう考えても違憲だ。国を守れないのは不合理だから改憲しよう」との議論をしばしば見かける。しかし、自衛隊合憲説は、頭ごなしに否定できるほど不合理な見解ではない。歴代政府はもちろん、ほとんどの政党も、合憲説を採っている。世論調査を見ても、自衛隊を違憲と評価する国民は少ない。だいたい、本気で自衛隊違憲説をとるなら、改憲が実現するまで、自衛隊は解散しなくてはならなくなるが、そこまで覚悟した提案なのだろうか。

 また、「憲法に新しい権利を書き込もう」と言う人もいる。しかし、環境権や犯罪被害者の権利、教育無償の権利を実現するには、通常の法律を作れば足りる。本気で実現したいなら、わざわざ手間のかかる改憲ではなく、法律を制定すべきだろう。

 そもそも自民党も、改憲に本気なのか疑わしい。自民党改憲草案の特徴は、国民の義務を大きく増やす点にある。しかし、自分たちの義務を増やしてほしいと考える国民などそうそういないから、支持が集まるはずもない。本気で改憲を目指すなら、国民が何を求めているのか、もっと真剣に考えるべきだ。

 今必要なのは、もう一度、憲法を読み返し、そこに込められた「希望」を思い起こすことではないか。先人たちが、日本国憲法にどんな希望を託したのか。それを知り、それを超える理想像を描くことができたときにはじめて、私たちはより希望にあふれた憲法を手にできるだろう。(首都大学東京教授、憲法学者)


(3)日刊ゲンダイ-室井佑月の「嗚呼、仰ってますが。」突っ込みどころだらけだった安倍首相の年頭所感-2017年1月5日


「激変する国際情勢の荒波の中にあって、積極的平和主義の旗をさらに高く掲げ、日本を、世界の真ん中で輝かせる」(安倍総理年頭所感/1月1日)

 新年から新聞を広げると、こればかり。まるでCMじゃ。安倍さんはこの国の首相だから、当たり前なのかもしれないけれど、もうマスコミは安倍政権のスローガンだけ取り上げるのを止めにしてくれないか? 言いっ放しにさせず、その後の後追い記事はもちろん、疑問や批判を挟まないなら、報道じゃなく広告だよ。安倍さんの年頭所感を載せるなら、アンダーラインを引いて、どの部分が嘘くさいか示すぐらいしろ。いっぱい突っ込みどころがあったじゃん。

 たとえば、冒頭の発言にアンダーラインを引いて、〈安倍氏のいう積極的平和主義とは、この国を守るための自衛隊が、この国とは関係ない国の争いに駆り出されることになること〉とか書かなきゃね。

 ほかにも、

「女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、一度失敗を経験した人も、誰もが、その能力を発揮できる一億総活躍社会を創り上げ、日本経済の新たな成長軌道を描く」

「子どもたちの誰もが、家庭の事情に関わらず、未来に希望を持ち、それぞれの夢に向かって頑張ることができる。そういう日本を創り上げてまいります」

 ってとこにもアンダーライン入れなきゃだ。〈非正規労働者は増え、社会保障費は削られまくり、6人に1人の子供が貧困となった。でも、防衛費だけは奮発して、5兆円越え〉とかさ。

 最後のほうで安倍さんは、

「私たちの未来は、他人から与えられるものではありません。私たち日本人が、自らの手で、自らの未来を切り拓いていく。その気概が、今こそ、求められています」

 といっている。結局、最後は冷たく国民の自己責任論を持ち出すのですね。


by asyagi-df-2014 | 2017-01-15 10:58 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
画像一覧