年金抑制法案が、強行採決される。(2)

 年金制度改革法案は2016年11月25日、衆院厚生労働委員会で、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で可決された。
 秋田魁新聞は、この年金制度改革法案の内容について次のように説明している。


(1)法案には、毎年度行われる支給額の改定について、二つの抑制策が盛り込まれている。一つは、保険料を負担する現役世代に配慮し、物価が上がっていても賃金が下がれば年金を減額する「賃金スライド」の導入。もう一つは、賃金や物価が上がった場合でも、支給総額の伸びを長期にわたって約1%ずつ抑える「マクロ経済スライド」の強化だ。デフレ時は適用しない決まりだが、実施しなかった抑制分を翌年度以降に持ち越し、景気回復時にまとめて実施する。
(2)年金は、現役世代の保険料と国庫負担を中心に、不足分は積立金を取り崩して財源にしている。少子高齢化に伴い保険料収入が減少する一方、年金受給者は増えており、制度を持続させることが大きな課題だ。
(3)政府は、抑制策によって支給水準を引き下げることが年金財源の余裕を生み、将来世代にも一定水準の支給が可能になるとし、世代間の公平性が保たれると主張する。法案が成立すれば、マクロ経済スライドの強化は2018年度から、賃金スライドは21年度から実施される。一方、野党は「老後の暮らしが成り立たなくなる」と反発する。厚労省は抑制策が05年度から実施された場合、10年後の支給額は国民年金(老齢基礎年金)で1人当たり3%、月2千円ほど減額になると試算したが、民進党は独自試算で5・2%の減額になるとし「年金カット法案」と批判している。


この法案について、2016年11月26日に確認できた4社の社説の見出しは、次のものである。


(1)北海道新聞社説-年金改革法案 将来への不安残す採決
(2)秋田魁新聞社説-年金改革 暮らしと制度の両立を
(3)新潟日報社説-年金制度改革 丁寧な説明が求められる
(4)中国新聞社説-年金改悪法案 不安置き去りの法案だ


 4社ともが、この法案に対してそれぞれの危惧感を表明している。
 各紙は、具体的に次のように主張している。


Ⅰ.北海道新聞社説
(1)高齢者の年金額を減らさず、現役世代につけを回さない方法はないのか。年金は国民全体にかかわる問題だけに与野党とも知恵を絞り、合意点を見いだせるよう議論を尽くすべきである。
(2)きるだけ現役世代につけを回さないようにするのは当然だ。少子高齢化が進み、年金を支える人が減るだけになおさらである。だが、年金は余裕のある人も、そうでない人も抑制される。医療や介護の負担も重くなっている。これ以上、年金が減ると生活を切り詰めるのが容易でない高齢者も少なくないだろう。実際に年金だけで生計を立てられない高齢者は増えている。今年8月に生活保護を受けた世帯のうち、65歳以上の世帯は5割を超え、過去最多だった。政府は消費税率の10%への引き上げ後、低所得高齢者向けに年金を最大年6万円上乗せする制度の導入を検討している。だがこれだけではとても十分とは思えない。
(3)与野党の駆け引きで終わらせてはならない。年金は世代間の信頼が土台になければ成り立たない。求められているのは、どの世代も納得できる制度づくりである。


Ⅱ.秋田魁新聞社説
(1)年金は国民全てに関わる身近な制度だけに、丁寧な審議が求められる。だが、法案に盛り込まれた抑制策によって将来どれだけ支給額が減るのか、厚生労働省と民進党それぞれの試算に差があることなどについて、審議が尽くされたとは言い難い状況だった。
(2)政府・与党の正当性ばかり主張し、野党の役割をないがしろにする発言だ。採決が強行された背景に、そのような独善的な発想があるのではないかと危惧を覚える。政府・与党には異なる意見に耳を傾け、徹底的に審議に応じる姿勢を求めたい。
(3)老後の暮らしと制度の持続性をどう両立させるのかは避けて通れない難しい問題であり、与野党が知恵を絞る必要がある。野党はぜひとも対案を示し、建設的な議論につなげてほしい。


Ⅲ.新潟日報社説
(1)懸念されるのは、年金生活者の暮らしである。厚生労働省は、法案に盛られた新ルールが2005年度に施行されていたと仮定した場合の試算を公表している。それによると、本年度の国民年金(老齢基礎年金)の支給額は約3%、月2千円程度減るが、43年度は想定と比べて約7%、月5千円程度増える。厚労省は、順調な経済状態が続く前提で試算した。民進党が「国民に誤解を与える」と批判したのは当然だ。政府は現実に近い条件で支給額を再試算し、結果を公表するべきである。
(2)制度改革によって年金を抑制すれば、高齢者の生活への影響は避けられない。一方、現行制度のままでは、若年層の年金に対する不安は解消されない。年金制度は、現役世代から高齢者への「仕送り方式」で運営されている。痛みは世代間で分かち合わざるを得ない。高齢者と現役世代双方が納得できる制度に向けて建設的な議論が必要である。


Ⅳ.中国新聞社説
(1)改革法案は、将来の年金水準を確保するため、支給額の抑制を強化する内容が柱である。老後の暮らしに直結する問題だけに、政府には丁寧な説明が求められていたはずだ。だが、「審議が深まっていない」と採決に反対する民進党など野党に対し、与党は「20時間を超えれば十分」と押し切った。単に時間の問題ではないが、同じような重要法案の場合、約30時間は審議している。拙速との批判も仕方あるまい。数の力で押し切るかのような与党の国会運営が何度も繰り替えされるのが残念でならない。制度改革に対する国民の疑問や日案も払拭されたとは言い難い。
(2)賃金の下落幅で年金が減額される点を捉えれば、民進党などが批判するように「年金カット」のルール変更といえる。しかし、公的年金制度は現役世代から集めた保険料で高齢者への給付を賄う「仕送り方式」が基本である。一定の給付財源を世代を超えて分け合う仕組みになっているため、いまの高齢者への給付額が多ければ、将来世代にしわ寄せが及ぶ。逆に抑制に早く取り組めば、将来の給付水準が改善される。若い世代につけを回さないよう、年金財政のバランスを取るのが狙いともいえる。世代間で痛みを分かち合うという意味では、今回のルール変更もやむをえない選択ではなかろうか。ただ、問題となるのは、年金の多い人も少ない人も給付が同じように抑えられる点だ。低年金で暮らす人たち低所得者に対するセーフティーネットは欠かせないだろう。
(3)今国会での成立にこだわる理由は見当たらない。年明けの通常国会に持ち越しても構わないのではないか。苦しい生活を強いられている低年金者の痛みを和らげると同時に、世代間の公平をどう図るのか。負担と給付のあり方について誠意ある議論を望みたい。


 さて、この年金制度改革法案の強行採決をどう受け止めるべきか。
 中国新聞の次の見解が、現在の日本の現状の中では、一般的な見方なのかもしれない。


「賃金の下落幅で年金が減額される点を捉えれば、民進党などが批判するように『年金カット』のルール変更といえる。しかし、公的年金制度は現役世代から集めた保険料で高齢者への給付を賄う『仕送り方式』が基本である。一定の給付財源を世代を超えて分け合う仕組みになっているため、いまの高齢者への給付額が多ければ、将来世代にしわ寄せが及ぶ。逆に抑制に早く取り組めば、将来の給付水準が改善される。若い世代につけを回さないよう、年金財政のバランスを取るのが狙いともいえる。世代間で痛みを分かち合うという意味では、今回のルール変更もやむをえない選択ではなかろうか。ただ、問題となるのは、年金の多い人も少ない人も給付が同じように抑えられる点だ。低年金で暮らす人たち低所得者に対するセーフティーネットは欠かせないだろう。」


 しかし、政権の方針が「軍事拡大に向けた成長戦略」にあり、大企業による利重寡占が政権の使命である時、国民の大多数は置き去りにされる。
 根本の問題は、このことにある。 大多数の国民にもたらされるのは窮乏化なのである。
 換えなくてはいけないのは、国の基本方針なのである。
だから、せめて、「今国会での成立にこだわる理由は見当たらない。年明けの通常国会に持ち越しても構わないのではないか。」(中国新聞)ということになる。


 以下、各新聞社の引用。








(1)北海(道新聞社説-年金改革法案 将来への不安残す採決-2016年11月26日


 与党はきのう衆院厚生労働委員会で、年金給付を抑える新しいルールを盛り込んだ年金制度改革法案の採決を強行した。

 年金制度は、現役世代が保険料を納めて高齢者を支える仕組みだ。新ルールは現役世代の賃金が下がった場合、その下げ幅に合わせて年金額を引き下げる。

 だが民進、共産両党などは年金の減額が大きくなるとして「年金カット法案」と呼び、激しく反発している。

 与党は環太平洋連携協定(TPP)関連法案に続き、数の力で押し切った。

 高齢者の年金額を減らさず、現役世代につけを回さない方法はないのか。

 年金は国民全体にかかわる問題だけに与野党とも知恵を絞り、合意点を見いだせるよう議論を尽くすべきである。

 新ルールは二つの柱がある。

 一つは2021年度以降、現役世代の賃金が下がった時に、たとえ物価が上昇していても、賃金に合わせて年金額を引き下げる。物価より賃金が大きく下がった時も、賃金に合わせて引き下げる。

 もう一つは、少子高齢化に合わせて年金額の伸びを抑える仕組みの強化だ。

 いままでデフレ時にはこの仕組みを適用してこなかったが、18年度から不適用分を物価や賃金上昇時に繰り越せるようにする。

 こうした措置を取らないと現役世代が年金をもらうときに十分な財源が確保できないのだという。

 できるだけ現役世代につけを回さないようにするのは当然だ。少子高齢化が進み、年金を支える人が減るだけになおさらである。

 だが、年金は余裕のある人も、そうでない人も抑制される。医療や介護の負担も重くなっている。

 これ以上、年金が減ると生活を切り詰めるのが容易でない高齢者も少なくないだろう。

 実際に年金だけで生計を立てられない高齢者は増えている。今年8月に生活保護を受けた世帯のうち、65歳以上の世帯は5割を超え、過去最多だった。

 政府は消費税率の10%への引き上げ後、低所得高齢者向けに年金を最大年6万円上乗せする制度の導入を検討している。

 だがこれだけではとても十分とは思えない。

 与野党の駆け引きで終わらせてはならない。年金は世代間の信頼が土台になければ成り立たない。求められているのは、どの世代も納得できる制度づくりである。


(2)秋田魁新聞社説-年金改革 暮らしと制度の両立を-2016年11月26日


 将来の年金支給水準を確保するため、支給額を抑制する年金制度改革法案が、衆院厚生労働委員会で与党などの賛成多数で可決された。民進、共産両党が審議継続を求めて抗議する中、与党が採決を強行した。

 年金は国民全てに関わる身近な制度だけに、丁寧な審議が求められる。だが、法案に盛り込まれた抑制策によって将来どれだけ支給額が減るのか、厚生労働省と民進党それぞれの試算に差があることなどについて、審議が尽くされたとは言い難い状況だった。

 環太平洋連携協定(TPP)承認案の衆院特別委員会採決に反対した野党を念頭に、萩生田光一官房副長官はそうした国会対応を「田舎のプロレス」と評して発言を撤回、謝罪したが、発言の前段では「強行採決なんていうのは世の中にあり得ない。審議が終わって採決するのを強行的に邪魔する人たちがいるだけだ」と述べている。

 政府・与党の正当性ばかり主張し、野党の役割をないがしろにする発言だ。採決が強行された背景に、そのような独善的な発想があるのではないかと危惧を覚える。政府・与党には異なる意見に耳を傾け、徹底的に審議に応じる姿勢を求めたい。

 法案には、毎年度行われる支給額の改定について、二つの抑制策が盛り込まれている。一つは、保険料を負担する現役世代に配慮し、物価が上がっていても賃金が下がれば年金を減額する「賃金スライド」の導入。もう一つは、賃金や物価が上がった場合でも、支給総額の伸びを長期にわたって約1%ずつ抑える「マクロ経済スライド」の強化だ。デフレ時は適用しない決まりだが、実施しなかった抑制分を翌年度以降に持ち越し、景気回復時にまとめて実施する。

 年金は、現役世代の保険料と国庫負担を中心に、不足分は積立金を取り崩して財源にしている。少子高齢化に伴い保険料収入が減少する一方、年金受給者は増えており、制度を持続させることが大きな課題だ。

 政府は、抑制策によって支給水準を引き下げることが年金財源の余裕を生み、将来世代にも一定水準の支給が可能になるとし、世代間の公平性が保たれると主張する。法案が成立すれば、マクロ経済スライドの強化は2018年度から、賃金スライドは21年度から実施される。

 一方、野党は「老後の暮らしが成り立たなくなる」と反発する。厚労省は抑制策が05年度から実施された場合、10年後の支給額は国民年金(老齢基礎年金)で1人当たり3%、月2千円ほど減額になると試算したが、民進党は独自試算で5・2%の減額になるとし「年金カット法案」と批判している。

 老後の暮らしと制度の持続性をどう両立させるのかは避けて通れない難しい問題であり、与野党が知恵を絞る必要がある。野党はぜひとも対案を示し、建設的な議論につなげてほしい。


(3)新潟日報社説-年金制度改革 丁寧な説明が求められる-2016年11月26日


 年金で生活する高齢者は大きな不安を抱えている。政府は丁寧に説明し、理解を得る努力をしなければならない。

 年金支給額の抑制を強化する年金制度改革法案が25日の衆院厚生労働委員会で可決された。

 政府は「持続可能な年金制度のためには法改正が必要」として今国会での成立を目指しているが、野党は「年金カット法案」と批判し、徹底抗戦の構えだ。

 現行ルールでは、賃金が下がっても物価が上がれば年金額を据え置いた。2021年度以降は、賃金が下落すれば年金額も下げる。

 また、毎年度の改定で年金額を1%程度ずつ抑える「マクロ経済スライド」の仕組みを強化する。

 懸念されるのは、年金生活者の暮らしである。

 厚生労働省は、法案に盛られた新ルールが2005年度に施行されていたと仮定した場合の試算を公表している。

 それによると、本年度の国民年金(老齢基礎年金)の支給額は約3%、月2千円程度減るが、43年度は想定と比べて約7%、月5千円程度増える。

 厚労省は、順調な経済状態が続く前提で試算した。民進党が「国民に誤解を与える」と批判したのは当然だ。

 政府は現実に近い条件で支給額を再試算し、結果を公表するべきである。

 政府は消費税率を10%に引き上げるのに合わせ、低年金の人に最大で年6万円を給付する方針だ。

 しかし、年金が年間どれだけ支給されるのかが分からなければ、給付額が妥当かどうかも判断できないだろう。

 制度改革によって年金を抑制すれば、高齢者の生活への影響は避けられない。一方、現行制度のままでは、若年層の年金に対する不安は解消されない。

 年金制度は、現役世代から高齢者への「仕送り方式」で運営されている。痛みは世代間で分かち合わざるを得ない。

 高齢者と現役世代双方が納得できる制度に向けて建設的な議論が必要である。

 年金を巡っては、年金を受け取るのに必要な加入期間を現行の25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案が可決、成立した。

 来年10月から約64万人が新たに年金を受けられるようになる見通しだ。高齢者の貧困対策になるよう期待したい。

 ただし、加入期間が短ければ、支給額は低い。10年の期間を満たした時点で納付をやめ、低年金の人が増える懸念は拭えない。

 約130兆円の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は14年10月から株式の運用割合を増やした。

 運用は株価変動の影響を大きく受けるようになった。単年度の損益は年金額にすぐには響かないが、赤字が続けば将来の年金財政を圧迫する可能性はある。

 年金制度改革法案には、理事長に権限を集中させず、重要事項は合議制で決めるとしたGPIFの組織改革も盛られた。国民から信頼される組織を目指してほしい。


(4)中国新聞社説-年金改悪法案 不安置き去りの法案だ-


by asyagi-df-2014 | 2016-11-29 08:50 | 書くことから-憲法 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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